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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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トントン。
部屋の扉がノックされた。
僕は聞こえないふりをして布団を頭から被った。
ハンモックの上で布団を被ったって音など遮れるものではないのだけれど、気分の問題だ。
それに、部屋には鍵が付いていない。
どうでもいい用なら諦めて帰るだろうし、必要なら頼んでいなくても勝手に入ってくる。
バンパイア・マウンテンはそういう場所だ。
ノックがあるだけマシだと思わなくちゃいけない。

「・・・・・・ダリウス、いるなら返事くらいしたらどうです?」

(え?この声は・・・・・・)
自分を呼ぶ声がした。
けれど、ここでは聞くことのない声に一瞬当惑した。
居るはずのない人の声。
被っていた布団を跳ね上げた。

「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「久しぶりですね。ダリウス」

そこに立っていたのは、頭に思い描いた通りの人物。
ここに居るはずのない人。

「なんで!?」
「和平協議ですよ。いい加減争うのも馬鹿らしくなったとやっと多くの仲間が気が付いたんです。・・・・・・そのために払った代償は、大きかったですが・・・・・・」
「・・・・・・」

ガネンの憂いを含んだ目。
ガネンはいつもそんな顔をしていた。
死に逝く仲間を、辛そうに見送っていた。
別れの言葉一つ掛けられず、計画の一こまととして仲間を切り捨てていくことに、心を痛めていた。
無心を装い、その実誰よりも心を迷わせていた。

「・・・・・・みんなは?」

仲間だと思っていた人たち。
バンパニーズの人たち。
彼らがどうなったのか、ここでは知る術がない。
バンパニーズの名前を出すことすらはばかられた。
父親、バンパニーズ大王であるスティーブ・レナードともなれば言わずもがな、だ。
バンチャからパパもダレンおじさんも死んでしまったことは聞いたが、それ以上は教えてくれなかった。
傷ある者の戦が続いているのか終わったのか、それすら僕は知らないままだった。
そこまで気を回している余裕がなかったとも言える。
余計なことを考えないように、バネズが巧みに訓練を組んでいてくれたのだろう。
今の今までみんなのことを思い出さなかったことに自分自身驚いた。

「・・・・・・多くは死にました。最後の戦いでの犠牲は特に多く、未だに把握し切れていません。現在残っている者も先の戦いで負傷し、前線から引いていた者ばかりです」
「そう・・・・・・」

つまり、僕が最後に見かけた連中の大半は今はもうこの世の人では無くなってしまっているのか。
当然だと思う気持ちと、寂しい気持ちが心の中でごちゃ混ぜになった。
バンパニーズを殺したのは、バンパイアだ。
けど、バンパイアだって沢山バンパニーズに殺された。
どちらを責めることはできない。
どちらも加害者で、どちらも被害者なんだ。
これ以上責任のなすり付けをしても仕方がないと双方が学んだからやっと和平協議が始まるんだ。
僕が手前勝手な感情を吐露するべきではない。

「・・・・・・私は、この戦の主犯は全てスティーブにあると思っていました」
「・・・・・・ガネン?」
「あの男はやりすぎでした。誇るべき我らの精神を汚しすぎた」

解っていても逆らえなかった。
大王はバンパニーズに対して絶対の影響力を持つ。
間違いだと認識していながら行動せざるを得なかったガネン。
その言葉からは憎しみすら感じ取れた。

「たった二人を殺そうとするあまり、多くを巻き込み過ぎた。バンパイアもバンパニーズも、人間をも殺しすぎた。あなたのような、本来無垢であるべき人間をこのような世界に自分の妄執の為に放り込んだ。死んで当然の結末だったと思います」
「・・・・・・」

そんなことない!と主張したかった。
悪いことをしたかもしれないけど、それでも死んで当然だなんてそんなの酷すぎる、そう言い返したかった。
なのに、言葉が出ない。
頭に、醜くゆがんだパパに顔がよぎった。
何も言えない。
あんな恐ろしいパパを、庇う言葉が出てこない。
体が震える。
指一本動かない。
パパのために動けない僕を、パパが叱りつける。

何をやっているんだ。
使えない奴め。
何の為にお前に優しくしてやったと思っているんだ。
父に報いようとは思わないのか。
クズが。
お前なんか必要ない。
どこにでも行ってしまえばいい。
お前の代わりなどいくらでもいる。
せいぜい他の奴らに騙されてろ。

パパが遠くなっていく。
頭の上の温もりすら、消えていく。

「泣くな」
「っ!?」
「泣くんじゃない。胸を張れ。自分を見失うな。間違ったって構わない。お前が信じたモノを、ちゃんと信じてやれ」
「・・・・・・バネ・・・・・・ズ・・・・・・?」

