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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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当たり前のようにチャイムに伸ばした手を寸での所で引き止めた。

「・・・・・・寝てるかもしれねーのにチャイムはマズいよな・・・・・・」

確実に相手を起こしてしまう。
そうしなくてもいいように俺の手の中には鍵が託されているんだ。

「しかし・・・・・・他人の家の鍵を開けるってのはどうも敷居が高いな・・・・・・」

それも無人ではなく、家人が居ると分かっていればなおさら。
だがここまで来て引き返す訳にもいかず、俺は出来うる限り音を殺して玄関の鍵を開けた。
ドアノブを回せば、キィィィ──と控えめながらも甲高い音が鳴る。

(おいおい、何をやっているんだ俺は・・・・・・別に悪い事しているわけじゃないんだから堂々と入ればいい話だろ?)

思考と行動が全く噛み合わない。
抜き足差し足で家屋に足を踏み入れ、ほとんど同じ手つきで後ろ手に戸を閉めた。

(鍵は・・・・・・掛けておくべきか?あ、いや、ジョーのおっさんも帰ってくるだろうし・・・・・・いやいや、俺の家じゃないんだから開けっ放しってのはマズい・・・・・・か?)

逡巡の後、ロックを掛けることを選んだのがたぶん運の尽きだったのだろう。
静かに降ろしたはずの錠はガシャン!とけたたましい音を立てた。

(っ!?しまっ・・・・・・!)

途端、二階と思われる方向からグルグル響く唸り声。
目にも留まらぬ早さで巨大な影が階段を駆け降り、そして飛びかかってくる!

「のわっ!?」

高速のタックル&のし掛かりに、俺の体は逆らう事も出来ずに後方に転倒。

ガツンっ!

そして、全力で後頭部を玄関のドアに強打した。

「・・・・・・っ・・・・・・ててっ・・・・・・」

胸の上から巨大な影がべロリ舌を垂らしながら俺を見下ろしている。
・・・・・・この際、噛みつかれなかっただけで良しとしておこう・・・・・・。

「ほら、退いてくれよバカ犬」
「ワゥっ!」

何故か上から動こうとしないコロを力ずくで引きずり降ろしたところで、再び階段上から声がした。
今度は唸り声などではない。
おそるおそる、控えめな、そしてちょっとだけ語調のはっきりしない女の声。

「・・・・・・コロ・・・・・・?どうし・・・・・・た、の?」

明らかにおぼつかない足下。
ふらふらと壁を伝いながら階段の一番上から階下を覗く。

「コ・・・・・・ろ・・・・・・?・・・・・・・・・・・・!?」

そしてかち合う視線。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・よ・・・・・・よぉ・・・・・・?」

どうしようもなくて、片手をあげてみた。
なれない笑顔をつけてみたけれど、どうやってもそいつはひきつれて見苦しいだけのものだった。

「せ、せ、せ、せ、せん・・・・・・ぱ、い・・・・・・?」

ココは端から見てもひどく混乱していた。
まぁ驚くなという方が無茶な話だ。

「だろうな、どう見ても」
「なんで先輩が私の家にっ!?ていうか、やだっ!私こんな格好で・・・・・・っ!?」
「おっ、おいっ!?お前まだ熱下がっていないんだろ!?そんなところで暴れるな!」

嫌な予感がして猛ダッシュで階段を駆けあがる。
ほんの一瞬遅れて、コロも追ってきた。

(落ちんじゃねーぞ・・・・・・!?)

しかし悪い予感ほど当たるもので、二階まで後5段ほどに差し掛かった時、ココの体がぐらりと大きく揺れた。
せめて廊下に倒れてくれればいいものを、狙いすましたかのようにこちらに向かってきた。
平素であればほとんど問題なく受け止められる体も、足場の悪さと相手に踏ん張る力がないという悪条件が重なればなかなか分の悪い天秤だ。
重力に抗がうことなく落ちてきたココを右手で抱え、無理矢理伸ばした左手で手すりを掴んだ。

「っ!?・・・・・・っ、ギリッギリセーフ・・・・・・」

俺よりも早くに階上に駆け上がったコロが上から引っ張ってくれなければ、二人でもろとも転がり落ちていたことだろう。

「たく・・・・・・どこまで心配掛ければ気が済むんだこのバカは・・・・・・」
「ふぇぇ・・・・・・スミマ・・・・・・せん・・・・・・」
「立てるか?」
「は、イ・・・・・・大丈、夫・・・・・・」
「・・・・・・じゃねぇな。ったく、ホントに世話の焼ける奴だな」

自立しようとしたが傍目にもふらついていることがわかる状態。
手を離したら今さっきの救出劇が水の泡になることは明白だった。

「運ぶから暴れるんじゃねーぞ。暴れたら落とすからな」

一言だけ断りを入れて(半ば脅しだったような気がしないでもないが)俺はココの体を抱き上げた。
顔がさっきの倍くらい赤くなった気もするが構ってられるか。
二次災害が起きる前にこいつをベッドに押し込むのが先だ。

