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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「・・・・・・・・・」

目の前の男の行動をただ黙って観察する。

「・・・・・・・・・」

不抜けているようにも見える。
瞼は開いているけれど実は寝ているのかもしれない。
半分開いているようで、半分閉じているような目でグラスからそびえるソフトクリームをつついているのだが、その動きはひどく緩慢で。
普段の彼から滲み出る覇気というものが一切感じられない。

彼が頼んだのは何だっただろうか。
たしかアイスココアとかそんなものだったように思う。
決して甘いものが嫌いなわけでは無いのだが、甘いココアとそれに輪をかけててんこ盛りにされたソフトクリームだ。
甘ったるさを想像して少しばかり胸焼けを起こしそうになる。
自分の分のブラックコーヒーを胃に流し込んで緩和を図った。
よくそのようなものが食べれるものだ、と感心したところで彼の普段の主食を思い出す。
そういえばこの男は暇さえあればチュッパを舐めていた。
言うなれば飴というものは砂糖の塊だ。
それを常日頃食べ続けている男なのだ。
本人は「効率的は糖分摂取法」と宣っていたが、実際のところただの甘党なのだと俺は踏んでいる。

「甘くないか?」
「・・・・・・・・・甘いぞ?」

会話ともいえないような言葉のやりとり。
一応起きているらしい。

「食べたいのか?」
「いらない」

差し出されたスプーンに盛られたクリームを軽く拒否すると、美味しいのに・・・・・・と小さくこぼして自身の口に納めた。
始めは溢れ出さんばかりの量だったソフトクリームも大分目減りして、ようやくストローをグラスに差し込めるくらいになった。
そもそもストローも挿せない位なみなみと注がれた飲み物というのもどうなのだろう?
傾けたコーヒーカップに口を付けながら俺はそんなことを考えていた。

(どうでもいいことだけどな)

胸中でこぼす。
そう、それはどうでも良いことなのだ。
目の前ではもたもたとストローの包装を開ける速水がいる。
ジェネラルの異名など微塵も感じさせない不器用さを最大限に発揮させて。
この男はこと救命救急医としてはピカイチだけれども、それ以外のことはてんでだめだめだと言うことはあまり知られていない。

「お前って・・・・・・本当に生活力無いよな」
「何だよ突然」
「いや。改めて痛感したから、つい」
「?」

ようやく取り出したストローをソフトクリームの上から突き立てようとしていた手を一瞬止める。
何のことを言われているのかさっぱり検討がついていないようだ。
小首を傾げるような仕草を見せてから、改めてストローを突き立てた。
そしてーーー

「・・・・・・あ・・・・・・」

数秒遅れて聞こえる単音。
グラスから溢れ出るクリーム。
見る見るグラスを伝ってテーブルに広がっていく。

何のことはない。
速水から見えない側、つまり向かいの席に座る俺の正面に面した部分のクリームが溶け落ちたのだ。

「速水のドジ」

クツクツと沸き上がる笑いを堪えて、それでも堪え切れ無い分を一言漏らす。

「・・・・・・お前・・・見えてたんなら教えろよ」
「普通気がつくだろ?」

あぁ。だめだ。
やっぱり笑いを堪えられそうにない。
腹を抱えたい衝動だけはどうにか抑えるけれど、肩が震えているのが自分でも分かった。
それを不服そうに見つめる速水は、

「・・・・・・気がついていないからこぼしたんだよ。バカ」

小さなプライドからだろうか?
手に付いたクリームをぺろり舐め取りながら、ごくごく小さな声を上げた。

そう。
こんなことはどうでもいい、取るに足らないことなのだ。
テーブルをクリームで汚してしまうことも。
お店の人に謝らないといけないことも。
これからお前の機嫌取りをしなければいけないことも。
すべてがすべて、どうでもいいことなんだ。

この男が。
将軍とも、神とも、悪魔とも恐れられるこの男が。
どうしようもない人間じみた失態をおかしてくれることに比べれば、本当に些細なことでしかない。

「俺は、知ってるよ」

お前はただの人間なんだ、って。
他の誰が忘れたって。
俺だけは、せめて俺だけは。
いつだってお前に思い出させてやるよ。
それが俺の役目だから。

「・・・・・・だから知ってたんなら教えろっての」

ねちねちと愚痴ろうとした速水は、俺の専門を思い出して閉口するしかなかったようだ。


空を舞えない人間様

グッチーは速水唯一の息抜き的存在。
グッチーもここぞとばかりに息抜きさせてるんだよきっと。
速水にはそういう存在が絶対に必要だし、グッチー以上の適役も存在しない。
そんな風に二人の関係は成り立っているのさ。
2010/09/21
 

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