~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「そういえば、だが」
何の脈絡もなく、バンチャが話を切りだした。
それはいつものことで。
今更どうこう言うつもりもない。
瞳の潰れた顔を向けたところで何が変わるわけでもないが
、雰囲気のためにそちらに振り返った。
「なんでお前はダリウスに血を注いでやらないんだ?」
「ダリウスはもう半バンパイアですが?」
バンチャはその場に居合わせている。
知らないはずがない。
「そういう意味じゃない」
「・・・・・・といいますと?」
「決まりが悪いだろ」
「・・・・・・」
「別に、弟子は必ず師から血を流し込まれなければいけない、なんて掟はないがほとんど通例になっている。バネズはあいつの境遇を知っているだろう?ダリウスに不憫な思いをさせるな」
言われ無くとも。
できるなら、そうしてしまいたい。
自分の血を流し込んで、きちんと、はっきりと、あいつは俺の弟子なんだと公言したい。
だが、それはできない。
してはいけない。
約束したんだ。
あいつと。
「・・・・・・頼まれたんですよ。血を流し込まないでくれって・・・・・・」
「誰にだ?」
そんなことを言う奴は俺がとっちめてやる、とでも言いたげな顔をしていることだろう。
まったく、この人は何十年経っても変わらない。
感情を殺すなんて言葉を知らない。
見ていて気持ちがいいほど己の感情に正直な人だ。
残念なのは俺がその顔を、もう見れないということだ。
「ダリウス本人に、ですよ。バンチャ元帥」
あぁ、今度は鳩が豆鉄砲食らったように驚いた顔をしていることだろう。
きっと愉快な顔を晒しているに違いない。
それを見れないのは、残念だ。
□■□
ダリウスとその話をしたのは、本当に出逢ってすぐのことだ。
正式に、というのもおかしな話だが俺はダリウスの師としてこれから指導していくことが元帥閣下から言い渡された。
部屋に引っ込んでから、ダリウスが何か言いたそうにこちらを伺ってきた。
「・・・・・・ね、バネズ」
「ん?どうした?」
「僕、このままじゃだめかな」
「何がだ」
「・・・・・・みんながさ、大抵は師に血を流し込んでもらうもんだ、って・・・・・・」
「俺が師匠だなんてまだ認められないか?」
「そうじゃないよ。そういうことじゃなくて、さ・・・・・・」
もごもごと。
言いにくそうに、口ごもらせる。
「・・・・・・血を流したら、完全なバンパイアになるのが早くなるって聞いたから・・・・・・、だから・・・・・・」
「なんだ、人間に未練でもあるのか?」
確かに、完全なバンパイアになれば日の光に当たれなくなる。
圧倒的な能力を得る反面、他にもいろいろと制限を受ける事項が増える。
それを嫌がって自然純化を望むバンパイアも少なくはなかった。
だが、ダリウスははっきりと首を横に振った。
「違う。未練があるんじゃないよ。未練はない。バンパイアになれたことは誇りに思ってる」
「ならなんで半バンパイアのままがいいんだ?」
「・・・・・・体の成長が、遅くなるんでしょ・・・・・・?」
「うん?」
「半バンパイアでも5年に1歳分、バンパイアなら10年に1歳しか年を取らないって聞いたよ」
「まぁ、確かにその通りだが・・・・・・」
それが今更なんだ。
未練はないんじゃないのか?
だが、ダリウスの回答は俺の予想を遙かにぶっちぎったものだった。
「そんなの、ママが可哀想だよ・・・・・・。ずっと一人で頑張ってきたママを、本当に一人にしちゃって・・・・・・。その上、僕だけこのままなんて・・・・・・」
肩を震わせている。
「いつかママに逢ったとき、このまま成長していない僕を見たらきっとがっかりする。僕が子供だなんてきっと認めてくれない」
・・・・・・わかった。
「僕だって、見せてあげたい。パパくらい身長が大きくなって、僕がママを守ってあげるんだって、言ってあげたい」
こいつは、心優しすぎる。
「だから・・・・・・、だから・・・・・・。少しでもいいから体を成長させたいんだ・・・・・・」
おおよそ、バンパイアにもバンパニーズにも似つかわしくないほどに。
「だから、今は血を流して欲しくない・・・・・・」
「わかった」
それだけの決意があるのを、どうして踏みにじるなんてことができるだろうか。
「血を流すのは通例だ。別に、絶対にしなくちゃいけない訳じゃない。お前の中には、もう立派にバンパイアの血が流れている。ダレンの血が、ちゃんと流れている。そうだろう?」
「・・・・・・うん」
ダリウスが自分の心臓のあたりをギュッと掴んだ。
その上に、俺は手を重ねる。
「それを大切に守ってやれ。お前の成長を、ダレンが生きていた証を『ママ』に見せてやれ」
「うん・・・・・・っ!」
血を流したくないのは俺のエゴでもある。
あいつらの存在を、かけらでもこの世に残してやりたかった。
何一つ残さずに逝ってしまったあいつらを思い出す、唯一だったから。
例え数年後、もしくは数十年後、血を流し込まなかったことを後悔する日があるかもしれない。
形ばかりの関係に、お互い心を痛める日が来るかもしれない。
けれど、その傷こそが俺とダリウスの師弟の証。
同じ痛みが、俺たちを結びつけている。
Painfully
傷師弟の『傷』は
何もバネズの物理的な傷だけを指しているのではなく
二人が共有する『捏造師弟』としての『傷・痛み』を
包括して傷師弟と命名しました。
まぁそんな自己満設定の説明小話。
