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絶対に、僕の所為じゃない。
ならば何が原因か、強いて言うならば―――タイミングだ。
誰に悪気があったわけじゃない。
誰にもこんな事態は予期できなかったんだ。
だからこれは、不可抗力というやつなんだ。
そうに決まっている。
昼寝から目が覚めたら僕のハンモックにエブラの相棒、なんて言えば格好いいけどつまりは蛇が、巻きついてて。
びっくりした拍子に大声上げて無理やり引き剥がして投げ捨てて。
蛇は突然のことにパニックを起こしてテントの外に飛び出してしまって。
慌ててエブラが取り押さえようと追いかけて。
飛び出したところで次の衣装用の大量の布を抱えたトラスカにぶつかって。
お約束通り、エブラはそれに絡まってしまって。
抜け出すのを待つ時間も惜しくて、僕はエブラを置いて蛇を追った。
時間は夕刻に差し掛かっていて地面を這い蹲るように動く蛇の姿は凄く追い難い。
こんな時ばかりは半バンパイアで夜目が利いて良かったと素直に感謝。
キョロキョロと姿を探して視線を巡らせた時、視界の端っこ、テントの向こう側にサッと引っ込んだ影を捉えた。
よし!見つかった!!
今さっきの影を追って僕もテントの向こう側へ足を速めると同時に、心の中でホッと安堵の溜め息を吐く。
そちら側は基本的に生活用資材を置いておく所なので、夕刻のこの時間帯ならショーの準備のため人は少ないはずだ。
エブラの蛇は普通ではありえないくらい大きい。
皆見慣れているとはいえ、下手に手を出して怒らせればフリークの一人や二人、簡単に絞め殺されてしまうところだ。
とにかく被害が少なく捕まえられそうで良かった。
蛇を刺激しないように出来るだけ音を殺して歩く。
そっとテントの陰に隠れながら蛇の現在位置を確認・・・・・・・・・・・・っ!?嘘だろう!?!?
「やめろ!お前たちっ!!!」
僕の視界に飛び込んだのは、お腹をぐうぐう鳴らしたリトルピープルたち。
一もニもなく大慌てで僕は飛び出した。
あいつらは何でも食べてしまうんだ!
凶暴な蛇といえどもあいつらの手にかかったら可愛い可愛いご飯も同然。
その証拠に、リトルピープルの一人は既に手を伸ばして蛇にじりじりとにじり寄りはじめていた。
「それはご飯じゃないっ!手を出すなっっ!!」
蛇の尻尾あたりを無造作に掴んでリトルピープルたちから引き剥がす。
とっさのこと過ぎて力加減が出来ないけれど、蛇だって頭から丸かじりされるよりかはマシだってわかってくれるはずだ。
折角のご飯を奪われたと、まるで訴えるかのような恨めしい目で僕を見るリトルピープルはこの際無視。
今度は巻きつかれて絞め殺される前に近くに放り投げる。
「こらっ!お前たち!!あれはショーに出てる蛇だから食べようとするなって散々言っただろうっ!?」
凄い剣幕で怒る僕に、リトルピープル一同は少したじろいだ。
「すっごい珍しい蛇で、エブラが凄く大切にしている蛇なんだ!もう絶対に手を出そうとするんじゃないぞ!わかったな!?」
リトルピープル一同は、ものすごくゆっくり、上から下へ、大きく頷いた。
同時に。
―――ぽちゃっ
何かが水の中に落ちる、音。
一体何が?
・・・・・・・いやいやまさか。
・・・・・・・・・・・まさかそんなはずは・・・・・・。
いや、だけれどもこのタイミングではそれしか・・・・・・。
全身の血が凍りつくような心地だった。
ゆっくりと、そうではないようにと願って振り返った先にあるのは―――リトルピープル用に作った煮えたぎるスープの大鍋。
「っぅっわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
火傷覚悟で大鍋を手で掴み、思いっきりひっくり返した。
もちろん、二の舞を踏まないようにリトルピープルの居ない方向に向かって、だ。
ひっくり返した中身は勢い良く飛び出し、蛇と一緒に、宙に舞う。
飛び散るスープの一滴までも追えると思えるほど、それはスローモーションで。
きらきらと夕日に照らされて輝くソレは魔法にでも掛かったかのように世界を彩っていて。
そんな一瞬が映し出した幻か幻影だと、思い込みたかった。
視界に入り込んだ、赤い影。
―――びちゃっ!
「・・・・・・・・何のつもりだ?」
「えっ・・・・・・・・と・・・・・・その・・・・・・」
「なにやら騒いでいる声が聞こえたから心配して来てみれば・・・・・」
「いや、これにはいろいろとわけが・・・・・」
「ほう?人に煮えたぎったスープを頭からぶちまけるほどの理由があるのか?」
「だから、それはいろいろと込み入ったアレが・・・・・」
「説明してみろ」
「う・・・・・・・・」
「ただし!」
「我輩が納得できないような理由だった時は、どうなるかわかっているな?ダレン君や」
ぐったりと伸びきった蛇を頭に引っ掛けたまま笑うクレプスリーは、これまで見たこともないような極上の笑顔で。
どんなに怒鳴られた時だって、今日ほど恐怖を感じたことはなかった。
にっこり
(危険信号!笑ったときは要注意!!)
