~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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トントン。
部屋の扉がノックされた。
僕は聞こえないふりをして布団を頭から被った。
ハンモックの上で布団を被ったって音など遮れるものではないのだけれど、気分の問題だ。
それに、部屋には鍵が付いていない。
どうでもいい用なら諦めて帰るだろうし、必要なら頼んでいなくても勝手に入ってくる。
バンパイア・マウンテンはそういう場所だ。
ノックがあるだけマシだと思わなくちゃいけない。
「・・・・・・ダリウス、いるなら返事くらいしたらどうです?」
(え?この声は・・・・・・)
自分を呼ぶ声がした。
けれど、ここでは聞くことのない声に一瞬当惑した。
居るはずのない人の声。
被っていた布団を跳ね上げた。
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「久しぶりですね。ダリウス」
そこに立っていたのは、頭に思い描いた通りの人物。
ここに居るはずのない人。
「なんで!?」
「和平協議ですよ。いい加減争うのも馬鹿らしくなったとやっと多くの仲間が気が付いたんです。・・・・・・そのために払った代償は、大きかったですが・・・・・・」
「・・・・・・」
ガネンの憂いを含んだ目。
ガネンはいつもそんな顔をしていた。
死に逝く仲間を、辛そうに見送っていた。
別れの言葉一つ掛けられず、計画の一こまととして仲間を切り捨てていくことに、心を痛めていた。
無心を装い、その実誰よりも心を迷わせていた。
「・・・・・・みんなは?」
仲間だと思っていた人たち。
バンパニーズの人たち。
彼らがどうなったのか、ここでは知る術がない。
バンパニーズの名前を出すことすらはばかられた。
父親、バンパニーズ大王であるスティーブ・レナードともなれば言わずもがな、だ。
バンチャからパパもダレンおじさんも死んでしまったことは聞いたが、それ以上は教えてくれなかった。
傷ある者の戦が続いているのか終わったのか、それすら僕は知らないままだった。
そこまで気を回している余裕がなかったとも言える。
余計なことを考えないように、バネズが巧みに訓練を組んでいてくれたのだろう。
今の今までみんなのことを思い出さなかったことに自分自身驚いた。
「・・・・・・多くは死にました。最後の戦いでの犠牲は特に多く、未だに把握し切れていません。現在残っている者も先の戦いで負傷し、前線から引いていた者ばかりです」
「そう・・・・・・」
つまり、僕が最後に見かけた連中の大半は今はもうこの世の人では無くなってしまっているのか。
当然だと思う気持ちと、寂しい気持ちが心の中でごちゃ混ぜになった。
バンパニーズを殺したのは、バンパイアだ。
けど、バンパイアだって沢山バンパニーズに殺された。
どちらを責めることはできない。
どちらも加害者で、どちらも被害者なんだ。
これ以上責任のなすり付けをしても仕方がないと双方が学んだからやっと和平協議が始まるんだ。
僕が手前勝手な感情を吐露するべきではない。
「・・・・・・私は、この戦の主犯は全てスティーブにあると思っていました」
「・・・・・・ガネン?」
「あの男はやりすぎでした。誇るべき我らの精神を汚しすぎた」
解っていても逆らえなかった。
大王はバンパニーズに対して絶対の影響力を持つ。
間違いだと認識していながら行動せざるを得なかったガネン。
その言葉からは憎しみすら感じ取れた。
「たった二人を殺そうとするあまり、多くを巻き込み過ぎた。バンパイアもバンパニーズも、人間をも殺しすぎた。あなたのような、本来無垢であるべき人間をこのような世界に自分の妄執の為に放り込んだ。死んで当然の結末だったと思います」
「・・・・・・」
そんなことない!と主張したかった。
悪いことをしたかもしれないけど、それでも死んで当然だなんてそんなの酷すぎる、そう言い返したかった。
なのに、言葉が出ない。
頭に、醜くゆがんだパパに顔がよぎった。
何も言えない。
あんな恐ろしいパパを、庇う言葉が出てこない。
体が震える。
指一本動かない。
パパのために動けない僕を、パパが叱りつける。
何をやっているんだ。
使えない奴め。
何の為にお前に優しくしてやったと思っているんだ。
父に報いようとは思わないのか。
クズが。
お前なんか必要ない。
どこにでも行ってしまえばいい。
お前の代わりなどいくらでもいる。
せいぜい他の奴らに騙されてろ。
パパが遠くなっていく。
頭の上の温もりすら、消えていく。
「泣くな」
「っ!?」
「泣くんじゃない。胸を張れ。自分を見失うな。間違ったって構わない。お前が信じたモノを、ちゃんと信じてやれ」
「・・・・・・バネ・・・・・・ズ・・・・・・?」
一体いつから・・・・・・?
疑問を口にするよりも先に、バネズが背中に手を当てて矢継ぎ早に言葉を並べ立てる。
「はっきり言って、俺はバンパニーズ大王何ぞを養護する気はさらさらない。あいつのせいで俺の教え子たちは嫌という程死んだんだしな」
「・・・・・・」
言葉もない。
全部パパがやったんだ。
優しい顔をして、みんなを騙して、沢山悲しい思いをさせた。
まるで僕自身が犯した罪のような罪悪感。
「でもな?お前がどう思おうがそいつは別だ。俺が嫌いなモノをお前も嫌いにならなきゃいけない道理なんてない。お前が好きなら、それは好きなままでいいんだ」
「バネズ・・・・・・?」
「お前が好きだったのは、バンパニーズ大王じゃない。スティーブ・レナードっていう、お前の『父さん』なんだろう?」
「バネ・・・・・・っ」
「好きでいいんだ。信じていいんだ。思い出せ。お前は、あいつのことが好きなんだろう?」
「う・・・・・・んっ!」
「優しく、してもらったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「そいつは本当に嘘っぱちなのか?お前が感じたモノは、全部偽物だったのか?」
偽物?
違う。
そんなことない。
笑い掛けてくれた笑顔は本物だった。
僕が感じた暖かさは、確かに本物だった。
あの瞬間、あの場所においては、それが本物だった。
紛れもない、真実だった。
「嘘なんかじゃない。僕は、ホントに、嬉しかった・・・・・・。パパなんかいないって思ってたから・・・・・・どんな形でも、パパに会えただけで十分だった・・・・・・」
たとえ、僕がダレンおじさんへの切り札として生まれた子供だったとしても。
僕は、パパにとって意味のある子供だったという事実だから。
それでもいい。
だって・・・・・・
「パパだから、愛してたんだ・・・・・・。パパだから、愛してるんだ・・・・・・」
誰に認められなくても。
パパ自身に否定されたって。
僕はパパが好きなんだ。
「それでいい。それでいいんだ」
バネズが、また僕の頭をかき回すように撫でた。
もう一度、頭上に温もりが戻った。
バネズが、笑った。
パパも、笑った。
もう一度僕に、笑い掛けてくれた。
狂気に笑うんじゃなくって、もっと純粋に。
・・・・・・ちょっとだけ申し訳なさそうに、笑ってた。
「・・・・・・この場は私が預かると申し上げたはずですが・・・・・・」
ガネンが半眼になってバネズにぼやいた。
対してバネズは悪びれた風もなく、しゃぁしゃぁとしている。
・・・・・・この二人って知り合いだったの?
「悪いな。でも、やっぱり師としては黙って見ていられなかったんだ。許せ」
「・・・・・・」
「それに、あんたは一人で悪者にでもなろうとしているような気がしてな。胃に穴が開くぜ?」
「・・・・・・ご忠告痛み入ります。どこかの誰かに聞かせてやりたいですよ」
深い溜息。
昔のガネンもこうやってよく溜息をついていた。
「ダリウス」
「何?」
「一つだけあなたに伝えておきます」
「・・・・・・うん」
「私がスティーブを大王だと見つけた時、あなたは既に母親の腹に宿っていました。つまり、はじめから利用するために生まれたわけではありません」
「・・・・・・」
ダレンおじさんにママが説明していた話を思い出す。
僕が出来たことがわかって、結婚式の費用と子供を育てるお金を稼いでくるといってママの元を離れたのだと。
もしかしたら、その時点においてはパパは本当にママと幸せになりたかったのかもしれない。
本当にママのことを、そして僕のことを考えて町を離れたのかもしれない。
「それと今回の戦に関して、タイニーがかなりの介入をしていたそうです。人の心を乱して戦が混乱の方向に向かうよう我々を影から操っていたと話していました」
「それって・・・・・・」
「いつどの段階でタイニーが介入していたのかは私にもわかりません。ただ、少なくとも、スティーブは絶対悪では無かったのだと思います。あの男もまた、タイニーに運命を弄ばれた哀れな道化だったのです」
「・・・・・・そっか」
パパは、悪い人じゃない。
本当に僕のことを、愛していてくれたときが有ったのかもしれない。
もはや確かめる手段なんて無い。
けど、その可能性が有るだけで僕には十分だ。
「・・・・・・もっとも、そんなこと関係なく私はあの男が嫌いですが」
「ガネン・・・・・・」
「勝手に現れて、勝手なことを散々していって、あげく勝手に死ぬだなんて・・・・・・身勝手にも程があります!こちらのことなんて何も考えていないあの態度、居なくなって清々しました。ホントに・・・・・・あの男は・・・・・・っ!」
それに、こうしてパパの死を悲しんでくれる人がいる。
十分じゃないか。
「バネズ、ガネン。ありがと」
こうして、僕を愛してくれる人がいる。
それだけで、十分じゃないか。
僕は、覚えている。
パパに愛されたことを、ちゃんと覚えている。
ちゃんと、覚えているから・・・・・・。
remembrance
傷師弟、スティ克服話完結です。
煮え切らん感じかもしれませんが、皆様の妄想力でカバーしていただければ幸い。
これでダリウスはスティーブのまやかしの愛情を恐れなくなります!
