~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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当たり前のようにチャイムに伸ばした手を寸での所で引き止めた。
「・・・・・・寝てるかもしれねーのにチャイムはマズいよな・・・・・・」
確実に相手を起こしてしまう。
そうしなくてもいいように俺の手の中には鍵が託されているんだ。
「しかし・・・・・・他人の家の鍵を開けるってのはどうも敷居が高いな・・・・・・」
それも無人ではなく、家人が居ると分かっていればなおさら。
だがここまで来て引き返す訳にもいかず、俺は出来うる限り音を殺して玄関の鍵を開けた。
ドアノブを回せば、キィィィ──と控えめながらも甲高い音が鳴る。
(おいおい、何をやっているんだ俺は・・・・・・別に悪い事しているわけじゃないんだから堂々と入ればいい話だろ?)
思考と行動が全く噛み合わない。
抜き足差し足で家屋に足を踏み入れ、ほとんど同じ手つきで後ろ手に戸を閉めた。
(鍵は・・・・・・掛けておくべきか?あ、いや、ジョーのおっさんも帰ってくるだろうし・・・・・・いやいや、俺の家じゃないんだから開けっ放しってのはマズい・・・・・・か?)
逡巡の後、ロックを掛けることを選んだのがたぶん運の尽きだったのだろう。
静かに降ろしたはずの錠はガシャン!とけたたましい音を立てた。
(っ!?しまっ・・・・・・!)
途端、二階と思われる方向からグルグル響く唸り声。
目にも留まらぬ早さで巨大な影が階段を駆け降り、そして飛びかかってくる!
「のわっ!?」
高速のタックル&のし掛かりに、俺の体は逆らう事も出来ずに後方に転倒。
ガツンっ!
そして、全力で後頭部を玄関のドアに強打した。
「・・・・・・っ・・・・・・ててっ・・・・・・」
胸の上から巨大な影がべロリ舌を垂らしながら俺を見下ろしている。
・・・・・・この際、噛みつかれなかっただけで良しとしておこう・・・・・・。
「ほら、退いてくれよバカ犬」
「ワゥっ!」
何故か上から動こうとしないコロを力ずくで引きずり降ろしたところで、再び階段上から声がした。
今度は唸り声などではない。
おそるおそる、控えめな、そしてちょっとだけ語調のはっきりしない女の声。
「・・・・・・コロ・・・・・・?どうし・・・・・・た、の?」
明らかにおぼつかない足下。
ふらふらと壁を伝いながら階段の一番上から階下を覗く。
「コ・・・・・・ろ・・・・・・?・・・・・・・・・・・・!?」
そしてかち合う視線。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・よ・・・・・・よぉ・・・・・・?」
どうしようもなくて、片手をあげてみた。
なれない笑顔をつけてみたけれど、どうやってもそいつはひきつれて見苦しいだけのものだった。
「せ、せ、せ、せ、せん・・・・・・ぱ、い・・・・・・?」
ココは端から見てもひどく混乱していた。
まぁ驚くなという方が無茶な話だ。
「だろうな、どう見ても」
「なんで先輩が私の家にっ!?ていうか、やだっ!私こんな格好で・・・・・・っ!?」
「おっ、おいっ!?お前まだ熱下がっていないんだろ!?そんなところで暴れるな!」
嫌な予感がして猛ダッシュで階段を駆けあがる。
ほんの一瞬遅れて、コロも追ってきた。
(落ちんじゃねーぞ・・・・・・!?)
しかし悪い予感ほど当たるもので、二階まで後5段ほどに差し掛かった時、ココの体がぐらりと大きく揺れた。
せめて廊下に倒れてくれればいいものを、狙いすましたかのようにこちらに向かってきた。
平素であればほとんど問題なく受け止められる体も、足場の悪さと相手に踏ん張る力がないという悪条件が重なればなかなか分の悪い天秤だ。
重力に抗がうことなく落ちてきたココを右手で抱え、無理矢理伸ばした左手で手すりを掴んだ。
「っ!?・・・・・・っ、ギリッギリセーフ・・・・・・」
俺よりも早くに階上に駆け上がったコロが上から引っ張ってくれなければ、二人でもろとも転がり落ちていたことだろう。
「たく・・・・・・どこまで心配掛ければ気が済むんだこのバカは・・・・・・」
「ふぇぇ・・・・・・スミマ・・・・・・せん・・・・・・」
「立てるか?」
「は、イ・・・・・・大丈、夫・・・・・・」
「・・・・・・じゃねぇな。ったく、ホントに世話の焼ける奴だな」
自立しようとしたが傍目にもふらついていることがわかる状態。
手を離したら今さっきの救出劇が水の泡になることは明白だった。
「運ぶから暴れるんじゃねーぞ。暴れたら落とすからな」
一言だけ断りを入れて(半ば脅しだったような気がしないでもないが)俺はココの体を抱き上げた。
顔がさっきの倍くらい赤くなった気もするが構ってられるか。
二次災害が起きる前にこいつをベッドに押し込むのが先だ。
「バカ犬。部屋はどこだ?」
ゥゥゥ・・・・・・と低い唸り声を上げたが、一人では運べないことを悟るや渋々歩きだした。
ことココに関しては聡い犬だ。
対して腕の中でカチンコチンに固まったココがしどろもどろに俺に尋ねてきた。
「あの・・・・・・せん、パイ・・・・・・?」
「んあ?」
「なんで・・・・・・」
「あぁ、ジョーのおっさんに頼まれたんだよ。お前が風邪引いて寝てるんだけど、どうしても今日中に片づけないとやばい書類があるからおっさんが帰るまでお前の看病しろって・・・・・・」
「・・・・・・パパのバカ・・・・・・」
「?なんか言ったか?」
「なんでもないですっ!」
そんな短い会話が終わったあたりでコロが立ち止まってワゥ!と小さく鳴いた。
どうやら此処がココの部屋なのだろう。
不躾とは承知で部屋に入った。
「あ・・・・・・あんまり見ないで、くださいね・・・・・・?」
「見るか」
とは言ったものの、部屋に入れば目に入ってしまうのは当然のことだ。
立ち入った室内は思いの外こざっぱりとした印象を受けた。
女の部屋なんてレースとかフリルとかそんなもんばかりだと思っていたのだが、それからすれば地味と言えるのかもしれない。
もっとも、小汚い俺の部屋と比べれば綺麗で上等なものなのは間違いないが。
それほど広くない室内。
目的のベッドはすぐに目に付いた。
興味がないと言えば嘘になる好奇心を振り払うべく、ずかずか大股でベッド脇まで運んだ。
なんだか自分のしていることが猛烈に恥ずかしくなって放り出しそうになるのをどうにか堪え、ベッドに横たえた。
「さっさと寝てろっ!」
「は、ハイ」
もそもそと緩慢な動作で布団に潜り込んでいく。
ひとまずこれで二次災害の恐れは無くなった。
俺はようやく一息つくことができた。
ココが布団の中からぼぉっとした視線で俺を見上げている。
「・・・・・・何だよ?」
「せんぱい・・・・・・顔、真っ赤・・・・・・っ、!?」
突然ココはすっぽり頭まで布団を被ってしまう。
おいおい、何なんだよこの反応は!
「・・・・・・あの~、ココ・・・・・・さん?」
「・・・・・・」
「え~・・・・・・っと・・・・・・」
「・・・・・・」
俺が何をしたっていうんだ!?
・・・・・・いや、いろいろしちまってることは認めるけど、だけどそれは不可抗力ってもんだろ!?
「おいココっ!」
頭の先までをすっぽり覆っているシーツをひっぺがそうと掴めば、病人とは思えない力で抵抗された。
「~~~っ!だ、だめですぅぅぅっ!!!」
「何でだ!理由を言え理由をっ!!」
「だ・・・・・・って・・・・・・せんぱいにかぜ・・・・・・うつっちゃう・・・・・・」
「・・・・・・は?」
「こんなに迷惑かけて・・・・・・その上、せんぱいに風邪まで引かせたりしたら・・・・・・私・・・・・・どうしていいか・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・俺は言葉もないが、多分ココは大真面目にそう思っているんだろう。
「ふ、ぇっ・・・・・・」
「っ!?ばかっ!泣く奴があるか!?」
あぁっ!これだから女って奴は!!
「だって・・・・・・だってぇ・・・・・・」
「そんな柔な鍛え方してねーし、もし移ってたとしたら今更だろーが!」
「それは・・・・・・」
「病人が人のこと気にしてんじゃねーよ。早く治すことだけ考えてろ、バカ」
ようやく、おずおずと布団の隙間から顔の半分くらいを覗かせた。
シーツの白さも相まっているのか、その顔はやたらと赤くなっているような気がした。
「・・・・・・俺のせいで熱が上がったとかだったら承知しねぇぞ・・・・・・?」
額に向かって手を伸ばしかけ、
(何をやっているんだ俺は・・・・・・)
自分の行動を罵倒した。
「・・・・・・外出てるから、熱計っとけ」
「あ・・・・・・はい」
ドアの扉を後ろ手に閉めた。
背中を扉に預けて、ずるずると床に尻を着いた。
「・・・・・・何してるんだ俺は・・・・・・」
触れるわけもないのに。
こんな体で、何をするつもりだった?
触れば傷つけるだけの体で。
布越しにしか触れない体で。
体温なんて感じられるわけもないのに・・・・・・。
「・・・・・・バカは俺の方だ・・・・・・バカ・・・・・・」
無性に、泣きたい気持ちになった。
あぁ。
本当にあいつの風邪を貰ってしまったのかもしれない。
風邪が、俺の気を弱くしているに違いない。
そうに決まっている。
そうでなくては、困る。
すぐそばでコロがクゥンと大人しく鳴いた。
こいつも部屋を追い出されているクチなのだろう。
「・・・・・・あいつを、頼んだぞ?」
右手で頭を撫でる。
珍しく抵抗しようともしない。
「俺の分まで、守ってくれよ?」
コロは返事もしなかった。
ただ、ひどく悲しい色をうつしていた。
sickness
診断メーカーで出た結果を元に殴り書きました。
それ以上でもそれ以下でもないです。
甘あまで終わらせるつもりが、最後どシリアスで落としてしまった・・・・・・。
絶賛反省中です。
2011/03/01
「・・・・・・寝てるかもしれねーのにチャイムはマズいよな・・・・・・」
確実に相手を起こしてしまう。
そうしなくてもいいように俺の手の中には鍵が託されているんだ。
「しかし・・・・・・他人の家の鍵を開けるってのはどうも敷居が高いな・・・・・・」
それも無人ではなく、家人が居ると分かっていればなおさら。
だがここまで来て引き返す訳にもいかず、俺は出来うる限り音を殺して玄関の鍵を開けた。
ドアノブを回せば、キィィィ──と控えめながらも甲高い音が鳴る。
(おいおい、何をやっているんだ俺は・・・・・・別に悪い事しているわけじゃないんだから堂々と入ればいい話だろ?)
