~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「いただきます」
男が座るのを待って、少女は手を合わせた。
「どうぞ」
ご飯と味噌汁と、それから冷凍芋で作った煮っ転がし。
簡素で粗末な感じしかしない食卓だ。
生鮮がないから色合いなんてこれっぽっちも考慮されていない。
ただ食べられればいいというだけの、その場しのぎ。
そういえば、少女は一体どうするつもりだったのだろうか?
台所の状態からいえば、どうにも自炊しているような雰囲気は見受けられなかった。
「・・・・・・美味しいです」
「そう」
ご飯を一口含み、味噌汁を一口啜ってから、少女は端的な感想を漏らした。
男も同じように口に運ぶ。
・・・・・・正直、そう美味しいものとは思えなかった。
既に古米であり、なおかつ口を開けてからしばらく時間が経過していたと思われる米を早炊きしたらこんなものだろうか。
味噌汁だって、なんとか味噌の汁という体裁があるからその名で呼べるといった程度のものだ。
けれど、少女の言葉は口先だけの社交辞令では無いように思えた。
思うに至る何かが有ったわけではないが、何となく、男にはそう感じられた。
その後も、男と少女は黙々とご飯を胃に流し込んだ。
会話もなく。
沈黙を保ったままの食卓。
別段息苦しさを感じなかったのは、多分男が無駄口を嫌う人種だったからだろう。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様で」
「美味しかったです」
「・・・・・・そう」
「はい」
「あれを美味しいとか、普段の食生活が知れるね」
「・・・・・・また詮索ですか?」
「ごく一般的な疑問と哀れみだよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・僕には関係ないことだけどね」
「関係ないなら、聞かなければいいのに」
またしても機嫌を損ねた少女は、おもむろに立ち上がり男の分の食器もまとめて流しに運んだ。
端的には、この場から逃げたというのが正確か。
少女の背中を視線で追うが、少女は振り返ろうともしない。
「気まぐれだ」とのたまう少女の意図が、男には未だ見えない。
他人など無関心の対象でしか無かったというのに、どう言うわけか気にかかる。
明らかに男は平常ではない。
自覚できるレベルで常を逸している。
男を知る者がこの場に居たならば目を疑うくらいでは済まないだろう。
天変地異だと騒ぎ立て、あげく偽物だとのたまうかも知れない。
(そうだ、偽物だ)
男は静かに結論付けた。
今この場に居る自分は偽物だ。
他人の世話を焼く自分など偽物だ。
他人に興味を引かれる自分など偽物だ。
他人の世話になる自分など偽物だ。
他人に完敗したあげく路地裏に放り出された自分など、偽物だ。
(っ、・・・・・・くっ!)
忘れていた憤り。
何故忘れていたかも忘れるほど、綺麗さっぱり忘れていた憤りが男の中を満たす。
「・・・・・・惨めな顔をしていますね」
いつの間にか、少女が戻ってきていた。
戸口に立って、男を見下ろしていた。
「・・・・・・」
「いい様です」
「・・・・・・」
「貴方みたいな人は地べたに這い蹲っているのがお似合いですよ」
冷ややかな声。
温度を徹底的に排除した、無機質な。
おおよそ一般人には出せないような。
そんな声。
「・・・・・・何のつもり?」
剥き出しの敵意。
ほとんど脊髄反射で握り込んだ拳。
女?
子供?
