~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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二人ぼっち
慣れた調子で細く狭い路地を駆け抜ける。
小さな子供がぎりぎり通り抜けられるくらいの狭い狭い道。
グネグネと折れ曲がる路地の正体は区画整理の際に生じたブラックエリア。
そこは誰のものでもない。
強いて言うならば、そこは彼女のものだった。
通り抜けることを許された小さな体躯を持つ、彼女のものだった。
学校が終わると彼女はいつもそこを走り抜けた。
何度も何度も折れ曲がった道の先には、ぽっかりと口を開けた広場がある。
ブラックエリアの主たるもので、そこに至るまでの道が確保できないが為に売り物にならなくなった無用の土地だ。
広さにして5m四方といったところだろうか。
そこは誰もいない、彼女だけの場所。
彼女がいることを許された場所だ。
人影などありはしない。
たまに迷い込んだ猫がいるくらいなものだ。
それでも日当たりもよくないこの場所に長居するのはよほど偏屈な猫だけだった。
今日も同じだ。
毎日が同じ繰り返し。
そこには彼女一人だけがいる。
彼女だけの世界。
一人きりの世界。
ずっとそんな毎日が続いていくと思っていた。
狭い道を駆け抜けて、ようやく広場に出たところで少女は、はっ!と足を止めた。
「・・・・・・・・誰?」
「・・・・・・へぇ、こんなところに来る奴がいるんだ」
見知らぬ少年だった。
年の頃は同じくらいか、少し年上といったところだろうか。
少しだけ大人びた、達観した空気を纏うているのを少女は敏感に感じ取った。
それは彼女が他眼に優れているからではない。
同種の匂いを嗅ぎ取ったに過ぎなかった。
「あなたも、一人ぼっちなの・・・・・?」
「・・・・・群れるのが嫌いなだけだよ・・・・・」
ほぅ・・・、と感嘆なのか溜め息なのか判断に迷う息遣いの後、少女は破顔した。
「じゃぁ私たち、似たもの同士ですね!」
少女はその時、世界が広がったのを感じた。
世界に私は一人きりではなかった。
一人きりの世界が無数に存在するだけだったのだ。
それでも、この私が存在することを許された『世界』には私と彼の二人きりだけが存在していた。
慣れた調子で細く狭い路地を駆け抜ける。
小さな子供がぎりぎり通り抜けられるくらいの狭い狭い道。
グネグネと折れ曲がる路地の正体は区画整理の際に生じたブラックエリア。
そこは誰のものでもない。
強いて言うならば、そこは彼女のものだった。
通り抜けることを許された小さな体躯を持つ、彼女のものだった。
学校が終わると彼女はいつもそこを走り抜けた。
何度も何度も折れ曲がった道の先には、ぽっかりと口を開けた広場がある。
ブラックエリアの主たるもので、そこに至るまでの道が確保できないが為に売り物にならなくなった無用の土地だ。
広さにして5m四方といったところだろうか。
そこは誰もいない、彼女だけの場所。
彼女がいることを許された場所だ。
人影などありはしない。
たまに迷い込んだ猫がいるくらいなものだ。
それでも日当たりもよくないこの場所に長居するのはよほど偏屈な猫だけだった。
今日も同じだ。
毎日が同じ繰り返し。
そこには彼女一人だけがいる。
彼女だけの世界。
一人きりの世界。
ずっとそんな毎日が続いていくと思っていた。
狭い道を駆け抜けて、ようやく広場に出たところで少女は、はっ!と足を止めた。
「・・・・・・・・誰?」
「・・・・・・へぇ、こんなところに来る奴がいるんだ」
見知らぬ少年だった。
年の頃は同じくらいか、少し年上といったところだろうか。
少しだけ大人びた、達観した空気を纏うているのを少女は敏感に感じ取った。
それは彼女が他眼に優れているからではない。
同種の匂いを嗅ぎ取ったに過ぎなかった。
「あなたも、一人ぼっちなの・・・・・?」
「・・・・・群れるのが嫌いなだけだよ・・・・・」
ほぅ・・・、と感嘆なのか溜め息なのか判断に迷う息遣いの後、少女は破顔した。
「じゃぁ私たち、似たもの同士ですね!」
少女はその時、世界が広がったのを感じた。