誉められれば素直に嬉しいと思える天使ちゃんになるのです!!
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ⇒パパが好きなことを隠しているダリウスに、バネズが「好きでいていいんだよ」と言う、でした) 2011/02/09
部屋の扉がノックされた。
僕は聞こえないふりをして布団を頭から被った。
ハンモックの上で布団を被ったって音など遮れるものではないのだけれど、気分の問題だ。
それに、部屋には鍵が付いていない。
どうでもいい用なら諦めて帰るだろうし、必要なら頼んでいなくても勝手に入ってくる。
バンパイア・マウンテンはそういう場所だ。
ノックがあるだけマシだと思わなくちゃいけない。
「・・・・・・ダリウス、いるなら返事くらいしたらどうです?」
(え?この声は・・・・・・)
自分を呼ぶ声がした。
けれど、ここでは聞くことのない声に一瞬当惑した。
居るはずのない人の声。
被っていた布団を跳ね上げた。
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「久しぶりですね。ダリウス」
そこに立っていたのは、頭に思い描いた通りの人物。
ここに居るはずのない人。
「なんで!?」
「和平協議ですよ。いい加減争うのも馬鹿らしくなったとやっと多くの仲間が気が付いたんです。・・・・・・そのために払った代償は、大きかったですが・・・・・・」
「・・・・・・」
ガネンの憂いを含んだ目。
ガネンはいつもそんな顔をしていた。
死に逝く仲間を、辛そうに見送っていた。
別れの言葉一つ掛けられず、計画の一こまととして仲間を切り捨てていくことに、心を痛めていた。
無心を装い、その実誰よりも心を迷わせていた。
「・・・・・・みんなは?」
仲間だと思っていた人たち。
バンパニーズの人たち。
彼らがどうなったのか、ここでは知る術がない。
バンパニーズの名前を出すことすらはばかられた。
父親、バンパニーズ大王であるスティーブ・レナードともなれば言わずもがな、だ。
バンチャからパパもダレンおじさんも死んでしまったことは聞いたが、それ以上は教えてくれなかった。
傷ある者の戦が続いているのか終わったのか、それすら僕は知らないままだった。
そこまで気を回している余裕がなかったとも言える。
余計なことを考えないように、バネズが巧みに訓練を組んでいてくれたのだろう。
今の今までみんなのことを思い出さなかったことに自分自身驚いた。
「・・・・・・多くは死にました。最後の戦いでの犠牲は特に多く、未だに把握し切れていません。現在残っている者も先の戦いで負傷し、前線から引いていた者ばかりです」
「そう・・・・・・」
つまり、僕が最後に見かけた連中の大半は今はもうこの世の人では無くなってしまっているのか。
当然だと思う気持ちと、寂しい気持ちが心の中でごちゃ混ぜになった。
バンパニーズを殺したのは、バンパイアだ。
けど、バンパイアだって沢山バンパニーズに殺された。
どちらを責めることはできない。
どちらも加害者で、どちらも被害者なんだ。
これ以上責任のなすり付けをしても仕方がないと双方が学んだからやっと和平協議が始まるんだ。
僕が手前勝手な感情を吐露するべきではない。
「・・・・・・私は、この戦の主犯は全てスティーブにあると思っていました」
「・・・・・・ガネン?」
「あの男はやりすぎでした。誇るべき我らの精神を汚しすぎた」
解っていても逆らえなかった。
大王はバンパニーズに対して絶対の影響力を持つ。
間違いだと認識していながら行動せざるを得なかったガネン。
その言葉からは憎しみすら感じ取れた。
「たった二人を殺そうとするあまり、多くを巻き込み過ぎた。バンパイアもバンパニーズも、人間をも殺しすぎた。あなたのような、本来無垢であるべき人間をこのような世界に自分の妄執の為に放り込んだ。死んで当然の結末だったと思います」
「・・・・・・」
そんなことない!と主張したかった。
悪いことをしたかもしれないけど、それでも死んで当然だなんてそんなの酷すぎる、そう言い返したかった。
なのに、言葉が出ない。
頭に、醜くゆがんだパパに顔がよぎった。
何も言えない。
あんな恐ろしいパパを、庇う言葉が出てこない。
体が震える。
指一本動かない。
パパのために動けない僕を、パパが叱りつける。
何をやっているんだ。
使えない奴め。
何の為にお前に優しくしてやったと思っているんだ。
父に報いようとは思わないのか。
クズが。
お前なんか必要ない。
どこにでも行ってしまえばいい。
お前の代わりなどいくらでもいる。
せいぜい他の奴らに騙されてろ。
パパが遠くなっていく。
頭の上の温もりすら、消えていく。
「泣くな」
「っ!?」
「泣くんじゃない。胸を張れ。自分を見失うな。間違ったって構わない。お前が信じたモノを、ちゃんと信じてやれ」
「・・・・・・バネ・・・・・・ズ・・・・・・?」
一体いつから・・・・・・?
疑問を口にするよりも先に、バネズが背中に手を当てて矢継ぎ早に言葉を並べ立てる。
「はっきり言って、俺はバンパニーズ大王何ぞを養護する気はさらさらない。あいつのせいで俺の教え子たちは嫌という程死んだんだしな」
「・・・・・・」
言葉もない。
全部パパがやったんだ。
優しい顔をして、みんなを騙して、沢山悲しい思いをさせた。
まるで僕自身が犯した罪のような罪悪感。
「でもな?お前がどう思おうがそいつは別だ。俺が嫌いなモノをお前も嫌いにならなきゃいけない道理なんてない。お前が好きなら、それは好きなままでいいんだ」
「バネズ・・・・・・?」
「お前が好きだったのは、バンパニーズ大王じゃない。スティーブ・レナードっていう、お前の『父さん』なんだろう?」
「バネ・・・・・・っ」
「好きでいいんだ。信じていいんだ。思い出せ。お前は、あいつのことが好きなんだろう?」
「う・・・・・・んっ!」
「優しく、してもらったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「そいつは本当に嘘っぱちなのか?お前が感じたモノは、全部偽物だったのか?」
偽物?
違う。
そんなことない。
笑い掛けてくれた笑顔は本物だった。
僕が感じた暖かさは、確かに本物だった。
あの瞬間、あの場所においては、それが本物だった。
紛れもない、真実だった。
「嘘なんかじゃない。僕は、ホントに、嬉しかった・・・・・・。パパなんかいないって思ってたから・・・・・・どんな形でも、パパに会えただけで十分だった・・・・・・」
たとえ、僕がダレンおじさんへの切り札として生まれた子供だったとしても。
僕は、パパにとって意味のある子供だったという事実だから。
それでもいい。
だって・・・・・・
「パパだから、愛してたんだ・・・・・・。パパだから、愛してるんだ・・・・・・」
誰に認められなくても。
パパ自身に否定されたって。
僕はパパが好きなんだ。
「それでいい。それでいいんだ」
バネズが、また僕の頭をかき回すように撫でた。
もう一度、頭上に温もりが戻った。
バネズが、笑った。
パパも、笑った。
もう一度僕に、笑い掛けてくれた。
狂気に笑うんじゃなくって、もっと純粋に。
・・・・・・ちょっとだけ申し訳なさそうに、笑ってた。
「・・・・・・この場は私が預かると申し上げたはずですが・・・・・・」
ガネンが半眼になってバネズにぼやいた。
対してバネズは悪びれた風もなく、しゃぁしゃぁとしている。
・・・・・・この二人って知り合いだったの?
「悪いな。でも、やっぱり師としては黙って見ていられなかったんだ。許せ」
「・・・・・・」
「それに、あんたは一人で悪者にでもなろうとしているような気がしてな。胃に穴が開くぜ?」
「・・・・・・ご忠告痛み入ります。どこかの誰かに聞かせてやりたいですよ」
深い溜息。
昔のガネンもこうやってよく溜息をついていた。
「ダリウス」
「何?」
「一つだけあなたに伝えておきます」
「・・・・・・うん」
「私がスティーブを大王だと見つけた時、あなたは既に母親の腹に宿っていました。つまり、はじめから利用するために生まれたわけではありません」
「・・・・・・」
ダレンおじさんにママが説明していた話を思い出す。
僕が出来たことがわかって、結婚式の費用と子供を育てるお金を稼いでくるといってママの元を離れたのだと。
もしかしたら、その時点においてはパパは本当にママと幸せになりたかったのかもしれない。
本当にママのことを、そして僕のことを考えて町を離れたのかもしれない。
「それと今回の戦に関して、タイニーがかなりの介入をしていたそうです。人の心を乱して戦が混乱の方向に向かうよう我々を影から操っていたと話していました」
「それって・・・・・・」
「いつどの段階でタイニーが介入していたのかは私にもわかりません。ただ、少なくとも、スティーブは絶対悪では無かったのだと思います。あの男もまた、タイニーに運命を弄ばれた哀れな道化だったのです」
「・・・・・・そっか」
パパは、悪い人じゃない。
本当に僕のことを、愛していてくれたときが有ったのかもしれない。
もはや確かめる手段なんて無い。
けど、その可能性が有るだけで僕には十分だ。
「・・・・・・もっとも、そんなこと関係なく私はあの男が嫌いですが」
「ガネン・・・・・・」
「勝手に現れて、勝手なことを散々していって、あげく勝手に死ぬだなんて・・・・・・身勝手にも程があります!こちらのことなんて何も考えていないあの態度、居なくなって清々しました。ホントに・・・・・・あの男は・・・・・・っ!」
それに、こうしてパパの死を悲しんでくれる人がいる。
十分じゃないか。
「バネズ、ガネン。ありがと」
こうして、僕を愛してくれる人がいる。
それだけで、十分じゃないか。
僕は、覚えている。
パパに愛されたことを、ちゃんと覚えている。
ちゃんと、覚えているから・・・・・・。
remembrance
傷師弟、スティ克服話完結です。
煮え切らん感じかもしれませんが、皆様の妄想力でカバーしていただければ幸い。
これでダリウスはスティーブのまやかしの愛情を恐れなくなります!