「バカ犬。部屋はどこだ?」

ゥゥゥ・・・・・・と低い唸り声を上げたが、一人では運べないことを悟るや渋々歩きだした。
ことココに関しては聡い犬だ。
対して腕の中でカチンコチンに固まったココがしどろもどろに俺に尋ねてきた。

「あの・・・・・・せん、パイ・・・・・・?」
「んあ?」
「なんで・・・・・・」
「あぁ、ジョーのおっさんに頼まれたんだよ。お前が風邪引いて寝てるんだけど、どうしても今日中に片づけないとやばい書類があるからおっさんが帰るまでお前の看病しろって・・・・・・」
「・・・・・・パパのバカ・・・・・・」
「?なんか言ったか?」
「なんでもないですっ!」

そんな短い会話が終わったあたりでコロが立ち止まってワゥ!と小さく鳴いた。
どうやら此処がココの部屋なのだろう。
不躾とは承知で部屋に入った。

「あ・・・・・・あんまり見ないで、くださいね・・・・・・?」
「見るか」

とは言ったものの、部屋に入れば目に入ってしまうのは当然のことだ。
立ち入った室内は思いの外こざっぱりとした印象を受けた。
女の部屋なんてレースとかフリルとかそんなもんばかりだと思っていたのだが、それからすれば地味と言えるのかもしれない。
もっとも、小汚い俺の部屋と比べれば綺麗で上等なものなのは間違いないが。

それほど広くない室内。
目的のベッドはすぐに目に付いた。
興味がないと言えば嘘になる好奇心を振り払うべく、ずかずか大股でベッド脇まで運んだ。
なんだか自分のしていることが猛烈に恥ずかしくなって放り出しそうになるのをどうにか堪え、ベッドに横たえた。

「さっさと寝てろっ!」
「は、ハイ」

もそもそと緩慢な動作で布団に潜り込んでいく。
ひとまずこれで二次災害の恐れは無くなった。
俺はようやく一息つくことができた。
ココが布団の中からぼぉっとした視線で俺を見上げている。

「・・・・・・何だよ?」
「せんぱい・・・・・・顔、真っ赤・・・・・・っ、!?」

突然ココはすっぽり頭まで布団を被ってしまう。
おいおい、何なんだよこの反応は!

「・・・・・・あの~、ココ・・・・・・さん?」
「・・・・・・」
「え~・・・・・・っと・・・・・・」
「・・・・・・」

俺が何をしたっていうんだ!?
・・・・・・いや、いろいろしちまってることは認めるけど、だけどそれは不可抗力ってもんだろ!?

「おいココっ!」

頭の先までをすっぽり覆っているシーツをひっぺがそうと掴めば、病人とは思えない力で抵抗された。

「~~~っ!だ、だめですぅぅぅっ!!!」
「何でだ!理由を言え理由をっ!!」
「だ・・・・・・って・・・・・・せんぱいにかぜ・・・・・・うつっちゃう・・・・・・」
「・・・・・・は?」 
「こんなに迷惑かけて・・・・・・その上、せんぱいに風邪まで引かせたりしたら・・・・・・私・・・・・・どうしていいか・・・・・・」
「・・・・・・」

・・・・・・俺は言葉もないが、多分ココは大真面目にそう思っているんだろう。

「ふ、ぇっ・・・・・・」
「っ!?ばかっ!泣く奴があるか!?」

あぁっ!これだから女って奴は!!

「だって・・・・・・だってぇ・・・・・・」
「そんな柔な鍛え方してねーし、もし移ってたとしたら今更だろーが!」
「それは・・・・・・」
「病人が人のこと気にしてんじゃねーよ。早く治すことだけ考えてろ、バカ」

ようやく、おずおずと布団の隙間から顔の半分くらいを覗かせた。
シーツの白さも相まっているのか、その顔はやたらと赤くなっているような気がした。

「・・・・・・俺のせいで熱が上がったとかだったら承知しねぇぞ・・・・・・?」

額に向かって手を伸ばしかけ、

(何をやっているんだ俺は・・・・・・)

自分の行動を罵倒した。

「・・・・・・外出てるから、熱計っとけ」
「あ・・・・・・はい」

ドアの扉を後ろ手に閉めた。
背中を扉に預けて、ずるずると床に尻を着いた。

「・・・・・・何してるんだ俺は・・・・・・」

触れるわけもないのに。
こんな体で、何をするつもりだった?
触れば傷つけるだけの体で。
布越しにしか触れない体で。
体温なんて感じられるわけもないのに・・・・・・。

「・・・・・・バカは俺の方だ・・・・・・バカ・・・・・・」

無性に、泣きたい気持ちになった。
あぁ。
本当にあいつの風邪を貰ってしまったのかもしれない。
風邪が、俺の気を弱くしているに違いない。
そうに決まっている。
そうでなくては、困る。

すぐそばでコロがクゥンと大人しく鳴いた。
こいつも部屋を追い出されているクチなのだろう。

「・・・・・・あいつを、頼んだぞ?」

右手で頭を撫でる。
珍しく抵抗しようともしない。

「俺の分まで、守ってくれよ?」

コロは返事もしなかった。
ただ、ひどく悲しい色をうつしていた。


sickness


診断メーカーで出た結果を元に殴り書きました。
それ以上でもそれ以下でもないです。
甘あまで終わらせるつもりが、最後どシリアスで落としてしまった・・・・・・。
絶賛反省中です。
2011/03/01

