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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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東の空が明るみ始めた街を、男は一人歩いていた。
乾ききっていなかった自分の服は朝の冷気でより一層冷やされていく。
その冷たさが、今は心地よかった。
今朝方まで降り続いた雨により清浄化された空気。
鼻から吸えばツンと奥を刺激する。
こんな朝が、男は好きだった。
群れてうごめく連中が起き出す前の、清廉な街。
本来あるべき姿。
そんな街を見て回るのはもはや男の習慣だった。

お決まりのコースをぐるりと回る。
今日はイレギュラー地点からの出発ではあったが、平素通りに道を辿った。
ひとしきり歩いても特に異常は見あたらなかった。
時折眠そうにあくびをする猫を見かけたくらい。
それ以外は何の変哲もない、ありふれた街並みだった。

「・・・・・・異常なし・・・・・・か」

ぽつりと漏らす。
どこにも異常はなかった。
おかしいくらいに、正常だった。
男が地に着けられたのに、それで正常を保っているなどそれこそ異常ではないか。
昨日の己の醜態を思い出し、反吐が出そうになった。

(この僕が手も足も出せずにいなされた・・・・・・)

ギリッ、と奥歯が鳴る。
あのような屈辱は初めてだ。
倒されるなら、いっそ殴られてしまっていた方がマシだったに違いない。
息の根を止めるほどの狂気で、殺されていた方がマシだった。
思わせるだけの圧倒的な強さを内に秘めていた。
なのにその片鱗も垣間見せることもなく、男は姿をくらましてしまった。

(くそっ・・・・・・)

男は通常の巡回コースから外れてある場所に足を向けた。
昨日男が屈辱的に地に着けられた、例の細い路地だ。

たどり着くまで、周囲に念入りに意識を向けた。
どんなに些細な変化すらも見逃さないつもりで、注意深くあたりを見回す。
だんだんと朝日が射し込んできたが、まだ人気はほとんど見られない。
男の足音だけがいやに響く。

(そう言えば・・・・・・)

男はふと思う。

(鍵も掛けずに出てきたのはまずかっただろうか・・・・・・?)

自分のではない家のことが脳裏によぎった。
人が活動するような時間ではないとはいえ、年端のいかぬ少女が居る家を鍵も掛けずに出てきたのは総計だったかもしれない。
おおよそ常人とは思えない少女のことだから、まぁ安否の心配はいらぬだろうがやはり少し気がかりだ。
せめて少女が目を覚ます前に戻ってやらないといけない。
時間を確認しようと、定位置のポケットに手を伸ばす。

「・・・・・・あれ?」

自分で取り出した記憶もないが、あるべきはずの携帯電話はそこにはなかった。
周辺を探ってみたが出てくる気配はない。
そう言えば、この服は昨晩少女が洗ってくれている。
その際に取り出したまま、どこかに放置されたのかもしれない。
別段見られて困るような情報も入っていないが、帰ったら回収しよう。
日の出の状況と体内時計を比べて、今が六時前後であると目測。
自身を中学生とのたまった彼女が起き出すまではどのくらいだろうか?
幸い、例の細い路地は彼女の家から十分も離れていない場所にある。
今から帰ればちょうど出掛け際にセットしてきたご飯も炊けていることだろう。

つらつら考えている内に、昨日の場所に戻ってきた。
通りから眺めるその場所は暗く。
目を細めても、奥までは見渡せない。
フラッシュバックする屈辱を奥歯ですりつぶして足を踏み入れた。
歩数にして僅か十歩ほどで路地は大きく右方向に折れる。
その、折れ曲がる直前。
ちょうど、昨日の自分が倒れ伏していた場所に立つ。
未だ乾かぬ日陰の場所ではあったが、血の跡はかけらも残っていなかった。
朝方まで降り続いた雨がその痕跡を綺麗に洗い流してしまったのだろう。

「・・・・・・っち・・・・・・」

足下の水たまりを蹴り、苛立ちを露わにした舌打ちを一つ漏らした。
せめて、何か足掛かりになるものでも残ってやいないかと期待した自分が愚かしい。
あれだけの手腕のものがそんな平凡なミスをやらかすはずが・・・・・・。

「私は『これ以上深入りするな』と忠告しませんでしたか?」
「っ!?」

背後に振り返る。
ちょうど、通りと路地の境目あたりに人が立っていた。
朝日が逆光となり顔はよく見えない。
しかし、その人物が纏う空気には覚えがあった。
足音はおろか、気配すら希薄な人物などそうそう居るものではない。

「昨日の・・・・・・」

男のプライドを完膚無きまで傷つけた存在。
反射的に仕込んでいる隠し武器に手を伸ばす。

「君はもう少し賢い人間だと思っていたのですが、どうやら違ったようですね」
「うるさいよ」
「そういう無駄なことはやめませんか?『私には敵わない』と、君も解っているのでしょう?せめてその程度には利口であってくれると助かるのですが・・・・・・」
「うるさいって言ってるのが聞こえないの?」
「聞く耳持たず、ですか。いいでしょう。君の手を引かせるにはプライドを折る程度では足りなかったというわけですね」

背中に朝日を背負った人間は、腰を深く沈めて構えを取った。

「あの子の邪魔になるのなら、力ずくでもねじ伏せてあげましょう」


□■□


ほんの、数分後。
男は朝焼けに染まる空を見上げながら、宙に舞った。
地面に叩きつけられる直前、脳裏をかすめたのは少女の顔。

(そういえば、結局名前も聞かなかったな・・・・・・)

何の断りもなく居なくなったことを、少女は怒るだろうか?
だとしたら困った。
男は年頃の少女のご機嫌取りの方法なんて知らないのだ。
蹴り飛ばされてこんなことを考えるだなんてどうかしている。
頭のネジが数本まとめて吹っ飛んでしまったに違いない。

吹っ飛んだネジと一緒に、男は意識も手放した。



第6-β話、ヒバリside話でした。
今回も安心のローテンションです。いい加減参りますね。
謎の(笑)人物も出てきていよいよ物語も佳境に差し迫っているのでしょうか?
こればっかりは書いている本人にも解りません!
毎度のお約束も、もしかしたらこれで最後になるかもしれません!
ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです。
今しばらくゆるりとお付き合いくださいませ。
2011/02/21

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