誉められれば素直に嬉しいと思える天使ちゃんになるのです!!
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ⇒パパが好きなことを隠しているダリウスに、バネズが「好きでいていいんだよ」と言う、でした) 2011/02/09
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ダリウスの様子は明らかにおかしかった。
おかしかったことは解るのに、何がどうおかしいのかは皆目見当がつかない。
「・・・・・・どうしたんだ?あいつは・・・・・・」
誰に言うでもなく呟いた。
俺はあいつを誉めただけだ。
まさか誉められたことが気に障った、なんて訳ではないだろう。
子供扱いとあいつは言うけれど、実際まだ子供なんだからこればっかりはしょうがないと言うものだ。
それでも、
「謝る・・・・・・べきなのか?」
何が悪かったのかも解らないのに?
そいつは筋が通っていない。
しかしここで手をこまねいていても問題が好転するとは思えなかった。
「まったく、子育てってのも楽じゃないな」
問題が次から次に沸いてくる。
頼んでもいないのに向こうからやってくる。
昔はラーテンのことを笑って見ていたが、実際同じ立場になると笑い事ではないと実感できる。
先の経験者として助言を請いたいところだが、残念ながら出来ぬ相談。
あいつは一足早くに向こうに行ってしまった。
さて、では誰に聞くのが適任だろうか。
「よぉ!バネズ!」
いろいろと候補を頭の中で上げていると、もっとも適任から遠いと判断し、思考の外に追いやっていた人の声が聞こえた。
「お?バンチャ元帥?どうされたんです?先日弟君の所に会いに行くと言って出ていったばかりじゃないですか」
「そいつを連れてきたから帰って来たんだよ。こいつは和平会議バンパニーズ側の中核なんだ。お前もこれから顔を合わせることが多いと思うから、よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・弟君が、バンパニーズ?」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ。他の元帥閣下はご存じなんでしょうね?」
「お前が知らないなら言ってねーんじゃねぇか?ま、別にどうでもいいだろ」
「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」
別の意味で和平協議は荒れるのではないだろうか。
これから長く続いていくだろう話し合いを思うと頭が痛くなった。
「不貞の兄が世話になっています。ガネン・ハーストです。どうぞよろしく」
「お、あ、あぁ。バネズ・ブレーンだ。よろしく頼む」
差し出された手を的確に握り返した。
その自然な動作に少なからずガネンは驚いたようだ。
「盲目と聞いていましたが・・・・・・どうやらデマ情報だったようですね」
「いや、目は見えてねぇよ。わずかに光を感じるくらいなもんさ。いろんな感覚を総動員して、ようやく普通の生活が出来るってレベルだ」
「そう、なんですか・・・・・・?」
「・・・・・・というか、なんで俺なんかの話を?」
俺は一介のバンパイア将軍。
それも盲目の。
これまでの実績があったからこそ生き延びているだけの、役立たずのバンパイアだ。
今更バンパニーズに着目される特異点など持っていない。
「あなたがダリウスの教育をしていると聞いたのです」
「なんでそんなことを・・・・・・」
「私は・・・・・・、バンパニーズ大王スティーブ・レナードの側近として仕えていました」
「バンパニーズ大王の側近・・・・・・」
それはつまり、あいつのことも・・・・・・。
「ダリウスの父親が大王であったことは既にご存じですね?」
「あぁ、バンチャ元帥から聞き及んでいる」
「あの子が、大王の下でどのような訓練を受けてきたかも?」
そういえば、初めて逢った時の立ち会い。
この年代にしては堂に入った構えをしていたことを思い出した。
「いや、それは聞いていない」
「・・・・・・ダリウスに武器の取り扱いを教えたのは私です。全て大王の指示でした」
・・・・・・なるほど。
バンパニーズ直伝だったというわけか。
通りで綺麗な構えをすると思った。
それに・・・・・・。
「バンチャ元帥。良い弟君をお持ちですね」
「んあ?そうか?」
「えぇ。子供思いの良い指導をされる」
「あの?」
「あいつの太刀筋を見れば解る。余計な癖などなく、ひたすらにまっすぐな、とても実践向きとは思えないナイフ裁きだった」
「・・・・・・」
「あいつの身を案じて、そう指導してくれたんだろう?」
もちろん、癖のない正攻法の太刀に勝るものはない。
ただし拾得するのに何年、いや何十年掛かるか解らないリスクがある。
もしもバンパイア大王が傷ある者の戦の為にダリウスに仕込むのなら、そんなに悠長な訓練などするはずがない。
即戦力とするために、もっと乱暴な太刀になるはずだ。
「・・・・・・太刀筋だけでそんなことまで解るんですか?スティーブには気づかれていない自信があったんですが・・・・・・」
「ん~、まぁここ数年俺は教えるのが専門だからな。なんとな~く解っちまうんだ」
「バンパイアには恐ろしい逸材がいるものですね」
「ただの経験測さ。マジで戦えば俺なんてあんたの足下にも及ばないだろうよ。それに、こんな経験は子供の前じゃぁクソ程の役にも立たない」
脳裏をよぎるのは先ほどのダリウスの姿。
結局、何がおかしかったのか未だ見当すらつかない。
・・・・・・この男、ガネンならば何か思い当たる節はあるだろうか?
「ガネン。お前、ダリウスとはどの位の付き合いなんだ?」
「実質会っていた時間はそう多くはありませんよ。バンパニーズは拠点を作らずにあちこちを回っていましたから。ですが、そうですね・・・・・・3年くらいでしょうか?」
「俺より長けりゃ上々だ。実はダリウスの機嫌を損ねちまってな。しかし原因も分からないときたもんだ」
「先ほどの件ですか?」
「見てたのか」
「見えたんです」
細かい部分をガンとして譲らなかった。
神経質そうな奴だ。
どちらにせよ、事情が解っているなら話が早い。
説明の手間が省けた。
「なら聞くぞ?ダリウスはなんで機嫌を損ねたんだ?」
「それは・・・・・・」
口を噤んで。
はぁぁ・・・・・・、と。
深い深いため息を漏らした。
「結局、あの男の尻拭いが私に回ってくるんですね・・・・・・。死んだというのに、とことん面倒くさい男ですね・・・・・・」
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「この件は私が預かります。元はと言えば、うちのアホ大王のせいですから」
そういって、ガネンはもう一度深いため息をついた。
reminisce
reminderの続きです。もうちょっと続きます。
今回はバネズとガネン遭遇回。
二人で仲良く子育て談義でもしてればいいよ!!
・・・・・・ガネンがスティーブをボロクソ言っているのは許して上げてください。
彼も胃炎で大変なんです。
2011/02/07
おかしかったことは解るのに、何がどうおかしいのかは皆目見当がつかない。
「・・・・・・どうしたんだ?あいつは・・・・・・」
誰に言うでもなく呟いた。
俺はあいつを誉めただけだ。
まさか誉められたことが気に障った、なんて訳ではないだろう。
子供扱いとあいつは言うけれど、実際まだ子供なんだからこればっかりはしょうがないと言うものだ。
それでも、
「謝る・・・・・・べきなのか?」
何が悪かったのかも解らないのに?