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たまの非番。
いつもよりほんの少し遅く起きる朝。
カーテンを開けると眩しい日の光が射し込む。
お天気もいいしお出かけ日和。
前々から予定していた買い物に出かけよう。
心に決めてベッドから足を降ろすと、もふっとした何かに足先が触れた。
パートナーのコロだ。
足下で寝ていたコロがクゥンと小さく甘えた声を出す。

「ご飯、ちょっと待っててね」

顔を洗って身だしなみを整え、着替えをすませて自分の分とコロの分の朝ご飯を用意する。
パパは今日も朝早くに家を出て行ってしまったらしい。
非番だからと気を使って起こさずに行ったのだろう。
少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、コロと二人でちょっと遅めの朝ご飯を食べた。

ご飯の後、日頃溜めがちな洗濯物を片づける。
お天気もいいからきっと気持ちよく乾いてくれることだろう。
それからコロのブラッシング。
お出かけに連れていけないからその分の謝罪も込めていつもよりも丁寧に毛を梳いてあげた。
コロもそれがどういうことか察したみたい。
ブラッシングが終わるととことこリビングへ向かい、日当たりの良い窓際を陣取って早速昼寝の体勢に入ってしまった。

「ごめんね?コロ」

鳴き声こそ漏らさなかったが、行ってらっしゃいとばかりに尻尾を数回パタパタと振って答えて見せた。
パートナーのご機嫌取りには成功したらしい。
私は部屋に戻って外出の準備をした。
クローゼットを開けて洋服を見繕う。
さて、何を着ていこうかしら?
仕事中がもっぱらパンツスタイルのせいか、最近私服ではスカートが多い。
今日はお天気もいいし、気温も高そうだから少し薄着くらいのでいいかもしれない。
お気に入りのワンピースに薄手のカーディガン、それから少しだけヒールのあるミュールを選んだ。
おかしなところがないか、くるり一回転。
うん、大丈夫そう。
鏡の前ではにかむ。
誰に見せるわけでもないのにこうやってあれこれ考えてしまうのは女の子の性なのだろうか?

ワンピースと同色のハンドバックを手に取り、コロに留守を頼んでから私は家を出た。
車を使ってもいいのだけれど、市街地に行くにはあまり便利が良くない。
普段はコロがいるので使用しないバスに乗ることにした。
ローテーションで回ってくる非番だったので特に意識していなかったが、世間一般では今日は休日に当たる日だったみたい。
バスはとても混んでいた。
やっぱりコロを連れてこなくて正解。
町中では訓練された犬に対しておもしろ半分にいたずらをしてくる人が少なくない。
そうでなくてもこの混雑、不意に踏まれてしまうことは多々あった。
承知で付いて来たがることはあったが、パートナーとしてはあまり容認できない。
怪我する可能性があるのを見過ごすことはしたくない。

だんだんと市街地に近づくにつれ、乗車数は多くなる。
身動き取れないというほどではないが、かなり窮屈。
バス停に止まり、ぱらぱらと人が降りてほっとする間もなく、同じくらいかそれ以上の人が乗車していよいよ動けなくなる。
バスがガタン!と揺れれば体のどこかが誰かにぶつかってしまう。
手すりを掴んでどうにか倒れないように踏ん張った。
バスは交差点に差し掛かり、右に大きく車体が傾き乗客もそれに習うように傾いた。

(・・・・・・え?)

そんなおり、ふと感じた違和感。
一瞬触れただけならば、状況が起こした事故だったと思っただろう。
けれど体に触れた感触が、いつまでたっても離れない。
それどころか太股あたりに触れた誰かの手が、明確な意図を持って這い上がってくる。

(痴漢!?)

確認しようにもこの混雑。
まともに自分の足元を見ることすらできない。
けれど確かに触られている。
せめて容疑者の特定だけでも、と視線を巡らせた。
当たり前だけれど、いかにも痴漢然とした人などいない。
距離間などから容疑者候補は三人まで絞れた。
けれどそれ以上はどうしても特定できない。
これじゃあ現行犯で捕まえられない。
思考を巡らしている間も、誰かの手は確実に太股から膝へと下がり、スカートの裾を手繰り上げようとしていた。

(やっ・・・・・・!)

素肌の上を撫で上げられ、嫌悪感と恐怖に体を支配される。
ぞわりとした、まるで背中を虫が這い上がるような感覚。
ここまで来ても悲鳴の一つ上げなかったのは、声も上げられないほど怖かったからではない。

(まだダメ・・・・・・っ!!)

