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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「・・・・・・姫はどうして俺を選んだんだ?」

唐突に問いかけたのはγ。
けれどもユニは対して驚いた風もなく微笑んで返した。
先見の明のある彼女にとっては、この程度唐突でも何でもないと言うことなのだろう。

「どうしたんですか?突然」
「いや、改めて思えば俺と姫は親子ほども年が離れているだろう?普通の少女が恋心を抱くにはちと年がいっていたんじゃないかと思ってな」
「なんだ。そんなことですか」

ユニはいつも通りの笑顔で皆の食事を作る作業に戻った。
それを面白くないと思っても、γはとがめるたりはしない。
何十人ものご飯を作らなくてはいけないのだ。
休んでいる暇なんて無い。

「はぐらかすな」
「はぐらかしている訳じゃあありません。答えを聞いてしまえば呆れるくらい単純なことだからですよ」

いいながら「これを運んで?」とお皿を押しつけられた。
ボス命令だ。仕方がない。

「俺にはてんで見当のつかないことなんだがな」
「そう?」
「俺は姫みたいに他人の心は読めないんだ」
「読めなくたって簡単なことよ?」
「姫の『簡単』は俺にとっての『難解』なんだ」
「人を人外みたいに言わないでちょうだい」

横目に見たユニが、頬をぷぅっと膨らませた。
ちょっと拗ねてしまったらしい。
こういうところは年相応だというのに、その小さな身体に抱えているのは不相応なほどに大きい責任。
けれど抱えているものの半分もさらけ出さない。
いつもにこにこと微笑みを絶やさない。
日溜まりでまどろむような心地よさを与えてくれる。
こんなことがそんじょそこらの小娘に出来るとも思えない。
となれば、ある意味人外という表現は当たっているのかもしれない。

「例えば、だ」
「はい」
「俺以外の選択肢はなかったのか?野猿とかは年齢的にも近いだろ?」
「・・・・・・γは私に好きでいられると困るの?」
「そう言ってるんじゃない」

むしろ、そうじゃなかったら腸が煮えくり返りそうだ。
誰であろうと手を出させるもんか。

「ただ、純粋な好奇心だ」

好きな女のことならどんな些細なことだって気になるのが男ってもんだろ?
ビクン!とユニの身体が跳ねた。
のぞき込んだ顔は真っ赤になっている。

「姫?」
「・・・・・・γのバカ・・・・・・」
「バカとは失礼だな。俺は心なんて読めないから素直に聞いただけだ」
「・・・・・・あなたはそうやって母のことも口説いていたというわけですね?」
「っ!?」

図星を突かれて今度はγの身体が飛び跳ねた。
隠しておこうと思った真実も、彼女の前では筒抜けだ。
だらだら垂れる冷や汗。
リフレインする苦い思い出。
珍しく、ユニがイタズラした子供のように笑っている。

「けれど全く相手にされていなかった。そうでしょう?」
「俺の傷をえぐりたいだけならやめてくれ・・・・・・」
「それが答えです」
「うん?」
「・・・・・・私がγを好きになった理由。そして、γが私を好きになった理由、です」

同じ傷を有していたから、舐めあった。
同じ悲しみを抱いていたから、共感しあった。
私にとっての母、あなたにとっての『ボス』を客観的に埋め合わせてくれる人が必要だった。
だから私たちは、お互いが必要だった。
同じ傷が、必要だった。

「γが私の中に母を見たように、私もγの中に母の痕跡を求めた。母が確かに存在していたのだと、自分に言い聞かせたかった。だから、誰よりも母を想っていたあなたが必要だったんです」

幻滅しましたか?
ユニが申し訳なさそうに笑う。

「幻滅なんて、出来るわけないだろう」

幻滅などしたら、同じベクトルの感情を抱いていた自分を否定することと同義だ。
そんなこと、出来るわけがない。
むしろ、喜んでもいいくらいだ。
ただ、ユニの言葉には一カ所、大きな間違いがある。
それだけは訂正させて貰わないと。

「でもな、姫」
「はい?」
「それは、『きっかけ』にすぎない。理由とは違う」
「・・・・・・そうかもしれませんね」

少女の中にアリアの面影を求めたことは確かにあった。
でも、今は違う。
彼女の中に求めるのは、彼女自身。
傷を舐めあう時間はもう終わっている。
γ自身はそう思っている。
そう思っているなら、きっとユニも思っている。

アリアを介在する時間は終わっているのだと。

「・・・・・・俺がフラれ続けたのも無駄じゃなかったというわけか」
「ふられていなかったら『父様』になっていただけよ。きっと、感情のベクトルは変わらないわ」
「変わるさ。気分的にな」

娘と恋人じゃ、天と地ほども違う。
我らが姫様にはそのあたり、まだ理解できないらしい。
ならば実践で教えてやるのが年上の義務というもの。

「姫」

言葉を発する間も与えずに、口を、塞ぐ。
チュ、と小さく音が鳴る。
手にしていたボールがガランと音を立てて床に転がった。

「親子じゃこうはいかないだろ?」

顔を真っ赤にして固まってしまったユニの耳に届いたかどうかは別の話だ。


同じ傷を舐めあう

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