そいつは筋が通っていない。
しかしここで手をこまねいていても問題が好転するとは思えなかった。
「まったく、子育てってのも楽じゃないな」
問題が次から次に沸いてくる。
頼んでもいないのに向こうからやってくる。
昔はラーテンのことを笑って見ていたが、実際同じ立場になると笑い事ではないと実感できる。
先の経験者として助言を請いたいところだが、残念ながら出来ぬ相談。
あいつは一足早くに向こうに行ってしまった。
さて、では誰に聞くのが適任だろうか。
「よぉ!バネズ!」
いろいろと候補を頭の中で上げていると、もっとも適任から遠いと判断し、思考の外に追いやっていた人の声が聞こえた。
「お?バンチャ元帥?どうされたんです?先日弟君の所に会いに行くと言って出ていったばかりじゃないですか」
「そいつを連れてきたから帰って来たんだよ。こいつは和平会議バンパニーズ側の中核なんだ。お前もこれから顔を合わせることが多いと思うから、よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・弟君が、バンパニーズ?」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ。他の元帥閣下はご存じなんでしょうね?」
「お前が知らないなら言ってねーんじゃねぇか?ま、別にどうでもいいだろ」
「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」
別の意味で和平協議は荒れるのではないだろうか。
これから長く続いていくだろう話し合いを思うと頭が痛くなった。
「不貞の兄が世話になっています。ガネン・ハーストです。どうぞよろしく」
「お、あ、あぁ。バネズ・ブレーンだ。よろしく頼む」
差し出された手を的確に握り返した。
その自然な動作に少なからずガネンは驚いたようだ。
「盲目と聞いていましたが・・・・・・どうやらデマ情報だったようですね」
「いや、目は見えてねぇよ。わずかに光を感じるくらいなもんさ。いろんな感覚を総動員して、ようやく普通の生活が出来るってレベルだ」
「そう、なんですか・・・・・・?」
「・・・・・・というか、なんで俺なんかの話を?」
俺は一介のバンパイア将軍。
それも盲目の。
これまでの実績があったからこそ生き延びているだけの、役立たずのバンパイアだ。
今更バンパニーズに着目される特異点など持っていない。
「あなたがダリウスの教育をしていると聞いたのです」
「なんでそんなことを・・・・・・」
「私は・・・・・・、バンパニーズ大王スティーブ・レナードの側近として仕えていました」
「バンパニーズ大王の側近・・・・・・」
それはつまり、あいつのことも・・・・・・。
「ダリウスの父親が大王であったことは既にご存じですね?」
「あぁ、バンチャ元帥から聞き及んでいる」
「あの子が、大王の下でどのような訓練を受けてきたかも?」
そういえば、初めて逢った時の立ち会い。
この年代にしては堂に入った構えをしていたことを思い出した。
「いや、それは聞いていない」
「・・・・・・ダリウスに武器の取り扱いを教えたのは私です。全て大王の指示でした」
・・・・・・なるほど。
バンパニーズ直伝だったというわけか。
通りで綺麗な構えをすると思った。
それに・・・・・・。
「バンチャ元帥。良い弟君をお持ちですね」
「んあ?そうか?」
「えぇ。子供思いの良い指導をされる」
「あの?」
「あいつの太刀筋を見れば解る。余計な癖などなく、ひたすらにまっすぐな、とても実践向きとは思えないナイフ裁きだった」
「・・・・・・」
「あいつの身を案じて、そう指導してくれたんだろう?」
もちろん、癖のない正攻法の太刀に勝るものはない。
ただし拾得するのに何年、いや何十年掛かるか解らないリスクがある。
もしもバンパイア大王が傷ある者の戦の為にダリウスに仕込むのなら、そんなに悠長な訓練などするはずがない。
即戦力とするために、もっと乱暴な太刀になるはずだ。
「・・・・・・太刀筋だけでそんなことまで解るんですか?スティーブには気づかれていない自信があったんですが・・・・・・」
「ん~、まぁここ数年俺は教えるのが専門だからな。なんとな~く解っちまうんだ」
「バンパイアには恐ろしい逸材がいるものですね」
「ただの経験測さ。マジで戦えば俺なんてあんたの足下にも及ばないだろうよ。それに、こんな経験は子供の前じゃぁクソ程の役にも立たない」
脳裏をよぎるのは先ほどのダリウスの姿。
結局、何がおかしかったのか未だ見当すらつかない。
・・・・・・この男、ガネンならば何か思い当たる節はあるだろうか?
「ガネン。お前、ダリウスとはどの位の付き合いなんだ?」
「実質会っていた時間はそう多くはありませんよ。バンパニーズは拠点を作らずにあちこちを回っていましたから。ですが、そうですね・・・・・・3年くらいでしょうか?」
「俺より長けりゃ上々だ。実はダリウスの機嫌を損ねちまってな。しかし原因も分からないときたもんだ」
「先ほどの件ですか?」
「見てたのか」
「見えたんです」
細かい部分をガンとして譲らなかった。
神経質そうな奴だ。
どちらにせよ、事情が解っているなら話が早い。
説明の手間が省けた。
「なら聞くぞ?ダリウスはなんで機嫌を損ねたんだ?」
「それは・・・・・・」
口を噤んで。
はぁぁ・・・・・・、と。
深い深いため息を漏らした。
「結局、あの男の尻拭いが私に回ってくるんですね・・・・・・。死んだというのに、とことん面倒くさい男ですね・・・・・・」
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「この件は私が預かります。元はと言えば、うちのアホ大王のせいですから」
そういって、ガネンはもう一度深いため息をついた。
reminisce
reminderの続きです。もうちょっと続きます。
今回はバネズとガネン遭遇回。
二人で仲良く子育て談義でもしてればいいよ!!
・・・・・・ガネンがスティーブをボロクソ言っているのは許して上げてください。
彼も胃炎で大変なんです。
2011/02/07
今日も一人で、パパが帰ってくるのを待つ。
いつもは待ちきれなくって寝てしまうけど、今日だけは起きていようって思った。
今日は私の誕生日だから。
ある、あめのよるに
「遅くなるかもしれないけど、ちゃんと帰ってくるからな」
「帰ってきたらちゃんと起こすから、一度寝てるんだぞ?」
パパはそう言って、まだ瞼を擦っている私の頬にキスをしてお仕事に出かけていった。
それはいつものこと。
そして。
パパが約束を守らないのも、いつものこと。
寝ている私を起こしてくれたことなんて一度もない。
リビングで寝てしまった私をそっと寝室に運んでくれて、朝は私よりも早くに起きて行ってしまうことだってあった。
それでも、パパが帰ってきたとわかるのはほんのわずかな痕跡があるから。
冷めて堅くなったかじりかけのトーストに、ぬるいミルク。
それと、
『行ってきます』
殴り書きをしたメモの切れ端。
わかってる。
お仕事が忙しいんだって。
早くに帰ってきた日だって、難しい顔をして新聞を読んでいる。
お土産だよと手渡された袋がいやに大きくて。
それは絵本と一緒に、たくさんのゴシップ誌が入っていたことだって知っている。
おうちに帰っても、パパはお仕事をしているんだって知っている。
パパがお仕事を誇りに思っていることを知っている。
ロンドンに住む沢山の人のために、毎日毎日へとへとになるまで頑張っているって知ってる。
お仕事をしているパパは好き。
疲れているのに「ただいま」って笑って頭を撫でてくれるパパが好き。
私も、いつかパパのようになりたいって思う。
疲れているパパのお手伝いが出来ればいいなって思う。
でもパパには言ってあげないの。
秘密にしておいて、いつかびっくりさせてあげるの。
私はパパの言葉を信じない。
パパが約束を破るのは、お仕事を頑張っているからだって知っているから。
わがままなんて言わずに、パパが帰ってきてくれるのをずっと待つの。
だから今日も私は、ソファーの上で毛布にくるまってパパの帰りを待つ。
テーブルの上のママの写真を眺めて、パパが帰ってくるのを一人で待つの。
こっくりこくっり、睡魔が襲ってきてもほっぺたを叩いて追い出してやるの。
その日は雨だった。
ここ最近はずっと雨が降っている。
しとしとしとしと。
テレビから流れるニュースは難しくてよくわからないけれど、テムズ川がいつもの倍以上の水かさになっているのを映し出していた。
最後にパパと遊びに行ったのはいつだろう。
思いだそうとしたけど、思い出せない。
睡魔が頭の中を侵略しようとしているからだ。
窓を叩く雨音が耳に心地よくて、次第に思考がうつらうつらしてくる。
眠っちゃだめ・・・・・・
今日は、私の誕生日なんだから・・・・・・
今日くらい、わがまま言ってもいいでしょう?
寝ないで朝まで遊んでもいいでしょう?
私が起きるまで一緒のベッドに寝ていて、ってお願いしてもいいでしょう?
本当は寂しいって、言ってもいいでしょう?
一人はイヤだって、言ってもいいでしょう?
今日だけ。
今日だけだから。
明日からはいい子にするから。
だから、お願い。
今日だけ・・・・・・許して・・・・・・?
□■□
──ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。
外はまだ暗い。
時計は、23時を過ぎた頃。
パパだ!
パパが帰ってきたに違いない。
大慌てで玄関に走った。
ちゃんと帰ってきてくれた!
私の誕生日に帰ってきてくれた!
後ちょっとしかないけれど、そんなことはどうでもいいの!
思いっきり抱きついて、わがままを言わせて?
