~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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バネズのことを探すのは簡単だ。
よほどの場合を除いて、自分の部屋にいるか闘技場にいるかのどちらか。
探す方の身としては探す張り合いもないくらい。
今日もバネズは闘技場にいた。
ずいぶん昔に両目が潰れ、光を失ったというのに剣やら槍やらを片手に若いバンパイアを楽しそうにあしらっていた。
「バネズ」
「ん?ダリウスか?っ、よっと!」
声を掛けたらすぐに気づいてくれる。
光を失ってからほかの五感がより敏感になっていると本人は言っていた。
本当かどうかはわからないけど、バネズは目が見えているのとほとんど変わらずに生活できているし、人を間違えるようなこともほとんど無い。
そうでなければ危ない武器を手に遊びに興じることなんて出来ないだろう。
相手にしていたバンパイアをひとしきり叩きのめしてからバネズが僕のそばまでやってきた。
「どうした?お前もやりたいのか?」
「バカ言わないでよ。ただでさえ訓練でくたくたなんだ。頼まれたってしないよ」
一日中闘技場に篭もっていられるバネズと一緒にしないでくれ。
「そうじゃなくてさ、ちょっと・・・相談」
「相談?」
「えっと、さ。・・・ママのところに、逢いに行かない?」
「・・・お前のか?」
「当たり前だろ?他に誰がいるっての?」
「そりゃあそうだが・・・、だがなダリウス。お前が母親に逢いたい気持ちはわかるが元帥がお許しにならんだろう」
今でこそわずかながら人間と交流が出てきたが、反発する声も大きい。
バンパニーズと和平はしても、人間とは一線を画しておくべきだという意見が未だ多数を占めている。
バネズはそれを危惧しているのだろう。
だが、そんなのは問題じゃない。
「大丈夫!バンチャ発案だもの」
「バンチャ元帥が?」
話のいきさつはこうだ。
僕は半バンパイアになって以降、ママと手紙のやりとりをしている。
直接逢うことが出来無いからバンチャが仲介役で手紙を運んでもらっているのだ。
はじめはそれだけでも繋がりが残っているだけで十分だった。
でも年数を重ねていくほどに逢えないことが寂しくなる。
「せめて一目でもいいから逢わせて欲しい」とママはバンチャに懇願したらしい。
「そしたらさ、バンチャが逢ってこいって言ってくれたんだ。もう十年も逢ってないんだし、ママはおじさんのことでも心痛めているから一目逢うくらい大目に見るって。他の元帥にも説得してくれたんだ!」
「・・・バンチャ元帥は昔から女に弱いからなぁ・・・」
光の映らない瞼をさらに手で押さえてバネズが首を横に振った。
「でさ、ママがバネズにも逢いたいって言ってるんだ」
「俺にも?」
「うん。僕がお世話になっている人だから挨拶したいって」
「・・・それも元帥は承知なんだな?」
「当たり前だ!半人前の弟子が外に出るんだ。着いていかない師匠があるか!」
突然割り込んできた大柄の男。
バネスはその声で誰なのかを察し、大きくため息をついた。
「閣下・・・そういうことは事後承諾ではなく事前に・・・」
「お前には話してなかったか?そりゃ悪かった!」
これっぽちも悪びれていない口調で話すのがバンチャ・マーチ元帥。
この話を僕に持ちかけてくれた張本人。
「大体、お前はずっとマウンテンに篭もりっぱなしだろ?たまには外の空気を吸ってこい」
「はぁ・・・わかりましたよ。閣下がそうおっしゃるなら」
「一緒に行ってくれるんだね!?」
「俺が行かないと言えばお前は一人でも行っちまいそうだしな」
仕方ない、といわんばかりの表情でバネズが僕の頭をがしがし撫でた。
側ではバンチャがうんうん頷きながら僕らを見ている。
「よしよし。話はまとまったみたいだな。じゃあ、あいつらのことも頼んだぞ?」
「へ?」
僕の間抜けな声があがるのと
「兄ちゃん!!」
「ダリウスお兄ちゃん!」
とてもよく聞き慣れた声を僕の耳が捕らえ、猛烈なタックル×二をお見舞いされるのはほとんど同時だった。
こんなことをするのは言わずと知れた、ブレダとティーダ。
双子は今年で七歳になる。
昔と違って体も大きくなってきて、、タックル一つが立派な攻撃。
打ち所が悪かったら悶絶確実だ。
今回は運良く急所は免れた。
「ったたた・・・ちょっと!?バンチャ!聞いてないんだけど!!」
「ん?話してなかったか?折角だからこいつらにも人間社会ってやつを見せてやろうと思ってな。なんせ俺らが連れていっても昼間は外を歩けなくて退屈させちまうんだ」
「だからって!」
「その点お前がいてくれればこいつらが外を歩ける。お前も母親に逢える。バネズも久方ぶりに外の空気を吸える。みんな万々歳じゃないか」
「ただの育児放棄だろ!?」
僕が叫んでもバネズは言葉も無く首を横に振るばかり。あきらめろ、ということなのだろう。
そんな僕らをさておいて、ブレダとティーダは目をきらきらさせていた。
「ブレダ、街に行くの初めて!」
「ティダも初めて!どんなところかな?」
「デンキできらきらしてるってパパが言ってたよ!」
「ニンゲンもたくさんいるって言ってた!」
「オミセっていう、ものがたくさんおいてある場所もあるんだって!」
「おいしいものもたくさんあるって!」
「「楽しみだねー!!!」」
「そうそう行く機会もないだろうから、しっかり遊んでこいよ!息子ども!」
「「はーい!!」」
威勢のいい父親と、それをしっかり受け継いでしまった子供たち。
本気でこいつらの将来が心配になる。
「・・・僕の意見は・・・」
「あるとお思いで?」
「ガネン・・・」
そうでした。
そんなもの、あるわけもなかった。
それから数時間、僕とバネズはガネンからしつこいくらいの諸注意を聞かされたのだった。
・・・ガネンの子煩悩すぎるところも、それはそれで問題だ。
こんな人たちに一族の未来を託してて良いのか不安すら覚えてしまう。
まあ、それはまた別の話。
またの機会に話すとしよう。
街へ行こう~準備編~
