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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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二人肩を並べて街を歩く。
いや、僕の方が半歩位後ろを歩いていた。
あんたの視界に入るか入らないかのぎりぎりのところを着いて歩く。

「なにやら今日は人が多いな」
「そうだね」

「何かあるのかな?」
「そうかもしれんな」

「我輩たちには関係のないことだがな」
「確かに」

ポツリポツリとした会話。
どれも長くは続かない。
一言言ってはニ三で終わる。
たまに、クレプスリーがちらりとこちらを振り返る。
そして何を言うでもなくまた視線を前に戻して足を進める。
その繰り返しだった。

「・・・・・何・・・・?」
「なんでもない」
「じゃあなんで何回も振り返るんだよ」
「なんでもないと言っているだろうが」
「なんでもないなら振り返るなよ」
「そうはいかん」
「なんで?」
「・・・・・・・なんでもだ」

やっぱり押し黙ってクレプスリーは足を進めた。
問い詰めようとも思ったけれど、それに何の意味があるのかが見出せずに閉口する。

すっかり日の暮れた街を街灯が照らす。
それなりに大きい街なので夜といえども昼間と同じくらい煌々と光輝く。
ふと視線を横に向けると、ショーウインドウにへばりついて玩具をねだる親子の姿を見た。
なんとも微笑ましい、僕にもあった当たり前の光景。
玩具をねだる子供と。
それを置いて帰ろうとする大人と。
諦め切れない思いと、置いていかれる焦燥感に板ばさみになってとうとう泣き出してしまう子供と。
置いて足を進める割に、やっぱり放って置くこともできなくてちらちらと肩越しに様子を伺う大人と。
どこにでもある、当たり前の光景。

その当たり前の光景に僕は思わず釘付けになった。
歩いていたはずの足はいつの間にか止まる。
あの子供はどうするだろうか?
あの大人はどうするだろうか?
玩具をあきらめて大人のもとに駆け込むだろうか。
置いていくことをあきらめて子供のもとに舞い戻るだろうか。
僕ならどうするだろう?
僕ならどうしただろう?
彼なら―――

「ダレン」

少し先から名前を呼ばれた。
声も無くそちらに向き直る。

「・・・・・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「・・・・・・ううん。なんでもない」

小走りに彼のところまで駆けた。
クレプスリーは不思議そうに首を傾げていたが「ちょっと昔を思い出しただけ」と告げると「そうか」と短く返した。
それ以上は何も聞いてはこなかった。
代わりにちらちらとこちらを伺っただけだった。
やっぱり会話は長くは続かない。
長いのか短いのかもわからない沈黙の中、僕たちは歩みを進める。

「クレプスリー」

小さな声で彼を呼ぶ。

「なんだ?」

短く彼が返す。

「手、繋ごう」
「は?」

差し出した手に返ってきたのは、間抜けな声。

「こう人が多いとあんたが迷子になるかもしれないからね」
「勝手にはぐれるのはお前の得意技だろうが」
「あんたが勝手にどこかに行っちゃうんだよ」

少し後ろに並べていた足を気持ち早め、勝手に手を拝借。

「ん。これで大丈夫」
「迷子にならなくて済むな?ダレン君や」
「あんたが、ね」
「減らず口を叩きおって」
「ま、心配事が一つは減ったでしょう?」
「・・・・・・まぁ、な」

あんたは僕を置いていったりなんかしない。
絶対、絶対に。
そして僕も、あんたに置いていかれたりしない。
絶対、絶対に。

握った手にぎゅっと力をこめると、同じだけの力できゅっと握り返された。



手と手
(繋いだのは、心だったと信じてる)

クレプスリーは心配性。
ダレンが視界に入らなくなるととたんに心配になって振り返ってしまいます。
だったら初めっから手を繋いで歩けばよかったのにね!
まぁダレンはそういうことにきちんと気がつける子で、行動に移せる子。
赤師弟親子のバランスはきっとこんな感じで成り立っている。はず。
 

拍手[1回]

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期待はしていない。
きっとあの人はそういうことにはこだわらない人だから。
日にちとしては覚えていてくれていると思っている。
以前に「こんなにもわかりやすい日を忘れるものか」と言ったのは何を隠そう彼自身だ。
だから知ってはいるのだ。
7月7日が私、棚旗奈々の誕生日であることは。