そんなモノは関係ない。
男に楯を突いた。
力を行使する上でそれだけの理由が有れば十分すぎる。
だが、少女は微塵もたじろいだりはしなかった。
表情一つ変えやしない。
冷たい目で男を見下ろすばかりだ。
もはや見下ろしているのかどうかも定かではない。
蔑んでいるのかも知れない。
見下しているのかも知れない。
「人のことを勝手に哀れんだ仕返しです」
ほんのわずか、声に体温が宿った。
未だ濡れたままの髪の毛をタオルで拭いながら、少女は当たり前のように男の横に座った。
「・・・・・・何のつもり?」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
ただし、そこに込められた意味は大きく異なっていた。
「自分の家でどこに座るか、いちいち了承を得ろと?」
「いや」
「なら、問題有りません」
「・・・・・・」
問題は、ない。
多分。
だが、ひどく調子は崩される。
すべてのタイミングがずらされる。
何もかも思い通りにいきやしない。
伸ばした手が目測を誤っているかのような、気持ち悪さ。
自分が自分で居られなくなるような、不安感。
自身の根底をすべからく覆すような、恐怖。
脳が発する緊急危険信号。
これまでに出逢ったことのない、未知。
「君は何者?」
「しがない中学生です」
体に取り巻いていた不快感を一蹴するほど、小気味のいい嘘を少女はついた。
自身を『しがない』などと形容する一般人が居るものか。
全く持って信じるに値しない言葉だ。
「貴方こそ何者なんですか?」
「僕?」
「おおよそ一般人とはかけ離れた仕込み暗器。模型を持っている人もいると聞きますけど、アレは本物でした」
「・・・・・・僕の服、どうしたの?」
洗面所に放置してきた衣服を思い出す。
無造作に放置など、決してしないミスを繰り返している。
おかしい。
自分の中の何かが、音を立てて崩壊しようとしている。
偽物が、この体を乗っ取ろうとして息を潜めている。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
目眩に似た何かが視界を歪ませた。
「そもそも、どうやって取り出したの?アレは、特殊な仕込みをしているんだ。たまたまなんて言い訳聞きたくないよ」
「私が取り出し方を知っていたと言うだけの話です」
「・・・・・・」
「勝手ですけど、染み抜きしておきました。黒だけど、色味が変わる前の方がいいと思って。暗器は乾燥させてます」
「・・・・・・」
「何か、問題でも?」
「いや・・・・・・」
問題が有るとすれば、それは少女の存在そのもの。
一体何者なのか?
「君は、何者なの?」
さっきから同じ質問を何度と無く繰り返している。
「答えたはずです。しがない中学生だ、と」
全く悪びれもせず、少女は嘘を吐く。
「私も質問します。貴方は何者ですか?」
「僕は・・・・・・」
男は逡巡した。
脳裏によぎった言葉を口にするか、迷ったのだ。
はぐらかしてしまおうかとも考えた。
しかし、目の前のこの少女はそう簡単に諦めてくれそうに無いことも瞬時に悟った。
男は、答えた。
「しがない大学生だよ」
全く持って信用ならないと評した言葉を、そのまま少女に返してやった。
第四話でした。
話が・・・・・・・・・動き出したの?かな?わからーん!
毎度繰り返しになりますが、一応お断りを。
ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです!
キリッ!!
2011/01/28
男が座るのを待って、少女は手を合わせた。
「どうぞ」
ご飯と味噌汁と、それから冷凍芋で作った煮っ転がし。
簡素で粗末な感じしかしない食卓だ。
生鮮がないから色合いなんてこれっぽっちも考慮されていない。
ただ食べられればいいというだけの、その場しのぎ。
そういえば、少女は一体どうするつもりだったのだろうか?
台所の状態からいえば、どうにも自炊しているような雰囲気は見受けられなかった。
「・・・・・・美味しいです」
「そう」
ご飯を一口含み、味噌汁を一口啜ってから、少女は端的な感想を漏らした。
男も同じように口に運ぶ。
・・・・・・正直、そう美味しいものとは思えなかった。
既に古米であり、なおかつ口を開けてからしばらく時間が経過していたと思われる米を早炊きしたらこんなものだろうか。
味噌汁だって、なんとか味噌の汁という体裁があるからその名で呼べるといった程度のものだ。
けれど、少女の言葉は口先だけの社交辞令では無いように思えた。
思うに至る何かが有ったわけではないが、何となく、男にはそう感じられた。
その後も、男と少女は黙々とご飯を胃に流し込んだ。
会話もなく。
沈黙を保ったままの食卓。
別段息苦しさを感じなかったのは、多分男が無駄口を嫌う人種だったからだろう。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様で」
「美味しかったです」
「・・・・・・そう」
「はい」
「あれを美味しいとか、普段の食生活が知れるね」
「・・・・・・また詮索ですか?」
「ごく一般的な疑問と哀れみだよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・僕には関係ないことだけどね」
「関係ないなら、聞かなければいいのに」
またしても機嫌を損ねた少女は、おもむろに立ち上がり男の分の食器もまとめて流しに運んだ。
端的には、この場から逃げたというのが正確か。
少女の背中を視線で追うが、少女は振り返ろうともしない。
「気まぐれだ」とのたまう少女の意図が、男には未だ見えない。
他人など無関心の対象でしか無かったというのに、どう言うわけか気にかかる。
明らかに男は平常ではない。
自覚できるレベルで常を逸している。
男を知る者がこの場に居たならば目を疑うくらいでは済まないだろう。
天変地異だと騒ぎ立て、あげく偽物だとのたまうかも知れない。
(そうだ、偽物だ)
男は静かに結論付けた。
今この場に居る自分は偽物だ。
他人の世話を焼く自分など偽物だ。
他人に興味を引かれる自分など偽物だ。
他人の世話になる自分など偽物だ。
他人に完敗したあげく路地裏に放り出された自分など、偽物だ。
(っ、・・・・・・くっ!)