いうなれば、私が警官だから。
現行犯逮捕しなければという、警官としての一種の使命感があったから。
不躾にまさぐる手はこちらが抵抗しないとみると次第に動きをエスカレートさせていく。
体が震えているのが自分でも分かった。
それでも私は声を上げることができない。
せめてバスが止まって人の流れが出来れば・・・・・・。
この手を無理矢理にでも掴みあげることが出来れば・・・・・・。
もしも取り逃がせば容疑者はまた誰かを餌食にするだろう。

(そんなことは許せないっ)

何が何でも捕まえなければ・・・・・・。
心に固く誓って体をまさぐる手に耐えた。
怖くても、気持ち悪くても、相手がボロを出すその一瞬をのがす訳にはいかない。
それでも、こぼれそうになる涙を、こみ上げてくる吐き気を、使命感だけでやり過ごすのはいよいよ限界だった。

「よぉ、おっさん。これなんだか分かるか?」

聞きなれた声に、ハッと意識が明瞭になった。
声のした方に振り返る。
居たのは、見慣れた銀糸。
私の背後に位置していた男に掲げた警察手帳。

「痴漢の現行犯だ。恨むんなら自分の行いを恨みな」

逃げだそうとした男の腕を捻り上げた。
誤解だ、人違いだ、冤罪だ、証拠はあるのか、男はわめき立てる。

「お前が痴漢を働いた相手も警官でね。泣き寝入りはしてくれないだろうよ。なぁ、ココ?」
「・・・・・・ハント・・・・・・先輩・・・・・・?」
「何呆けた顔してるんだ。降りるぞ」
「あ、はい!」

ようやく停車したバス。
先輩は人をかき分けて容疑者を引っ立てていった。
流れに逆らわぬよう、視線の先に揺れる銀糸を見失わぬよう、私も後を追った。


□■□


近くを巡察していた警官に事情を説明して男を引き渡す。
現行犯ということもあり、男も観念して容疑を認めた。
私も掻い摘んで状況報告は済ませたが、後日改めて参考証言を取るかもしれないと忠告されて今日のところは解放された。
容疑者がパトカーに詰め込まれたのを確認して、ようやく人心地が付いた。

「災難だったな?」
「ハント先輩・・・・・・」
「っ、なんて言うと思ったかこのバカっ!!」
「!?いたぁっ!!」

・・・・・・グーで殴られた。

「なんでさっさと声を上げないんだお前は!?バカか?バカなんだろう?バカなんだな!?」
「ひっ、ひどいです先輩!!」
「ひどいもクソもあるか!俺がたまたま乗り合わせていたからいいようなもの、あのままどうするつもりだったんだ!?こんな時に限ってバカ犬も連れてないし、ホント何考えているんだお前は!一人で捕まえるつもりだったのか!?何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「だ!だって、現行犯で上げなきゃ逮捕なんて出来ないし・・・・・・」
「それで良いようにされてたって言うのかこのバカっ!捕まえることよりも自分の身を守ることを考えろ!!」
「せんぱっ・・・・・・!」

強い力で引き寄せられ、先輩の胸にポスリと収まった。

「大丈夫か?」
「せん、ぱ・・・・・・ぃ・・・・・・」
「怖かったんだろ?悪かった。助けるのが遅くなっちまって・・・・・・」
「せ・・・・・・ぱぃ・・・・・・っ!」

生々しいまでの感触がリフレイン。
やりこめていた恐怖を抑圧するものがなくなったとたん、腰に力が入らなくなる。

「お!おい!?ココっ!?」

倒れかかった私を、先輩は危なっかしい手つきで支えてくれた。
辛うじて踏ん張ることは出来たけれど、とても大丈夫なんていえる状態ではないのは明白で。
ほとんどの体重を先輩に預ける形になった。

「・・・・・・あんま無茶すんな・・・・・・」
「・・・・・・ハイ・・・・・・」
「次同じようなことしたらゲンコツじゃすまさねーからな。覚悟しとけ」
「はい。・・・・・・先輩が居てくれて良かったです・・・・・・」
「・・・・・・おぅ」

グーで殴った頭を、先輩は優しく撫でてくれた。


□■□


「で?お前はバカ犬も連れないで一人で何してたんだ?」
「あ・・・・・・、と、ちょっと買い物に・・・・・・」
「しゃーねぇ。付き合ってやるよ。俺も非番だしな」

!?これってもしかしてデートのお誘い・・・・・・!!
でもでも、私が買いに行こうとしてたのは・・・・・・。

「一人で大丈夫ですよ!」
「うるせぇ。お前はボケっとしてるから一人にしておくと余計心配なんだよ。いいから行くぞ!」
「せ、せんぱーいっ!」


なんて言っていたのが20分前のこと。


「・・・・・・」
「えっと・・・・・・ここ、何ですけど・・・・・・」
「・・・・・・いやいやいやいやいやいや・・・・・・。マズいだろ、無理だろ、ていうか前にもこんなことあったぞ!?」

恥ずかしい!恥ずかしい!!
でも、ここまで来たんだから私だって頑張らなきゃ!