世界に私は一人きりではなかった。
一人きりの世界が無数に存在するだけだったのだ。
それでも、この私が存在することを許された『世界』には私と彼の二人きりだけが存在していた。
子ヒバ子ピンと思って欲しい。
ピンは中国からの転校生で言葉の壁とかがあって学校でいじめられてたんだよきっと。
それで放課後は一人誰も来ない広場で過ごしていたところ
同じ臭いのするヒバリと遭遇して
自分だけが一人でいるわけではないということを悟る、というお話。
むしろ皆一人ぼっちの単独世界に生きていることを悟る、というお話。
なんともわかりにくい。
ピンは中国からの転校生で言葉の壁とかがあって学校でいじめられてたんだよきっと。
それで放課後は一人誰も来ない広場で過ごしていたところ
同じ臭いのするヒバリと遭遇して
自分だけが一人でいるわけではないということを悟る、というお話。
むしろ皆一人ぼっちの単独世界に生きていることを悟る、というお話。
なんともわかりにくい。
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光あれ
この日のために用意した特別なドレスに身を包み、鏡の前に鎮座する。
黒髪に良く映える白のウエディングドレスは光に当たるとキラキラと輝き、一層黒に良く映えた。
入念にお手入れをされた肌に紅を差せば、ぐっと引き締まりを見せる。
鏡を覗き込む。
私の為にあつらえてもらった特注なだけあって身体のラインにぴったりと合っている。
刺繍の一つ一つは友人が手縫いで施してくれたもの。
どれもこれも、全て私の為に用意されたものだ。
なのに
「・・・・・・ひっどい顔・・・・・・」
どんなに召し物で引き立てようとしても。
どんなにお手入れを施しても。
私の心には光なんて射してはいない。
輝きを持たない目の前では、どんな代物だってゴミ同然。
なんてもったいないことだろう。
用意してくれた皆には申し訳ないと思う。
でも、私は『嬉しい』だなんて一言だって言わなかった。
そんな嘘を、吐きたくなかった。
酷いことをしたと思う。
そしてこれからも酷いことをすると思う。
私はひどい人間だ。
最低だ。
そんなことわかってる。
そんなことはわかっているの。
でも、他に選択肢なんてなかった。
どうすることも私には出来なかった。
こうして望まぬ結婚をして、傍目には人並みの幸せというものを得るのだろう。
今となっては逆らうつもりもない。
生まれた時から、そういう風に決まっていた。
それにちょっとしたイレギュラーが入り込んで惑わされただけ。
私は、こういう生き方を教え込まれた人種だ。
1万の民を従える、国の時期当主として当然の選択だ。
だからこれでいい。
これでいいはずなんだ。
無理やりにでも自分に言い聞かせる。
そうでもしなければ、心が壊れてしまいそうになる。
「気の・・・・・迷いだったのよ・・・・・」
あんな男に心奪われるなんて。
あんな、罪人に・・・・・。
「随分うかない顔してるんだね。結婚前だって言うのに」
「っ!誰です!?」
「通りすがりの脱獄犯さ」
「・・・・貴方は・・・・・」
私の心を奪った・・・・・・
「何で貴方がここにっ!」
貴方は今、城の地下牢に繋がれていたはずなのにどうして。
「ちょっとした取引をしたのさ」
「誰と?」
「君を良く知る人さ」
「私を?誰ですかそれは」
「そんなことより、僕これから逃げ出そうと思ってるんだけど、君も一緒に来る?」
「何で私が貴方と。私には守るべき民がいて、これから結婚だって控えているんです。貴方の相手をしている時間なんて」
「ならどうしてそんなうかない顔をしてるわけ?」
これから結婚をするって人間が、まるで戦場にでも出撃するみたいに身体を強張らせて。
何かから逃げるように心を閉ざして。
「まるで不幸のどん底にいるみたいに見えるんだけど?」
「・・・それ・・・・は・・・・・」
否定できない。
全て事実だ。
「僕なら君を連れ出して上げられる」
だけれども、私には国民を守る義務があって
「君を縛るものから解放して上げられる」
私を愛してくれる人がいて
ずっと、そんな人たちに囲まれて暮らしていくのだと思っていた。
でも、私は?
「どうする?」
私が愛しているのは?