2011年1月インテで無料配布した
「傷師弟と双子の兄妹を広めたいだけの本」収録の書き下ろし部分です。
タイトル通り、続きます。
2011/02/15(サイト掲載)
よほどの場合を除いて、自分の部屋にいるか闘技場にいるかのどちらか。
探す方の身としては探す張り合いもないくらい。
今日もバネズは闘技場にいた。
ずいぶん昔に両目が潰れ、光を失ったというのに剣やら槍やらを片手に若いバンパイアを楽しそうにあしらっていた。
「バネズ」
「ん?ダリウスか?っ、よっと!」
声を掛けたらすぐに気づいてくれる。
光を失ってからほかの五感がより敏感になっていると本人は言っていた。
本当かどうかはわからないけど、バネズは目が見えているのとほとんど変わらずに生活できているし、人を間違えるようなこともほとんど無い。
そうでなければ危ない武器を手に遊びに興じることなんて出来ないだろう。
相手にしていたバンパイアをひとしきり叩きのめしてからバネズが僕のそばまでやってきた。
「どうした?お前もやりたいのか?」
「バカ言わないでよ。ただでさえ訓練でくたくたなんだ。頼まれたってしないよ」
一日中闘技場に篭もっていられるバネズと一緒にしないでくれ。
「そうじゃなくてさ、ちょっと・・・相談」
「相談?」
「えっと、さ。・・・ママのところに、逢いに行かない?」
「・・・お前のか?」
「当たり前だろ?他に誰がいるっての?」
「そりゃあそうだが・・・、だがなダリウス。お前が母親に逢いたい気持ちはわかるが元帥がお許しにならんだろう」
今でこそわずかながら人間と交流が出てきたが、反発する声も大きい。
バンパニーズと和平はしても、人間とは一線を画しておくべきだという意見が未だ多数を占めている。
バネズはそれを危惧しているのだろう。
だが、そんなのは問題じゃない。
「大丈夫!バンチャ発案だもの」
「バンチャ元帥が?」
話のいきさつはこうだ。
僕は半バンパイアになって以降、ママと手紙のやりとりをしている。
直接逢うことが出来無いからバンチャが仲介役で手紙を運んでもらっているのだ。
はじめはそれだけでも繋がりが残っているだけで十分だった。
でも年数を重ねていくほどに逢えないことが寂しくなる。
「せめて一目でもいいから逢わせて欲しい」とママはバンチャに懇願したらしい。
「そしたらさ、バンチャが逢ってこいって言ってくれたんだ。もう十年も逢ってないんだし、ママはおじさんのことでも心痛めているから一目逢うくらい大目に見るって。他の元帥にも説得してくれたんだ!」
「・・・バンチャ元帥は昔から女に弱いからなぁ・・・」
光の映らない瞼をさらに手で押さえてバネズが首を横に振った。
「でさ、ママがバネズにも逢いたいって言ってるんだ」
「俺にも?」
「うん。僕がお世話になっている人だから挨拶したいって」
「・・・それも元帥は承知なんだな?」
「当たり前だ!半人前の弟子が外に出るんだ。着いていかない師匠があるか!」
突然割り込んできた大柄の男。
バネスはその声で誰なのかを察し、大きくため息をついた。
「閣下・・・そういうことは事後承諾ではなく事前に・・・」
「お前には話してなかったか?そりゃ悪かった!」
これっぽちも悪びれていない口調で話すのがバンチャ・マーチ元帥。
この話を僕に持ちかけてくれた張本人。
「大体、お前はずっとマウンテンに篭もりっぱなしだろ?たまには外の空気を吸ってこい」
「はぁ・・・わかりましたよ。閣下がそうおっしゃるなら」
「一緒に行ってくれるんだね!?」
「俺が行かないと言えばお前は一人でも行っちまいそうだしな」
仕方ない、といわんばかりの表情でバネズが僕の頭をがしがし撫でた。
側ではバンチャがうんうん頷きながら僕らを見ている。
「よしよし。話はまとまったみたいだな。じゃあ、あいつらのことも頼んだぞ?」
「へ?」
僕の間抜けな声があがるのと
「兄ちゃん!!」
「ダリウスお兄ちゃん!」
とてもよく聞き慣れた声を僕の耳が捕らえ、猛烈なタックル×二をお見舞いされるのはほとんど同時だった。
こんなことをするのは言わずと知れた、ブレダとティーダ。
双子は今年で七歳になる。
昔と違って体も大きくなってきて、、タックル一つが立派な攻撃。
打ち所が悪かったら悶絶確実だ。
今回は運良く急所は免れた。
「ったたた・・・ちょっと!?バンチャ!聞いてないんだけど!!」
「ん?話してなかったか?折角だからこいつらにも人間社会ってやつを見せてやろうと思ってな。なんせ俺らが連れていっても昼間は外を歩けなくて退屈させちまうんだ」
「だからって!」
「その点お前がいてくれればこいつらが外を歩ける。お前も母親に逢える。バネズも久方ぶりに外の空気を吸える。みんな万々歳じゃないか」
「ただの育児放棄だろ!?」
僕が叫んでもバネズは言葉も無く首を横に振るばかり。あきらめろ、ということなのだろう。
そんな僕らをさておいて、ブレダとティーダは目をきらきらさせていた。
「ブレダ、街に行くの初めて!」
「ティダも初めて!どんなところかな?」
「デンキできらきらしてるってパパが言ってたよ!」
「ニンゲンもたくさんいるって言ってた!」
「オミセっていう、ものがたくさんおいてある場所もあるんだって!」
「おいしいものもたくさんあるって!」
「「楽しみだねー!!!」」
「そうそう行く機会もないだろうから、しっかり遊んでこいよ!息子ども!」
「「はーい!!」」
威勢のいい父親と、それをしっかり受け継いでしまった子供たち。
本気でこいつらの将来が心配になる。
「・・・僕の意見は・・・」
「あるとお思いで?」
「ガネン・・・」
そうでした。
そんなもの、あるわけもなかった。
それから数時間、僕とバネズはガネンからしつこいくらいの諸注意を聞かされたのだった。
・・・ガネンの子煩悩すぎるところも、それはそれで問題だ。
こんな人たちに一族の未来を託してて良いのか不安すら覚えてしまう。
まあ、それはまた別の話。
またの機会に話すとしよう。
街へ行こう~準備編~
2011年1月インテで無料配布した
「傷師弟と双子の兄妹を広めたいだけの本」収録の書き下ろし部分です。