思考と行動が全く噛み合わない。
抜き足差し足で家屋に足を踏み入れ、ほとんど同じ手つきで後ろ手に戸を閉めた。
(鍵は・・・・・・掛けておくべきか?あ、いや、ジョーのおっさんも帰ってくるだろうし・・・・・・いやいや、俺の家じゃないんだから開けっ放しってのはマズい・・・・・・か?)
逡巡の後、ロックを掛けることを選んだのがたぶん運の尽きだったのだろう。
静かに降ろしたはずの錠はガシャン!とけたたましい音を立てた。
(っ!?しまっ・・・・・・!)
途端、二階と思われる方向からグルグル響く唸り声。
目にも留まらぬ早さで巨大な影が階段を駆け降り、そして飛びかかってくる!
「のわっ!?」
高速のタックル&のし掛かりに、俺の体は逆らう事も出来ずに後方に転倒。
ガツンっ!
そして、全力で後頭部を玄関のドアに強打した。
「・・・・・・っ・・・・・・ててっ・・・・・・」
胸の上から巨大な影がべロリ舌を垂らしながら俺を見下ろしている。
・・・・・・この際、噛みつかれなかっただけで良しとしておこう・・・・・・。
「ほら、退いてくれよバカ犬」
「ワゥっ!」
何故か上から動こうとしないコロを力ずくで引きずり降ろしたところで、再び階段上から声がした。
今度は唸り声などではない。
おそるおそる、控えめな、そしてちょっとだけ語調のはっきりしない女の声。
「・・・・・・コロ・・・・・・?どうし・・・・・・た、の?」
明らかにおぼつかない足下。
ふらふらと壁を伝いながら階段の一番上から階下を覗く。
「コ・・・・・・ろ・・・・・・?・・・・・・・・・・・・!?」
そしてかち合う視線。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・よ・・・・・・よぉ・・・・・・?」
どうしようもなくて、片手をあげてみた。
なれない笑顔をつけてみたけれど、どうやってもそいつはひきつれて見苦しいだけのものだった。
「せ、せ、せ、せ、せん・・・・・・ぱ、い・・・・・・?」
ココは端から見てもひどく混乱していた。
まぁ驚くなという方が無茶な話だ。
「だろうな、どう見ても」
「なんで先輩が私の家にっ!?ていうか、やだっ!私こんな格好で・・・・・・っ!?」
「おっ、おいっ!?お前まだ熱下がっていないんだろ!?そんなところで暴れるな!」
嫌な予感がして猛ダッシュで階段を駆けあがる。
ほんの一瞬遅れて、コロも追ってきた。
(落ちんじゃねーぞ・・・・・・!?)
しかし悪い予感ほど当たるもので、二階まで後5段ほどに差し掛かった時、ココの体がぐらりと大きく揺れた。
せめて廊下に倒れてくれればいいものを、狙いすましたかのようにこちらに向かってきた。
平素であればほとんど問題なく受け止められる体も、足場の悪さと相手に踏ん張る力がないという悪条件が重なればなかなか分の悪い天秤だ。
重力に抗がうことなく落ちてきたココを右手で抱え、無理矢理伸ばした左手で手すりを掴んだ。
「っ!?・・・・・・っ、ギリッギリセーフ・・・・・・」
俺よりも早くに階上に駆け上がったコロが上から引っ張ってくれなければ、二人でもろとも転がり落ちていたことだろう。
「たく・・・・・・どこまで心配掛ければ気が済むんだこのバカは・・・・・・」
「ふぇぇ・・・・・・スミマ・・・・・・せん・・・・・・」
「立てるか?」
「は、イ・・・・・・大丈、夫・・・・・・」
「・・・・・・じゃねぇな。ったく、ホントに世話の焼ける奴だな」
自立しようとしたが傍目にもふらついていることがわかる状態。
手を離したら今さっきの救出劇が水の泡になることは明白だった。
「運ぶから暴れるんじゃねーぞ。暴れたら落とすからな」
一言だけ断りを入れて(半ば脅しだったような気がしないでもないが)俺はココの体を抱き上げた。
顔がさっきの倍くらい赤くなった気もするが構ってられるか。
二次災害が起きる前にこいつをベッドに押し込むのが先だ。
「バカ犬。部屋はどこだ?」
ゥゥゥ・・・・・・と低い唸り声を上げたが、一人では運べないことを悟るや渋々歩きだした。
ことココに関しては聡い犬だ。
対して腕の中でカチンコチンに固まったココがしどろもどろに俺に尋ねてきた。
「あの・・・・・・せん、パイ・・・・・・?」
「んあ?」
「なんで・・・・・・」
「あぁ、ジョーのおっさんに頼まれたんだよ。お前が風邪引いて寝てるんだけど、どうしても今日中に片づけないとやばい書類があるからおっさんが帰るまでお前の看病しろって・・・・・・」
「・・・・・・パパのバカ・・・・・・」
「?なんか言ったか?」
「なんでもないですっ!」
そんな短い会話が終わったあたりでコロが立ち止まってワゥ!と小さく鳴いた。
どうやら此処がココの部屋なのだろう。
不躾とは承知で部屋に入った。
「あ・・・・・・あんまり見ないで、くださいね・・・・・・?」
「見るか」
とは言ったものの、部屋に入れば目に入ってしまうのは当然のことだ。
立ち入った室内は思いの外こざっぱりとした印象を受けた。
女の部屋なんてレースとかフリルとかそんなもんばかりだと思っていたのだが、それからすれば地味と言えるのかもしれない。
もっとも、小汚い俺の部屋と比べれば綺麗で上等なものなのは間違いないが。
それほど広くない室内。
目的のベッドはすぐに目に付いた。
興味がないと言えば嘘になる好奇心を振り払うべく、ずかずか大股でベッド脇まで運んだ。
なんだか自分のしていることが猛烈に恥ずかしくなって放り出しそうになるのをどうにか堪え、ベッドに横たえた。
「さっさと寝てろっ!」
「は、ハイ」
もそもそと緩慢な動作で布団に潜り込んでいく。
ひとまずこれで二次災害の恐れは無くなった。
俺はようやく一息つくことができた。
ココが布団の中からぼぉっとした視線で俺を見上げている。
「・・・・・・何だよ?」
「せんぱい・・・・・・顔、真っ赤・・・・・・っ、!?」
突然ココはすっぽり頭まで布団を被ってしまう。
おいおい、何なんだよこの反応は!
「・・・・・・あの~、ココ・・・・・・さん?」
「・・・・・・」
「え~・・・・・・っと・・・・・・」
「・・・・・・」
俺が何をしたっていうんだ!?
・・・・・・いや、いろいろしちまってることは認めるけど、だけどそれは不可抗力ってもんだろ!?
「おいココっ!」
頭の先までをすっぽり覆っているシーツをひっぺがそうと掴めば、病人とは思えない力で抵抗された。
「~~~っ!だ、だめですぅぅぅっ!!!」
「何でだ!理由を言え理由をっ!!」
「だ・・・・・・って・・・・・・せんぱいにかぜ・・・・・・うつっちゃう・・・・・・」
「・・・・・・は?」
「こんなに迷惑かけて・・・・・・その上、せんぱいに風邪まで引かせたりしたら・・・・・・私・・・・・・どうしていいか・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・俺は言葉もないが、多分ココは大真面目にそう思っているんだろう。
「ふ、ぇっ・・・・・・」
「っ!?ばかっ!泣く奴があるか!?」
あぁっ!これだから女って奴は!!
「だって・・・・・・だってぇ・・・・・・」
「そんな柔な鍛え方してねーし、もし移ってたとしたら今更だろーが!」
「それは・・・・・・」
「病人が人のこと気にしてんじゃねーよ。早く治すことだけ考えてろ、バカ」
ようやく、おずおずと布団の隙間から顔の半分くらいを覗かせた。
シーツの白さも相まっているのか、その顔はやたらと赤くなっているような気がした。
「・・・・・・俺のせいで熱が上がったとかだったら承知しねぇぞ・・・・・・?」
額に向かって手を伸ばしかけ、
(何をやっているんだ俺は・・・・・・)
自分の行動を罵倒した。
「・・・・・・外出てるから、熱計っとけ」
「あ・・・・・・はい」
ドアの扉を後ろ手に閉めた。
背中を扉に預けて、ずるずると床に尻を着いた。
「・・・・・・何してるんだ俺は・・・・・・」
触れるわけもないのに。
こんな体で、何をするつもりだった?
触れば傷つけるだけの体で。
布越しにしか触れない体で。
体温なんて感じられるわけもないのに・・・・・・。
「・・・・・・バカは俺の方だ・・・・・・バカ・・・・・・」
無性に、泣きたい気持ちになった。
あぁ。
本当にあいつの風邪を貰ってしまったのかもしれない。
風邪が、俺の気を弱くしているに違いない。
そうに決まっている。
そうでなくては、困る。
すぐそばでコロがクゥンと大人しく鳴いた。
こいつも部屋を追い出されているクチなのだろう。
「・・・・・・あいつを、頼んだぞ?」
右手で頭を撫でる。
珍しく抵抗しようともしない。
「俺の分まで、守ってくれよ?」
コロは返事もしなかった。
ただ、ひどく悲しい色をうつしていた。
sickness
診断メーカーで出た結果を元に殴り書きました。
それ以上でもそれ以下でもないです。
甘あまで終わらせるつもりが、最後どシリアスで落としてしまった・・・・・・。
絶賛反省中です。
2011/03/01
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たまの非番。
いつもよりほんの少し遅く起きる朝。
カーテンを開けると眩しい日の光が射し込む。
お天気もいいしお出かけ日和。
前々から予定していた買い物に出かけよう。
心に決めてベッドから足を降ろすと、もふっとした何かに足先が触れた。
パートナーのコロだ。
足下で寝ていたコロがクゥンと小さく甘えた声を出す。
「ご飯、ちょっと待っててね」
顔を洗って身だしなみを整え、着替えをすませて自分の分とコロの分の朝ご飯を用意する。
パパは今日も朝早くに家を出て行ってしまったらしい。
非番だからと気を使って起こさずに行ったのだろう。
少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、コロと二人でちょっと遅めの朝ご飯を食べた。
ご飯の後、日頃溜めがちな洗濯物を片づける。
お天気もいいからきっと気持ちよく乾いてくれることだろう。
それからコロのブラッシング。
お出かけに連れていけないからその分の謝罪も込めていつもよりも丁寧に毛を梳いてあげた。
コロもそれがどういうことか察したみたい。
ブラッシングが終わるととことこリビングへ向かい、日当たりの良い窓際を陣取って早速昼寝の体勢に入ってしまった。
「ごめんね?コロ」
鳴き声こそ漏らさなかったが、行ってらっしゃいとばかりに尻尾を数回パタパタと振って答えて見せた。
パートナーのご機嫌取りには成功したらしい。
私は部屋に戻って外出の準備をした。
クローゼットを開けて洋服を見繕う。
さて、何を着ていこうかしら?