「パパっ!」
私は靴も履かずに玄関を開けた。
靴を履くわずかな時間すらも惜しいと思った。
玄関の向こうは、相変わらずの雨だった。
冷たい空気が、私の頬を撫でた。
そこに立っていたのはパパじゃなかった。
「おじさん、だぁれ?」
聞いてから思い出した。
名前は知らないけど、パパの『あいぼう』の人だ。
写真を見せてもらったことがある。
なんだか疲れた顔をしている。
体中ぼろぼろだし、所々血で汚れていた。
不意に、私の頬が涙で濡れた。
理由はわからない。
わからないけれど、涙が止まらない。
「・・・・・・パパは・・・・・・?」
私は涙声でおじさんに問いかけた。
おじさんは顔をしかめた。
おじさんも泣き出しそうな顔をしていた。
「ルパートは・・・・・・」
聞かなくても、本当はわかっていた。
パパは
きっと・・・・・・
「君に届け物を頼まれたんだ・・・・・・」
差し出された、ピンク色のチューリップの花束。
両手でも抱えきれないくらいの、大きな花束。
かなり雨に打たれたのか、どれもくったりと元気を無くしていた。
「・・・・・・パパは、帰ってくるの?」
花束に顔を埋めて、私は聞いた。
聞かなければ、いけないと思った。
私の為にも、パパの為にも。
この、おじさんの為にも。
「君のパパは・・・・・・ルパートは・・・・・・」
わかってる。
パパは嘘つきだから。
「ルパートは、帰ってこないよ・・・・・・もう二度と・・・・・・」
「お仕事、なのよね?お仕事頑張ってるから、パパは帰ってこないのよね?」
「あぁ、そうだ。あいつは、仕事を頑張ったんだ・・・・・・」
おじさんが、声を押し殺して泣いていた。
『ちゃんと帰ってくるからな』
パパは嘘をついた。
パパは帰ってこない。
でもしょうがないの。
いつも、パパは嘘つきだったから。
私は、嘘つきのパパが好きだった。
パパが嘘をつくのは、お仕事を頑張っている時だけだから。
誰かのために頑張るパパが、大好きだった。
そんなパパのようになりたいって、思ってた。
わがままなんて言わないいい子でいようって、思ってた。
でも、今日だけ。
今日だけは、私の誕生日だから。
いいよね?
わがまま言っても、いいよね?
淋しいよ。
悲しいよ。
一人はイヤだよ。
ねぇ、パパ。
側にいて?
私の側に、ずっといて?
「パパ・・・・・・」
おじさんが私のことを抱きしめた。
ちょっとだけ、パパに似ていた。
「・・・・・・パ、パ・・・・・・ァ・・・・・・」
私は泣いた。
ロンドンに降る土砂降りの雨のように、泣いた。
私の4歳の誕生日。
その日、パパは死んだ。
ルパート回想回のココたんサイドのお話と思っていただければ。
年齢はわりと適当です。
回想時の写真と20年前という記述から
現在のココたんが24歳前後と推察しての年齢です。
あんまり深くは考えてないです。
あ~ココたんを幸せにしてぇ・・・・・・・・・
2011/02/06
いつもは待ちきれなくって寝てしまうけど、今日だけは起きていようって思った。
今日は私の誕生日だから。
ある、あめのよるに
「遅くなるかもしれないけど、ちゃんと帰ってくるからな」
「帰ってきたらちゃんと起こすから、一度寝てるんだぞ?」
パパはそう言って、まだ瞼を擦っている私の頬にキスをしてお仕事に出かけていった。
それはいつものこと。
そして。
パパが約束を守らないのも、いつものこと。
寝ている私を起こしてくれたことなんて一度もない。
リビングで寝てしまった私をそっと寝室に運んでくれて、朝は私よりも早くに起きて行ってしまうことだってあった。
それでも、パパが帰ってきたとわかるのはほんのわずかな痕跡があるから。
冷めて堅くなったかじりかけのトーストに、ぬるいミルク。
それと、
『行ってきます』
殴り書きをしたメモの切れ端。
わかってる。
お仕事が忙しいんだって。
早くに帰ってきた日だって、難しい顔をして新聞を読んでいる。
お土産だよと手渡された袋がいやに大きくて。
それは絵本と一緒に、たくさんのゴシップ誌が入っていたことだって知っている。
おうちに帰っても、パパはお仕事をしているんだって知っている。
パパがお仕事を誇りに思っていることを知っている。
ロンドンに住む沢山の人のために、毎日毎日へとへとになるまで頑張っているって知ってる。
お仕事をしているパパは好き。
疲れているのに「ただいま」って笑って頭を撫でてくれるパパが好き。
私も、いつかパパのようになりたいって思う。
疲れているパパのお手伝いが出来ればいいなって思う。
でもパパには言ってあげないの。
秘密にしておいて、いつかびっくりさせてあげるの。
私はパパの言葉を信じない。
パパが約束を破るのは、お仕事を頑張っているからだって知っているから。
わがままなんて言わずに、パパが帰ってきてくれるのをずっと待つの。
だから今日も私は、ソファーの上で毛布にくるまってパパの帰りを待つ。
テーブルの上のママの写真を眺めて、パパが帰ってくるのを一人で待つの。
こっくりこくっり、睡魔が襲ってきてもほっぺたを叩いて追い出してやるの。
その日は雨だった。
ここ最近はずっと雨が降っている。
しとしとしとしと。
テレビから流れるニュースは難しくてよくわからないけれど、テムズ川がいつもの倍以上の水かさになっているのを映し出していた。
最後にパパと遊びに行ったのはいつだろう。
思いだそうとしたけど、思い出せない。
睡魔が頭の中を侵略しようとしているからだ。
窓を叩く雨音が耳に心地よくて、次第に思考がうつらうつらしてくる。
眠っちゃだめ・・・・・・
今日は、私の誕生日なんだから・・・・・・
今日くらい、わがまま言ってもいいでしょう?
寝ないで朝まで遊んでもいいでしょう?
私が起きるまで一緒のベッドに寝ていて、ってお願いしてもいいでしょう?
本当は寂しいって、言ってもいいでしょう?
一人はイヤだって、言ってもいいでしょう?
今日だけ。
今日だけだから。
明日からはいい子にするから。
だから、お願い。
今日だけ・・・・・・許して・・・・・・?
□■□
──ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。
外はまだ暗い。
時計は、23時を過ぎた頃。
パパだ!
パパが帰ってきたに違いない。
大慌てで玄関に走った。
ちゃんと帰ってきてくれた!
私の誕生日に帰ってきてくれた!
後ちょっとしかないけれど、そんなことはどうでもいいの!
思いっきり抱きついて、わがままを言わせて?
「パパっ!」
私は靴も履かずに玄関を開けた。
靴を履くわずかな時間すらも惜しいと思った。
玄関の向こうは、相変わらずの雨だった。
冷たい空気が、私の頬を撫でた。
そこに立っていたのはパパじゃなかった。
「おじさん、だぁれ?」
聞いてから思い出した。
名前は知らないけど、パパの『あいぼう』の人だ。
写真を見せてもらったことがある。
なんだか疲れた顔をしている。
体中ぼろぼろだし、所々血で汚れていた。
不意に、私の頬が涙で濡れた。
理由はわからない。
わからないけれど、涙が止まらない。
「・・・・・・パパは・・・・・・?」
私は涙声でおじさんに問いかけた。
おじさんは顔をしかめた。
おじさんも泣き出しそうな顔をしていた。
「ルパートは・・・・・・」
聞かなくても、本当はわかっていた。
パパは
きっと・・・・・・
「君に届け物を頼まれたんだ・・・・・・」
差し出された、ピンク色のチューリップの花束。
両手でも抱えきれないくらいの、大きな花束。
かなり雨に打たれたのか、どれもくったりと元気を無くしていた。
「・・・・・・パパは、帰ってくるの?」
花束に顔を埋めて、私は聞いた。
聞かなければ、いけないと思った。
私の為にも、パパの為にも。
この、おじさんの為にも。
「君のパパは・・・・・・ルパートは・・・・・・」
わかってる。
パパは嘘つきだから。
「ルパートは、帰ってこないよ・・・・・・もう二度と・・・・・・」
「お仕事、なのよね?お仕事頑張ってるから、パパは帰ってこないのよね?」
「あぁ、そうだ。あいつは、仕事を頑張ったんだ・・・・・・」
おじさんが、声を押し殺して泣いていた。
『ちゃんと帰ってくるからな』
パパは嘘をついた。
パパは帰ってこない。
でもしょうがないの。
いつも、パパは嘘つきだったから。
私は、嘘つきのパパが好きだった。
パパが嘘をつくのは、お仕事を頑張っている時だけだから。
誰かのために頑張るパパが、大好きだった。
そんなパパのようになりたいって、思ってた。
わがままなんて言わないいい子でいようって、思ってた。
でも、今日だけ。
今日だけは、私の誕生日だから。
いいよね?
わがまま言っても、いいよね?
淋しいよ。
悲しいよ。
一人はイヤだよ。
ねぇ、パパ。
側にいて?
私の側に、ずっといて?