タイトル通り、続きます。
2011/02/15(サイト掲載)
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トントン。
部屋の扉がノックされた。
僕は聞こえないふりをして布団を頭から被った。
ハンモックの上で布団を被ったって音など遮れるものではないのだけれど、気分の問題だ。
それに、部屋には鍵が付いていない。
どうでもいい用なら諦めて帰るだろうし、必要なら頼んでいなくても勝手に入ってくる。
バンパイア・マウンテンはそういう場所だ。
ノックがあるだけマシだと思わなくちゃいけない。
「・・・・・・ダリウス、いるなら返事くらいしたらどうです?」
(え?この声は・・・・・・)
自分を呼ぶ声がした。
けれど、ここでは聞くことのない声に一瞬当惑した。
居るはずのない人の声。
被っていた布団を跳ね上げた。
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「久しぶりですね。ダリウス」
そこに立っていたのは、頭に思い描いた通りの人物。
ここに居るはずのない人。
「なんで!?」
「和平協議ですよ。いい加減争うのも馬鹿らしくなったとやっと多くの仲間が気が付いたんです。・・・・・・そのために払った代償は、大きかったですが・・・・・・」
「・・・・・・」
ガネンの憂いを含んだ目。
ガネンはいつもそんな顔をしていた。
死に逝く仲間を、辛そうに見送っていた。
別れの言葉一つ掛けられず、計画の一こまととして仲間を切り捨てていくことに、心を痛めていた。
無心を装い、その実誰よりも心を迷わせていた。
「・・・・・・みんなは?」
仲間だと思っていた人たち。
バンパニーズの人たち。
彼らがどうなったのか、ここでは知る術がない。
バンパニーズの名前を出すことすらはばかられた。
父親、バンパニーズ大王であるスティーブ・レナードともなれば言わずもがな、だ。
バンチャからパパもダレンおじさんも死んでしまったことは聞いたが、それ以上は教えてくれなかった。
傷ある者の戦が続いているのか終わったのか、それすら僕は知らないままだった。
そこまで気を回している余裕がなかったとも言える。
余計なことを考えないように、バネズが巧みに訓練を組んでいてくれたのだろう。
今の今までみんなのことを思い出さなかったことに自分自身驚いた。
「・・・・・・多くは死にました。最後の戦いでの犠牲は特に多く、未だに把握し切れていません。現在残っている者も先の戦いで負傷し、前線から引いていた者ばかりです」
「そう・・・・・・」
つまり、僕が最後に見かけた連中の大半は今はもうこの世の人では無くなってしまっているのか。
当然だと思う気持ちと、寂しい気持ちが心の中でごちゃ混ぜになった。
バンパニーズを殺したのは、バンパイアだ。
けど、バンパイアだって沢山バンパニーズに殺された。
どちらを責めることはできない。
どちらも加害者で、どちらも被害者なんだ。
これ以上責任のなすり付けをしても仕方がないと双方が学んだからやっと和平協議が始まるんだ。
僕が手前勝手な感情を吐露するべきではない。
「・・・・・・私は、この戦の主犯は全てスティーブにあると思っていました」
「・・・・・・ガネン?」
「あの男はやりすぎでした。誇るべき我らの精神を汚しすぎた」
解っていても逆らえなかった。
大王はバンパニーズに対して絶対の影響力を持つ。
間違いだと認識していながら行動せざるを得なかったガネン。
その言葉からは憎しみすら感じ取れた。
「たった二人を殺そうとするあまり、多くを巻き込み過ぎた。バンパイアもバンパニーズも、人間をも殺しすぎた。あなたのような、本来無垢であるべき人間をこのような世界に自分の妄執の為に放り込んだ。死んで当然の結末だったと思います」
「・・・・・・」
そんなことない!と主張したかった。
悪いことをしたかもしれないけど、それでも死んで当然だなんてそんなの酷すぎる、そう言い返したかった。
なのに、言葉が出ない。
頭に、醜くゆがんだパパに顔がよぎった。
何も言えない。
あんな恐ろしいパパを、庇う言葉が出てこない。
体が震える。
指一本動かない。
パパのために動けない僕を、パパが叱りつける。
何をやっているんだ。
使えない奴め。
何の為にお前に優しくしてやったと思っているんだ。
父に報いようとは思わないのか。
クズが。
お前なんか必要ない。
どこにでも行ってしまえばいい。
お前の代わりなどいくらでもいる。
せいぜい他の奴らに騙されてろ。
パパが遠くなっていく。
頭の上の温もりすら、消えていく。
「泣くな」
「っ!?」
「泣くんじゃない。胸を張れ。自分を見失うな。間違ったって構わない。お前が信じたモノを、ちゃんと信じてやれ」
「・・・・・・バネ・・・・・・ズ・・・・・・?」
一体いつから・・・・・・?
疑問を口にするよりも先に、バネズが背中に手を当てて矢継ぎ早に言葉を並べ立てる。
「はっきり言って、俺はバンパニーズ大王何ぞを養護する気はさらさらない。あいつのせいで俺の教え子たちは嫌という程死んだんだしな」
「・・・・・・」
言葉もない。
全部パパがやったんだ。
優しい顔をして、みんなを騙して、沢山悲しい思いをさせた。
まるで僕自身が犯した罪のような罪悪感。
「でもな?お前がどう思おうがそいつは別だ。俺が嫌いなモノをお前も嫌いにならなきゃいけない道理なんてない。お前が好きなら、それは好きなままでいいんだ」
「バネズ・・・・・・?」
「お前が好きだったのは、バンパニーズ大王じゃない。スティーブ・レナードっていう、お前の『父さん』なんだろう?」
「バネ・・・・・・っ」
「好きでいいんだ。信じていいんだ。思い出せ。お前は、あいつのことが好きなんだろう?」
「う・・・・・・んっ!」
「優しく、してもらったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「そいつは本当に嘘っぱちなのか?お前が感じたモノは、全部偽物だったのか?」
偽物?