私が、愛してしまったのは?
それは―――
「・・・・・・・・・・行きます。連れて行ってください」
「いい返事だ」
「行くんだね」
「っ!?・・・・・・兄さん・・・・・」
突如部屋に舞い込んだ第三者の声。
兄、綱吉だ。
「兄さん・・・ごめんなさい・・・・・」
この結婚に際し、一番尽力を尽くしてくれたのは間違いなく兄だった。
今からしようとしている行為はそれを足蹴にするも同然の行為。
どうしたところで顔向けなんて出来やしない。
「顔上げて?イーピン」
「っ・・・・・・・・・」
正視できないまま顔を上げる。
覗き込む視線が痛い。
「幸せに、なるんだよ?」
「にい・・・・・さん・・・・?」
「イーピン、今良い目をしてる。やっとそのドレスに似合う顔になった」
やっぱり俺の見立てに狂いはなかったみたいだね。
良く似合ってるよ。
中傷も侮蔑もなく、綱吉は素直な賛辞を口にした。
今これから国を逃げ出そうとしている人間に対してとは思えない物腰の柔らかさで。
「でもごめん。それすぐに脱いでくれる?」
「え・・?あの・・・?」
「流石にウエディングドレスで逃亡なんて目立ちすぎるからね。すぐに彼女とドレスを交換して」
「交換・・・?」
示された方に目をやれば、良く顔の知った女性が立っていた。
兄が懇意にしている人だ。
もっとも彼女の国との対立問題を理由に両親は二人の交際を認めようとはしていなかったけれど。
「まさかっ!兄さん!?」
兄が何をしようとしているのか、瞬間的に気がついた。
「そ。結婚パーティーの中止のことは気にしないで良いよ。俺たちがちゃんと引き継ぐから」
だから心配しないで?
皆で幸せになろう?
大好きな人と、大切な人と。
自分を殺さなくて良い人と。
幸せになれる道を歩いていこう?
「妹をお願いします」
「・・・・言われなくても」
「兄さん・・・・・・」
「イーピン。元気でね」
「兄さんもどうか・・・・・お元気で」
どうか、どうか。
全ての民に幸多からんことを・・・・・・。
この日のために用意した特別なドレスに身を包み、鏡の前に鎮座する。
黒髪に良く映える白のウエディングドレスは光に当たるとキラキラと輝き、一層黒に良く映えた。
入念にお手入れをされた肌に紅を差せば、ぐっと引き締まりを見せる。
鏡を覗き込む。
私の為にあつらえてもらった特注なだけあって身体のラインにぴったりと合っている。
刺繍の一つ一つは友人が手縫いで施してくれたもの。
どれもこれも、全て私の為に用意されたものだ。
なのに
「・・・・・・ひっどい顔・・・・・・」
どんなに召し物で引き立てようとしても。
どんなにお手入れを施しても。
私の心には光なんて射してはいない。
輝きを持たない目の前では、どんな代物だってゴミ同然。
なんてもったいないことだろう。
用意してくれた皆には申し訳ないと思う。
でも、私は『嬉しい』だなんて一言だって言わなかった。
そんな嘘を、吐きたくなかった。
酷いことをしたと思う。
そしてこれからも酷いことをすると思う。
私はひどい人間だ。
最低だ。
そんなことわかってる。
そんなことはわかっているの。
でも、他に選択肢なんてなかった。
どうすることも私には出来なかった。
こうして望まぬ結婚をして、傍目には人並みの幸せというものを得るのだろう。
今となっては逆らうつもりもない。
生まれた時から、そういう風に決まっていた。
それにちょっとしたイレギュラーが入り込んで惑わされただけ。
私は、こういう生き方を教え込まれた人種だ。
1万の民を従える、国の時期当主として当然の選択だ。
だからこれでいい。
これでいいはずなんだ。
無理やりにでも自分に言い聞かせる。
そうでもしなければ、心が壊れてしまいそうになる。
「気の・・・・・迷いだったのよ・・・・・」
あんな男に心奪われるなんて。
あんな、罪人に・・・・・。
「随分うかない顔してるんだね。結婚前だって言うのに」
「っ!誰です!?」
「通りすがりの脱獄犯さ」
「・・・・貴方は・・・・・」
私の心を奪った・・・・・・
「何で貴方がここにっ!」
貴方は今、城の地下牢に繋がれていたはずなのにどうして。
「ちょっとした取引をしたのさ」
「誰と?」
「君を良く知る人さ」
「私を?誰ですかそれは」
「そんなことより、僕これから逃げ出そうと思ってるんだけど、君も一緒に来る?」
「何で私が貴方と。私には守るべき民がいて、これから結婚だって控えているんです。貴方の相手をしている時間なんて」
「ならどうしてそんなうかない顔をしてるわけ?」
これから結婚をするって人間が、まるで戦場にでも出撃するみたいに身体を強張らせて。
何かから逃げるように心を閉ざして。
「まるで不幸のどん底にいるみたいに見えるんだけど?」
「・・・それ・・・・は・・・・・」
否定できない。
全て事実だ。
「僕なら君を連れ出して上げられる」
だけれども、私には国民を守る義務があって
「君を縛るものから解放して上げられる」
私を愛してくれる人がいて
ずっと、そんな人たちに囲まれて暮らしていくのだと思っていた。
でも、私は?
