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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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光あれ


この日のために用意した特別なドレスに身を包み、鏡の前に鎮座する。
黒髪に良く映える白のウエディングドレスは光に当たるとキラキラと輝き、一層黒に良く映えた。
入念にお手入れをされた肌に紅を差せば、ぐっと引き締まりを見せる。
鏡を覗き込む。
私の為にあつらえてもらった特注なだけあって身体のラインにぴったりと合っている。
刺繍の一つ一つは友人が手縫いで施してくれたもの。
どれもこれも、全て私の為に用意されたものだ。

なのに

「・・・・・・ひっどい顔・・・・・・」

どんなに召し物で引き立てようとしても。
どんなにお手入れを施しても。
私の心には光なんて射してはいない。

輝きを持たない目の前では、どんな代物だってゴミ同然。

なんてもったいないことだろう。
用意してくれた皆には申し訳ないと思う。
でも、私は『嬉しい』だなんて一言だって言わなかった。
そんな嘘を、吐きたくなかった。
酷いことをしたと思う。
そしてこれからも酷いことをすると思う。
私はひどい人間だ。
最低だ。
そんなことわかってる。
そんなことはわかっているの。
でも、他に選択肢なんてなかった。
どうすることも私には出来なかった。

こうして望まぬ結婚をして、傍目には人並みの幸せというものを得るのだろう。
今となっては逆らうつもりもない。
生まれた時から、そういう風に決まっていた。
それにちょっとしたイレギュラーが入り込んで惑わされただけ。
私は、こういう生き方を教え込まれた人種だ。
1万の民を従える、国の時期当主として当然の選択だ。
だからこれでいい。

これでいいはずなんだ。

無理やりにでも自分に言い聞かせる。
そうでもしなければ、心が壊れてしまいそうになる。

「気の・・・・・迷いだったのよ・・・・・」

あんな男に心奪われるなんて。
あんな、罪人に・・・・・。

「随分うかない顔してるんだね。結婚前だって言うのに」
「っ!誰です!?」
「通りすがりの脱獄犯さ」
「・・・・貴方は・・・・・」

私の心を奪った・・・・・・

「何で貴方がここにっ!」

貴方は今、城の地下牢に繋がれていたはずなのにどうして。

「ちょっとした取引をしたのさ」
「誰と?」
「君を良く知る人さ」
「私を?誰ですかそれは」
「そんなことより、僕これから逃げ出そうと思ってるんだけど、君も一緒に来る?」
「何で私が貴方と。私には守るべき民がいて、これから結婚だって控えているんです。貴方の相手をしている時間なんて」

「ならどうしてそんなうかない顔をしてるわけ?」

これから結婚をするって人間が、まるで戦場にでも出撃するみたいに身体を強張らせて。
何かから逃げるように心を閉ざして。

「まるで不幸のどん底にいるみたいに見えるんだけど?」
「・・・それ・・・・は・・・・・」

否定できない。
全て事実だ。

「僕なら君を連れ出して上げられる」

だけれども、私には国民を守る義務があって

「君を縛るものから解放して上げられる」

私を愛してくれる人がいて
ずっと、そんな人たちに囲まれて暮らしていくのだと思っていた。
でも、私は?

「どうする?」

私が愛しているのは?
私が、愛してしまったのは?
それは―――

「・・・・・・・・・・行きます。連れて行ってください」
「いい返事だ」
「行くんだね」
「っ!?・・・・・・兄さん・・・・・」

突如部屋に舞い込んだ第三者の声。
兄、綱吉だ。

「兄さん・・・ごめんなさい・・・・・」

この結婚に際し、一番尽力を尽くしてくれたのは間違いなく兄だった。
今からしようとしている行為はそれを足蹴にするも同然の行為。
どうしたところで顔向けなんて出来やしない。

「顔上げて?イーピン」
「っ・・・・・・・・・」

正視できないまま顔を上げる。
覗き込む視線が痛い。

「幸せに、なるんだよ?」
「にい・・・・・さん・・・・?」
「イーピン、今良い目をしてる。やっとそのドレスに似合う顔になった」

やっぱり俺の見立てに狂いはなかったみたいだね。
良く似合ってるよ。

中傷も侮蔑もなく、綱吉は素直な賛辞を口にした。
今これから国を逃げ出そうとしている人間に対してとは思えない物腰の柔らかさで。

「でもごめん。それすぐに脱いでくれる?」
「え・・?あの・・・?」
「流石にウエディングドレスで逃亡なんて目立ちすぎるからね。すぐに彼女とドレスを交換して」
「交換・・・?」

示された方に目をやれば、良く顔の知った女性が立っていた。
兄が懇意にしている人だ。
もっとも彼女の国との対立問題を理由に両親は二人の交際を認めようとはしていなかったけれど。

「まさかっ!兄さん!?」

兄が何をしようとしているのか、瞬間的に気がついた。

「そ。結婚パーティーの中止のことは気にしないで良いよ。俺たちがちゃんと引き継ぐから」

だから心配しないで?
皆で幸せになろう?
大好きな人と、大切な人と。
自分を殺さなくて良い人と。
幸せになれる道を歩いていこう?

「妹をお願いします」
「・・・・言われなくても」
「兄さん・・・・・・」
「イーピン。元気でね」
「兄さんもどうか・・・・・お元気で」

どうか、どうか。
全ての民に幸多からんことを・・・・・・。


雰囲気西洋の王国パラレル。
お題の『住めば都』の続編というか、時間軸的には前になるお話。
ヒバリが脱獄犯でイーピンはその国のお姫様。
兄がいるのにピンが時期当主なのは多分女王国家だから。

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