違う。
そんなことない。
笑い掛けてくれた笑顔は本物だった。
僕が感じた暖かさは、確かに本物だった。
あの瞬間、あの場所においては、それが本物だった。
紛れもない、真実だった。
「嘘なんかじゃない。僕は、ホントに、嬉しかった・・・・・・。パパなんかいないって思ってたから・・・・・・どんな形でも、パパに会えただけで十分だった・・・・・・」
たとえ、僕がダレンおじさんへの切り札として生まれた子供だったとしても。
僕は、パパにとって意味のある子供だったという事実だから。
それでもいい。
だって・・・・・・
「パパだから、愛してたんだ・・・・・・。パパだから、愛してるんだ・・・・・・」
誰に認められなくても。
パパ自身に否定されたって。
僕はパパが好きなんだ。
「それでいい。それでいいんだ」
バネズが、また僕の頭をかき回すように撫でた。
もう一度、頭上に温もりが戻った。
バネズが、笑った。
パパも、笑った。
もう一度僕に、笑い掛けてくれた。
狂気に笑うんじゃなくって、もっと純粋に。
・・・・・・ちょっとだけ申し訳なさそうに、笑ってた。
「・・・・・・この場は私が預かると申し上げたはずですが・・・・・・」
ガネンが半眼になってバネズにぼやいた。
対してバネズは悪びれた風もなく、しゃぁしゃぁとしている。
・・・・・・この二人って知り合いだったの?
「悪いな。でも、やっぱり師としては黙って見ていられなかったんだ。許せ」
「・・・・・・」
「それに、あんたは一人で悪者にでもなろうとしているような気がしてな。胃に穴が開くぜ?」
「・・・・・・ご忠告痛み入ります。どこかの誰かに聞かせてやりたいですよ」
深い溜息。
昔のガネンもこうやってよく溜息をついていた。
「ダリウス」
「何?」
「一つだけあなたに伝えておきます」
「・・・・・・うん」
「私がスティーブを大王だと見つけた時、あなたは既に母親の腹に宿っていました。つまり、はじめから利用するために生まれたわけではありません」
「・・・・・・」
ダレンおじさんにママが説明していた話を思い出す。
僕が出来たことがわかって、結婚式の費用と子供を育てるお金を稼いでくるといってママの元を離れたのだと。
もしかしたら、その時点においてはパパは本当にママと幸せになりたかったのかもしれない。
本当にママのことを、そして僕のことを考えて町を離れたのかもしれない。
「それと今回の戦に関して、タイニーがかなりの介入をしていたそうです。人の心を乱して戦が混乱の方向に向かうよう我々を影から操っていたと話していました」
「それって・・・・・・」
「いつどの段階でタイニーが介入していたのかは私にもわかりません。ただ、少なくとも、スティーブは絶対悪では無かったのだと思います。あの男もまた、タイニーに運命を弄ばれた哀れな道化だったのです」
「・・・・・・そっか」
パパは、悪い人じゃない。
本当に僕のことを、愛していてくれたときが有ったのかもしれない。
もはや確かめる手段なんて無い。
けど、その可能性が有るだけで僕には十分だ。
「・・・・・・もっとも、そんなこと関係なく私はあの男が嫌いですが」
「ガネン・・・・・・」
「勝手に現れて、勝手なことを散々していって、あげく勝手に死ぬだなんて・・・・・・身勝手にも程があります!こちらのことなんて何も考えていないあの態度、居なくなって清々しました。ホントに・・・・・・あの男は・・・・・・っ!」
それに、こうしてパパの死を悲しんでくれる人がいる。
十分じゃないか。
「バネズ、ガネン。ありがと」
こうして、僕を愛してくれる人がいる。
それだけで、十分じゃないか。
僕は、覚えている。
パパに愛されたことを、ちゃんと覚えている。
ちゃんと、覚えているから・・・・・・。
remembrance
傷師弟、スティ克服話完結です。
煮え切らん感じかもしれませんが、皆様の妄想力でカバーしていただければ幸い。
これでダリウスはスティーブのまやかしの愛情を恐れなくなります!
誉められれば素直に嬉しいと思える天使ちゃんになるのです!!
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ⇒パパが好きなことを隠しているダリウスに、バネズが「好きでいていいんだよ」と言う、でした) 2011/02/09
部屋の扉がノックされた。
僕は聞こえないふりをして布団を頭から被った。
ハンモックの上で布団を被ったって音など遮れるものではないのだけれど、気分の問題だ。
それに、部屋には鍵が付いていない。
どうでもいい用なら諦めて帰るだろうし、必要なら頼んでいなくても勝手に入ってくる。
バンパイア・マウンテンはそういう場所だ。
ノックがあるだけマシだと思わなくちゃいけない。
「・・・・・・ダリウス、いるなら返事くらいしたらどうです?」
(え?この声は・・・・・・)
自分を呼ぶ声がした。
けれど、ここでは聞くことのない声に一瞬当惑した。
居るはずのない人の声。
被っていた布団を跳ね上げた。
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「久しぶりですね。ダリウス」
そこに立っていたのは、頭に思い描いた通りの人物。
ここに居るはずのない人。
「なんで!?」
「和平協議ですよ。いい加減争うのも馬鹿らしくなったとやっと多くの仲間が気が付いたんです。・・・・・・そのために払った代償は、大きかったですが・・・・・・」
「・・・・・・」
ガネンの憂いを含んだ目。
ガネンはいつもそんな顔をしていた。
死に逝く仲間を、辛そうに見送っていた。
別れの言葉一つ掛けられず、計画の一こまととして仲間を切り捨てていくことに、心を痛めていた。
無心を装い、その実誰よりも心を迷わせていた。