「どうする?」
私が愛しているのは?
私が、愛してしまったのは?
それは―――
「・・・・・・・・・・行きます。連れて行ってください」
「いい返事だ」
「行くんだね」
「っ!?・・・・・・兄さん・・・・・」
突如部屋に舞い込んだ第三者の声。
兄、綱吉だ。
「兄さん・・・ごめんなさい・・・・・」
この結婚に際し、一番尽力を尽くしてくれたのは間違いなく兄だった。
今からしようとしている行為はそれを足蹴にするも同然の行為。
どうしたところで顔向けなんて出来やしない。
「顔上げて?イーピン」
「っ・・・・・・・・・」
正視できないまま顔を上げる。
覗き込む視線が痛い。
「幸せに、なるんだよ?」
「にい・・・・・さん・・・・?」
「イーピン、今良い目をしてる。やっとそのドレスに似合う顔になった」
やっぱり俺の見立てに狂いはなかったみたいだね。
良く似合ってるよ。
中傷も侮蔑もなく、綱吉は素直な賛辞を口にした。
今これから国を逃げ出そうとしている人間に対してとは思えない物腰の柔らかさで。
「でもごめん。それすぐに脱いでくれる?」
「え・・?あの・・・?」
「流石にウエディングドレスで逃亡なんて目立ちすぎるからね。すぐに彼女とドレスを交換して」
「交換・・・?」
示された方に目をやれば、良く顔の知った女性が立っていた。
兄が懇意にしている人だ。
もっとも彼女の国との対立問題を理由に両親は二人の交際を認めようとはしていなかったけれど。
「まさかっ!兄さん!?」
兄が何をしようとしているのか、瞬間的に気がついた。
「そ。結婚パーティーの中止のことは気にしないで良いよ。俺たちがちゃんと引き継ぐから」
だから心配しないで?
皆で幸せになろう?
大好きな人と、大切な人と。
自分を殺さなくて良い人と。
幸せになれる道を歩いていこう?