「ハント先輩はどんな下着が好みなんですかっ!?」
「・・・・・・いやいや、おかしいだろ!?ちったー冷静になれよ!?」
「私、先輩が好きな奴なら頑張って穿きますから!き・・・・・・キワドイ奴でも、先輩が好きっていうのなら頑張りますから!!」
「うっせぇぇっ!!勝手に好きなのはけよぉぉっ!!」
「あ、せんぱぁぁいぃ!待ってくださいよぉぉ!!どれが、どれが先輩の好みなんですかぁ!?せんぱぁぁぃ!!」

初めてのデートは、先輩との追いかけっこになりました。
ちょっと・・・・・・残念。


たまの休みに。



あ~アラココは書いてて楽しいなww
わっふるわっふる。
ココたんかわゆす!
なんか甘あま展開に耐えきれなくって最後にオチを入れてしまった。
自分の未熟っぷりがよく分かります。
※痴漢は犯罪です!絶対してはいけません!!※
2011/02/28

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パタパタパタ、というのはある者の特有の足音だ。
おおよそ成人男性の体重ではない軽い音。
一つにしか聞こえない二人分の音。
振り返らずとも誰だか解る。

そして、数秒後に自分がどうなるかも。

「「はーきゃっとー!!」」

名前を呼ぶのと同時にタックルの食らわせるのもこの者達の特徴だ。
いくらやめろと言っても直る気配がない。
それどころか年々威力が増していくのだから恐ろしいことこの上ない。
背後からの突進にあっけなく地面に激突させられた私は、特にどうということもなく二人を背中に張り付けたまま起きあがった。
このリトルピープルの体というのは何かと都合がいい。
バンパイアのような特殊な力が使えるわけではないが、体躯に似合わぬ怪力があるし、日の光を浴びても死ぬことがない。
身長がないのと、指が太くて細かい作業に向かないのが難点だがそれを差し引けばなかなか快適に生きられる。
こうやって双子の行く末を見守ることができるのだから、それだけで文句などありはしないのだ。

「飛びつくのはいいがタックルはやめろ、と何度言ったらお前達は覚えてくれるんだ?」

懐いてくれていることが嬉しいのが半分、学習しないことに呆れるのが半分。
背中にひっつく二匹に投げかけたが、残念ながら私の言葉など微塵も届いていないようだった。
自分達の倍はある私の体を二人はよじ登ってくる。

「・・・・・・お前達は何をしているんだ?」
「えっとね、じじつかくにん!」
「げんばけんしょー!」
「・・・・・・」

どこで覚えたのだろうか、そんな言葉・・・・・・。
大体、何の事実確認で現場検証なのだろうか?
二人は私の肩口の左右をそれぞれ一匹ずつ陣取り、おもむろに被っていたフードを引きはがし、我々リトルピープルの命を守る特殊なフィルターが内蔵されたマスクをむしり取った。

「あれー?ねぇぶれだ、はーのあたまおみみがないよ?」
「てぃだ、はーのかおにはおひげもないよ?」
「へんなのー!」
「へんなのー!!」
「・・・・・・何をやっているんだお前達は・・・・・・」

嘆息混じりのため息をついて、二人の襟首を掴んで肩から降ろした。
まるで子猫のように宙ぶらりんになった二人はきゃっきゃきゃっきゃと騒ぎだす。

「てぃだのかっこ、おかーさんにはこばれてるこねこみたいー!」
「じゃあ、てぃだねこさん?」
「でもおみみはないねー」
「おひげもはえてないよー」
「しっぽもないや」
「でもつめはあるよ」
「にゃーってなける?」
「にゃーにゃー!おなかがすいたにゃー!」

勝手に開幕したお子さま劇場に終着点はない。
どこか適当なところで割り込まなければあっちこっちに話を転ばせていつまでも二人で楽しく遊んでいる。

「何がしたいんだお前達は」

にゃーにゃー鳴いていた二匹がハタ、と鳴くのをやめて顔を見合わせる。
くりくりとした目でお互いをのぞき込む。

「なんだっけ?」
「なんだっけ?」

鏡写しのようなタイミングで二人が首を傾げた。
おいおい、お前達がわからなくて誰がわかると言うんだ。
私は超能力者でも何でもないんだぞ?
心の中の訴えに兄のブレダが「あ!」と声を上げた。

「はーがねこさんだってきいたんだ」
「そうだ、きいたの!」
「だからぼくたちたしかめにきたの」
「きたのー!」
「私が、猫?」
「うん!」
「うん!」
「・・・・・・誰がそんなデマを・・・・・・」
「でもねこさんじゃなかったねー」
「おひげもおみみもなかったもんねー」
「ふしぎだねー?」
「ふしぎだねー!」

話の始点も終点も見えなかったが、宙ぶらりんのまま運ぶのもどうかと思い二匹を床に降ろした。
二人が私の顔をじっと見つめてくる。

「はーはねこさんじゃない?」
「違うな、残念ながら」
「はーきゃっとってなまえははーがむかしねこさんだったからっていってたのにねー」
「誰だそんな適当な法螺を吹いたのは・・・・・・」

私の綴りは『HARKAT』。CATではない。

「ぱぱがうそついたのかな?」
「ぱぱはうそつきさんだ!」
「きつつきさん?こつこつこつこつきつつきさん?」
「ちがうよてぃだ、きつつきさんじゃなくてうそつきさん」
「きつつきさんとうそつきさんはちがうの?」
「・・・・・・違うだろうな」
「じゃぁきつつきさんはうそつかない?」
「・・・・・・それは・・・・・・どうだろうな」