「・・・・・・みんなは?」
仲間だと思っていた人たち。
バンパニーズの人たち。
彼らがどうなったのか、ここでは知る術がない。
バンパニーズの名前を出すことすらはばかられた。
父親、バンパニーズ大王であるスティーブ・レナードともなれば言わずもがな、だ。
バンチャからパパもダレンおじさんも死んでしまったことは聞いたが、それ以上は教えてくれなかった。
傷ある者の戦が続いているのか終わったのか、それすら僕は知らないままだった。
そこまで気を回している余裕がなかったとも言える。
余計なことを考えないように、バネズが巧みに訓練を組んでいてくれたのだろう。
今の今までみんなのことを思い出さなかったことに自分自身驚いた。
「・・・・・・多くは死にました。最後の戦いでの犠牲は特に多く、未だに把握し切れていません。現在残っている者も先の戦いで負傷し、前線から引いていた者ばかりです」
「そう・・・・・・」
つまり、僕が最後に見かけた連中の大半は今はもうこの世の人では無くなってしまっているのか。
当然だと思う気持ちと、寂しい気持ちが心の中でごちゃ混ぜになった。
バンパニーズを殺したのは、バンパイアだ。
けど、バンパイアだって沢山バンパニーズに殺された。
どちらを責めることはできない。
どちらも加害者で、どちらも被害者なんだ。
これ以上責任のなすり付けをしても仕方がないと双方が学んだからやっと和平協議が始まるんだ。
僕が手前勝手な感情を吐露するべきではない。
「・・・・・・私は、この戦の主犯は全てスティーブにあると思っていました」
「・・・・・・ガネン?」
「あの男はやりすぎでした。誇るべき我らの精神を汚しすぎた」
解っていても逆らえなかった。
大王はバンパニーズに対して絶対の影響力を持つ。
間違いだと認識していながら行動せざるを得なかったガネン。
その言葉からは憎しみすら感じ取れた。
「たった二人を殺そうとするあまり、多くを巻き込み過ぎた。バンパイアもバンパニーズも、人間をも殺しすぎた。あなたのような、本来無垢であるべき人間をこのような世界に自分の妄執の為に放り込んだ。死んで当然の結末だったと思います」
「・・・・・・」
そんなことない!と主張したかった。
悪いことをしたかもしれないけど、それでも死んで当然だなんてそんなの酷すぎる、そう言い返したかった。
なのに、言葉が出ない。
頭に、醜くゆがんだパパに顔がよぎった。
何も言えない。
あんな恐ろしいパパを、庇う言葉が出てこない。
体が震える。
指一本動かない。
パパのために動けない僕を、パパが叱りつける。
何をやっているんだ。
使えない奴め。
何の為にお前に優しくしてやったと思っているんだ。
父に報いようとは思わないのか。
クズが。
お前なんか必要ない。
どこにでも行ってしまえばいい。
お前の代わりなどいくらでもいる。
せいぜい他の奴らに騙されてろ。
パパが遠くなっていく。
頭の上の温もりすら、消えていく。
「泣くな」
「っ!?」
「泣くんじゃない。胸を張れ。自分を見失うな。間違ったって構わない。お前が信じたモノを、ちゃんと信じてやれ」
「・・・・・・バネ・・・・・・ズ・・・・・・?」
一体いつから・・・・・・?
疑問を口にするよりも先に、バネズが背中に手を当てて矢継ぎ早に言葉を並べ立てる。
「はっきり言って、俺はバンパニーズ大王何ぞを養護する気はさらさらない。あいつのせいで俺の教え子たちは嫌という程死んだんだしな」
「・・・・・・」
言葉もない。
全部パパがやったんだ。
優しい顔をして、みんなを騙して、沢山悲しい思いをさせた。
まるで僕自身が犯した罪のような罪悪感。
「でもな?お前がどう思おうがそいつは別だ。俺が嫌いなモノをお前も嫌いにならなきゃいけない道理なんてない。お前が好きなら、それは好きなままでいいんだ」
「バネズ・・・・・・?」
「お前が好きだったのは、バンパニーズ大王じゃない。スティーブ・レナードっていう、お前の『父さん』なんだろう?」
「バネ・・・・・・っ」
「好きでいいんだ。信じていいんだ。思い出せ。お前は、あいつのことが好きなんだろう?」
「う・・・・・・んっ!」
「優しく、してもらったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「そいつは本当に嘘っぱちなのか?お前が感じたモノは、全部偽物だったのか?」
偽物?
違う。
そんなことない。
笑い掛けてくれた笑顔は本物だった。
僕が感じた暖かさは、確かに本物だった。
あの瞬間、あの場所においては、それが本物だった。
紛れもない、真実だった。
「嘘なんかじゃない。僕は、ホントに、嬉しかった・・・・・・。パパなんかいないって思ってたから・・・・・・どんな形でも、パパに会えただけで十分だった・・・・・・」
たとえ、僕がダレンおじさんへの切り札として生まれた子供だったとしても。
僕は、パパにとって意味のある子供だったという事実だから。
それでもいい。
だって・・・・・・
「パパだから、愛してたんだ・・・・・・。パパだから、愛してるんだ・・・・・・」
誰に認められなくても。
パパ自身に否定されたって。
僕はパパが好きなんだ。
「それでいい。それでいいんだ」
バネズが、また僕の頭をかき回すように撫でた。
もう一度、頭上に温もりが戻った。
バネズが、笑った。
パパも、笑った。
もう一度僕に、笑い掛けてくれた。
狂気に笑うんじゃなくって、もっと純粋に。
・・・・・・ちょっとだけ申し訳なさそうに、笑ってた。
「・・・・・・この場は私が預かると申し上げたはずですが・・・・・・」
ガネンが半眼になってバネズにぼやいた。
対してバネズは悪びれた風もなく、しゃぁしゃぁとしている。
・・・・・・この二人って知り合いだったの?