「妹をお願いします」
「・・・・言われなくても」
「兄さん・・・・・・」
「イーピン。元気でね」
「兄さんもどうか・・・・・お元気で」
どうか、どうか。
全ての民に幸多からんことを・・・・・・。
雰囲気西洋の王国パラレル。
お題の『住めば都』の続編というか、時間軸的には前になるお話。
ヒバリが脱獄犯でイーピンはその国のお姫様。
兄がいるのにピンが時期当主なのは多分女王国家だから。
お題の『住めば都』の続編というか、時間軸的には前になるお話。
ヒバリが脱獄犯でイーピンはその国のお姫様。
兄がいるのにピンが時期当主なのは多分女王国家だから。
花束
窓辺に立って深い溜め息を吐いた。
今日も長い一日がようやく終わった。
朝から入れ替わり立ち代わり一体何人の人と面会しただろうか。
正確には、何人の男性と面会させられたのだろうか。
つまりそれは、いわゆるお見合いというやつで。
確かに、私もそろそろお年頃という年齢ではある。
ただしそれは恋愛のお年頃であって、結婚のお年頃ではない。
そりゃぁ私だって結婚に憧れはある。
でもそれは恋愛を経てゴールインしたいとか思うわけで。
極論から言えば、お見合いなんてこれっぽっちも望んでなんかはいないのだ。
「でも断るのもなぁ・・・・・・・」
もう一度溜め息が漏れ出た。
お見合いの席を用意したのは私の兄代わりの綱吉さん。
幼い頃から居候させてもらっている家の現当主。
街ではちょっと名の知れた家柄で、でもそんなことを鼻に掛けたところなんてまったくない、すごく優しい人。
だからわかっている。
これは本当に私のことを考えて用意してくれた席なんだって。
だって紹介された人の中には一人だって悪そうな人はいなかった。
それどころか、私自身は覚えていないのだけれど、昔まだ私が幼い頃に何度か面識があるらしく、その頃から私のことを知っているらしい。
言い換えれば当家の相続目的に名乗りを上げたような薄っぺらい人間ではないということ。
もっとも、殊人を見る目が確かな綱吉さんがそのような腹に一物もニ物も抱えた人間を紹介するはずがないのだけれど。
「でもだからって、私は相手のこと何にも知らないし」
そんな人を一体どうやって好きになれというのか。
好きになれるかもわからない人と添い遂げるなんて、私には出来ない。
「やっぱり・・・・ちゃんと言わないと失礼だよね・・・・綱吉さんにも、相手の人にも・・・・」
結婚なんてする気はない、と。
だからこれ以上お見合いなんてしたくない、と。
既に私の心の中には一人の人間がいるのだ、と。
どこの誰かもわからないけれど。
あの日、あの時出逢ったあの人に。
私に心は盗まれたままなのだと。
たった一厘の花を手に、今日のように窓際にたたずむ私にあの人は言った。
『次は、両手いっぱいの花束を持って君を攫いに来るよ』
月に照らされた漆黒の髪が、きらきらと。
初めてしった恋心のごとく、きらきらと。
眩く私の胸の中を照らした。
あれからどれだけの夜を過ごしたか。
あの日の花は、とうの昔に枯れ果ててしまった。
一体、いつになったら貴方に逢えるの?
一体、いつになったら
「私を攫いに来てくれるの・・・・・・・?」
花束なんていらないから、早く、早く。
またたった一厘を持って、早く私を攫いに来て。
―――トントン
控えめな音で戸が叩かれた。
「はい」
「イーピン、入るよ」
静かに引かれた戸の向こうに、綱吉さん。
「な、イーピン。明日もう一度お見合いしてくれないか?」
「・・・・あの・・・・・私、お見合いは・・・・・・」
「どうしても、イーピンに逢いたいって人がいてさ」
「でも、私まだそんなつもりないし・・・・・」
「その人がさ、これを渡したらきっと逢いたくなるからって」
差し出された、一厘。
それはあの日のものと変わらなくて。
ただ、一つだけ違っていたのは結われた文の存在。
どくどくと脈打つ心臓にせかされながら、丁寧にソレを開く。
そこにしたためられた流れるような美しい文字は
『攫いに来たよ』
とだけ、綴っていた。
窓辺に立って深い溜め息を吐いた。
今日も長い一日がようやく終わった。
朝から入れ替わり立ち代わり一体何人の人と面会しただろうか。
正確には、何人の男性と面会させられたのだろうか。
つまりそれは、いわゆるお見合いというやつで。
確かに、私もそろそろお年頃という年齢ではある。
ただしそれは恋愛のお年頃であって、結婚のお年頃ではない。
そりゃぁ私だって結婚に憧れはある。
でもそれは恋愛を経てゴールインしたいとか思うわけで。
極論から言えば、お見合いなんてこれっぽっちも望んでなんかはいないのだ。
「でも断るのもなぁ・・・・・・・」
もう一度溜め息が漏れ出た。
お見合いの席を用意したのは私の兄代わりの綱吉さん。
幼い頃から居候させてもらっている家の現当主。
街ではちょっと名の知れた家柄で、でもそんなことを鼻に掛けたところなんてまったくない、すごく優しい人。
だからわかっている。
これは本当に私のことを考えて用意してくれた席なんだって。