人間本当に怒っている時って何で笑顔になるんだろうね。
不思議不思議。
そしてクレプスリーの極上の笑顔を私は見てみたい。
窓辺に立って深い溜め息を吐いた。
今日も長い一日がようやく終わった。
朝から入れ替わり立ち代わり一体何人の人と面会しただろうか。
正確には、何人の男性と面会させられたのだろうか。
つまりそれは、いわゆるお見合いというやつで。
確かに、私もそろそろお年頃という年齢ではある。
ただしそれは恋愛のお年頃であって、結婚のお年頃ではない。
そりゃぁ私だって結婚に憧れはある。
でもそれは恋愛を経てゴールインしたいとか思うわけで。
極論から言えば、お見合いなんてこれっぽっちも望んでなんかはいないのだ。
「でも断るのもなぁ・・・・・・・」
もう一度溜め息が漏れ出た。
お見合いの席を用意したのは私の兄代わりの綱吉さん。
幼い頃から居候させてもらっている家の現当主。
街ではちょっと名の知れた家柄で、でもそんなことを鼻に掛けたところなんてまったくない、すごく優しい人。
だからわかっている。
これは本当に私のことを考えて用意してくれた席なんだって。
だって紹介された人の中には一人だって悪そうな人はいなかった。
それどころか、私自身は覚えていないのだけれど、昔まだ私が幼い頃に何度か面識があるらしく、その頃から私のことを知っているらしい。
言い換えれば当家の相続目的に名乗りを上げたような薄っぺらい人間ではないということ。
もっとも、殊人を見る目が確かな綱吉さんがそのような腹に一物もニ物も抱えた人間を紹介するはずがないのだけれど。
「でもだからって、私は相手のこと何にも知らないし」
そんな人を一体どうやって好きになれというのか。
好きになれるかもわからない人と添い遂げるなんて、私には出来ない。
「やっぱり・・・・ちゃんと言わないと失礼だよね・・・・綱吉さんにも、相手の人にも・・・・」
結婚なんてする気はない、と。
だからこれ以上お見合いなんてしたくない、と。
既に私の心の中には一人の人間がいるのだ、と。
どこの誰かもわからないけれど。
あの日、あの時出逢ったあの人に。
私に心は盗まれたままなのだと。
たった一厘の花を手に、今日のように窓際にたたずむ私にあの人は言った。
『次は、両手いっぱいの花束を持って君を攫いに来るよ』
月に照らされた漆黒の髪が、きらきらと。
初めてしった恋心のごとく、きらきらと。
眩く私の胸の中を照らした。
あれからどれだけの夜を過ごしたか。
あの日の花は、とうの昔に枯れ果ててしまった。
一体、いつになったら貴方に逢えるの?
一体、いつになったら
「私を攫いに来てくれるの・・・・・・・?」
花束なんていらないから、早く、早く。
またたった一厘を持って、早く私を攫いに来て。
―――トントン
控えめな音で戸が叩かれた。
「はい」
「イーピン、入るよ」
静かに引かれた戸の向こうに、綱吉さん。
「な、イーピン。明日もう一度お見合いしてくれないか?」
「・・・・あの・・・・・私、お見合いは・・・・・・」
「どうしても、イーピンに逢いたいって人がいてさ」
「でも、私まだそんなつもりないし・・・・・」
「その人がさ、これを渡したらきっと逢いたくなるからって」
差し出された、一厘。
それはあの日のものと変わらなくて。
ただ、一つだけ違っていたのは結われた文の存在。
どくどくと脈打つ心臓にせかされながら、丁寧にソレを開く。
そこにしたためられた流れるような美しい文字は
『攫いに来たよ』
とだけ、綴っていた。
細かいことは何も考えずに書いた。
明治くらいの時代設定かな?