仕事中がもっぱらパンツスタイルのせいか、最近私服ではスカートが多い。
今日はお天気もいいし、気温も高そうだから少し薄着くらいのでいいかもしれない。
お気に入りのワンピースに薄手のカーディガン、それから少しだけヒールのあるミュールを選んだ。
おかしなところがないか、くるり一回転。
うん、大丈夫そう。
鏡の前ではにかむ。
誰に見せるわけでもないのにこうやってあれこれ考えてしまうのは女の子の性なのだろうか?
ワンピースと同色のハンドバックを手に取り、コロに留守を頼んでから私は家を出た。
車を使ってもいいのだけれど、市街地に行くにはあまり便利が良くない。
普段はコロがいるので使用しないバスに乗ることにした。
ローテーションで回ってくる非番だったので特に意識していなかったが、世間一般では今日は休日に当たる日だったみたい。
バスはとても混んでいた。
やっぱりコロを連れてこなくて正解。
町中では訓練された犬に対しておもしろ半分にいたずらをしてくる人が少なくない。
そうでなくてもこの混雑、不意に踏まれてしまうことは多々あった。
承知で付いて来たがることはあったが、パートナーとしてはあまり容認できない。
怪我する可能性があるのを見過ごすことはしたくない。
だんだんと市街地に近づくにつれ、乗車数は多くなる。
身動き取れないというほどではないが、かなり窮屈。
バス停に止まり、ぱらぱらと人が降りてほっとする間もなく、同じくらいかそれ以上の人が乗車していよいよ動けなくなる。
バスがガタン!と揺れれば体のどこかが誰かにぶつかってしまう。
手すりを掴んでどうにか倒れないように踏ん張った。
バスは交差点に差し掛かり、右に大きく車体が傾き乗客もそれに習うように傾いた。
(・・・・・・え?)
そんなおり、ふと感じた違和感。
一瞬触れただけならば、状況が起こした事故だったと思っただろう。
けれど体に触れた感触が、いつまでたっても離れない。
それどころか太股あたりに触れた誰かの手が、明確な意図を持って這い上がってくる。
(痴漢!?)
確認しようにもこの混雑。
まともに自分の足元を見ることすらできない。
けれど確かに触られている。
せめて容疑者の特定だけでも、と視線を巡らせた。
当たり前だけれど、いかにも痴漢然とした人などいない。
距離間などから容疑者候補は三人まで絞れた。
けれどそれ以上はどうしても特定できない。
これじゃあ現行犯で捕まえられない。
思考を巡らしている間も、誰かの手は確実に太股から膝へと下がり、スカートの裾を手繰り上げようとしていた。
(やっ・・・・・・!)
素肌の上を撫で上げられ、嫌悪感と恐怖に体を支配される。
ぞわりとした、まるで背中を虫が這い上がるような感覚。
ここまで来ても悲鳴の一つ上げなかったのは、声も上げられないほど怖かったからではない。
(まだダメ・・・・・・っ!!)
いうなれば、私が警官だから。
現行犯逮捕しなければという、警官としての一種の使命感があったから。
不躾にまさぐる手はこちらが抵抗しないとみると次第に動きをエスカレートさせていく。
体が震えているのが自分でも分かった。
それでも私は声を上げることができない。
せめてバスが止まって人の流れが出来れば・・・・・・。
この手を無理矢理にでも掴みあげることが出来れば・・・・・・。
もしも取り逃がせば容疑者はまた誰かを餌食にするだろう。
(そんなことは許せないっ)
何が何でも捕まえなければ・・・・・・。
心に固く誓って体をまさぐる手に耐えた。
怖くても、気持ち悪くても、相手がボロを出すその一瞬をのがす訳にはいかない。
それでも、こぼれそうになる涙を、こみ上げてくる吐き気を、使命感だけでやり過ごすのはいよいよ限界だった。
「よぉ、おっさん。これなんだか分かるか?」
聞きなれた声に、ハッと意識が明瞭になった。
声のした方に振り返る。
居たのは、見慣れた銀糸。
私の背後に位置していた男に掲げた警察手帳。
「痴漢の現行犯だ。恨むんなら自分の行いを恨みな」
逃げだそうとした男の腕を捻り上げた。
誤解だ、人違いだ、冤罪だ、証拠はあるのか、男はわめき立てる。
「お前が痴漢を働いた相手も警官でね。泣き寝入りはしてくれないだろうよ。なぁ、ココ?」
「・・・・・・ハント・・・・・・先輩・・・・・・?」
「何呆けた顔してるんだ。降りるぞ」
「あ、はい!」
ようやく停車したバス。
先輩は人をかき分けて容疑者を引っ立てていった。
流れに逆らわぬよう、視線の先に揺れる銀糸を見失わぬよう、私も後を追った。
□■□
近くを巡察していた警官に事情を説明して男を引き渡す。
現行犯ということもあり、男も観念して容疑を認めた。
私も掻い摘んで状況報告は済ませたが、後日改めて参考証言を取るかもしれないと忠告されて今日のところは解放された。
容疑者がパトカーに詰め込まれたのを確認して、ようやく人心地が付いた。
「災難だったな?」
「ハント先輩・・・・・・」
「っ、なんて言うと思ったかこのバカっ!!」
「!?いたぁっ!!」
・・・・・・グーで殴られた。
「なんでさっさと声を上げないんだお前は!?バカか?バカなんだろう?バカなんだな!?」
「ひっ、ひどいです先輩!!」
「ひどいもクソもあるか!俺がたまたま乗り合わせていたからいいようなもの、あのままどうするつもりだったんだ!?こんな時に限ってバカ犬も連れてないし、ホント何考えているんだお前は!一人で捕まえるつもりだったのか!?何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「だ!だって、現行犯で上げなきゃ逮捕なんて出来ないし・・・・・・」
「それで良いようにされてたって言うのかこのバカっ!捕まえることよりも自分の身を守ることを考えろ!!」
「せんぱっ・・・・・・!」
強い力で引き寄せられ、先輩の胸にポスリと収まった。
「大丈夫か?」
「せん、ぱ・・・・・・ぃ・・・・・・」
「怖かったんだろ?悪かった。助けるのが遅くなっちまって・・・・・・」
「せ・・・・・・ぱぃ・・・・・・っ!」
生々しいまでの感触がリフレイン。
やりこめていた恐怖を抑圧するものがなくなったとたん、腰に力が入らなくなる。
「お!おい!?ココっ!?」
倒れかかった私を、先輩は危なっかしい手つきで支えてくれた。
辛うじて踏ん張ることは出来たけれど、とても大丈夫なんていえる状態ではないのは明白で。
ほとんどの体重を先輩に預ける形になった。
「・・・・・・あんま無茶すんな・・・・・・」
「・・・・・・ハイ・・・・・・」
「次同じようなことしたらゲンコツじゃすまさねーからな。覚悟しとけ」
「はい。・・・・・・先輩が居てくれて良かったです・・・・・・」
「・・・・・・おぅ」
グーで殴った頭を、先輩は優しく撫でてくれた。
□■□
「で?お前はバカ犬も連れないで一人で何してたんだ?」
「あ・・・・・・、と、ちょっと買い物に・・・・・・」
「しゃーねぇ。付き合ってやるよ。俺も非番だしな」
!?これってもしかしてデートのお誘い・・・・・・!!
でもでも、私が買いに行こうとしてたのは・・・・・・。
「一人で大丈夫ですよ!」
「うるせぇ。お前はボケっとしてるから一人にしておくと余計心配なんだよ。いいから行くぞ!」
「せ、せんぱーいっ!」
なんて言っていたのが20分前のこと。
「・・・・・・」
「えっと・・・・・・ここ、何ですけど・・・・・・」
「・・・・・・いやいやいやいやいやいや・・・・・・。マズいだろ、無理だろ、ていうか前にもこんなことあったぞ!?」
恥ずかしい!恥ずかしい!!
でも、ここまで来たんだから私だって頑張らなきゃ!
「ハント先輩はどんな下着が好みなんですかっ!?」
「・・・・・・いやいや、おかしいだろ!?ちったー冷静になれよ!?」
「私、先輩が好きな奴なら頑張って穿きますから!き・・・・・・キワドイ奴でも、先輩が好きっていうのなら頑張りますから!!」
「うっせぇぇっ!!勝手に好きなのはけよぉぉっ!!」
「あ、せんぱぁぁいぃ!待ってくださいよぉぉ!!どれが、どれが先輩の好みなんですかぁ!?せんぱぁぁぃ!!」
初めてのデートは、先輩との追いかけっこになりました。
ちょっと・・・・・・残念。
たまの休みに。
あ~アラココは書いてて楽しいなww
わっふるわっふる。
ココたんかわゆす!
なんか甘あま展開に耐えきれなくって最後にオチを入れてしまった。
自分の未熟っぷりがよく分かります。
※痴漢は犯罪です!絶対してはいけません!!※
2011/02/28
いつもよりほんの少し遅く起きる朝。
カーテンを開けると眩しい日の光が射し込む。
お天気もいいしお出かけ日和。
前々から予定していた買い物に出かけよう。
心に決めてベッドから足を降ろすと、もふっとした何かに足先が触れた。
パートナーのコロだ。
足下で寝ていたコロがクゥンと小さく甘えた声を出す。
「ご飯、ちょっと待っててね」
顔を洗って身だしなみを整え、着替えをすませて自分の分とコロの分の朝ご飯を用意する。
パパは今日も朝早くに家を出て行ってしまったらしい。
非番だからと気を使って起こさずに行ったのだろう。
少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、コロと二人でちょっと遅めの朝ご飯を食べた。
ご飯の後、日頃溜めがちな洗濯物を片づける。
お天気もいいからきっと気持ちよく乾いてくれることだろう。
それからコロのブラッシング。
お出かけに連れていけないからその分の謝罪も込めていつもよりも丁寧に毛を梳いてあげた。
コロもそれがどういうことか察したみたい。
ブラッシングが終わるととことこリビングへ向かい、日当たりの良い窓際を陣取って早速昼寝の体勢に入ってしまった。
「ごめんね?コロ」
鳴き声こそ漏らさなかったが、行ってらっしゃいとばかりに尻尾を数回パタパタと振って答えて見せた。
パートナーのご機嫌取りには成功したらしい。
私は部屋に戻って外出の準備をした。
クローゼットを開けて洋服を見繕う。
さて、何を着ていこうかしら?