きつつきだって嘘をつくことだってあるだろう。
とすれば一概に間違いだとは言い切れない。
わたしとて、前世で猫であった可能性が皆無とは言い切れない。
カーダ・スモルトの前は、どこかで猫として気高く生きていたかもしれない。

「きつつきさんはうそつきさんじゃないけど、うそつきさんはきつつきさんなの?」
「やーこしーねー」
「・・・・・・そう難しく考えることもないだろう」
「なんでー?」
「なんでー?」
「誰にだっていくらでも可能性というものは残されているんだ。何者にもなれるし、何者にもならない。後は自分が何を望むかだ」

たとえば、私が再びの生を望んだように・・・・・・。
『カーダ』が死んで『ハーキャット』が生まれたように。
望めばどうとでもできる。
どうにかして何とかできる。
その体現が、私自身だ。

私が二人の頭を撫でると、二人は複雑そうな顔をした。
流石に難しすぎただろうか?
とても子供とは思えないほど理解力のある子達だからついいつも通りに話してしまった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「はー、てぃだはね・・・・・・」
「てぃだ、だめだよ。それははーにもないしょ」
「でも・・・・・・」
「ぼくたちだけのひみつってえばんなにいわれたよ」
「・・・・・・むぅ・・・・・・」

ティーダがほっぺたを膨らませた。
私は眉をひそめた。
先ほどまでにゃーにゃー騒いでいたのとは雰囲気が違う。
何か、もっと重大な・・・・・・。
例えば、この子達の未来に関わるようなこと──そう直感した。
ティーダを窘めたブレダに問う。

「・・・・・・お前達は何の話をしているんだ・・・・・・?」
「えへへ~。ひみつ~」
「・・・・・・」
「でも、はーにはいつかはなしてあげてもいいのかな?」
「そう・・・・・・なのか・・・・・・?」
「だってはーきゃっとだもん」
「?」
「きっとぼくたちのはなしをきいてくれる」
「そうだねー。はーきゃっとだもんね」
「・・・・・・!お前達・・・・・・」

知っているんじゃないか。
『harcat』ではないと。
やはりこの子達は聡明だ。
聡明すぎると言ってもおかしくない。
それこそ我々には計り知れないモノをたった二人で抱えているのかも知れない。

「でもてぃだはねこさんのほうがよかったなー」
「ぼくもー」

二人はしょんぼり肩を落とす。
どちらが二人の本当の顔なのかわからないが、少しくらい付き合ってやっても良い気分だ。
なにせ猫というモノは移り気が激しい気分屋だからな。
たまにはこういう機会があってもいいだろう。

私は二人の方にちらりと意味ありげな視線を送る。
「?」と疑問符を顔に浮かべて双子がこちらに向き直った。

「意外と私は猫かもしれないぞ?」
「えー?おみみもないのに?」
「おひげもないのに?」

予想通りに食いつく二人。
マスクを外して私はギラリと光る歯を見せつけた。

「化け猫だからな。耳もしっぽもとうの昔に捨ててしまった」

「「おおおおおおっっ~~!!」」

とたん、二人の目の輝きが変わった。

「すごいすご~い!」
「はーはやっぱりねこさんなんだー!」
「ばけねこ~!」
「秘密だぞ?」

・・・・・・誰も信じないだろうが、な。

「約束してくれるか?」
「するー!」
「はーとてぃだとぶれだのさんにんのひみつ~!」
「あぁそうだ。誰にも話すなよ」

共有する秘密。
たったそれっぽっちで二人の抱えるものの一端を担えるとは思わない。
それでも、僅かでも軽くなるならばいつか話してくれるといい。
力にはなれなくとも、話を聞くことならいくらでもできる。

それが。


それが、死してなお蘇った私の役割なのだから。


Hark at you



hark at → ~を聞く、の意。
ハーキャットはみんなの相談相手になればいいと思うんだ。
2011/02/24

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東の空が明るみ始めた街を、男は一人歩いていた。
乾ききっていなかった自分の服は朝の冷気でより一層冷やされていく。
その冷たさが、今は心地よかった。
今朝方まで降り続いた雨により清浄化された空気。
鼻から吸えばツンと奥を刺激する。
こんな朝が、男は好きだった。
群れてうごめく連中が起き出す前の、清廉な街。
本来あるべき姿。
そんな街を見て回るのはもはや男の習慣だった。

お決まりのコースをぐるりと回る。
今日はイレギュラー地点からの出発ではあったが、平素通りに道を辿った。
ひとしきり歩いても特に異常は見あたらなかった。
時折眠そうにあくびをする猫を見かけたくらい。
それ以外は何の変哲もない、ありふれた街並みだった。

「・・・・・・異常なし・・・・・・か」

ぽつりと漏らす。
どこにも異常はなかった。
おかしいくらいに、正常だった。
男が地に着けられたのに、それで正常を保っているなどそれこそ異常ではないか。
昨日の己の醜態を思い出し、反吐が出そうになった。

(この僕が手も足も出せずにいなされた・・・・・・)