忘れていた憤り。
何故忘れていたかも忘れるほど、綺麗さっぱり忘れていた憤りが男の中を満たす。
「・・・・・・惨めな顔をしていますね」
いつの間にか、少女が戻ってきていた。
戸口に立って、男を見下ろしていた。
「・・・・・・」
「いい様です」
「・・・・・・」
「貴方みたいな人は地べたに這い蹲っているのがお似合いですよ」
冷ややかな声。
温度を徹底的に排除した、無機質な。
おおよそ一般人には出せないような。
そんな声。
「・・・・・・何のつもり?」
剥き出しの敵意。
ほとんど脊髄反射で握り込んだ拳。
女?
子供?
そんなモノは関係ない。
男に楯を突いた。
力を行使する上でそれだけの理由が有れば十分すぎる。
だが、少女は微塵もたじろいだりはしなかった。
表情一つ変えやしない。
冷たい目で男を見下ろすばかりだ。
もはや見下ろしているのかどうかも定かではない。
蔑んでいるのかも知れない。
見下しているのかも知れない。
「人のことを勝手に哀れんだ仕返しです」
ほんのわずか、声に体温が宿った。
未だ濡れたままの髪の毛をタオルで拭いながら、少女は当たり前のように男の横に座った。
「・・・・・・何のつもり?」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
ただし、そこに込められた意味は大きく異なっていた。
「自分の家でどこに座るか、いちいち了承を得ろと?」
「いや」
「なら、問題有りません」
「・・・・・・」
問題は、ない。
多分。
だが、ひどく調子は崩される。
すべてのタイミングがずらされる。
何もかも思い通りにいきやしない。
伸ばした手が目測を誤っているかのような、気持ち悪さ。
自分が自分で居られなくなるような、不安感。
自身の根底をすべからく覆すような、恐怖。
脳が発する緊急危険信号。
これまでに出逢ったことのない、未知。
「君は何者?」
「しがない中学生です」
体に取り巻いていた不快感を一蹴するほど、小気味のいい嘘を少女はついた。
自身を『しがない』などと形容する一般人が居るものか。
全く持って信じるに値しない言葉だ。
「貴方こそ何者なんですか?」
「僕?」
「おおよそ一般人とはかけ離れた仕込み暗器。模型を持っている人もいると聞きますけど、アレは本物でした」
「・・・・・・僕の服、どうしたの?」
洗面所に放置してきた衣服を思い出す。
無造作に放置など、決してしないミスを繰り返している。
おかしい。
自分の中の何かが、音を立てて崩壊しようとしている。
偽物が、この体を乗っ取ろうとして息を潜めている。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
目眩に似た何かが視界を歪ませた。
「そもそも、どうやって取り出したの?アレは、特殊な仕込みをしているんだ。たまたまなんて言い訳聞きたくないよ」
「私が取り出し方を知っていたと言うだけの話です」
「・・・・・・」
「勝手ですけど、染み抜きしておきました。黒だけど、色味が変わる前の方がいいと思って。暗器は乾燥させてます」
「・・・・・・」
「何か、問題でも?」
「いや・・・・・・」
問題が有るとすれば、それは少女の存在そのもの。
一体何者なのか?
「君は、何者なの?」
さっきから同じ質問を何度と無く繰り返している。
「答えたはずです。しがない中学生だ、と」
全く悪びれもせず、少女は嘘を吐く。
「私も質問します。貴方は何者ですか?」
「僕は・・・・・・」
男は逡巡した。
脳裏によぎった言葉を口にするか、迷ったのだ。
はぐらかしてしまおうかとも考えた。
しかし、目の前のこの少女はそう簡単に諦めてくれそうに無いことも瞬時に悟った。
男は、答えた。
「しがない大学生だよ」
全く持って信用ならないと評した言葉を、そのまま少女に返してやった。
第四話でした。
話が・・・・・・・・・動き出したの?かな?わからーん!
毎度繰り返しになりますが、一応お断りを。
ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです!
キリッ!!
2011/01/28
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