仕事中がもっぱらパンツスタイルのせいか、最近私服ではスカートが多い。
今日はお天気もいいし、気温も高そうだから少し薄着くらいのでいいかもしれない。
お気に入りのワンピースに薄手のカーディガン、それから少しだけヒールのあるミュールを選んだ。
おかしなところがないか、くるり一回転。
うん、大丈夫そう。
鏡の前ではにかむ。
誰に見せるわけでもないのにこうやってあれこれ考えてしまうのは女の子の性なのだろうか?
ワンピースと同色のハンドバックを手に取り、コロに留守を頼んでから私は家を出た。
車を使ってもいいのだけれど、市街地に行くにはあまり便利が良くない。
普段はコロがいるので使用しないバスに乗ることにした。
ローテーションで回ってくる非番だったので特に意識していなかったが、世間一般では今日は休日に当たる日だったみたい。
バスはとても混んでいた。
やっぱりコロを連れてこなくて正解。
町中では訓練された犬に対しておもしろ半分にいたずらをしてくる人が少なくない。
そうでなくてもこの混雑、不意に踏まれてしまうことは多々あった。
承知で付いて来たがることはあったが、パートナーとしてはあまり容認できない。
怪我する可能性があるのを見過ごすことはしたくない。
だんだんと市街地に近づくにつれ、乗車数は多くなる。
身動き取れないというほどではないが、かなり窮屈。
バス停に止まり、ぱらぱらと人が降りてほっとする間もなく、同じくらいかそれ以上の人が乗車していよいよ動けなくなる。
バスがガタン!と揺れれば体のどこかが誰かにぶつかってしまう。
手すりを掴んでどうにか倒れないように踏ん張った。
バスは交差点に差し掛かり、右に大きく車体が傾き乗客もそれに習うように傾いた。
(・・・・・・え?)
そんなおり、ふと感じた違和感。
一瞬触れただけならば、状況が起こした事故だったと思っただろう。
けれど体に触れた感触が、いつまでたっても離れない。
それどころか太股あたりに触れた誰かの手が、明確な意図を持って這い上がってくる。
(痴漢!?)
確認しようにもこの混雑。
まともに自分の足元を見ることすらできない。
けれど確かに触られている。
せめて容疑者の特定だけでも、と視線を巡らせた。
当たり前だけれど、いかにも痴漢然とした人などいない。
距離間などから容疑者候補は三人まで絞れた。
けれどそれ以上はどうしても特定できない。
これじゃあ現行犯で捕まえられない。
思考を巡らしている間も、誰かの手は確実に太股から膝へと下がり、スカートの裾を手繰り上げようとしていた。
(やっ・・・・・・!)
素肌の上を撫で上げられ、嫌悪感と恐怖に体を支配される。
ぞわりとした、まるで背中を虫が這い上がるような感覚。
ここまで来ても悲鳴の一つ上げなかったのは、声も上げられないほど怖かったからではない。
(まだダメ・・・・・・っ!!)
いうなれば、私が警官だから。
現行犯逮捕しなければという、警官としての一種の使命感があったから。
不躾にまさぐる手はこちらが抵抗しないとみると次第に動きをエスカレートさせていく。
体が震えているのが自分でも分かった。
それでも私は声を上げることができない。
せめてバスが止まって人の流れが出来れば・・・・・・。
この手を無理矢理にでも掴みあげることが出来れば・・・・・・。
もしも取り逃がせば容疑者はまた誰かを餌食にするだろう。
(そんなことは許せないっ)
何が何でも捕まえなければ・・・・・・。
心に固く誓って体をまさぐる手に耐えた。
怖くても、気持ち悪くても、相手がボロを出すその一瞬をのがす訳にはいかない。
それでも、こぼれそうになる涙を、こみ上げてくる吐き気を、使命感だけでやり過ごすのはいよいよ限界だった。
「よぉ、おっさん。これなんだか分かるか?」
聞きなれた声に、ハッと意識が明瞭になった。
声のした方に振り返る。
居たのは、見慣れた銀糸。
私の背後に位置していた男に掲げた警察手帳。
「痴漢の現行犯だ。恨むんなら自分の行いを恨みな」
逃げだそうとした男の腕を捻り上げた。
誤解だ、人違いだ、冤罪だ、証拠はあるのか、男はわめき立てる。
「お前が痴漢を働いた相手も警官でね。泣き寝入りはしてくれないだろうよ。なぁ、ココ?」
「・・・・・・ハント・・・・・・先輩・・・・・・?」
「何呆けた顔してるんだ。降りるぞ」
「あ、はい!」
ようやく停車したバス。
先輩は人をかき分けて容疑者を引っ立てていった。
流れに逆らわぬよう、視線の先に揺れる銀糸を見失わぬよう、私も後を追った。
□■□
近くを巡察していた警官に事情を説明して男を引き渡す。
現行犯ということもあり、男も観念して容疑を認めた。
私も掻い摘んで状況報告は済ませたが、後日改めて参考証言を取るかもしれないと忠告されて今日のところは解放された。
容疑者がパトカーに詰め込まれたのを確認して、ようやく人心地が付いた。
「災難だったな?」
「ハント先輩・・・・・・」
「っ、なんて言うと思ったかこのバカっ!!」
「!?いたぁっ!!」
・・・・・・グーで殴られた。
「なんでさっさと声を上げないんだお前は!?バカか?バカなんだろう?バカなんだな!?」
「ひっ、ひどいです先輩!!」
「ひどいもクソもあるか!俺がたまたま乗り合わせていたからいいようなもの、あのままどうするつもりだったんだ!?こんな時に限ってバカ犬も連れてないし、ホント何考えているんだお前は!一人で捕まえるつもりだったのか!?何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「だ!だって、現行犯で上げなきゃ逮捕なんて出来ないし・・・・・・」
「それで良いようにされてたって言うのかこのバカっ!捕まえることよりも自分の身を守ることを考えろ!!」
「せんぱっ・・・・・・!」
強い力で引き寄せられ、先輩の胸にポスリと収まった。
「大丈夫か?」
「せん、ぱ・・・・・・ぃ・・・・・・」
「怖かったんだろ?悪かった。助けるのが遅くなっちまって・・・・・・」
「せ・・・・・・ぱぃ・・・・・・っ!」
生々しいまでの感触がリフレイン。
やりこめていた恐怖を抑圧するものがなくなったとたん、腰に力が入らなくなる。
「お!おい!?ココっ!?」
倒れかかった私を、先輩は危なっかしい手つきで支えてくれた。
辛うじて踏ん張ることは出来たけれど、とても大丈夫なんていえる状態ではないのは明白で。
ほとんどの体重を先輩に預ける形になった。
「・・・・・・あんま無茶すんな・・・・・・」
「・・・・・・ハイ・・・・・・」
「次同じようなことしたらゲンコツじゃすまさねーからな。覚悟しとけ」
「はい。・・・・・・先輩が居てくれて良かったです・・・・・・」
「・・・・・・おぅ」
グーで殴った頭を、先輩は優しく撫でてくれた。
□■□
「で?お前はバカ犬も連れないで一人で何してたんだ?」
「あ・・・・・・、と、ちょっと買い物に・・・・・・」
「しゃーねぇ。付き合ってやるよ。俺も非番だしな」
!?これってもしかしてデートのお誘い・・・・・・!!
でもでも、私が買いに行こうとしてたのは・・・・・・。
「一人で大丈夫ですよ!」
「うるせぇ。お前はボケっとしてるから一人にしておくと余計心配なんだよ。いいから行くぞ!」
「せ、せんぱーいっ!」
なんて言っていたのが20分前のこと。
「・・・・・・」
「えっと・・・・・・ここ、何ですけど・・・・・・」
「・・・・・・いやいやいやいやいやいや・・・・・・。マズいだろ、無理だろ、ていうか前にもこんなことあったぞ!?」
恥ずかしい!恥ずかしい!!
でも、ここまで来たんだから私だって頑張らなきゃ!
「ハント先輩はどんな下着が好みなんですかっ!?」
「・・・・・・いやいや、おかしいだろ!?ちったー冷静になれよ!?」
「私、先輩が好きな奴なら頑張って穿きますから!き・・・・・・キワドイ奴でも、先輩が好きっていうのなら頑張りますから!!」
「うっせぇぇっ!!勝手に好きなのはけよぉぉっ!!」
「あ、せんぱぁぁいぃ!待ってくださいよぉぉ!!どれが、どれが先輩の好みなんですかぁ!?せんぱぁぁぃ!!」
初めてのデートは、先輩との追いかけっこになりました。
ちょっと・・・・・・残念。
たまの休みに。
あ~アラココは書いてて楽しいなww
わっふるわっふる。
ココたんかわゆす!
なんか甘あま展開に耐えきれなくって最後にオチを入れてしまった。
自分の未熟っぷりがよく分かります。
※痴漢は犯罪です!絶対してはいけません!!※
2011/02/28
「せんっぱーい」
「どわっ!?近寄るなぁぁぁぁっ!!」
「何でですか?先輩!ハント先輩っ!待ってくださいよっ!」
「俺に構うなぁぁっ!!!!」
こんなやりとりも、最近では見慣れた光景の一つになっている。
周りの人も「あぁ、いつものことか」という目で二人を見ている。
私もその一人。
仕事の合間に訪れる軽食堂。
トクハンの仕事の休憩では軽食堂を利用することが多い。
コーヒーを飲むだけなら武装班に行ってもいいんだけど、別のお仕事をしている手前なんだか悪い気がしてしまうからだ。
それに、ここにはアラゴの数少ないお友達・セス君が居るからちょうどいいと思って。
アラゴは恥ずかしがっているのか、いつも渋い顔をしている。
別に恥ずかしがること無いのにね。
友達少ないから私に見られるのが恥ずかしいのかしら?