「悪いな。でも、やっぱり師としては黙って見ていられなかったんだ。許せ」
「・・・・・・」
「それに、あんたは一人で悪者にでもなろうとしているような気がしてな。胃に穴が開くぜ?」
「・・・・・・ご忠告痛み入ります。どこかの誰かに聞かせてやりたいですよ」
深い溜息。
昔のガネンもこうやってよく溜息をついていた。
「ダリウス」
「何?」
「一つだけあなたに伝えておきます」
「・・・・・・うん」
「私がスティーブを大王だと見つけた時、あなたは既に母親の腹に宿っていました。つまり、はじめから利用するために生まれたわけではありません」
「・・・・・・」
ダレンおじさんにママが説明していた話を思い出す。
僕が出来たことがわかって、結婚式の費用と子供を育てるお金を稼いでくるといってママの元を離れたのだと。
もしかしたら、その時点においてはパパは本当にママと幸せになりたかったのかもしれない。
本当にママのことを、そして僕のことを考えて町を離れたのかもしれない。
「それと今回の戦に関して、タイニーがかなりの介入をしていたそうです。人の心を乱して戦が混乱の方向に向かうよう我々を影から操っていたと話していました」
「それって・・・・・・」
「いつどの段階でタイニーが介入していたのかは私にもわかりません。ただ、少なくとも、スティーブは絶対悪では無かったのだと思います。あの男もまた、タイニーに運命を弄ばれた哀れな道化だったのです」
「・・・・・・そっか」
パパは、悪い人じゃない。
本当に僕のことを、愛していてくれたときが有ったのかもしれない。
もはや確かめる手段なんて無い。
けど、その可能性が有るだけで僕には十分だ。
「・・・・・・もっとも、そんなこと関係なく私はあの男が嫌いですが」
「ガネン・・・・・・」
「勝手に現れて、勝手なことを散々していって、あげく勝手に死ぬだなんて・・・・・・身勝手にも程があります!こちらのことなんて何も考えていないあの態度、居なくなって清々しました。ホントに・・・・・・あの男は・・・・・・っ!」
それに、こうしてパパの死を悲しんでくれる人がいる。
十分じゃないか。
「バネズ、ガネン。ありがと」
こうして、僕を愛してくれる人がいる。
それだけで、十分じゃないか。
僕は、覚えている。
パパに愛されたことを、ちゃんと覚えている。
ちゃんと、覚えているから・・・・・・。
remembrance
傷師弟、スティ克服話完結です。
煮え切らん感じかもしれませんが、皆様の妄想力でカバーしていただければ幸い。
これでダリウスはスティーブのまやかしの愛情を恐れなくなります!
誉められれば素直に嬉しいと思える天使ちゃんになるのです!!
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ⇒パパが好きなことを隠しているダリウスに、バネズが「好きでいていいんだよ」と言う、でした) 2011/02/09
ダリウスの様子は明らかにおかしかった。
おかしかったことは解るのに、何がどうおかしいのかは皆目見当がつかない。
「・・・・・・どうしたんだ?あいつは・・・・・・」
誰に言うでもなく呟いた。
俺はあいつを誉めただけだ。
まさか誉められたことが気に障った、なんて訳ではないだろう。
子供扱いとあいつは言うけれど、実際まだ子供なんだからこればっかりはしょうがないと言うものだ。
それでも、
「謝る・・・・・・べきなのか?」
何が悪かったのかも解らないのに?
そいつは筋が通っていない。
しかしここで手をこまねいていても問題が好転するとは思えなかった。
「まったく、子育てってのも楽じゃないな」
問題が次から次に沸いてくる。
頼んでもいないのに向こうからやってくる。
昔はラーテンのことを笑って見ていたが、実際同じ立場になると笑い事ではないと実感できる。
先の経験者として助言を請いたいところだが、残念ながら出来ぬ相談。
あいつは一足早くに向こうに行ってしまった。
さて、では誰に聞くのが適任だろうか。
「よぉ!バネズ!」
いろいろと候補を頭の中で上げていると、もっとも適任から遠いと判断し、思考の外に追いやっていた人の声が聞こえた。
「お?バンチャ元帥?どうされたんです?先日弟君の所に会いに行くと言って出ていったばかりじゃないですか」
「そいつを連れてきたから帰って来たんだよ。こいつは和平会議バンパニーズ側の中核なんだ。お前もこれから顔を合わせることが多いと思うから、よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・弟君が、バンパニーズ?」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ。他の元帥閣下はご存じなんでしょうね?」
「お前が知らないなら言ってねーんじゃねぇか?ま、別にどうでもいいだろ」
「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」
別の意味で和平協議は荒れるのではないだろうか。
これから長く続いていくだろう話し合いを思うと頭が痛くなった。
「不貞の兄が世話になっています。ガネン・ハーストです。どうぞよろしく」
「お、あ、あぁ。バネズ・ブレーンだ。よろしく頼む」
差し出された手を的確に握り返した。
その自然な動作に少なからずガネンは驚いたようだ。
「盲目と聞いていましたが・・・・・・どうやらデマ情報だったようですね」
「いや、目は見えてねぇよ。わずかに光を感じるくらいなもんさ。いろんな感覚を総動員して、ようやく普通の生活が出来るってレベルだ」
「そう、なんですか・・・・・・?」
「・・・・・・というか、なんで俺なんかの話を?」
俺は一介のバンパイア将軍。
それも盲目の。
これまでの実績があったからこそ生き延びているだけの、役立たずのバンパイアだ。
今更バンパニーズに着目される特異点など持っていない。
「あなたがダリウスの教育をしていると聞いたのです」
「なんでそんなことを・・・・・・」
「私は・・・・・・、バンパニーズ大王スティーブ・レナードの側近として仕えていました」
「バンパニーズ大王の側近・・・・・・」
それはつまり、あいつのことも・・・・・・。
「ダリウスの父親が大王であったことは既にご存じですね?」
「あぁ、バンチャ元帥から聞き及んでいる」
「あの子が、大王の下でどのような訓練を受けてきたかも?」
そういえば、初めて逢った時の立ち会い。
この年代にしては堂に入った構えをしていたことを思い出した。
「いや、それは聞いていない」
「・・・・・・ダリウスに武器の取り扱いを教えたのは私です。全て大王の指示でした」
・・・・・・なるほど。
バンパニーズ直伝だったというわけか。
通りで綺麗な構えをすると思った。
それに・・・・・・。
「バンチャ元帥。良い弟君をお持ちですね」
「んあ?そうか?」
「えぇ。子供思いの良い指導をされる」
「あの?」
「あいつの太刀筋を見れば解る。余計な癖などなく、ひたすらにまっすぐな、とても実践向きとは思えないナイフ裁きだった」
「・・・・・・」
「あいつの身を案じて、そう指導してくれたんだろう?」
もちろん、癖のない正攻法の太刀に勝るものはない。
ただし拾得するのに何年、いや何十年掛かるか解らないリスクがある。
もしもバンパイア大王が傷ある者の戦の為にダリウスに仕込むのなら、そんなに悠長な訓練などするはずがない。
即戦力とするために、もっと乱暴な太刀になるはずだ。
「・・・・・・太刀筋だけでそんなことまで解るんですか?スティーブには気づかれていない自信があったんですが・・・・・・」
「ん~、まぁここ数年俺は教えるのが専門だからな。なんとな~く解っちまうんだ」
「バンパイアには恐ろしい逸材がいるものですね」
「ただの経験測さ。マジで戦えば俺なんてあんたの足下にも及ばないだろうよ。それに、こんな経験は子供の前じゃぁクソ程の役にも立たない」
脳裏をよぎるのは先ほどのダリウスの姿。
結局、何がおかしかったのか未だ見当すらつかない。
・・・・・・この男、ガネンならば何か思い当たる節はあるだろうか?