ギリッ、と奥歯が鳴る。
あのような屈辱は初めてだ。
倒されるなら、いっそ殴られてしまっていた方がマシだったに違いない。
息の根を止めるほどの狂気で、殺されていた方がマシだった。
思わせるだけの圧倒的な強さを内に秘めていた。
なのにその片鱗も垣間見せることもなく、男は姿をくらましてしまった。

(くそっ・・・・・・)

男は通常の巡回コースから外れてある場所に足を向けた。
昨日男が屈辱的に地に着けられた、例の細い路地だ。

たどり着くまで、周囲に念入りに意識を向けた。
どんなに些細な変化すらも見逃さないつもりで、注意深くあたりを見回す。
だんだんと朝日が射し込んできたが、まだ人気はほとんど見られない。
男の足音だけがいやに響く。

(そう言えば・・・・・・)

男はふと思う。

(鍵も掛けずに出てきたのはまずかっただろうか・・・・・・?)

自分のではない家のことが脳裏によぎった。
人が活動するような時間ではないとはいえ、年端のいかぬ少女が居る家を鍵も掛けずに出てきたのは総計だったかもしれない。
おおよそ常人とは思えない少女のことだから、まぁ安否の心配はいらぬだろうがやはり少し気がかりだ。
せめて少女が目を覚ます前に戻ってやらないといけない。
時間を確認しようと、定位置のポケットに手を伸ばす。

「・・・・・・あれ?」

自分で取り出した記憶もないが、あるべきはずの携帯電話はそこにはなかった。
周辺を探ってみたが出てくる気配はない。
そう言えば、この服は昨晩少女が洗ってくれている。
その際に取り出したまま、どこかに放置されたのかもしれない。
別段見られて困るような情報も入っていないが、帰ったら回収しよう。
日の出の状況と体内時計を比べて、今が六時前後であると目測。
自身を中学生とのたまった彼女が起き出すまではどのくらいだろうか?
幸い、例の細い路地は彼女の家から十分も離れていない場所にある。
今から帰ればちょうど出掛け際にセットしてきたご飯も炊けていることだろう。

つらつら考えている内に、昨日の場所に戻ってきた。
通りから眺めるその場所は暗く。
目を細めても、奥までは見渡せない。
フラッシュバックする屈辱を奥歯ですりつぶして足を踏み入れた。
歩数にして僅か十歩ほどで路地は大きく右方向に折れる。
その、折れ曲がる直前。
ちょうど、昨日の自分が倒れ伏していた場所に立つ。
未だ乾かぬ日陰の場所ではあったが、血の跡はかけらも残っていなかった。
朝方まで降り続いた雨がその痕跡を綺麗に洗い流してしまったのだろう。

「・・・・・・っち・・・・・・」

足下の水たまりを蹴り、苛立ちを露わにした舌打ちを一つ漏らした。
せめて、何か足掛かりになるものでも残ってやいないかと期待した自分が愚かしい。
あれだけの手腕のものがそんな平凡なミスをやらかすはずが・・・・・・。

「私は『これ以上深入りするな』と忠告しませんでしたか?」
「っ!?」

背後に振り返る。
ちょうど、通りと路地の境目あたりに人が立っていた。
朝日が逆光となり顔はよく見えない。
しかし、その人物が纏う空気には覚えがあった。
足音はおろか、気配すら希薄な人物などそうそう居るものではない。

「昨日の・・・・・・」

男のプライドを完膚無きまで傷つけた存在。
反射的に仕込んでいる隠し武器に手を伸ばす。

「君はもう少し賢い人間だと思っていたのですが、どうやら違ったようですね」
「うるさいよ」
「そういう無駄なことはやめませんか?『私には敵わない』と、君も解っているのでしょう?せめてその程度には利口であってくれると助かるのですが・・・・・・」
「うるさいって言ってるのが聞こえないの?」
「聞く耳持たず、ですか。いいでしょう。君の手を引かせるにはプライドを折る程度では足りなかったというわけですね」

背中に朝日を背負った人間は、腰を深く沈めて構えを取った。

「あの子の邪魔になるのなら、力ずくでもねじ伏せてあげましょう」


□■□


ほんの、数分後。
男は朝焼けに染まる空を見上げながら、宙に舞った。
地面に叩きつけられる直前、脳裏をかすめたのは少女の顔。

(そういえば、結局名前も聞かなかったな・・・・・・)

何の断りもなく居なくなったことを、少女は怒るだろうか?
だとしたら困った。
男は年頃の少女のご機嫌取りの方法なんて知らないのだ。
蹴り飛ばされてこんなことを考えるだなんてどうかしている。
頭のネジが数本まとめて吹っ飛んでしまったに違いない。

吹っ飛んだネジと一緒に、男は意識も手放した。



第6-β話、ヒバリside話でした。
今回も安心のローテンションです。いい加減参りますね。
謎の(笑)人物も出てきていよいよ物語も佳境に差し迫っているのでしょうか?
こればっかりは書いている本人にも解りません!
毎度のお約束も、もしかしたらこれで最後になるかもしれません!
ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです。
今しばらくゆるりとお付き合いくださいませ。
2011/02/21