だって紹介された人の中には一人だって悪そうな人はいなかった。
それどころか、私自身は覚えていないのだけれど、昔まだ私が幼い頃に何度か面識があるらしく、その頃から私のことを知っているらしい。
言い換えれば当家の相続目的に名乗りを上げたような薄っぺらい人間ではないということ。
もっとも、殊人を見る目が確かな綱吉さんがそのような腹に一物もニ物も抱えた人間を紹介するはずがないのだけれど。
「でもだからって、私は相手のこと何にも知らないし」
そんな人を一体どうやって好きになれというのか。
好きになれるかもわからない人と添い遂げるなんて、私には出来ない。
「やっぱり・・・・ちゃんと言わないと失礼だよね・・・・綱吉さんにも、相手の人にも・・・・」
結婚なんてする気はない、と。
だからこれ以上お見合いなんてしたくない、と。
既に私の心の中には一人の人間がいるのだ、と。
どこの誰かもわからないけれど。
あの日、あの時出逢ったあの人に。
私に心は盗まれたままなのだと。
たった一厘の花を手に、今日のように窓際にたたずむ私にあの人は言った。
『次は、両手いっぱいの花束を持って君を攫いに来るよ』
月に照らされた漆黒の髪が、きらきらと。
初めてしった恋心のごとく、きらきらと。
眩く私の胸の中を照らした。
あれからどれだけの夜を過ごしたか。
あの日の花は、とうの昔に枯れ果ててしまった。
一体、いつになったら貴方に逢えるの?
一体、いつになったら
「私を攫いに来てくれるの・・・・・・・?」
花束なんていらないから、早く、早く。
またたった一厘を持って、早く私を攫いに来て。
―――トントン
控えめな音で戸が叩かれた。
「はい」
「イーピン、入るよ」
静かに引かれた戸の向こうに、綱吉さん。
「な、イーピン。明日もう一度お見合いしてくれないか?」
「・・・・あの・・・・・私、お見合いは・・・・・・」
「どうしても、イーピンに逢いたいって人がいてさ」
「でも、私まだそんなつもりないし・・・・・」
「その人がさ、これを渡したらきっと逢いたくなるからって」
差し出された、一厘。
それはあの日のものと変わらなくて。
ただ、一つだけ違っていたのは結われた文の存在。
どくどくと脈打つ心臓にせかされながら、丁寧にソレを開く。
そこにしたためられた流れるような美しい文字は
『攫いに来たよ』
とだけ、綴っていた。
雰囲気の何かパロ。
細かいことは何も考えずに書いた。
明治くらいの時代設定かな?
ヒバリさんに家柄とかの垣根を越えて攫ってもらいたかっただけ。
細かいことは何も考えずに書いた。
明治くらいの時代設定かな?
ヒバリさんに家柄とかの垣根を越えて攫ってもらいたかっただけ。
残り香
ふとした折。
鼻先を掠めていく香りがあった。
それはどこか懐かしくて。
同時に胸を締め付けられる、香り。
知っているようで、どうしても私はその香りの記憶を探り当てることが出来なかった。
「どうかしましたか?」
「・・・・師匠・・・」
こうして私が何かを思いだそうとするたびに、師匠は心配そうに私の顔を覗き込む。
自分では気がつけないけれど、そんなに難しい顔をしているのかしら?
「なんでもないですよ」
「そうですか?思いつめたような顔をしていましたけど・・・・」
やはり自分ではわからないだけで結構な表情をしていたらしい。
「・・・・・何か、忘れている気がしたんです」
とても大切な何かを。
忘れてはいけない何かを。
今まで忘れていることすら忘れていたような何かを。
欠片すら思い出せないのだけれど、それでも、ぽっかりと胸のところに大きな穴が開いてしまっているような喪失感だけは確かにあって。
思い出そうと頑張れば頑張るほど、もやに包まれて輪郭を消してしまうような不確かな何かが確かにあるのに。
私は何一つ思い出すことが出来ないでいた。
「どこかで、嗅いだ事がある気がするんです」
「・・・・そうでしょうね・・・・」
「師匠は、知っているんですね?」
「えぇ。でも私の口からは何も言わない約束なので」
「はい・・・・」
少しづつ、私の中で何かの記憶が淡くなっている。
前はもっと鮮明に忘れていることを覚えていたのに。
最近はそれすらも思い出せないことがある。
思い出せないことなら忘れてしまってもいい、とはどうしても割り切れない。
忘れてはいけないと、本能が叫んでいる。
「なんで・・・・・忘れているの・・・・・・?」
こんなにも思い出そうとしてるのに。
こんなにも焦がれているのに。
どこから香るのかもわからないそれだけが、今は私の不確かな記憶を繋いでいた。
ふとした折。
鼻先を掠めていく香りがあった。
それはどこか懐かしくて。
同時に胸を締め付けられる、香り。
知っているようで、どうしても私はその香りの記憶を探り当てることが出来なかった。
「どうかしましたか?」
「・・・・師匠・・・」
こうして私が何かを思いだそうとするたびに、師匠は心配そうに私の顔を覗き込む。
自分では気がつけないけれど、そんなに難しい顔をしているのかしら?