「ガネン。お前、ダリウスとはどの位の付き合いなんだ?」
「実質会っていた時間はそう多くはありませんよ。バンパニーズは拠点を作らずにあちこちを回っていましたから。ですが、そうですね・・・・・・3年くらいでしょうか?」
「俺より長けりゃ上々だ。実はダリウスの機嫌を損ねちまってな。しかし原因も分からないときたもんだ」
「先ほどの件ですか?」
「見てたのか」
「見えたんです」
細かい部分をガンとして譲らなかった。
神経質そうな奴だ。
どちらにせよ、事情が解っているなら話が早い。
説明の手間が省けた。
「なら聞くぞ?ダリウスはなんで機嫌を損ねたんだ?」
「それは・・・・・・」
口を噤んで。
はぁぁ・・・・・・、と。
深い深いため息を漏らした。
「結局、あの男の尻拭いが私に回ってくるんですね・・・・・・。死んだというのに、とことん面倒くさい男ですね・・・・・・」
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「この件は私が預かります。元はと言えば、うちのアホ大王のせいですから」
そういって、ガネンはもう一度深いため息をついた。
reminisce
reminderの続きです。もうちょっと続きます。
今回はバネズとガネン遭遇回。
二人で仲良く子育て談義でもしてればいいよ!!
・・・・・・ガネンがスティーブをボロクソ言っているのは許して上げてください。
彼も胃炎で大変なんです。
2011/02/07
おかしかったことは解るのに、何がどうおかしいのかは皆目見当がつかない。
「・・・・・・どうしたんだ?あいつは・・・・・・」
誰に言うでもなく呟いた。
俺はあいつを誉めただけだ。
まさか誉められたことが気に障った、なんて訳ではないだろう。
子供扱いとあいつは言うけれど、実際まだ子供なんだからこればっかりはしょうがないと言うものだ。
それでも、
「謝る・・・・・・べきなのか?」
何が悪かったのかも解らないのに?
そいつは筋が通っていない。
しかしここで手をこまねいていても問題が好転するとは思えなかった。
「まったく、子育てってのも楽じゃないな」
問題が次から次に沸いてくる。
頼んでもいないのに向こうからやってくる。
昔はラーテンのことを笑って見ていたが、実際同じ立場になると笑い事ではないと実感できる。
先の経験者として助言を請いたいところだが、残念ながら出来ぬ相談。
あいつは一足早くに向こうに行ってしまった。
さて、では誰に聞くのが適任だろうか。
「よぉ!バネズ!」
いろいろと候補を頭の中で上げていると、もっとも適任から遠いと判断し、思考の外に追いやっていた人の声が聞こえた。
「お?バンチャ元帥?どうされたんです?先日弟君の所に会いに行くと言って出ていったばかりじゃないですか」
「そいつを連れてきたから帰って来たんだよ。こいつは和平会議バンパニーズ側の中核なんだ。お前もこれから顔を合わせることが多いと思うから、よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・弟君が、バンパニーズ?」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ。他の元帥閣下はご存じなんでしょうね?」
「お前が知らないなら言ってねーんじゃねぇか?ま、別にどうでもいいだろ」
「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」
別の意味で和平協議は荒れるのではないだろうか。
これから長く続いていくだろう話し合いを思うと頭が痛くなった。
「不貞の兄が世話になっています。ガネン・ハーストです。どうぞよろしく」
「お、あ、あぁ。バネズ・ブレーンだ。よろしく頼む」
差し出された手を的確に握り返した。
その自然な動作に少なからずガネンは驚いたようだ。
「盲目と聞いていましたが・・・・・・どうやらデマ情報だったようですね」
「いや、目は見えてねぇよ。わずかに光を感じるくらいなもんさ。いろんな感覚を総動員して、ようやく普通の生活が出来るってレベルだ」
「そう、なんですか・・・・・・?」
「・・・・・・というか、なんで俺なんかの話を?」
俺は一介のバンパイア将軍。
それも盲目の。
これまでの実績があったからこそ生き延びているだけの、役立たずのバンパイアだ。
今更バンパニーズに着目される特異点など持っていない。
「あなたがダリウスの教育をしていると聞いたのです」
「なんでそんなことを・・・・・・」
「私は・・・・・・、バンパニーズ大王スティーブ・レナードの側近として仕えていました」
「バンパニーズ大王の側近・・・・・・」
それはつまり、あいつのことも・・・・・・。
「ダリウスの父親が大王であったことは既にご存じですね?」
「あぁ、バンチャ元帥から聞き及んでいる」
「あの子が、大王の下でどのような訓練を受けてきたかも?」
そういえば、初めて逢った時の立ち会い。
この年代にしては堂に入った構えをしていたことを思い出した。
「いや、それは聞いていない」
「・・・・・・ダリウスに武器の取り扱いを教えたのは私です。全て大王の指示でした」
・・・・・・なるほど。
バンパニーズ直伝だったというわけか。
通りで綺麗な構えをすると思った。
それに・・・・・・。
「バンチャ元帥。良い弟君をお持ちですね」
「んあ?そうか?」
「えぇ。子供思いの良い指導をされる」
「あの?」
「あいつの太刀筋を見れば解る。余計な癖などなく、ひたすらにまっすぐな、とても実践向きとは思えないナイフ裁きだった」
「・・・・・・」
「あいつの身を案じて、そう指導してくれたんだろう?」
もちろん、癖のない正攻法の太刀に勝るものはない。
ただし拾得するのに何年、いや何十年掛かるか解らないリスクがある。
もしもバンパイア大王が傷ある者の戦の為にダリウスに仕込むのなら、そんなに悠長な訓練などするはずがない。
即戦力とするために、もっと乱暴な太刀になるはずだ。
「・・・・・・太刀筋だけでそんなことまで解るんですか?スティーブには気づかれていない自信があったんですが・・・・・・」
「ん~、まぁここ数年俺は教えるのが専門だからな。なんとな~く解っちまうんだ」
「バンパイアには恐ろしい逸材がいるものですね」
「ただの経験測さ。マジで戦えば俺なんてあんたの足下にも及ばないだろうよ。それに、こんな経験は子供の前じゃぁクソ程の役にも立たない」
脳裏をよぎるのは先ほどのダリウスの姿。
結局、何がおかしかったのか未だ見当すらつかない。
・・・・・・この男、ガネンならば何か思い当たる節はあるだろうか?