しばらくして、もう一人アラゴのお友達が現れた。
ハンドラーのココちゃん。
アラゴの警察学校時代の後輩、らしい。
とっても素直で、とっても可愛い子。
何より、アラゴのことを本当に大好きな子。
そんな子がアラゴの側に現れてくれたことを、私は素直に嬉しいことだと思った。
いつも人を避けてばかりの奴だけどこんなにも慕ってくれる子が側に居てくれることは、アラゴにとってとても大切なことだと思った。
なのに
「・・・・・・」
胸の中に、煮えきらない何かがある。
もやもやとして。
どうにもすっきりしない。
「どうしたんですか?婦警さん」
「・・・・・・セス君・・・・・・」
差し出された紙コップ。
いつもはブラックなのに、今日はミルク入りだ。
「お疲れみたいでしたので、ミルクと砂糖多めにしてみました。お嫌いでしたか?」
「ううん、ありがと」
一口啜る。
コーヒーの苦みと佐藤の甘みが口の中に広がって、もやもやとしたモノを少しだけ流してくれた。
「うん、美味しい」
「お口にあって良かったです」
にこりと微笑む。
セス君もいい子。
何でこんないい子がアラゴの友達なのかしら?と思うことがあるくらい。
「刑事さんは・・・・・・相変わらずみたいですね」
「うん。ココちゃんから逃げ回っているみたい・・・・・・」
「本当に仕方のない人ですね」
「・・・・・・」
「・・・・・・婦警さん?」
「え?あ、うん、そう・・・・・・だね・・・・・・」
いやだ。
あたしなんであんなことを・・・・・・
なんでアラゴの隣にいるのがあたしじゃないんだろう、なんて思ったの?
私は・・・・・・
私は・・・・・・・・・
「・・・・・・婦警さんは、刑事さんのことが好きなんですか?」
「なっ!?セス君!?」
「好きなんですか?」
「・・・・・・ち、違うわ。あいつはそんなんじゃない。私が好きだったのは、ユアンだもの・・・・・・」
もう、死んでしまったけれど。
だけど、好きだった気持ちは変わらない。
今だって、私が好きなのはユアンのまま。
「双子のお兄さんでしたっけ?」
「そう」
「けど、双子ならば重なる部分も多いでしょう?本当は、刑事さんに惹かれてるんじゃないですか?刑事さんの隣に立っているココさんが羨ましいんじゃないですか?」
「・・・・・・ユアンとアラゴは別人よ・・・・・・。全然似てない。それに・・・・・・」
「それに?」
「・・・・・・どうやったって、私とアラゴじゃ辛いことを思い出しちゃうから・・・・・・」
きっと私たち二人じゃ乗り越えられない。
素直に幸せを喜ぶことなんてきっと出来ない。
「だから、私じゃだめなの。あいつの横に立つのは、私じゃだめ。幸せになるためには、幸せに笑って見せるためには・・・・・・」
そうじゃなきゃ、ユアンに顔向けなんて出来ない・・・・・・。
「・・・・・・『Vim Patior』・・・・・・」
「え?」
「何でもありません。独り言です」
「そう・・・・・・?」
「さて、あんまり暴れられても困るから刑事さん捕まえてきますね」
「う・・・・・・うん・・・・・・」
セス君の背中を見送った。
会話を思い出して困惑する。
「やだ、私ったら子供あんな話するなんて・・・・・・」
本格的に疲れているのかもしれない。
今日は早めに帰って休もう。
□■□
「け~いじさ~ん」
「っ!?セスっ!!!」
「ひどいな~、傷ついちゃうな~。そんなあからさまに嫌な顔しなくてもいいのに」
軽食堂を飛び出した刑事さんが向かいそうな場所は何となく見当がついた。
人気の少ない、日当たりの悪い、そんな場所。
条件が揃っている場所などいくつもない。
足を向けた一番初めの場所に刑事さんは居た。
「ココさんなら先ほど仕事に戻りましたよ。えらくしょげてましたけど」
「・・・・・・仕方ねぇだろう・・・・・・あいつ飛びついてこようとするんだ。怪我させちまう・・・・・・」
「だからさっさと話してしまえばいいんですよ。その力のこと」
「ふざけろ。んなこと出来っかよ!」
「じゃぁ僕に下さいよ。そうしたら万事解決ですよ?」
「冗談じゃねぇ。おめぇにくれてやるもんなんて髪の毛一本ねぇよ」
「まったく、わがままな人ですねぇ」
あれもこれもと望むくせ、何一つ手に入れることのない哀れな人。
力を行使する代償を誰にも求められない、可哀想な人。
あんなにも、貴方を求めている人が居るというのに。
触れることすら叶わない。
こんなこと、僕の趣味じゃない。
ならば、きっとこれは『彼』の性分なのだろう。
『僕』は刑事さんの体を、抱きしめた。
「・・・・・・大変不本意ですが・・・・・・」
「それはこっちの台詞だっ!!何してるんだ馬鹿野郎っ!?」
「こうでもしないと、あの人は貴方の温度を知ることすら出来ないんです」
「はぁ?意味わかんねぇことほざくなっ!?離せっ!!」
「刑事さんには難しいかもしれませんね?」
「おまっ!?人のこと馬鹿にしやがってっ!!!!」
「馬鹿なのは事実でしょう?」
刑事さんがとうとう拳を振り挙げてきたので殴られる前に離れた。
まぁ、時間的にも十分だろう。
「でも、これだけは覚えておいて下さい。『僕』は抑圧と革命を司る者。抑圧に耐えるものにはいくらだって手を貸すんです」
そう、たとえば彼女のように。
たとえば、貴方のように。
「・・・・・・それくらい知ってらぁ。抑圧と革命のオルク様なんだろう?」
きっと、貴方はその意味を理解していない。
貴方自身が抑圧の中にいることを、自覚すらしていない。
「刑事さんのそういう馬鹿みたいなところ、『僕』は好きですよ?」
僕は、とても腹立たしいですけど・・・・・・。
「・・・・・・俺はお前みたいのは嫌いだよ」
吐き捨てるように、刑事さんは言った。
反吐が出そうなのはこちらだというのに。
あぁ、世の中理不尽だ。
こんなにも、こんなにも。
狭く息苦しい。
□■□
軽食堂に戻ると、婦警さんが頬を膨らませて頬杖を付いていた。
「あ、やっと戻ってきた。もう・・・・・・どこまで行ってたのよ・・・・・・」
「おぉ・・・・・・悪いな。ちょっとそこまで、な?」
「せっかくセス君が淹れてくれたコーヒー冷めちゃったわよ?」
「しょうがねぇだろ?ココの奴が追いかけてくるんだから・・・・・・」
「逃げなきゃいいだけの話じゃない」
「なんでお前がそんなにピリピリしてるんだよ・・・・・・」
「知らないっ!!」
とうとうそっぽを向いてしまった。
刑事さんも、その鈍さをいい加減どうにかしたらいいのに。
僕は新しいく淹れ直したコーヒーを運ぶ。
「まぁまぁ、婦警さんもそんなに怒らないで下さいよ」
刑事さんは何も言わずにずるずる音を立てて啜った。
嫌な顔をするくせに飲むんだからいまいちよくわからない。
ついで婦警さんにも2杯目を渡す。
コトリ、紙コップ特有の軽い音がした。
手放した温もりの代わりに、その体温を、抱く。
「あ、ありがとうセスく・・・・・・っ、セス君!?」
「んなぁぁっっ!?!?お前リオに何してやがるっ!!!!」
おもしろいくらいに動揺した声。
あぁ、滑稽だ。
「何って・・・・・・見ての通り抱擁です。イライラしている時は人肌の温もりがリラックス効果を上げるんですよ?」
「そうじゃねぇっ!!お前がリオに触んなっっ!!」
「別に、婦警さんは刑事さんの彼女ってわけでもなし、刑事さんに指図されるのは筋違いというものです。婦警さんが嫌がるなら話は別ですけどね」
「お前みたいなの!イヤに決まってるだろうがっ!!」
「だそうですけど?婦警さんはどうなんです?」
「わ、わ、わたしっ!?」
裏えった声。
上昇する体温。
例え嫌がられたとしても、離すつもりなどないと言えばどんな顔をするだろう。
・・・・・・こんな形でしたあの人を感じられない貴女は可哀想な人だ。
私という人形を介した温度しか感じられない貴女は不幸だ。
あぁ。
この世は圧迫にまみれている。
誰しも、何かに押さえつけられ。
挙げ句、自らを押さえつける。
彼も。
彼女も。
私も。
誰もが、圧迫に耐えている。
圧迫に、耐えている・・・・・・
Vim Patior
セスリオと私は豪語する。
が、本質だけをいえば愛の感情を抑圧されているリオを見て
オルク様がいてもたってもいられなくなったっちゅー話。
だから本当はオルリオなのかもしれない。
でもオルク様はセッ様と同一人物なのでセスリオってことで。
2011/02/12
「どわっ!?近寄るなぁぁぁぁっ!!」
「何でですか?先輩!ハント先輩っ!待ってくださいよっ!」
「俺に構うなぁぁっ!!!!」
こんなやりとりも、最近では見慣れた光景の一つになっている。
周りの人も「あぁ、いつものことか」という目で二人を見ている。
私もその一人。
仕事の合間に訪れる軽食堂。
トクハンの仕事の休憩では軽食堂を利用することが多い。
コーヒーを飲むだけなら武装班に行ってもいいんだけど、別のお仕事をしている手前なんだか悪い気がしてしまうからだ。
それに、ここにはアラゴの数少ないお友達・セス君が居るからちょうどいいと思って。
アラゴは恥ずかしがっているのか、いつも渋い顔をしている。
別に恥ずかしがること無いのにね。
友達少ないから私に見られるのが恥ずかしいのかしら?