「なんでもないですよ」
「そうですか?思いつめたような顔をしていましたけど・・・・」
やはり自分ではわからないだけで結構な表情をしていたらしい。
「・・・・・何か、忘れている気がしたんです」
とても大切な何かを。
忘れてはいけない何かを。
今まで忘れていることすら忘れていたような何かを。
欠片すら思い出せないのだけれど、それでも、ぽっかりと胸のところに大きな穴が開いてしまっているような喪失感だけは確かにあって。
思い出そうと頑張れば頑張るほど、もやに包まれて輪郭を消してしまうような不確かな何かが確かにあるのに。
私は何一つ思い出すことが出来ないでいた。
「どこかで、嗅いだ事がある気がするんです」
「・・・・そうでしょうね・・・・」
「師匠は、知っているんですね?」
「えぇ。でも私の口からは何も言わない約束なので」
「はい・・・・」
少しづつ、私の中で何かの記憶が淡くなっている。
前はもっと鮮明に忘れていることを覚えていたのに。
最近はそれすらも思い出せないことがある。
思い出せないことなら忘れてしまってもいい、とはどうしても割り切れない。
忘れてはいけないと、本能が叫んでいる。
「なんで・・・・・忘れているの・・・・・・?」
こんなにも思い出そうとしてるのに。
こんなにも焦がれているのに。
どこから香るのかもわからないそれだけが、今は私の不確かな記憶を繋いでいた。
1:20完成
『白い世界』の続編?ヒバリの記憶を消されたイーピンの話。
時間が経つにつれてヒバリの記憶が薄れて行くようです。
頑張って思い出して!
匂いというのは記憶を邂逅する上で割合重要度が高いって何かで読んだ気がしたんだ。
『白い世界』の続編?ヒバリの記憶を消されたイーピンの話。
時間が経つにつれてヒバリの記憶が薄れて行くようです。
頑張って思い出して!
匂いというのは記憶を邂逅する上で割合重要度が高いって何かで読んだ気がしたんだ。
寝顔
「や・・・・・あの・・・・ヒバリさん・・・・?」
「なに?」
「何、はこっちの台詞だと思うんですけど・・・・・」
私の顔を覗き込んでくる男から、思わず目をそらす。
「なんで・・・・そんなに見てるんですか・・・・?」
「面白いから」
「ひ!人の顔見て面白いとか言わないでください!!」
言われると急に恥ずかしさが込み上げてきて、両手で顔を覆い隠した。
「何で隠すのさ」
「だってヒバリさんが変なこと言うからっ!」
「面白いものはしょうがないじゃない。
休んでるはずなのに急に眉間にしわを寄せたり。
かと思ったら突然にへらっと笑ったり。
これを面白いといわずに何を面白いといえば言いのさ?」
「っな!?」
うそ!?私そんな顔してたの!?いや!恥ずかしい!
でも見に覚えが無いわけじゃない。
ついさっきまで解いていた公式がどうしても理解できなくて頭の中がぐるぐるしていたし。
そしたら急にスコーンと何かがはまったかのように理解できて。
確かに頭の中ではそんな感じになっていた。
でもだからって表情に出てるなんて・・・っ!