「パパ・・・・・・」
おじさんが私のことを抱きしめた。
ちょっとだけ、パパに似ていた。
「・・・・・・パ、パ・・・・・・ァ・・・・・・」
私は泣いた。
ロンドンに降る土砂降りの雨のように、泣いた。
私の4歳の誕生日。
その日、パパは死んだ。
ルパート回想回のココたんサイドのお話と思っていただければ。
年齢はわりと適当です。
回想時の写真と20年前という記述から
現在のココたんが24歳前後と推察しての年齢です。
あんまり深くは考えてないです。
あ~ココたんを幸せにしてぇ・・・・・・・・・
2011/02/06
「せんっぱーい!!!」
振り返るよりも早く、背中から襲われた。
きらきらしたまぶしいオーラに。
体中から溢れ出して、なお枯渇の様相を呈さない凄まじい勢いのオーラ。
それだけの量があの小さな体のどこに収まっているのか聞きたくなる。
「・・・・・・ココ・・・・・・お前なぁ・・・・・・」
思わず呻いた。
オーラなんて一般人の目には映らないものだから物質的エネルギーは生み出さない。
どうやっても身体へ影響を及ぼす程のものにはならない。
はずだ。
そのはずなんだ。
だが、そのオーラを視覚的に捕らえることのできる自分には、押しつぶさんばかりの、それも好意的な感情を多分に含有したオーラを一直線に向けられると気圧されて後ずさりしてしまう。
「どうかしましたか?」
好意を寄せられて、悪い気はしない。
実際、嬉しいものだと思う。
なのにこうして気圧されてしまうのは、純粋に俺の生き方の問題だ。
俺にいつもあったのは、劣等感。
優秀な兄を誇らしく思う一方での、自己への羞恥心。
いつだって俺たちは比べられてきた。
そして、いつだって俺は2番だった。
それが当たり前の評価。
俺自身、正当な評価だと思ってる。
つまり、慣れていないんだ。
俺を一番と評価する人間に。
そんな人間が居ることを、信じられないでいるんだ。
「・・・・・・ハント先輩?」
つい、ボーとしてしまった。
目と鼻の先にココの顔が迫っている。
「近ぇよ」
「はわっ!」
右手でココの顔を押し退けた。
触れたことに驚いたのか、変な声を上げた。
驚いたのもつかの間、頬を紅潮させ、顔を綻ばせる。
それに比例して薄桃の優しい色をしたオーラが流れ出た。
相変わらずきらきらして、俺の目には痛いくらい透き通ったオーラ。
真っ直ぐで、一途で、暖かい。
「お前は・・・・・・」
きっと、ココのオーラに当てられたんだ。
でなきゃ、俺がこんな言葉を口にするはずがない。
「・・・・・・何で、俺なんかが好きなんだ?」
言ってから、猛烈に恥ずかしくなった。
何を聞いてるんだ俺はっ!?
「いやっ!これはっ!そのっ!!別に、だなっ!?」
わたわたと慌てふためくが、弁明の言葉は何一つ出てきやしない。
「先輩が認めてくれたからです」
「・・・・・・へ?」
「何をやってもうまくいかない落ちこぼれの私を、先輩はバカにしなかった」
「・・・・・・」
落ちこぼれが落ちこぼれを慰めるだなんて滑稽な話だ。
「私、嬉しかったんです。先輩が『バカでもいい』って言ってくれて、ハンドラーしかないって思わせてくれて・・・・・・」
つまりは傷の舐め合いじゃないか。
「先輩がいたから、パパと同じ仕事を諦めなくていいってわかった。
どんなにバカにされたってコロと二人で頑張ろうって思えた」
私バカで単純だから、それで好きになっちゃったんです。
照れくさそうに、笑う。
「・・・・・・それから、先輩が時折淋しそうな顔をするのを知りました。人を避けている感じなのに淋しそうだなんて、何でだろうって・・・・・・」
それは、ブリューナクの力を恐れていたからだ。
得体の知れない呪いの力を持て余していたから、そうする以外の方法を思いつかなかった。
「だから、先輩に声を掛けてみようって思ったんです。バカな私でも、何か役に立てるんじゃないかって思ったから・・・・・・」
思えば、俺が完全に孤立しないで済んだのはココがいたからだ。
見えない壁を挟むような関わりしか持たなかったが、それでもゼロよりはよっぽどましだったと今なら思える。
「・・・・・・結局、迷惑にしかならなかったみたいですけど。先輩が私を支えてくれたみたいに、私が先輩を支えられた嬉しいなって思ってたんです。辛いとき側にコロがいてくれたみたいに、先輩の側にいたいって、そう思ったんです」
俺があの時お前に言ったのは、自分に言い聞かせたかったからだ。
バカだと罵られても、向いてないって自分でわかってしまっても、それしかないって思わなきゃ突き進めなかったから。
「・・・・・・お前って、ホントバカなんだな・・・・・・」
「え?」
「バカだよ。どうしょうもない大バカ」
でも、バカだから嘘なんてつかない。
こいつの言葉は、全部本心。
真っ直ぐに、2番の俺を見てくれる。
お前に返せるものなんて、何一つ持っちゃいないのに。
お前に触れる指一つ、持っちゃいないのに。
「でも・・・・・・」
後頭部に寄せた右手。
グイと力を込めれば、そのまま頭が移動する。
逆らうことなく、トン、と。
「バカな俺には、お前くらいバカな方がちょうどいいのかもしれねぇな」
胸の上で、お前の顔が赤くなるのを、感じた。
love reason ver.アラココ
アラココってみた。
煮え切らなくてすまぬ。
ココたんは俺の嫁なんだが
アラゴが幸せにしてくれるってんならその座を譲ってやらなくもないっていうか
まぁそんな感じなんだ。
二人を幸せにし隊、隊長に就任したい。
2011/02/04
振り返るよりも早く、背中から襲われた。
きらきらしたまぶしいオーラに。
体中から溢れ出して、なお枯渇の様相を呈さない凄まじい勢いのオーラ。
それだけの量があの小さな体のどこに収まっているのか聞きたくなる。
「・・・・・・ココ・・・・・・お前なぁ・・・・・・」
思わず呻いた。
オーラなんて一般人の目には映らないものだから物質的エネルギーは生み出さない。
どうやっても身体へ影響を及ぼす程のものにはならない。
はずだ。
そのはずなんだ。
だが、そのオーラを視覚的に捕らえることのできる自分には、押しつぶさんばかりの、それも好意的な感情を多分に含有したオーラを一直線に向けられると気圧されて後ずさりしてしまう。
「どうかしましたか?」
好意を寄せられて、悪い気はしない。
実際、嬉しいものだと思う。
なのにこうして気圧されてしまうのは、純粋に俺の生き方の問題だ。
俺にいつもあったのは、劣等感。
優秀な兄を誇らしく思う一方での、自己への羞恥心。
いつだって俺たちは比べられてきた。
そして、いつだって俺は2番だった。
それが当たり前の評価。
俺自身、正当な評価だと思ってる。
つまり、慣れていないんだ。
俺を一番と評価する人間に。
そんな人間が居ることを、信じられないでいるんだ。
「・・・・・・ハント先輩?」
つい、ボーとしてしまった。
目と鼻の先にココの顔が迫っている。
「近ぇよ」
「はわっ!」
右手でココの顔を押し退けた。
触れたことに驚いたのか、変な声を上げた。
驚いたのもつかの間、頬を紅潮させ、顔を綻ばせる。
それに比例して薄桃の優しい色をしたオーラが流れ出た。
相変わらずきらきらして、俺の目には痛いくらい透き通ったオーラ。
真っ直ぐで、一途で、暖かい。
「お前は・・・・・・」
きっと、ココのオーラに当てられたんだ。
でなきゃ、俺がこんな言葉を口にするはずがない。
「・・・・・・何で、俺なんかが好きなんだ?」
言ってから、猛烈に恥ずかしくなった。
何を聞いてるんだ俺はっ!?