しばらくして、もう一人アラゴのお友達が現れた。
ハンドラーのココちゃん。
アラゴの警察学校時代の後輩、らしい。
とっても素直で、とっても可愛い子。
何より、アラゴのことを本当に大好きな子。
そんな子がアラゴの側に現れてくれたことを、私は素直に嬉しいことだと思った。
いつも人を避けてばかりの奴だけどこんなにも慕ってくれる子が側に居てくれることは、アラゴにとってとても大切なことだと思った。
なのに
「・・・・・・」
胸の中に、煮えきらない何かがある。
もやもやとして。
どうにもすっきりしない。
「どうしたんですか?婦警さん」
「・・・・・・セス君・・・・・・」
差し出された紙コップ。
いつもはブラックなのに、今日はミルク入りだ。
「お疲れみたいでしたので、ミルクと砂糖多めにしてみました。お嫌いでしたか?」
「ううん、ありがと」
一口啜る。
コーヒーの苦みと佐藤の甘みが口の中に広がって、もやもやとしたモノを少しだけ流してくれた。
「うん、美味しい」
「お口にあって良かったです」
にこりと微笑む。
セス君もいい子。
何でこんないい子がアラゴの友達なのかしら?と思うことがあるくらい。
「刑事さんは・・・・・・相変わらずみたいですね」
「うん。ココちゃんから逃げ回っているみたい・・・・・・」
「本当に仕方のない人ですね」
「・・・・・・」
「・・・・・・婦警さん?」
「え?あ、うん、そう・・・・・・だね・・・・・・」
いやだ。
あたしなんであんなことを・・・・・・
なんでアラゴの隣にいるのがあたしじゃないんだろう、なんて思ったの?
私は・・・・・・
私は・・・・・・・・・
「・・・・・・婦警さんは、刑事さんのことが好きなんですか?」
「なっ!?セス君!?」
「好きなんですか?」
「・・・・・・ち、違うわ。あいつはそんなんじゃない。私が好きだったのは、ユアンだもの・・・・・・」
もう、死んでしまったけれど。
だけど、好きだった気持ちは変わらない。
今だって、私が好きなのはユアンのまま。
「双子のお兄さんでしたっけ?」
「そう」
「けど、双子ならば重なる部分も多いでしょう?本当は、刑事さんに惹かれてるんじゃないですか?刑事さんの隣に立っているココさんが羨ましいんじゃないですか?」
「・・・・・・ユアンとアラゴは別人よ・・・・・・。全然似てない。それに・・・・・・」
「それに?」
「・・・・・・どうやったって、私とアラゴじゃ辛いことを思い出しちゃうから・・・・・・」
きっと私たち二人じゃ乗り越えられない。
素直に幸せを喜ぶことなんてきっと出来ない。
「だから、私じゃだめなの。あいつの横に立つのは、私じゃだめ。幸せになるためには、幸せに笑って見せるためには・・・・・・」
そうじゃなきゃ、ユアンに顔向けなんて出来ない・・・・・・。
「・・・・・・『Vim Patior』・・・・・・」
「え?」
「何でもありません。独り言です」
「そう・・・・・・?」
「さて、あんまり暴れられても困るから刑事さん捕まえてきますね」
「う・・・・・・うん・・・・・・」
セス君の背中を見送った。
会話を思い出して困惑する。
「やだ、私ったら子供あんな話するなんて・・・・・・」
本格的に疲れているのかもしれない。
今日は早めに帰って休もう。
□■□
「け~いじさ~ん」
「っ!?セスっ!!!」
「ひどいな~、傷ついちゃうな~。そんなあからさまに嫌な顔しなくてもいいのに」
軽食堂を飛び出した刑事さんが向かいそうな場所は何となく見当がついた。
人気の少ない、日当たりの悪い、そんな場所。
条件が揃っている場所などいくつもない。
足を向けた一番初めの場所に刑事さんは居た。
「ココさんなら先ほど仕事に戻りましたよ。えらくしょげてましたけど」
「・・・・・・仕方ねぇだろう・・・・・・あいつ飛びついてこようとするんだ。怪我させちまう・・・・・・」
「だからさっさと話してしまえばいいんですよ。その力のこと」
「ふざけろ。んなこと出来っかよ!」
「じゃぁ僕に下さいよ。そうしたら万事解決ですよ?」
「冗談じゃねぇ。おめぇにくれてやるもんなんて髪の毛一本ねぇよ」
「まったく、わがままな人ですねぇ」
あれもこれもと望むくせ、何一つ手に入れることのない哀れな人。
力を行使する代償を誰にも求められない、可哀想な人。
あんなにも、貴方を求めている人が居るというのに。
触れることすら叶わない。
こんなこと、僕の趣味じゃない。
ならば、きっとこれは『彼』の性分なのだろう。
『僕』は刑事さんの体を、抱きしめた。
「・・・・・・大変不本意ですが・・・・・・」
「それはこっちの台詞だっ!!何してるんだ馬鹿野郎っ!?」
「こうでもしないと、あの人は貴方の温度を知ることすら出来ないんです」
「はぁ?意味わかんねぇことほざくなっ!?離せっ!!」
「刑事さんには難しいかもしれませんね?」
「おまっ!?人のこと馬鹿にしやがってっ!!!!」
「馬鹿なのは事実でしょう?」
刑事さんがとうとう拳を振り挙げてきたので殴られる前に離れた。
まぁ、時間的にも十分だろう。
「でも、これだけは覚えておいて下さい。『僕』は抑圧と革命を司る者。抑圧に耐えるものにはいくらだって手を貸すんです」
そう、たとえば彼女のように。
たとえば、貴方のように。
「・・・・・・それくらい知ってらぁ。抑圧と革命のオルク様なんだろう?」
きっと、貴方はその意味を理解していない。
貴方自身が抑圧の中にいることを、自覚すらしていない。
「刑事さんのそういう馬鹿みたいなところ、『僕』は好きですよ?」
僕は、とても腹立たしいですけど・・・・・・。
「・・・・・・俺はお前みたいのは嫌いだよ」
吐き捨てるように、刑事さんは言った。
反吐が出そうなのはこちらだというのに。
あぁ、世の中理不尽だ。
こんなにも、こんなにも。
狭く息苦しい。
□■□
軽食堂に戻ると、婦警さんが頬を膨らませて頬杖を付いていた。
「あ、やっと戻ってきた。もう・・・・・・どこまで行ってたのよ・・・・・・」
「おぉ・・・・・・悪いな。ちょっとそこまで、な?」
「せっかくセス君が淹れてくれたコーヒー冷めちゃったわよ?」
「しょうがねぇだろ?ココの奴が追いかけてくるんだから・・・・・・」
「逃げなきゃいいだけの話じゃない」
「なんでお前がそんなにピリピリしてるんだよ・・・・・・」
「知らないっ!!」
とうとうそっぽを向いてしまった。
刑事さんも、その鈍さをいい加減どうにかしたらいいのに。
僕は新しいく淹れ直したコーヒーを運ぶ。
「まぁまぁ、婦警さんもそんなに怒らないで下さいよ」
刑事さんは何も言わずにずるずる音を立てて啜った。
嫌な顔をするくせに飲むんだからいまいちよくわからない。
ついで婦警さんにも2杯目を渡す。
コトリ、紙コップ特有の軽い音がした。
手放した温もりの代わりに、その体温を、抱く。
「あ、ありがとうセスく・・・・・・っ、セス君!?」
「んなぁぁっっ!?!?お前リオに何してやがるっ!!!!」
おもしろいくらいに動揺した声。
あぁ、滑稽だ。
「何って・・・・・・見ての通り抱擁です。イライラしている時は人肌の温もりがリラックス効果を上げるんですよ?」
「そうじゃねぇっ!!お前がリオに触んなっっ!!」
「別に、婦警さんは刑事さんの彼女ってわけでもなし、刑事さんに指図されるのは筋違いというものです。婦警さんが嫌がるなら話は別ですけどね」
「お前みたいなの!イヤに決まってるだろうがっ!!」
「だそうですけど?婦警さんはどうなんです?」
「わ、わ、わたしっ!?」
裏えった声。
上昇する体温。
例え嫌がられたとしても、離すつもりなどないと言えばどんな顔をするだろう。
・・・・・・こんな形でしたあの人を感じられない貴女は可哀想な人だ。
私という人形を介した温度しか感じられない貴女は不幸だ。
あぁ。
この世は圧迫にまみれている。
誰しも、何かに押さえつけられ。
挙げ句、自らを押さえつける。
彼も。
彼女も。
私も。
誰もが、圧迫に耐えている。
圧迫に、耐えている・・・・・・
Vim Patior
セスリオと私は豪語する。
が、本質だけをいえば愛の感情を抑圧されているリオを見て
オルク様がいてもたってもいられなくなったっちゅー話。
だから本当はオルリオなのかもしれない。
でもオルク様はセッ様と同一人物なのでセスリオってことで。
2011/02/12
今日も一人で、パパが帰ってくるのを待つ。
いつもは待ちきれなくって寝てしまうけど、今日だけは起きていようって思った。
今日は私の誕生日だから。
ある、あめのよるに
「遅くなるかもしれないけど、ちゃんと帰ってくるからな」
「帰ってきたらちゃんと起こすから、一度寝てるんだぞ?」
パパはそう言って、まだ瞼を擦っている私の頬にキスをしてお仕事に出かけていった。
それはいつものこと。
そして。
パパが約束を守らないのも、いつものこと。
寝ている私を起こしてくれたことなんて一度もない。
リビングで寝てしまった私をそっと寝室に運んでくれて、朝は私よりも早くに起きて行ってしまうことだってあった。
それでも、パパが帰ってきたとわかるのはほんのわずかな痕跡があるから。
冷めて堅くなったかじりかけのトーストに、ぬるいミルク。
それと、
『行ってきます』
殴り書きをしたメモの切れ端。
わかってる。
お仕事が忙しいんだって。
早くに帰ってきた日だって、難しい顔をして新聞を読んでいる。
お土産だよと手渡された袋がいやに大きくて。
それは絵本と一緒に、たくさんのゴシップ誌が入っていたことだって知っている。
おうちに帰っても、パパはお仕事をしているんだって知っている。
パパがお仕事を誇りに思っていることを知っている。
ロンドンに住む沢山の人のために、毎日毎日へとへとになるまで頑張っているって知ってる。
お仕事をしているパパは好き。
疲れているのに「ただいま」って笑って頭を撫でてくれるパパが好き。
私も、いつかパパのようになりたいって思う。
疲れているパパのお手伝いが出来ればいいなって思う。
でもパパには言ってあげないの。
秘密にしておいて、いつかびっくりさせてあげるの。
私はパパの言葉を信じない。
パパが約束を破るのは、お仕事を頑張っているからだって知っているから。
わがままなんて言わずに、パパが帰ってきてくれるのをずっと待つの。
だから今日も私は、ソファーの上で毛布にくるまってパパの帰りを待つ。
テーブルの上のママの写真を眺めて、パパが帰ってくるのを一人で待つの。
こっくりこくっり、睡魔が襲ってきてもほっぺたを叩いて追い出してやるの。
その日は雨だった。
ここ最近はずっと雨が降っている。
しとしとしとしと。
テレビから流れるニュースは難しくてよくわからないけれど、テムズ川がいつもの倍以上の水かさになっているのを映し出していた。
最後にパパと遊びに行ったのはいつだろう。
思いだそうとしたけど、思い出せない。
睡魔が頭の中を侵略しようとしているからだ。
窓を叩く雨音が耳に心地よくて、次第に思考がうつらうつらしてくる。
眠っちゃだめ・・・・・・
今日は、私の誕生日なんだから・・・・・・
今日くらい、わがまま言ってもいいでしょう?