ただ問題なのは、彼が今日と言う日付に気づいているかどうか。
一度調べ物に没頭してしまえば寸暇を惜しんで蔵書を読み漁る。
かろうじて合間を縫って仕事には行くのだろうけれど(そうでなくては困る)、それ以外は全てがおざなりになっている様を私は何度も目撃している。
電話をどれだけ鳴らしたところで、あちらは完全に無視を決め込んでしまうから連絡も取れない。
携帯電話の方に掛けてもいいのだが、それではまるで催促しているみたいで気が引けた。
別段用件があるわけでもないから余計だ。
私たちの関係は、多分友人以上恋人未満、というもの。
いや、用件もなく連絡を取ることが憚られるのであれば、それは友人未満と言った方が正しいのかもしれない。
つまりはその程度の関係でしかない。

「まっったく!タタルさんたらなんて薄情なの!?」

胸中でこっそりとあきらめの結論を搾り出すと、代わりに妹の沙織が激昂していた。

「お姉ちゃんなんて毎年毎年タタルさんの誕生日にはプレゼント付きで連絡入れているのに、電話の一本も無いとはどういう了見よ!?」
「沙織。タタルさんだって何か用事があるのかもしれないし・・・・・・・」
「絶対無い!」

きっぱりはっきり断言した。

「あったとしても、お姉ちゃんの誕生日よりも優先順位が高いはずが無い!」
「そんな・・・・・」

手前勝手すぎる言い分だ。
タタルさんにとって私はそんなに優先順位の高い人間ではないことくらい自覚している。
私の誕生日なんかよりも、タタルさんの食指をそそる歴史の謎は五万とある。
だからきっと連絡がないだろうことは容易に想像がついた。
だから期待はしない。
次に逢った時にでも「遅れてすまないが・・・・・」なんて言いながらカル・デ・サックで奢ると言ってくれるのだろう。
もっとも、その『次の機会』というものが数日先なのか数ヶ月先なのかは誰にもわからないが。

「こうやって沙織が腕を揮ってくれたのよ?それで十分よ」
「お姉ちゃんは欲が無さすぎ!」
「・・・・そうかしら・・・・?」
「だって!・・・・・・誕生日にこんなこと言うのもなんだけど、お姉ちゃんだってもう結婚しててもいい年なんだよ?それを妹と二人で慎まし家でく誕生日を過ごしていることに危機感を覚えるべきだよ!」
「それは・・・・・・」
「タタルさんに積極性を求めるなんて馬鹿げているってわかっているんだから、お姉ちゃんからガンガン攻めていかないと行き遅れちゃうよ!」
「そこまで言わなくても・・・・・・」

タタルさんに失礼じゃない、と続けようとしたがまったくもって正論だったため言い返すことも出来ない。

「大体っ!」

―――タ~タタタン タタタタッタ・・・・・・

控えめな着信メロディとともに携帯電話の背面ディスプレイが光った。

「タタルさん!?」

まるで自分に掛かってきたかのように、沙織はディスプレイに表示された名前に目を走らせた。
なんとなく気恥ずかしくて携帯電話を手に席を立つ。
すぐには鳴り止まない電子音がメール着信ではないことを知らせている。
隣の部屋にあわてて移り、ようやく発信相手を確認。

『桑原 崇』

ドキリと少しだけ胸が跳ねたのを自覚する。
恐る恐る通話ボタンを押し、耳に押し当てると聞きなれた声が届いた。

『よう』

自分から掛けて着たのに、相変わらずそっけない挨拶だ。

「こんばんは、タタルさん。どうしたんですか?」
『どうしたも何も、誕生日だろう?君の』

覚えていた!
知っていた!
気づいていた!
期待しない、だなんて言い聞かせていたくせに胸の中でははっきりと高鳴りを見せる。

「覚えていらしたんですか?」
『覚えるも何も、こんなわかりやすい日を忘れる方が難しいだろう』
「そうでしたね」
『もっとも、今日が7月7日だと気がついたのは今さっきだったのだが』

やっぱり、と心の中で笑う。

『何とか間に合ってよかった』
「そんな、気にしなくても良かったのに。そろそろ誕生日を喜ぶ年齢でもないですし」
『そういうわけにも行かない。なんせこういうことを忘れると後でねちねちと五月蝿いやつらが多いしな』
「ふふふ」