「や、やっぱりいいです!私ちゃんとベッドで横になってきます!」
横たえていた身体を跳ね上げ、愛用のタオルケットを引っつかんでベッドに逃げ込もうとするが、後ろから牽制の声。
「それなら僕は起こしてあげないよ?」
「そんな!?」
「15分できっかり起こして欲しかったら、ココで寝るんだね」
「だって・・・・・そしたら・・・・」
ヒバリさんまた私の顔じろじろ見るし・・・・・・・
「寝ることに関しては意地汚い君が、15分の仮眠で起きれるならどうぞ?」
「ううううう」
「テストは明日だっけ?今寝入っちゃたら確実に明日の教科は全滅だよね」
「ううううううううっ!」
「さぁ、どうする?」
どうする?なんて白々しい!
選択肢なんて、一つしかないじゃないっ!!
寝顔を見られる羞恥心と、テストの全滅。
そんなもの天秤に掛けなくっても答えは出ている。
「・・ヒ・・・・ヒバリさんの膝枕、目覚まし機能付で・・・・・」
「ハイどうぞ」
ニヤニヤ笑いながら膝を差し出し、ポンと叩いて促される。
あぁ、こんなことなら休憩したいなんていわなければ良かった。
だって休憩する前よりもよっぽど精神の緊張を強いられてるんだもの。
せめて今後に備えて明日学校帰りにアイマスクでも買おう、とイーピンは心に強く誓った。
「や・・・・・あの・・・・ヒバリさん・・・・?」
「なに?」
「何、はこっちの台詞だと思うんですけど・・・・・」
私の顔を覗き込んでくる男から、思わず目をそらす。
「なんで・・・・そんなに見てるんですか・・・・?」
「面白いから」
「ひ!人の顔見て面白いとか言わないでください!!」
言われると急に恥ずかしさが込み上げてきて、両手で顔を覆い隠した。
「何で隠すのさ」
「だってヒバリさんが変なこと言うからっ!」
「面白いものはしょうがないじゃない。
休んでるはずなのに急に眉間にしわを寄せたり。
かと思ったら突然にへらっと笑ったり。
これを面白いといわずに何を面白いといえば言いのさ?」
「っな!?」
うそ!?私そんな顔してたの!?いや!恥ずかしい!
でも見に覚えが無いわけじゃない。
ついさっきまで解いていた公式がどうしても理解できなくて頭の中がぐるぐるしていたし。
そしたら急にスコーンと何かがはまったかのように理解できて。
確かに頭の中ではそんな感じになっていた。
でもだからって表情に出てるなんて・・・っ!
「や、やっぱりいいです!私ちゃんとベッドで横になってきます!」
横たえていた身体を跳ね上げ、愛用のタオルケットを引っつかんでベッドに逃げ込もうとするが、後ろから牽制の声。
「それなら僕は起こしてあげないよ?」
「そんな!?」
「15分できっかり起こして欲しかったら、ココで寝るんだね」
「だって・・・・・そしたら・・・・」
ヒバリさんまた私の顔じろじろ見るし・・・・・・・
「寝ることに関しては意地汚い君が、15分の仮眠で起きれるならどうぞ?」
「ううううう」
「テストは明日だっけ?今寝入っちゃたら確実に明日の教科は全滅だよね」
「ううううううううっ!」
「さぁ、どうする?」
どうする?なんて白々しい!
選択肢なんて、一つしかないじゃないっ!!
寝顔を見られる羞恥心と、テストの全滅。
そんなもの天秤に掛けなくっても答えは出ている。
「・・ヒ・・・・ヒバリさんの膝枕、目覚まし機能付で・・・・・」
「ハイどうぞ」
ニヤニヤ笑いながら膝を差し出し、ポンと叩いて促される。
あぁ、こんなことなら休憩したいなんていわなければ良かった。
だって休憩する前よりもよっぽど精神の緊張を強いられてるんだもの。
せめて今後に備えて明日学校帰りにアイマスクでも買おう、とイーピンは心に強く誓った。
22:56完成
10ヒバピンの未来捏造。
期末試験の前とかなんだよきっと。うん。
ヒバリさんは監視役とかで遊びに来てるんだよきっと。うん。
寝顔って見られてるってわかるとたまらなく恥ずかしいよね、って話なんだよきっと。うん。
10ヒバピンの未来捏造。
期末試験の前とかなんだよきっと。うん。
ヒバリさんは監視役とかで遊びに来てるんだよきっと。うん。
寝顔って見られてるってわかるとたまらなく恥ずかしいよね、って話なんだよきっと。うん。