寝ないで朝まで遊んでもいいでしょう?
私が起きるまで一緒のベッドに寝ていて、ってお願いしてもいいでしょう?
本当は寂しいって、言ってもいいでしょう?
一人はイヤだって、言ってもいいでしょう?
今日だけ。
今日だけだから。
明日からはいい子にするから。
だから、お願い。
今日だけ・・・・・・許して・・・・・・?
□■□
──ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。
外はまだ暗い。
時計は、23時を過ぎた頃。
パパだ!
パパが帰ってきたに違いない。
大慌てで玄関に走った。
ちゃんと帰ってきてくれた!
私の誕生日に帰ってきてくれた!
後ちょっとしかないけれど、そんなことはどうでもいいの!
思いっきり抱きついて、わがままを言わせて?
「パパっ!」
私は靴も履かずに玄関を開けた。
靴を履くわずかな時間すらも惜しいと思った。
玄関の向こうは、相変わらずの雨だった。
冷たい空気が、私の頬を撫でた。
そこに立っていたのはパパじゃなかった。
「おじさん、だぁれ?」
聞いてから思い出した。
名前は知らないけど、パパの『あいぼう』の人だ。
写真を見せてもらったことがある。
なんだか疲れた顔をしている。
体中ぼろぼろだし、所々血で汚れていた。
不意に、私の頬が涙で濡れた。
理由はわからない。
わからないけれど、涙が止まらない。
「・・・・・・パパは・・・・・・?」
私は涙声でおじさんに問いかけた。
おじさんは顔をしかめた。
おじさんも泣き出しそうな顔をしていた。
「ルパートは・・・・・・」
聞かなくても、本当はわかっていた。
パパは
きっと・・・・・・
「君に届け物を頼まれたんだ・・・・・・」
差し出された、ピンク色のチューリップの花束。
両手でも抱えきれないくらいの、大きな花束。
かなり雨に打たれたのか、どれもくったりと元気を無くしていた。
「・・・・・・パパは、帰ってくるの?」
花束に顔を埋めて、私は聞いた。
聞かなければ、いけないと思った。
私の為にも、パパの為にも。
この、おじさんの為にも。
「君のパパは・・・・・・ルパートは・・・・・・」
わかってる。
パパは嘘つきだから。
「ルパートは、帰ってこないよ・・・・・・もう二度と・・・・・・」
「お仕事、なのよね?お仕事頑張ってるから、パパは帰ってこないのよね?」
「あぁ、そうだ。あいつは、仕事を頑張ったんだ・・・・・・」
おじさんが、声を押し殺して泣いていた。
『ちゃんと帰ってくるからな』
パパは嘘をついた。
パパは帰ってこない。
でもしょうがないの。
いつも、パパは嘘つきだったから。
私は、嘘つきのパパが好きだった。
パパが嘘をつくのは、お仕事を頑張っている時だけだから。
誰かのために頑張るパパが、大好きだった。
そんなパパのようになりたいって、思ってた。
わがままなんて言わないいい子でいようって、思ってた。
でも、今日だけ。
今日だけは、私の誕生日だから。
いいよね?
わがまま言っても、いいよね?
淋しいよ。
悲しいよ。
一人はイヤだよ。
ねぇ、パパ。
側にいて?
私の側に、ずっといて?
「パパ・・・・・・」
おじさんが私のことを抱きしめた。
ちょっとだけ、パパに似ていた。
「・・・・・・パ、パ・・・・・・ァ・・・・・・」
私は泣いた。
ロンドンに降る土砂降りの雨のように、泣いた。
私の4歳の誕生日。
その日、パパは死んだ。
ルパート回想回のココたんサイドのお話と思っていただければ。
年齢はわりと適当です。
回想時の写真と20年前という記述から
現在のココたんが24歳前後と推察しての年齢です。
あんまり深くは考えてないです。
あ~ココたんを幸せにしてぇ・・・・・・・・・
2011/02/06
いつもは待ちきれなくって寝てしまうけど、今日だけは起きていようって思った。
今日は私の誕生日だから。
ある、あめのよるに
「遅くなるかもしれないけど、ちゃんと帰ってくるからな」
「帰ってきたらちゃんと起こすから、一度寝てるんだぞ?」
パパはそう言って、まだ瞼を擦っている私の頬にキスをしてお仕事に出かけていった。
それはいつものこと。
そして。
パパが約束を守らないのも、いつものこと。
寝ている私を起こしてくれたことなんて一度もない。
リビングで寝てしまった私をそっと寝室に運んでくれて、朝は私よりも早くに起きて行ってしまうことだってあった。
それでも、パパが帰ってきたとわかるのはほんのわずかな痕跡があるから。
冷めて堅くなったかじりかけのトーストに、ぬるいミルク。
それと、
『行ってきます』
殴り書きをしたメモの切れ端。
わかってる。
お仕事が忙しいんだって。
早くに帰ってきた日だって、難しい顔をして新聞を読んでいる。
お土産だよと手渡された袋がいやに大きくて。
それは絵本と一緒に、たくさんのゴシップ誌が入っていたことだって知っている。
おうちに帰っても、パパはお仕事をしているんだって知っている。
パパがお仕事を誇りに思っていることを知っている。
ロンドンに住む沢山の人のために、毎日毎日へとへとになるまで頑張っているって知ってる。
お仕事をしているパパは好き。
疲れているのに「ただいま」って笑って頭を撫でてくれるパパが好き。
私も、いつかパパのようになりたいって思う。
疲れているパパのお手伝いが出来ればいいなって思う。
でもパパには言ってあげないの。
秘密にしておいて、いつかびっくりさせてあげるの。
私はパパの言葉を信じない。
パパが約束を破るのは、お仕事を頑張っているからだって知っているから。
わがままなんて言わずに、パパが帰ってきてくれるのをずっと待つの。
だから今日も私は、ソファーの上で毛布にくるまってパパの帰りを待つ。
テーブルの上のママの写真を眺めて、パパが帰ってくるのを一人で待つの。
こっくりこくっり、睡魔が襲ってきてもほっぺたを叩いて追い出してやるの。
その日は雨だった。
ここ最近はずっと雨が降っている。
しとしとしとしと。
テレビから流れるニュースは難しくてよくわからないけれど、テムズ川がいつもの倍以上の水かさになっているのを映し出していた。
最後にパパと遊びに行ったのはいつだろう。
思いだそうとしたけど、思い出せない。
睡魔が頭の中を侵略しようとしているからだ。
窓を叩く雨音が耳に心地よくて、次第に思考がうつらうつらしてくる。
眠っちゃだめ・・・・・・
今日は、私の誕生日なんだから・・・・・・
今日くらい、わがまま言ってもいいでしょう?
寝ないで朝まで遊んでもいいでしょう?
私が起きるまで一緒のベッドに寝ていて、ってお願いしてもいいでしょう?
本当は寂しいって、言ってもいいでしょう?
一人はイヤだって、言ってもいいでしょう?
今日だけ。
今日だけだから。
明日からはいい子にするから。
だから、お願い。
今日だけ・・・・・・許して・・・・・・?
□■□
──ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。
外はまだ暗い。
時計は、23時を過ぎた頃。
パパだ!
パパが帰ってきたに違いない。
大慌てで玄関に走った。
ちゃんと帰ってきてくれた!
私の誕生日に帰ってきてくれた!
後ちょっとしかないけれど、そんなことはどうでもいいの!
思いっきり抱きついて、わがままを言わせて?
「パパっ!」
私は靴も履かずに玄関を開けた。
靴を履くわずかな時間すらも惜しいと思った。
玄関の向こうは、相変わらずの雨だった。
冷たい空気が、私の頬を撫でた。
そこに立っていたのはパパじゃなかった。
「おじさん、だぁれ?」
聞いてから思い出した。
名前は知らないけど、パパの『あいぼう』の人だ。
写真を見せてもらったことがある。
なんだか疲れた顔をしている。
体中ぼろぼろだし、所々血で汚れていた。
不意に、私の頬が涙で濡れた。
理由はわからない。
わからないけれど、涙が止まらない。
「・・・・・・パパは・・・・・・?」
私は涙声でおじさんに問いかけた。
おじさんは顔をしかめた。
おじさんも泣き出しそうな顔をしていた。
「ルパートは・・・・・・」
聞かなくても、本当はわかっていた。
パパは
きっと・・・・・・
「君に届け物を頼まれたんだ・・・・・・」
差し出された、ピンク色のチューリップの花束。
両手でも抱えきれないくらいの、大きな花束。
かなり雨に打たれたのか、どれもくったりと元気を無くしていた。
「・・・・・・パパは、帰ってくるの?」
花束に顔を埋めて、私は聞いた。
聞かなければ、いけないと思った。
私の為にも、パパの為にも。
この、おじさんの為にも。
「君のパパは・・・・・・ルパートは・・・・・・」
わかってる。
パパは嘘つきだから。
「ルパートは、帰ってこないよ・・・・・・もう二度と・・・・・・」
「お仕事、なのよね?お仕事頑張ってるから、パパは帰ってこないのよね?」
「あぁ、そうだ。あいつは、仕事を頑張ったんだ・・・・・・」
おじさんが、声を押し殺して泣いていた。
『ちゃんと帰ってくるからな』
パパは嘘をついた。
パパは帰ってこない。
でもしょうがないの。
いつも、パパは嘘つきだったから。
私は、嘘つきのパパが好きだった。
パパが嘘をつくのは、お仕事を頑張っている時だけだから。
誰かのために頑張るパパが、大好きだった。
そんなパパのようになりたいって、思ってた。
わがままなんて言わないいい子でいようって、思ってた。
でも、今日だけ。
今日だけは、私の誕生日だから。
いいよね?
わがまま言っても、いいよね?
淋しいよ。
悲しいよ。
一人はイヤだよ。
ねぇ、パパ。
側にいて?
私の側に、ずっといて?