実にタタルさんらしい反応だ。

『それにこんな機会を逃すのはもったいないからな」
「なんのことですか・・・・?」
『こちらのことだ。気にしないでくれ』
「はぁ・・・・・?」
『それよりも、今から出てこれるか?最近見つけた良いバーがあるんだ』
「あ・・・・・・実は沙織がもう「こんなこともあろうかと料理は全部時間がたっても大丈夫なものを作ったのでどうぞどうぞお二人さんで出かけちゃってくださーい!」

明らかにドアの外で立ち聞きをしていたとわかるタイミングで沙織が声を上げた。
怒るよりもその用意の周到さに溜め息が出てしまう。

『沙織君がどうかしたのか?』
「・・・・いえ、是非とも行ってこいって」
『そうか。ではタクシーで拾うから少し待っててくれ。30分ほどで君のマンションに着く」
「わかりました。それではまた」
『あぁ!そうだ奈々君』
「はい?」
『誕生日おめでとう。危うく言いそびれるところだった』

相も変わらない、そっけない言葉。
それでも。
どうしてだろう。

誰に言われるよりも胸に響いた。


7月7日の逢瀬

奈々ちゃんおたおめ!
今年こそタタルさんと進展がありますように!!
高田先生どうかよろしくお願いします!!!!!!
 

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二人ぼっち


慣れた調子で細く狭い路地を駆け抜ける。
小さな子供がぎりぎり通り抜けられるくらいの狭い狭い道。
グネグネと折れ曲がる路地の正体は区画整理の際に生じたブラックエリア。
そこは誰のものでもない。
強いて言うならば、そこは彼女のものだった。
通り抜けることを許された小さな体躯を持つ、彼女のものだった。

学校が終わると彼女はいつもそこを走り抜けた。
何度も何度も折れ曲がった道の先には、ぽっかりと口を開けた広場がある。
ブラックエリアの主たるもので、そこに至るまでの道が確保できないが為に売り物にならなくなった無用の土地だ。
広さにして5m四方といったところだろうか。
そこは誰もいない、彼女だけの場所。
彼女がいることを許された場所だ。

人影などありはしない。
たまに迷い込んだ猫がいるくらいなものだ。
それでも日当たりもよくないこの場所に長居するのはよほど偏屈な猫だけだった。

今日も同じだ。
毎日が同じ繰り返し。
そこには彼女一人だけがいる。
彼女だけの世界。
一人きりの世界。
ずっとそんな毎日が続いていくと思っていた。

狭い道を駆け抜けて、ようやく広場に出たところで少女は、はっ!と足を止めた。

「・・・・・・・・誰?」
「・・・・・・へぇ、こんなところに来る奴がいるんだ」

見知らぬ少年だった。
年の頃は同じくらいか、少し年上といったところだろうか。
少しだけ大人びた、達観した空気を纏うているのを少女は敏感に感じ取った。
それは彼女が他眼に優れているからではない。
同種の匂いを嗅ぎ取ったに過ぎなかった。

「あなたも、一人ぼっちなの・・・・・?」
「・・・・・群れるのが嫌いなだけだよ・・・・・」

ほぅ・・・、と感嘆なのか溜め息なのか判断に迷う息遣いの後、少女は破顔した。

「じゃぁ私たち、似たもの同士ですね!」

少女はその時、世界が広がったのを感じた。
世界に私は一人きりではなかった。

一人きりの世界が無数に存在するだけだったのだ。

それでも、この私が存在することを許された『世界』には私と彼の二人きりだけが存在していた。




子ヒバ子ピンと思って欲しい。
ピンは中国からの転校生で言葉の壁とかがあって学校でいじめられてたんだよきっと。
それで放課後は一人誰も来ない広場で過ごしていたところ
同じ臭いのするヒバリと遭遇して
自分だけが一人でいるわけではないということを悟る、というお話。
むしろ皆一人ぼっちの単独世界に生きていることを悟る、というお話。
なんともわかりにくい。

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自分の持ち物には名前を書いておけ、というのは果たして万国共通の概念なのだろうか?
少なくとも僕にとってそれは常識だ。
半バンパイアになってからだってそれは変わらない。
新しく買ったものには小さく名前を刻んでいく。