ヒバリさんに家柄とかの垣根を越えて攫ってもらいたかっただけ。
我先にと報告をしようとする将軍の話を聞き終え、休憩にとパリスをクレドン・ラートの間に追い出すととたんに元帥の間は静寂に満たされる。
ついさっきまでバンパイアで溢れかえっていたなんて想像も出来ないくらい静かだ。
そんな時だったからか、ふぅ、とついた溜め息すらクレプスリーは耳聡く気がついた。
「疲れたか?」
「・・・・・まぁね」
連日休憩もままならずに会議を行っているのだ。
疲れていない、なんて強がったところで、ぐったりと椅子に沈んだままの格好で言っても何の説得力も無いから正直に答えた。
このまま眠ってしまいたい位身体は疲労しきっている。
「泣き言は言っていられんぞ」
「わかってるよ」
僕がこうなってしまったのもいわゆる運命という奴で。
運命ならば甘んじて受けなければならない。
「休憩、後どのくらい?」
「小一時間といったところだな」
「そんだけしかないのか・・・・・・はぁ・・・・・先は長いな・・・・・」
「他の者の前でそのような泣き言は言うなよ?士気に関わる」
「わかってるって」
拗ねたように口を尖らせながらも、自分だけは特別だと暗に言っているようで可笑しかった。
「少し血を飲んでおけ。身体が持たんぞ」
「大丈夫だって。それよりも、クレプスリーこそちゃんと休みなよ」
元帥である僕を甲斐甲斐しく介抱しようとグラスを手に取ったクレプスリーを窘める。
はっきり言ってあんたの方がよっぽど疲れているはずだ。
戦術というものがあまり良くわかっていない僕は会議に参加していてもほとんどお飾りみたいなもので、実質クレプスリーがそのほとんどを考え、僕が決定事項としてクレプスリーの代わりに将軍たちに命令を下しているに過ぎなかった。
だから僕の疲労なんてみんなの半分も無いはずなんだ。
「僕はただのお飾り元帥。あんたが倒れでもしたらとたんに役立たずの半バンパイアになっちゃうんだから」
「自分の立場というものがわかっているではないか」
「そりゃぁね」
わからいでか。
そりゃぁ皆表面上は敬ってくれる。
こんなのでも一応元帥なんて肩書きがあるからね。
でも皆わかってる。
実質実権を握っているのはラーテン・クレプスリーだって。
「ダレン閣下!」なんて言いながら、目線はクレプスリーを捕らえていることなんてざらにある。
はじめこそイラついたりもしたけれど、自分の無力さを考えたらそうなるのも当然だと思えた。
「元帥って呼ばれるべきなのは、本当はあんただよね」
昔は元帥候補にも名を連ねたほどだと、以前ガブナーに聞いたことがある。
僕の後継人として会議の前に立つクレプスリーに文句が一つも上がらなかったことと無関係ではないだろう。
「ねぇクレプスリー」
「なんだ?」
「元帥になりたいって気持ちは無いの?」
「何だやぶから棒に」
「元帥になりたいって少しも思わないの?」
「・・・・・・今だって憧れはある」
元帥は一族の誇りであり尊敬の対象だ。
いうなればそれは漫画の中のヒーローのように。
クレプスリーにもそんな少年心が残っていたことが嬉しくて、僕は今の今まで怠惰に身を沈めていた玉座から飛び降りた。
「ならさっ!」
「っなっ!?」
玉座の横を定位置に立っていたクレプスリーの腕を掴んで、入れ替わりに座らせる。
「今の感想は?ラーテン閣下?」
無理やり座らせたことを怒るよりも早く、肘掛にもたれながらニコニコ問う僕の屈託の無い笑顔に、毒気を抜かれた様子で苦笑した。
「あぁ、悪くない気分だ」
「そりゃ良かった」
椅子
(僕だけが知ってる、あんたの特等席)
17:12完成
この後ダレンを膝の上に座らせるかどうかで小一時間悩んだ。
それを他の元帥に目撃されてからかわれ続けるところまで妄想したけど歯切れが悪かったので没に相成った。
ふとした折。
鼻先を掠めていく香りがあった。
それはどこか懐かしくて。
同時に胸を締め付けられる、香り。
知っているようで、どうしても私はその香りの記憶を探り当てることが出来なかった。
「どうかしましたか?」
「・・・・師匠・・・」
こうして私が何かを思いだそうとするたびに、師匠は心配そうに私の顔を覗き込む。
自分では気がつけないけれど、そんなに難しい顔をしているのかしら?
「なんでもないですよ」
「そうですか?思いつめたような顔をしていましたけど・・・・」
やはり自分ではわからないだけで結構な表情をしていたらしい。
「・・・・・何か、忘れている気がしたんです」
とても大切な何かを。
忘れてはいけない何かを。
今まで忘れていることすら忘れていたような何かを。
欠片すら思い出せないのだけれど、それでも、ぽっかりと胸のところに大きな穴が開いてしまっているような喪失感だけは確かにあって。
思い出そうと頑張れば頑張るほど、もやに包まれて輪郭を消してしまうような不確かな何かが確かにあるのに。
私は何一つ思い出すことが出来ないでいた。
「どこかで、嗅いだ事がある気がするんです」
「・・・・そうでしょうね・・・・」
「師匠は、知っているんですね?」
「えぇ。でも私の口からは何も言わない約束なので」
「はい・・・・」
少しづつ、私の中で何かの記憶が淡くなっている。
前はもっと鮮明に忘れていることを覚えていたのに。
最近はそれすらも思い出せないことがある。
思い出せないことなら忘れてしまってもいい、とはどうしても割り切れない。
忘れてはいけないと、本能が叫んでいる。
「なんで・・・・・忘れているの・・・・・・?」
こんなにも思い出そうとしてるのに。
こんなにも焦がれているのに。
どこから香るのかもわからないそれだけが、今は私の不確かな記憶を繋いでいた。
『白い世界』の続編?ヒバリの記憶を消されたイーピンの話。
時間が経つにつれてヒバリの記憶が薄れて行くようです。
頑張って思い出して!
匂いというのは記憶を邂逅する上で割合重要度が高いって何かで読んだ気がしたんだ。