「パパ・・・・・・」
おじさんが私のことを抱きしめた。
ちょっとだけ、パパに似ていた。
「・・・・・・パ、パ・・・・・・ァ・・・・・・」
私は泣いた。
ロンドンに降る土砂降りの雨のように、泣いた。
私の4歳の誕生日。
その日、パパは死んだ。
ルパート回想回のココたんサイドのお話と思っていただければ。
年齢はわりと適当です。
回想時の写真と20年前という記述から
現在のココたんが24歳前後と推察しての年齢です。
あんまり深くは考えてないです。
あ~ココたんを幸せにしてぇ・・・・・・・・・
2011/02/06
「せんっぱーい!!!」
振り返るよりも早く、背中から襲われた。
きらきらしたまぶしいオーラに。
体中から溢れ出して、なお枯渇の様相を呈さない凄まじい勢いのオーラ。
それだけの量があの小さな体のどこに収まっているのか聞きたくなる。
「・・・・・・ココ・・・・・・お前なぁ・・・・・・」
思わず呻いた。
オーラなんて一般人の目には映らないものだから物質的エネルギーは生み出さない。
どうやっても身体へ影響を及ぼす程のものにはならない。
はずだ。
そのはずなんだ。
だが、そのオーラを視覚的に捕らえることのできる自分には、押しつぶさんばかりの、それも好意的な感情を多分に含有したオーラを一直線に向けられると気圧されて後ずさりしてしまう。
「どうかしましたか?」
好意を寄せられて、悪い気はしない。
実際、嬉しいものだと思う。
なのにこうして気圧されてしまうのは、純粋に俺の生き方の問題だ。
俺にいつもあったのは、劣等感。
優秀な兄を誇らしく思う一方での、自己への羞恥心。
いつだって俺たちは比べられてきた。
そして、いつだって俺は2番だった。
それが当たり前の評価。
俺自身、正当な評価だと思ってる。
つまり、慣れていないんだ。
俺を一番と評価する人間に。
そんな人間が居ることを、信じられないでいるんだ。
「・・・・・・ハント先輩?」
つい、ボーとしてしまった。
目と鼻の先にココの顔が迫っている。
「近ぇよ」
「はわっ!」
右手でココの顔を押し退けた。
触れたことに驚いたのか、変な声を上げた。
驚いたのもつかの間、頬を紅潮させ、顔を綻ばせる。
それに比例して薄桃の優しい色をしたオーラが流れ出た。
相変わらずきらきらして、俺の目には痛いくらい透き通ったオーラ。
真っ直ぐで、一途で、暖かい。
「お前は・・・・・・」
きっと、ココのオーラに当てられたんだ。
でなきゃ、俺がこんな言葉を口にするはずがない。
「・・・・・・何で、俺なんかが好きなんだ?」
言ってから、猛烈に恥ずかしくなった。
何を聞いてるんだ俺はっ!?
「いやっ!これはっ!そのっ!!別に、だなっ!?」
わたわたと慌てふためくが、弁明の言葉は何一つ出てきやしない。
「先輩が認めてくれたからです」
「・・・・・・へ?」
「何をやってもうまくいかない落ちこぼれの私を、先輩はバカにしなかった」
「・・・・・・」
落ちこぼれが落ちこぼれを慰めるだなんて滑稽な話だ。
「私、嬉しかったんです。先輩が『バカでもいい』って言ってくれて、ハンドラーしかないって思わせてくれて・・・・・・」
つまりは傷の舐め合いじゃないか。
「先輩がいたから、パパと同じ仕事を諦めなくていいってわかった。
どんなにバカにされたってコロと二人で頑張ろうって思えた」
私バカで単純だから、それで好きになっちゃったんです。
照れくさそうに、笑う。
「・・・・・・それから、先輩が時折淋しそうな顔をするのを知りました。人を避けている感じなのに淋しそうだなんて、何でだろうって・・・・・・」
それは、ブリューナクの力を恐れていたからだ。
得体の知れない呪いの力を持て余していたから、そうする以外の方法を思いつかなかった。
「だから、先輩に声を掛けてみようって思ったんです。バカな私でも、何か役に立てるんじゃないかって思ったから・・・・・・」
思えば、俺が完全に孤立しないで済んだのはココがいたからだ。
見えない壁を挟むような関わりしか持たなかったが、それでもゼロよりはよっぽどましだったと今なら思える。
「・・・・・・結局、迷惑にしかならなかったみたいですけど。先輩が私を支えてくれたみたいに、私が先輩を支えられた嬉しいなって思ってたんです。辛いとき側にコロがいてくれたみたいに、先輩の側にいたいって、そう思ったんです」
俺があの時お前に言ったのは、自分に言い聞かせたかったからだ。
バカだと罵られても、向いてないって自分でわかってしまっても、それしかないって思わなきゃ突き進めなかったから。
「・・・・・・お前って、ホントバカなんだな・・・・・・」
「え?」
「バカだよ。どうしょうもない大バカ」
でも、バカだから嘘なんてつかない。
こいつの言葉は、全部本心。
真っ直ぐに、2番の俺を見てくれる。
お前に返せるものなんて、何一つ持っちゃいないのに。
お前に触れる指一つ、持っちゃいないのに。
「でも・・・・・・」
後頭部に寄せた右手。
グイと力を込めれば、そのまま頭が移動する。
逆らうことなく、トン、と。
「バカな俺には、お前くらいバカな方がちょうどいいのかもしれねぇな」
胸の上で、お前の顔が赤くなるのを、感じた。
love reason ver.アラココ
アラココってみた。
煮え切らなくてすまぬ。
ココたんは俺の嫁なんだが
アラゴが幸せにしてくれるってんならその座を譲ってやらなくもないっていうか
まぁそんな感じなんだ。
二人を幸せにし隊、隊長に就任したい。
2011/02/04
振り返るよりも早く、背中から襲われた。
きらきらしたまぶしいオーラに。
体中から溢れ出して、なお枯渇の様相を呈さない凄まじい勢いのオーラ。
それだけの量があの小さな体のどこに収まっているのか聞きたくなる。
「・・・・・・ココ・・・・・・お前なぁ・・・・・・」
思わず呻いた。
オーラなんて一般人の目には映らないものだから物質的エネルギーは生み出さない。
どうやっても身体へ影響を及ぼす程のものにはならない。
はずだ。
そのはずなんだ。
だが、そのオーラを視覚的に捕らえることのできる自分には、押しつぶさんばかりの、それも好意的な感情を多分に含有したオーラを一直線に向けられると気圧されて後ずさりしてしまう。
「どうかしましたか?」
好意を寄せられて、悪い気はしない。
実際、嬉しいものだと思う。
なのにこうして気圧されてしまうのは、純粋に俺の生き方の問題だ。
俺にいつもあったのは、劣等感。
優秀な兄を誇らしく思う一方での、自己への羞恥心。
いつだって俺たちは比べられてきた。
そして、いつだって俺は2番だった。
それが当たり前の評価。
俺自身、正当な評価だと思ってる。
つまり、慣れていないんだ。
俺を一番と評価する人間に。
そんな人間が居ることを、信じられないでいるんだ。
「・・・・・・ハント先輩?」
つい、ボーとしてしまった。
目と鼻の先にココの顔が迫っている。
「近ぇよ」
「はわっ!」
右手でココの顔を押し退けた。
触れたことに驚いたのか、変な声を上げた。
驚いたのもつかの間、頬を紅潮させ、顔を綻ばせる。
それに比例して薄桃の優しい色をしたオーラが流れ出た。
相変わらずきらきらして、俺の目には痛いくらい透き通ったオーラ。
真っ直ぐで、一途で、暖かい。
「お前は・・・・・・」
きっと、ココのオーラに当てられたんだ。
でなきゃ、俺がこんな言葉を口にするはずがない。
「・・・・・・何で、俺なんかが好きなんだ?」
言ってから、猛烈に恥ずかしくなった。
何を聞いてるんだ俺はっ!?
「いやっ!これはっ!そのっ!!別に、だなっ!?」
わたわたと慌てふためくが、弁明の言葉は何一つ出てきやしない。
「先輩が認めてくれたからです」
「・・・・・・へ?」
「何をやってもうまくいかない落ちこぼれの私を、先輩はバカにしなかった」
「・・・・・・」
落ちこぼれが落ちこぼれを慰めるだなんて滑稽な話だ。
「私、嬉しかったんです。先輩が『バカでもいい』って言ってくれて、ハンドラーしかないって思わせてくれて・・・・・・」
つまりは傷の舐め合いじゃないか。
「先輩がいたから、パパと同じ仕事を諦めなくていいってわかった。
どんなにバカにされたってコロと二人で頑張ろうって思えた」
私バカで単純だから、それで好きになっちゃったんです。
照れくさそうに、笑う。
「・・・・・・それから、先輩が時折淋しそうな顔をするのを知りました。人を避けている感じなのに淋しそうだなんて、何でだろうって・・・・・・」
それは、ブリューナクの力を恐れていたからだ。
得体の知れない呪いの力を持て余していたから、そうする以外の方法を思いつかなかった。
「だから、先輩に声を掛けてみようって思ったんです。バカな私でも、何か役に立てるんじゃないかって思ったから・・・・・・」
思えば、俺が完全に孤立しないで済んだのはココがいたからだ。
見えない壁を挟むような関わりしか持たなかったが、それでもゼロよりはよっぽどましだったと今なら思える。
「・・・・・・結局、迷惑にしかならなかったみたいですけど。先輩が私を支えてくれたみたいに、私が先輩を支えられた嬉しいなって思ってたんです。辛いとき側にコロがいてくれたみたいに、先輩の側にいたいって、そう思ったんです」
俺があの時お前に言ったのは、自分に言い聞かせたかったからだ。
バカだと罵られても、向いてないって自分でわかってしまっても、それしかないって思わなきゃ突き進めなかったから。
「・・・・・・お前って、ホントバカなんだな・・・・・・」
「え?」
「バカだよ。どうしょうもない大バカ」
でも、バカだから嘘なんてつかない。
こいつの言葉は、全部本心。
真っ直ぐに、2番の俺を見てくれる。
お前に返せるものなんて、何一つ持っちゃいないのに。
お前に触れる指一つ、持っちゃいないのに。
「でも・・・・・・」
後頭部に寄せた右手。
グイと力を込めれば、そのまま頭が移動する。
逆らうことなく、トン、と。
「バカな俺には、お前くらいバカな方がちょうどいいのかもしれねぇな」
胸の上で、お前の顔が赤くなるのを、感じた。
love reason ver.アラココ
アラココってみた。
煮え切らなくてすまぬ。
ココたんは俺の嫁なんだが
アラゴが幸せにしてくれるってんならその座を譲ってやらなくもないっていうか
まぁそんな感じなんだ。
二人を幸せにし隊、隊長に就任したい。
2011/02/04