2011/01/30
何の脈絡もなく、バンチャが話を切りだした。
それはいつものことで。
今更どうこう言うつもりもない。
瞳の潰れた顔を向けたところで何が変わるわけでもないが
、雰囲気のためにそちらに振り返った。
「なんでお前はダリウスに血を注いでやらないんだ?」
「ダリウスはもう半バンパイアですが?」
バンチャはその場に居合わせている。
知らないはずがない。
「そういう意味じゃない」
「・・・・・・といいますと?」
「決まりが悪いだろ」
「・・・・・・」
「別に、弟子は必ず師から血を流し込まれなければいけない、なんて掟はないがほとんど通例になっている。バネズはあいつの境遇を知っているだろう?ダリウスに不憫な思いをさせるな」
言われ無くとも。
できるなら、そうしてしまいたい。
自分の血を流し込んで、きちんと、はっきりと、あいつは俺の弟子なんだと公言したい。
だが、それはできない。
してはいけない。
約束したんだ。
あいつと。
「・・・・・・頼まれたんですよ。血を流し込まないでくれって・・・・・・」
「誰にだ?」
そんなことを言う奴は俺がとっちめてやる、とでも言いたげな顔をしていることだろう。
まったく、この人は何十年経っても変わらない。
感情を殺すなんて言葉を知らない。
見ていて気持ちがいいほど己の感情に正直な人だ。
残念なのは俺がその顔を、もう見れないということだ。
「ダリウス本人に、ですよ。バンチャ元帥」
あぁ、今度は鳩が豆鉄砲食らったように驚いた顔をしていることだろう。
きっと愉快な顔を晒しているに違いない。
それを見れないのは、残念だ。
□■□
ダリウスとその話をしたのは、本当に出逢ってすぐのことだ。
正式に、というのもおかしな話だが俺はダリウスの師としてこれから指導していくことが元帥閣下から言い渡された。
部屋に引っ込んでから、ダリウスが何か言いたそうにこちらを伺ってきた。
「・・・・・・ね、バネズ」
「ん?どうした?」
「僕、このままじゃだめかな」
「何がだ」
「・・・・・・みんながさ、大抵は師に血を流し込んでもらうもんだ、って・・・・・・」
「俺が師匠だなんてまだ認められないか?」
「そうじゃないよ。そういうことじゃなくて、さ・・・・・・」
もごもごと。
言いにくそうに、口ごもらせる。
「・・・・・・血を流したら、完全なバンパイアになるのが早くなるって聞いたから・・・・・・、だから・・・・・・」
「なんだ、人間に未練でもあるのか?」
確かに、完全なバンパイアになれば日の光に当たれなくなる。
圧倒的な能力を得る反面、他にもいろいろと制限を受ける事項が増える。
それを嫌がって自然純化を望むバンパイアも少なくはなかった。
だが、ダリウスははっきりと首を横に振った。
「違う。未練があるんじゃないよ。未練はない。バンパイアになれたことは誇りに思ってる」
「ならなんで半バンパイアのままがいいんだ?」
「・・・・・・体の成長が、遅くなるんでしょ・・・・・・?」
「うん?」
「半バンパイアでも5年に1歳分、バンパイアなら10年に1歳しか年を取らないって聞いたよ」
「まぁ、確かにその通りだが・・・・・・」
それが今更なんだ。
未練はないんじゃないのか?
だが、ダリウスの回答は俺の予想を遙かにぶっちぎったものだった。
「そんなの、ママが可哀想だよ・・・・・・。ずっと一人で頑張ってきたママを、本当に一人にしちゃって・・・・・・。その上、僕だけこのままなんて・・・・・・」
肩を震わせている。
「いつかママに逢ったとき、このまま成長していない僕を見たらきっとがっかりする。僕が子供だなんてきっと認めてくれない」
・・・・・・わかった。
「僕だって、見せてあげたい。パパくらい身長が大きくなって、僕がママを守ってあげるんだって、言ってあげたい」
こいつは、心優しすぎる。
「だから・・・・・・、だから・・・・・・。少しでもいいから体を成長させたいんだ・・・・・・」
おおよそ、バンパイアにもバンパニーズにも似つかわしくないほどに。
「だから、今は血を流して欲しくない・・・・・・」
「わかった」
それだけの決意があるのを、どうして踏みにじるなんてことができるだろうか。
「血を流すのは通例だ。別に、絶対にしなくちゃいけない訳じゃない。お前の中には、もう立派にバンパイアの血が流れている。ダレンの血が、ちゃんと流れている。そうだろう?」
「・・・・・・うん」
ダリウスが自分の心臓のあたりをギュッと掴んだ。
その上に、俺は手を重ねる。
「それを大切に守ってやれ。お前の成長を、ダレンが生きていた証を『ママ』に見せてやれ」
「うん・・・・・・っ!」
血を流したくないのは俺のエゴでもある。
あいつらの存在を、かけらでもこの世に残してやりたかった。
何一つ残さずに逝ってしまったあいつらを思い出す、唯一だったから。
例え数年後、もしくは数十年後、血を流し込まなかったことを後悔する日があるかもしれない。
形ばかりの関係に、お互い心を痛める日が来るかもしれない。
けれど、その傷こそが俺とダリウスの師弟の証。
同じ痛みが、俺たちを結びつけている。
Painfully
傷師弟の『傷』は
何もバネズの物理的な傷だけを指しているのではなく
二人が共有する『捏造師弟』としての『傷・痛み』を
包括して傷師弟と命名しました。
まぁそんな自己満設定の説明小話。
2011/01/30
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