「いやっ!これはっ!そのっ!!別に、だなっ!?」
わたわたと慌てふためくが、弁明の言葉は何一つ出てきやしない。
「先輩が認めてくれたからです」
「・・・・・・へ?」
「何をやってもうまくいかない落ちこぼれの私を、先輩はバカにしなかった」
「・・・・・・」
落ちこぼれが落ちこぼれを慰めるだなんて滑稽な話だ。
「私、嬉しかったんです。先輩が『バカでもいい』って言ってくれて、ハンドラーしかないって思わせてくれて・・・・・・」
つまりは傷の舐め合いじゃないか。
「先輩がいたから、パパと同じ仕事を諦めなくていいってわかった。
どんなにバカにされたってコロと二人で頑張ろうって思えた」
私バカで単純だから、それで好きになっちゃったんです。
照れくさそうに、笑う。
「・・・・・・それから、先輩が時折淋しそうな顔をするのを知りました。人を避けている感じなのに淋しそうだなんて、何でだろうって・・・・・・」
それは、ブリューナクの力を恐れていたからだ。
得体の知れない呪いの力を持て余していたから、そうする以外の方法を思いつかなかった。
「だから、先輩に声を掛けてみようって思ったんです。バカな私でも、何か役に立てるんじゃないかって思ったから・・・・・・」
思えば、俺が完全に孤立しないで済んだのはココがいたからだ。
見えない壁を挟むような関わりしか持たなかったが、それでもゼロよりはよっぽどましだったと今なら思える。
「・・・・・・結局、迷惑にしかならなかったみたいですけど。先輩が私を支えてくれたみたいに、私が先輩を支えられた嬉しいなって思ってたんです。辛いとき側にコロがいてくれたみたいに、先輩の側にいたいって、そう思ったんです」
俺があの時お前に言ったのは、自分に言い聞かせたかったからだ。
バカだと罵られても、向いてないって自分でわかってしまっても、それしかないって思わなきゃ突き進めなかったから。
「・・・・・・お前って、ホントバカなんだな・・・・・・」
「え?」
「バカだよ。どうしょうもない大バカ」
でも、バカだから嘘なんてつかない。
こいつの言葉は、全部本心。
真っ直ぐに、2番の俺を見てくれる。
お前に返せるものなんて、何一つ持っちゃいないのに。
お前に触れる指一つ、持っちゃいないのに。
「でも・・・・・・」
後頭部に寄せた右手。
グイと力を込めれば、そのまま頭が移動する。
逆らうことなく、トン、と。
「バカな俺には、お前くらいバカな方がちょうどいいのかもしれねぇな」
胸の上で、お前の顔が赤くなるのを、感じた。
love reason ver.アラココ
アラココってみた。
煮え切らなくてすまぬ。
ココたんは俺の嫁なんだが
アラゴが幸せにしてくれるってんならその座を譲ってやらなくもないっていうか
まぁそんな感じなんだ。
二人を幸せにし隊、隊長に就任したい。
2011/02/04
軽食堂で休憩しようと思い、足を向けた。
何の気無しに見回すと見知った顔が集まっていた。
一人どうしようもなく気に入らない奴がいたから声を掛けるかどうか迷って、迷っているうちに向こうに発見された。
「あ、刑事さん」
「・・・・・・・・・」
そのどうしようもなくいけ好かない奴が、無駄にさわやかな笑顔を向けてきた。
腹の内を知っている俺としてはその上っ面だけの愛想笑いが癇に障る。
「そんなあからさまにイヤな顔しなくてもいいのに」
「うっせ」
どのタイミングで用意していたのか、差し出されたコーヒーをひったくるように受け取った。
「ハント先輩も休憩ですか?」
「まぁな」
控えめな態度で聞いてきたのはココ。
空いていた席を勧めてくれたが、ちょっとだけイスを離した。
油断するとオーラざっぱーん!攻撃で襲ってくるからだ。
わずかに離れた席に、心なしかオーラが意気消沈したように見えた。
対照的に、足下で寝そべっていたコロが嬉しそうにあくびをした。
「ねぇアラゴ。あんた夜暇?」
「あ?」
「夜にね、みんなで『マメマキ』しようって話してたの。一緒にどう?」
「マメマキ?」
リオが聞きなれぬ単語を口にした。
「日本の季節行事らしいですよ。刑事さん」
「・・・・・・お前に説明されると無意味に腹立たしいな」
「カルシウムが足りてないんじゃないですか?そこの骨でもかじってみたらどうです?」
後半の潜めた声に、ギャリーが一目散に逃げ出した。
まぁ別にあいつは居ても居なくてそう問題はないから放っておいていいだろう。
リオとココが居るこの場から離れてくれた方が精神が休ます。
そのうち適当に戻ってくるだろ。
「で?何なんだその『マメマキ』ってのは」
「その名の通り、豆を撒くのよ」
「畑でも作るのか?」
「違うわよ。『オニ』に投げつけて追い払うの」
「・・・・・・オニ?」
「そ。そのオニに向かって『オニハソト、フクハウチ』って言いながら投げるのよ」
「・・・・・・何の呪文だそれは」
次々と飛び出す聞きなれない言葉に、テーブルに突っ伏した。
休憩に来たはずなのに休まる気がしない。
リオが懇切丁寧に説明してくれたけど、その半分も理解できなかった。
わかったのはオニをマメでおっぱらうことと、その際の謎の呪文だけだ。
「リオ先輩。『オニ』って何なんですか?」
ココが質問する。
「ん~。架空の生き物だから説明しにくいんだけど、人の姿をしていて角と牙が生えてる怖い顔の生き物、かな?こんな感じの」
手持ちのノートを一枚破りとり、さらさらと簡単なイラストを描いた。
「こんな風にすごい怪力持ちで、虎柄のパンツを穿いてるの。金棒とかも持ってって、人間に悪いことをするのよ」
「つっても、実在しないんだろ?」
「まぁそうなんだけど。このオニが近くにいると厄災、つまり病気とか不幸事とか、そういう悪いことを呼び寄せやすくなっちゃうの。それを追い払って、代わりにフク、幸せなことを呼び寄せましょうっていう行事よ」
「そのオニって、こっちで言うところのモンスターとか妖精みたいなものと思えばいいですか?」
「うーん・・・・・・ニュアンスとしてはデーモンの方が近いかもしれないわね」
「デーモン・・・・・・悪魔、ねぇ。そりゃあ追い払っちまった方がいいな。なぁセス君」
「何のことです?刑事さん」
あ、くそ。
こいつ二人に見えないように机の下で足踏んできやがった。
やることがセコいんだよ。
「あ!そうだ」
「ん?」
思い出したように大きな声を上げた。
「幽霊、ゴーストなんかもニュアンスが近いわ」
「幽霊・・・・・・」
「そう。不遇の扱いを受けた人が生きたままオニに転化したり、強い恨みを持ったまま死んだ人がオニとして生き返る、なんて言われるもの」
「死んだ奴が・・・・・・生き返る?」
「ま、空想上の生き物なんだけどね」
話疲れたのかうんっ!と背伸びをした。
「本物なんていないから、日本ではオニのお面を付けた人をオニに見立てるの。なんていうか、お遊びみたいなものなの。あんまり深く考えないで?」
「遊びなんですか?」
「だって、オニなんていないもの」
リオが笑う。
コーヒーを一口啜る。
でもさ、と。
言葉を続ける。
「ココちゃんとコロのこともあるし、悪いことを追い払えるなら何でもしておきたいじゃない?」
「リオ先輩・・・・・・」
「日本の厄払いがロンドンでどれだけ効果あるかはわからないんだけどね」
ぺろっと舌を出してはにかんだ。
リオはリオで、先だっての事件に心を痛めていたのだろう。
いろいろ考えて盛り上げようと考えてくれたのかもしれない。
だというのに、俺は・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ハント先輩?」
横から、ココが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「顔色があまり良くないですけど・・・・・・大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。なんでもねぇよ」
「でも・・・・・・」
足下ではコロまでがズボンの裾を咬んでいる。
「お前も、心配すんなよ」
あぁ、なんでか耳が痒い。
「最近立て込んでてちょっと疲れてるだけだって」
「それなら・・・・・・いいんですけど・・・・・・」
「わりぃけど俺、パスするは。早めに家帰って寝るよ」
「無理してまでする事じゃないからいいわよ。私たちだけでしましょ」
・・・・・・リオを纏うオーラがピリピリとして痛い。
断ったから不機嫌になったのだろうか。
「代わりにあんたにはこれあげる」
「ん?なんだこれ?」
差し出された小袋。
見慣れぬ物体に、怪訝な表情になる。
「それが『マメマキ』に使う豆よ。撒いた後、自分の年の数だけ食べると福が来るって言われてるの。マメマキはしなくても、せめてそれだけでも食べておきなさいよ」
「ああ。さんきゅ」
ポケットにねじ込むと、シャリと軽い音がした。
「なぁリオ。あれもう一回教えてくれよ。さっきの変な呪文」
「呪文?」
「『オニハソト、フクハウチ』のことでしょ?刑事さん」
「・・・・・・お前にゃ聞いてねぇよ」
セスが横から口を挟んだ。
それだけで気分が盛り下がるから、こいつが出す不快指数といったら無い。
「それ、逆に言ったりしちゃだめだからね」
「逆、ですか」
「そ。小さい子とかが間違えて『フクハソト、オニハウチ』なんて言っちゃうのよ。でもそれじゃあ『幸せが出ていって、オニがやってくる』ってことになっちゃうでしょ?」
「オニがやってくる・・・・・・」
「アラゴはそそっかしいからそーゆー変なミスしそうなんだもん」
「バカにすんなよ。そんなもん、間違えるわけねーだろ?」
そう、間違えたりしない。
間違いなどでは、ない。
□■□
深夜のロンドン。
街のほとんどが眠りにつく時間。
静かに更けゆく夜を、廃ビルの屋上から見下ろしていた。
今夜は何も起きそうに無い。
根拠はないが直感がそう結論づけた。
「やっと見つけましたよ、刑事さん」
「・・・・・・セスか」
直感は全く役に立たないらしい。
一番やっかいな奴がやってきやがった。
「そこそこおもしろいものでしたよ、マメマキ。刑事さんも来たら良かったのに」
「むしろお前が行ったことの方が驚きだがな」
悪魔が悪魔払いに行くなんて、皮肉も良いところだ。
「別に、どうでも良かったんですけどね。でも刑事さんが困るかと思って」
「あぁ?」
「リオさんにココさん。どちらに何かがあっても貴方の邪魔になると思ったんです。例えば二人を人質にでも取られたら、きっと貴方はとっさの判断を間違える」
「・・・・・・断定かよ・・・・・・」
「否定できるんですか?」
「・・・・・・否定はしねぇよ」
その場になってみなければ、判断なんて下せない。
目の前の問題を無視できるかどうかなんて、わからない。
この行動そのものが間違いかどうかすら、わからない。
わからないけど。
「俺にはこうするしかねぇんだ」
ポケットに入っていた小袋を取り出した。
おもむろに封を切り、中身を鷲掴みにして、思いっきり中に放った。
「『オニハウチ』っ!」
「・・・・・・」
逃してたまるか。
来てもらわなくちゃ困る。
フクなどいらない。
そんなもの、俺のところにこなくて良いから。
ロンドン中のオニよ、俺のところに姿を現せ!
オニの形をした厄災よ、さっさとやってこい。
逃げも隠れもしないから。
全部耳そろえて俺のところにきやがれってんだ!!