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「・・・・・・バカみたい」

少女は自分自身にそう言った。

何を期待していたんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
こんな場所には誰も寄りつかない。
こんな私には、誰も近づかない。
わかりきったことなのに、今更何を期待したんだろう。

「ほんの・・・・・・気まぐれよ・・・・・・」

全部今更。
期待など当に捨てたと思っていた。
向こうから慌てて逃げていったと思っていた。
それでも、私は未練たらしく何かにすがろうとしていた。
そんな自分が許せない。
自分が傷つくだけの儚いモノに何を求める。
忘れるの。
あの人のことなんか。
そうじゃなければ耐えられない。
一人で抱えられるモノなんて、ほんの僅かしかないのだから。

何もなかった。
何も起こらなかった。
幸せな夢を見ていただけ。
幸せに餓えていただけ。
ただそれだけ。
ここには誰も訪れなかった。
私はいつも通りに、一人きりで夜を明かした。
それだけ。
それだけだ。

少女は布団の中から這いずり出た。
のろのろと緩慢な動作で、自らの温もりに後ろ髪引かれながら布団を片づけた。
何故か出してしまったもう一組の布団も片づける。
顔を洗いに風呂場に向かう。
洗濯篭には何故かバスタオルが二枚も入っていた。
昨日雨で濡れたから使ったのだったかしら?
記憶が曖昧だ。
気を引き締めるつもりで冷たい水で顔を洗った。
指先がジンっとするほど冷たい水。
冷えきったこの家にお似合いの水。
脳の中のもやもやとしたモノが洗い流されるまで、何度も何度も水を浴びせた。
十数度目で、ようやく思考がはっきりし出した気がした。
鏡をのぞき込む。
大丈夫、いつもの自分だ。

完全に冷えきった顔をタオルで拭う。
昨日までの雨に湿気ったタオルだったが、そちらの方がほんの少し温かかった。
窓の外を見た。
久方ぶりの朝日が射し込み始めていた。
汚れが洗い流された街が、きらきら光って眩しい。
今日は晴天になりそうだ。
洗濯物を片づけてしまおう。
今まで部屋干ししていたモノもまとめて外で干し直すんだ。
気持ちがいいに違いない。
少女は寝間着を脱ぎ捨て制服に着替えると、再び洗面所に戻った。
途中、──ピィィィ、甲高い電子音が響いた。
何の音であるか、理解するのに優に10秒は要した。
音源に目を向ける。
久しく使った記憶のない、炊飯器だ。
炊きあがりの音だったのだろう。
今は保温にランプが灯り、蒸気口からご飯の香りが漂ってくる。

「・・・・・・なんで?」

少女は小首を傾げた。
お米をセットした記憶なんてないのに、不思議なこともあるものだ。
疑問に思いながら台所を通り抜けた。
少女は洗濯篭に入った洗い物を色柄なんて気にせずに洗濯機に放り込む。
昨日の雨で濡れた制服やタオルを無造作に移し変えた。

「あれ・・・・・・?」

篭の底に、見慣れないモノがあった。
平べったい、長方形のモノ。
恐る恐る手に取った。

「携帯・・・・・・電話?」

恐ろしシンプルな作りで、本体は黒一色。
ストラップの類は一つも付いていない。
もちろん、少女のモノではない。
少女は携帯電話など持ってはいなかった。

「・・・・・・っ、なんで・・・・・・っ・・・・・・」

少女は、その場に崩れ落ちた。
少女のモノではない携帯電話を胸に抱えて、涙を零す。

「なんで・・・・・・居ないんですか・・・・・・っ」

何もなかったはずなのに、あの人の痕跡だけはこんなにも残っている。
夢を見ていただけなのに、あの人の気配だけはこんなにも残っている。
なのに、居ない。
どこにも居ない。
また、私を置いて行ってしまった。
堪えられなくて、少女は男の名前を呼んだ。
呼ぼうとした。

「っ・・・・・・!?」

そして、初めて気が付いた。
自分が、男を呼ぶ名前すら知らなかったことを。

思い立って、握りしめていた携帯電話を開いた。
携帯電話とはプライベート情報の塊。
男のことが何か解るかもしれない。
勝手に覗くことは悪いと知りながら、それでも少女は携帯電話に手をかけた。
開いた画面は、真っ暗。
ボタンをいじっても反応がない。
すぐさまパワーボタンを押した。
一度押す。
反応はない。
もう一度、もう一度。

「・・・・・・なんで、なのよ・・・・・・」

何度押しても、携帯電話は一向に反応を見せてはくれなかった。

外はあんなにも晴れ渡ったというのに、見つめた画面の先はブラックアウトしたままだった。




第6-α話、イーピンsideのお話でした。
ようやっと本格的に確信に迫れてきた気がするのは私だけですか?
つか、やっと気づいてくれました。
お互いの名前を知るのはいつになるんでしょうね?
そろそろ名前を出さないとヒバピン詐欺と思われそうなので、いい加減名前を聞いてください。お願いします。
もう、お約束のようになっていますね。
一応書かせてください。
ヒの字もイの字も出てきませんが、これはヒバピンです。
2011/02/17

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