「なんだ、わざわざ新しいのを買ってやったというのに、いきなり落書きしおって」

それを見ていたクレプスリーは落胆の声を上げた。
クレプスリーの中には名前を書くという習慣はどうにも根付いていないようだ。

「落書きじゃないよ」
「嘘をつけ。このたわけが」
「ほんとだって。名前を書いてるだけだよ」
「名前?」
「そ」

マジックを片手に、その手は止めない。
不思議そうに手元を覗き込んでくるクレプスリーだったが、眉間に大きく皺を寄せて首をひねるばかりだ。

「やっぱり落書きではないか」
「文字が読めないあんたにとやかく言われたくないね」
「何だと!?」

確かに僕は字が上手い方じゃない。
それに紙に刻むのと違って書く場所が必ずしも平面ではないから余計だ。
それでも文字が読めないクレプスリーに『落書き』と評されるのはどうにも解せない。
読めないくせに何でそれを落書きだって思うんだよ。
胸の中に湧き上がった苛立ちの所為で不必要にクレプスリーをからかってやりたい衝動に駆られた。
手に持ったマジックをクレプスリーの方に向けてニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてやった。

「何ならクレプスリーの分も書いてあげようか?あんた読み書きできないもんね」
「余計なお世話だ!名前くらい書ける!」
「名前だけは、の間違いだろ?」
「うるさいっ!」
「ほらほら、遠慮しなくって良いから~」
「しとらんっ!名前なんぞ書かなくて良い!」
「なんで?無くなった時に誰かに取られたら大変じゃない。やっぱり自分のものにはきちんと名前を書いておかないとね」

嫌がるクレプスリーにのしかかり、取り押さえ、マジックを走らせる。

「こらっ!?お前どこに名前を書く気だっっ!!」
「だから、自分の持ち物だって。ほらほら動くと名前が書けないんだけらじっとしててよ」
「するか!いい加減にしろ!」

僕の首根っこを掴んで無理やり引き剥がし、ぽいっと投げ捨てクレプスリーはすぐさま鏡の前に飛んでいった。
テーブルに備えられたティッシュでごしごしと擦って落とそうと試みているが、残念ながらこのマジックは油性だ。
そんなに簡単に落ちやしない。

「どうしてくれるんだ!このバカが!!」
「だって簡単に落ちたら意味が無いじゃない」
「くそっ!」

着ていたコートをばさりと脱ぎ捨てた。

「どこ行くの?」
「シャワー浴びて落としてくる!!」
「落ちちゃったらまた書いてあげるからね」
「書くなっ!」

シャツを僕の鼻っ面めがけて投げつける。
くそっ!ともう一度悪態を吐くと、クレプスリーはシャワールームに消えていった。

その一瞬、僕が首筋に刻んだ 『Darrn Shan』 の文字がちらりと視界に映り、僕は満足感に満ち満ちた。


しるし
(コレは僕のだから、皆手を出しちゃだめだよ?)



なんか赤師弟というよりもダレ→クレって感じ?
いやいや、ダレンがファザコンなんだよきっと。
クレプスリーは皆のアイドル。
取られたくないので私が先に名前を書いてやる・・・・・・っ!かきかき。
 

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光あれ


この日のために用意した特別なドレスに身を包み、鏡の前に鎮座する。
黒髪に良く映える白のウエディングドレスは光に当たるとキラキラと輝き、一層黒に良く映えた。
入念にお手入れをされた肌に紅を差せば、ぐっと引き締まりを見せる。
鏡を覗き込む。
私の為にあつらえてもらった特注なだけあって身体のラインにぴったりと合っている。
刺繍の一つ一つは友人が手縫いで施してくれたもの。
どれもこれも、全て私の為に用意されたものだ。

なのに

「・・・・・・ひっどい顔・・・・・・」

どんなに召し物で引き立てようとしても。
どんなにお手入れを施しても。
私の心には光なんて射してはいない。

輝きを持たない目の前では、どんな代物だってゴミ同然。

なんてもったいないことだろう。
用意してくれた皆には申し訳ないと思う。
でも、私は『嬉しい』だなんて一言だって言わなかった。
そんな嘘を、吐きたくなかった。
酷いことをしたと思う。
そしてこれからも酷いことをすると思う。
私はひどい人間だ。
最低だ。
そんなことわかってる。
そんなことはわかっているの。
でも、他に選択肢なんてなかった。
どうすることも私には出来なかった。