その夜、ロンドンの街には豆の雨が降った。
full of beans
初アラゴでした。
・・・・・・節分ネタ?ちょっと微妙ですね。
アラゴ達が相手しているものを考えたら、追い払ってはまずいのでは?と思ってこんなことになりました。
時系列は黒騎士編後、白騎士編前のイメージです。
キャラの掘り下げができていない・・・・・・。
アラゴむずいです。
2011/02/03
何の気無しに見回すと見知った顔が集まっていた。
一人どうしようもなく気に入らない奴がいたから声を掛けるかどうか迷って、迷っているうちに向こうに発見された。
「あ、刑事さん」
「・・・・・・・・・」
そのどうしようもなくいけ好かない奴が、無駄にさわやかな笑顔を向けてきた。
腹の内を知っている俺としてはその上っ面だけの愛想笑いが癇に障る。
「そんなあからさまにイヤな顔しなくてもいいのに」
「うっせ」
どのタイミングで用意していたのか、差し出されたコーヒーをひったくるように受け取った。
「ハント先輩も休憩ですか?」
「まぁな」
控えめな態度で聞いてきたのはココ。
空いていた席を勧めてくれたが、ちょっとだけイスを離した。
油断するとオーラざっぱーん!攻撃で襲ってくるからだ。
わずかに離れた席に、心なしかオーラが意気消沈したように見えた。
対照的に、足下で寝そべっていたコロが嬉しそうにあくびをした。
「ねぇアラゴ。あんた夜暇?」
「あ?」
「夜にね、みんなで『マメマキ』しようって話してたの。一緒にどう?」
「マメマキ?」
リオが聞きなれぬ単語を口にした。
「日本の季節行事らしいですよ。刑事さん」
「・・・・・・お前に説明されると無意味に腹立たしいな」
「カルシウムが足りてないんじゃないですか?そこの骨でもかじってみたらどうです?」
後半の潜めた声に、ギャリーが一目散に逃げ出した。
まぁ別にあいつは居ても居なくてそう問題はないから放っておいていいだろう。
リオとココが居るこの場から離れてくれた方が精神が休ます。
そのうち適当に戻ってくるだろ。
「で?何なんだその『マメマキ』ってのは」
「その名の通り、豆を撒くのよ」
「畑でも作るのか?」
「違うわよ。『オニ』に投げつけて追い払うの」
「・・・・・・オニ?」
「そ。そのオニに向かって『オニハソト、フクハウチ』って言いながら投げるのよ」
「・・・・・・何の呪文だそれは」
次々と飛び出す聞きなれない言葉に、テーブルに突っ伏した。
休憩に来たはずなのに休まる気がしない。
リオが懇切丁寧に説明してくれたけど、その半分も理解できなかった。
わかったのはオニをマメでおっぱらうことと、その際の謎の呪文だけだ。
「リオ先輩。『オニ』って何なんですか?」
ココが質問する。
「ん~。架空の生き物だから説明しにくいんだけど、人の姿をしていて角と牙が生えてる怖い顔の生き物、かな?こんな感じの」
手持ちのノートを一枚破りとり、さらさらと簡単なイラストを描いた。
「こんな風にすごい怪力持ちで、虎柄のパンツを穿いてるの。金棒とかも持ってって、人間に悪いことをするのよ」
「つっても、実在しないんだろ?」
「まぁそうなんだけど。このオニが近くにいると厄災、つまり病気とか不幸事とか、そういう悪いことを呼び寄せやすくなっちゃうの。それを追い払って、代わりにフク、幸せなことを呼び寄せましょうっていう行事よ」
「そのオニって、こっちで言うところのモンスターとか妖精みたいなものと思えばいいですか?」
「うーん・・・・・・ニュアンスとしてはデーモンの方が近いかもしれないわね」
「デーモン・・・・・・悪魔、ねぇ。そりゃあ追い払っちまった方がいいな。なぁセス君」
「何のことです?刑事さん」
あ、くそ。
こいつ二人に見えないように机の下で足踏んできやがった。
やることがセコいんだよ。
「あ!そうだ」
「ん?」
思い出したように大きな声を上げた。
「幽霊、ゴーストなんかもニュアンスが近いわ」
「幽霊・・・・・・」
「そう。不遇の扱いを受けた人が生きたままオニに転化したり、強い恨みを持ったまま死んだ人がオニとして生き返る、なんて言われるもの」
「死んだ奴が・・・・・・生き返る?」
「ま、空想上の生き物なんだけどね」
話疲れたのかうんっ!と背伸びをした。
「本物なんていないから、日本ではオニのお面を付けた人をオニに見立てるの。なんていうか、お遊びみたいなものなの。あんまり深く考えないで?」
「遊びなんですか?」
「だって、オニなんていないもの」
リオが笑う。
コーヒーを一口啜る。
でもさ、と。
言葉を続ける。
「ココちゃんとコロのこともあるし、悪いことを追い払えるなら何でもしておきたいじゃない?」
「リオ先輩・・・・・・」
「日本の厄払いがロンドンでどれだけ効果あるかはわからないんだけどね」
ぺろっと舌を出してはにかんだ。
リオはリオで、先だっての事件に心を痛めていたのだろう。
いろいろ考えて盛り上げようと考えてくれたのかもしれない。
だというのに、俺は・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ハント先輩?」
横から、ココが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「顔色があまり良くないですけど・・・・・・大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。なんでもねぇよ」
「でも・・・・・・」
足下ではコロまでがズボンの裾を咬んでいる。
「お前も、心配すんなよ」
あぁ、なんでか耳が痒い。
「最近立て込んでてちょっと疲れてるだけだって」
「それなら・・・・・・いいんですけど・・・・・・」
「わりぃけど俺、パスするは。早めに家帰って寝るよ」
「無理してまでする事じゃないからいいわよ。私たちだけでしましょ」
・・・・・・リオを纏うオーラがピリピリとして痛い。
断ったから不機嫌になったのだろうか。
「代わりにあんたにはこれあげる」
「ん?なんだこれ?」
差し出された小袋。
見慣れぬ物体に、怪訝な表情になる。
「それが『マメマキ』に使う豆よ。撒いた後、自分の年の数だけ食べると福が来るって言われてるの。マメマキはしなくても、せめてそれだけでも食べておきなさいよ」
「ああ。さんきゅ」
ポケットにねじ込むと、シャリと軽い音がした。
「なぁリオ。あれもう一回教えてくれよ。さっきの変な呪文」
「呪文?」
「『オニハソト、フクハウチ』のことでしょ?刑事さん」
「・・・・・・お前にゃ聞いてねぇよ」
セスが横から口を挟んだ。
それだけで気分が盛り下がるから、こいつが出す不快指数といったら無い。
「それ、逆に言ったりしちゃだめだからね」
「逆、ですか」
「そ。小さい子とかが間違えて『フクハソト、オニハウチ』なんて言っちゃうのよ。でもそれじゃあ『幸せが出ていって、オニがやってくる』ってことになっちゃうでしょ?」
「オニがやってくる・・・・・・」
「アラゴはそそっかしいからそーゆー変なミスしそうなんだもん」
「バカにすんなよ。そんなもん、間違えるわけねーだろ?」
そう、間違えたりしない。
間違いなどでは、ない。
□■□
深夜のロンドン。
街のほとんどが眠りにつく時間。
静かに更けゆく夜を、廃ビルの屋上から見下ろしていた。
今夜は何も起きそうに無い。
根拠はないが直感がそう結論づけた。
「やっと見つけましたよ、刑事さん」
「・・・・・・セスか」
直感は全く役に立たないらしい。
一番やっかいな奴がやってきやがった。
「そこそこおもしろいものでしたよ、マメマキ。刑事さんも来たら良かったのに」
「むしろお前が行ったことの方が驚きだがな」
悪魔が悪魔払いに行くなんて、皮肉も良いところだ。
「別に、どうでも良かったんですけどね。でも刑事さんが困るかと思って」
「あぁ?」
「リオさんにココさん。どちらに何かがあっても貴方の邪魔になると思ったんです。例えば二人を人質にでも取られたら、きっと貴方はとっさの判断を間違える」
「・・・・・・断定かよ・・・・・・」
「否定できるんですか?」
「・・・・・・否定はしねぇよ」
その場になってみなければ、判断なんて下せない。
目の前の問題を無視できるかどうかなんて、わからない。
この行動そのものが間違いかどうかすら、わからない。
わからないけど。
「俺にはこうするしかねぇんだ」
ポケットに入っていた小袋を取り出した。
おもむろに封を切り、中身を鷲掴みにして、思いっきり中に放った。
「『オニハウチ』っ!」
「・・・・・・」
逃してたまるか。
来てもらわなくちゃ困る。
フクなどいらない。
そんなもの、俺のところにこなくて良いから。
ロンドン中のオニよ、俺のところに姿を現せ!
オニの形をした厄災よ、さっさとやってこい。
逃げも隠れもしないから。
全部耳そろえて俺のところにきやがれってんだ!!
その夜、ロンドンの街には豆の雨が降った。
full of beans
初アラゴでした。
・・・・・・節分ネタ?ちょっと微妙ですね。
アラゴ達が相手しているものを考えたら、追い払ってはまずいのでは?と思ってこんなことになりました。
時系列は黒騎士編後、白騎士編前のイメージです。
キャラの掘り下げができていない・・・・・・。
アラゴむずいです。
2011/02/03