一体いつから・・・・・・?
疑問を口にするよりも先に、バネズが背中に手を当てて矢継ぎ早に言葉を並べ立てる。

「はっきり言って、俺はバンパニーズ大王何ぞを養護する気はさらさらない。あいつのせいで俺の教え子たちは嫌という程死んだんだしな」
「・・・・・・」

言葉もない。
全部パパがやったんだ。
優しい顔をして、みんなを騙して、沢山悲しい思いをさせた。
まるで僕自身が犯した罪のような罪悪感。

「でもな?お前がどう思おうがそいつは別だ。俺が嫌いなモノをお前も嫌いにならなきゃいけない道理なんてない。お前が好きなら、それは好きなままでいいんだ」
「バネズ・・・・・・?」
「お前が好きだったのは、バンパニーズ大王じゃない。スティーブ・レナードっていう、お前の『父さん』なんだろう?」
「バネ・・・・・・っ」
「好きでいいんだ。信じていいんだ。思い出せ。お前は、あいつのことが好きなんだろう?」
「う・・・・・・んっ!」
「優しく、してもらったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「そいつは本当に嘘っぱちなのか?お前が感じたモノは、全部偽物だったのか?」

偽物?
違う。
そんなことない。
笑い掛けてくれた笑顔は本物だった。
僕が感じた暖かさは、確かに本物だった。
あの瞬間、あの場所においては、それが本物だった。
紛れもない、真実だった。

「嘘なんかじゃない。僕は、ホントに、嬉しかった・・・・・・。パパなんかいないって思ってたから・・・・・・どんな形でも、パパに会えただけで十分だった・・・・・・」

たとえ、僕がダレンおじさんへの切り札として生まれた子供だったとしても。
僕は、パパにとって意味のある子供だったという事実だから。
それでもいい。
だって・・・・・・

「パパだから、愛してたんだ・・・・・・。パパだから、愛してるんだ・・・・・・」

誰に認められなくても。
パパ自身に否定されたって。
僕はパパが好きなんだ。

「それでいい。それでいいんだ」

バネズが、また僕の頭をかき回すように撫でた。
もう一度、頭上に温もりが戻った。
バネズが、笑った。
パパも、笑った。
もう一度僕に、笑い掛けてくれた。
狂気に笑うんじゃなくって、もっと純粋に。
・・・・・・ちょっとだけ申し訳なさそうに、笑ってた。

「・・・・・・この場は私が預かると申し上げたはずですが・・・・・・」

ガネンが半眼になってバネズにぼやいた。
対してバネズは悪びれた風もなく、しゃぁしゃぁとしている。
・・・・・・この二人って知り合いだったの?

「悪いな。でも、やっぱり師としては黙って見ていられなかったんだ。許せ」
「・・・・・・」
「それに、あんたは一人で悪者にでもなろうとしているような気がしてな。胃に穴が開くぜ?」
「・・・・・・ご忠告痛み入ります。どこかの誰かに聞かせてやりたいですよ」

深い溜息。
昔のガネンもこうやってよく溜息をついていた。

「ダリウス」
「何?」
「一つだけあなたに伝えておきます」
「・・・・・・うん」
「私がスティーブを大王だと見つけた時、あなたは既に母親の腹に宿っていました。つまり、はじめから利用するために生まれたわけではありません」
「・・・・・・」

ダレンおじさんにママが説明していた話を思い出す。
僕が出来たことがわかって、結婚式の費用と子供を育てるお金を稼いでくるといってママの元を離れたのだと。
もしかしたら、その時点においてはパパは本当にママと幸せになりたかったのかもしれない。
本当にママのことを、そして僕のことを考えて町を離れたのかもしれない。

「それと今回の戦に関して、タイニーがかなりの介入をしていたそうです。人の心を乱して戦が混乱の方向に向かうよう我々を影から操っていたと話していました」
「それって・・・・・・」
「いつどの段階でタイニーが介入していたのかは私にもわかりません。ただ、少なくとも、スティーブは絶対悪では無かったのだと思います。あの男もまた、タイニーに運命を弄ばれた哀れな道化だったのです」
「・・・・・・そっか」

パパは、悪い人じゃない。
本当に僕のことを、愛していてくれたときが有ったのかもしれない。
もはや確かめる手段なんて無い。
けど、その可能性が有るだけで僕には十分だ。

「・・・・・・もっとも、そんなこと関係なく私はあの男が嫌いですが」
「ガネン・・・・・・」
「勝手に現れて、勝手なことを散々していって、あげく勝手に死ぬだなんて・・・・・・身勝手にも程があります!こちらのことなんて何も考えていないあの態度、居なくなって清々しました。ホントに・・・・・・あの男は・・・・・・っ!」

それに、こうしてパパの死を悲しんでくれる人がいる。
十分じゃないか。

「バネズ、ガネン。ありがと」

こうして、僕を愛してくれる人がいる。
それだけで、十分じゃないか。

僕は、覚えている。
パパに愛されたことを、ちゃんと覚えている。

ちゃんと、覚えているから・・・・・・。


remembrance


傷師弟、スティ克服話完結です。
煮え切らん感じかもしれませんが、皆様の妄想力でカバーしていただければ幸い。
これでダリウスはスティーブのまやかしの愛情を恐れなくなります!
誉められれば素直に嬉しいと思える天使ちゃんになるのです!!
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ⇒パパが好きなことを隠しているダリウスに、バネズが「好きでいていいんだよ」と言う、でした) 2011/02/09

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