こうして望まぬ結婚をして、傍目には人並みの幸せというものを得るのだろう。
今となっては逆らうつもりもない。
生まれた時から、そういう風に決まっていた。
それにちょっとしたイレギュラーが入り込んで惑わされただけ。
私は、こういう生き方を教え込まれた人種だ。
1万の民を従える、国の時期当主として当然の選択だ。
だからこれでいい。

これでいいはずなんだ。

無理やりにでも自分に言い聞かせる。
そうでもしなければ、心が壊れてしまいそうになる。

「気の・・・・・迷いだったのよ・・・・・」

あんな男に心奪われるなんて。
あんな、罪人に・・・・・。

「随分うかない顔してるんだね。結婚前だって言うのに」
「っ!誰です!?」
「通りすがりの脱獄犯さ」
「・・・・貴方は・・・・・」

私の心を奪った・・・・・・

「何で貴方がここにっ!」

貴方は今、城の地下牢に繋がれていたはずなのにどうして。

「ちょっとした取引をしたのさ」
「誰と?」
「君を良く知る人さ」
「私を?誰ですかそれは」
「そんなことより、僕これから逃げ出そうと思ってるんだけど、君も一緒に来る?」
「何で私が貴方と。私には守るべき民がいて、これから結婚だって控えているんです。貴方の相手をしている時間なんて」

「ならどうしてそんなうかない顔をしてるわけ?」

これから結婚をするって人間が、まるで戦場にでも出撃するみたいに身体を強張らせて。
何かから逃げるように心を閉ざして。

「まるで不幸のどん底にいるみたいに見えるんだけど?」
「・・・それ・・・・は・・・・・」

否定できない。
全て事実だ。

「僕なら君を連れ出して上げられる」

だけれども、私には国民を守る義務があって

「君を縛るものから解放して上げられる」

私を愛してくれる人がいて
ずっと、そんな人たちに囲まれて暮らしていくのだと思っていた。
でも、私は?

「どうする?」

私が愛しているのは?
私が、愛してしまったのは?
それは―――

「・・・・・・・・・・行きます。連れて行ってください」
「いい返事だ」
「行くんだね」
「っ!?・・・・・・兄さん・・・・・」

突如部屋に舞い込んだ第三者の声。
兄、綱吉だ。

「兄さん・・・ごめんなさい・・・・・」

この結婚に際し、一番尽力を尽くしてくれたのは間違いなく兄だった。
今からしようとしている行為はそれを足蹴にするも同然の行為。
どうしたところで顔向けなんて出来やしない。

「顔上げて?イーピン」
「っ・・・・・・・・・」

正視できないまま顔を上げる。
覗き込む視線が痛い。

「幸せに、なるんだよ?」
「にい・・・・・さん・・・・?」
「イーピン、今良い目をしてる。やっとそのドレスに似合う顔になった」

やっぱり俺の見立てに狂いはなかったみたいだね。
良く似合ってるよ。

中傷も侮蔑もなく、綱吉は素直な賛辞を口にした。
今これから国を逃げ出そうとしている人間に対してとは思えない物腰の柔らかさで。

「でもごめん。それすぐに脱いでくれる?」
「え・・?あの・・・?」
「流石にウエディングドレスで逃亡なんて目立ちすぎるからね。すぐに彼女とドレスを交換して」
「交換・・・?」

示された方に目をやれば、良く顔の知った女性が立っていた。
兄が懇意にしている人だ。
もっとも彼女の国との対立問題を理由に両親は二人の交際を認めようとはしていなかったけれど。

「まさかっ!兄さん!?」

兄が何をしようとしているのか、瞬間的に気がついた。

「そ。結婚パーティーの中止のことは気にしないで良いよ。俺たちがちゃんと引き継ぐから」

だから心配しないで?
皆で幸せになろう?
大好きな人と、大切な人と。
自分を殺さなくて良い人と。
幸せになれる道を歩いていこう?

「妹をお願いします」
「・・・・言われなくても」
「兄さん・・・・・・」
「イーピン。元気でね」
「兄さんもどうか・・・・・お元気で」

どうか、どうか。
全ての民に幸多からんことを・・・・・・。


雰囲気西洋の王国パラレル。
お題の『住めば都』の続編というか、時間軸的には前になるお話。
ヒバリが脱獄犯でイーピンはその国のお姫様。
兄がいるのにピンが時期当主なのは多分女王国家だから。

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