「ガネン。お前、ダリウスとはどの位の付き合いなんだ?」
「実質会っていた時間はそう多くはありませんよ。バンパニーズは拠点を作らずにあちこちを回っていましたから。ですが、そうですね・・・・・・3年くらいでしょうか?」
「俺より長けりゃ上々だ。実はダリウスの機嫌を損ねちまってな。しかし原因も分からないときたもんだ」
「先ほどの件ですか?」
「見てたのか」
「見えたんです」
細かい部分をガンとして譲らなかった。
神経質そうな奴だ。
どちらにせよ、事情が解っているなら話が早い。
説明の手間が省けた。
「なら聞くぞ?ダリウスはなんで機嫌を損ねたんだ?」
「それは・・・・・・」
口を噤んで。
はぁぁ・・・・・・、と。
深い深いため息を漏らした。
「結局、あの男の尻拭いが私に回ってくるんですね・・・・・・。死んだというのに、とことん面倒くさい男ですね・・・・・・」
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「この件は私が預かります。元はと言えば、うちのアホ大王のせいですから」
そういって、ガネンはもう一度深いため息をついた。
reminisce
reminderの続きです。もうちょっと続きます。
今回はバネズとガネン遭遇回。
二人で仲良く子育て談義でもしてればいいよ!!
・・・・・・ガネンがスティーブをボロクソ言っているのは許して上げてください。
彼も胃炎で大変なんです。
2011/02/07
右頬のすぐ側を風が凪いだ。
ビリビリとした痛みを覚えるほどの近距離。
物理的ではない衝撃に体が後退しそうになる。
「ひるむなっ!そのまま突っ込めっ!!」
「っ・・・!」
萎縮しかけた体に鞭打つ声。
勝手なこと言うなよ!と心の中で文句を垂れた。
声に出なかったのは、そんな余裕が微塵もなかったからだ。
余分な空気を吐き出す余力も、暇も無い。
目線一つ、目の前の相手から外すことができない。
そのような隙を見せれば、自分など殴られたことを認識する間もなく地面と熱い口づけを交わすことになる。
「っぁっ!!!」
気合いなのか、ただの呼気なのか、自分にもわからない。
中途半端な音を口から漏らし、無理矢理地面を蹴る。
同時に、自分の握る獲物を前に突き出した。
「!?」
元々間合いの一歩内まで迫っていた距離が一気にゼロ距離に縮まった。
その近距離からの突き。
踏み込みの加速も相まって、回避の暇などあるはずがない。
「っ・・・・・・ぐっ、は・・・・・・っ!?」
獲物が相手の鎖骨下を的確に撃つ。
自分よりも軽く一回りは大きい相手が、面白いように後方にすっ飛んでいった。
「・・・・・・っは!・・・・・・っは!」
突き出した姿勢のまま、僕の体は動かない。
荒い呼吸でわずかに上下する程度だ。
こんなに急速に息を吸い込んでいるのに、全然呼吸が整わない。
指先が酸欠した時のようにピリピリしている。
(・・・・・・違う・・・・・・)
体は限界だというのに、頭の中はひどく冷静だった。
違う。
違う。
これは酸欠なんかじゃない。
(やったんだ・・・・・・)
歓喜だ。
体中の細胞が、興奮しているんだ。
「・・・・・・やった・・・・・・」
吐息のようにぽろり、言葉が漏れ出る。
カラン、握っていた棍棒が手の中からこぼれ落ちた。
「・・・・・・っ、たたた・・・・・・。クソ・・・・・・手加減無くぶち込みやがって・・・・・・」
「あ、ごめん」
慌ててすっ飛んでいった相手に手を伸ばした。
幸い、というかなんというか、致命傷には至っていない。
それもそのはず。
彼はバンパイアだ。
僕とは違う完全なバンパイア。
棍棒の打撃一撃で死ぬような柔な作りはしていない。
「謝る必要があるか」
僕たちの後方から声がかかる。
「バネズ」
バンパイア・マウンテンのゲームズマスターにして僕の師匠でもあるバネズ・ブレーンだ。
随分昔に両目から光を失っているが、まるでちゃんと見えているかのように迷いない足取りでこちらに歩み寄ってくる。
「・・・・・・半バンパイア相手に一撃でやられるとは情けないな」
「そうはいっても、ダリウスの奴確実に強くなってるんですからハンデ有りはきついですよ」
「だからお前の修行にもなるんだろうが」
「ですが・・・・・・」
「文句を言うな。負けたからには訓練追加だ。打ち込み200セットやってこい」
「はいはい。わかりましたよ。ったく、教官は厳しくていけねぇ」
「口答えがあるならプラス100セットでもいいぞ?」
「っ!遠慮しますっ!!」
弾かれたような勢いで、奥の訓練室に行ってしまった。
僕はと言えば、伸ばした手のやり場が無くて無意味に握ったり開いたりをしていた。
「・・・・・・何してるんだ?」
「あ、いや・・・・・・」
恥ずかしくなって手を引っ込める。
別にしたくてしていたわけじゃない。
「それはそうと、よくやったな。ダリウス」
「へ?」
「腑抜けた声を出すな。あいつから一本取れたの初めてだろう?もっと喜べ」
「・・・・・・うん・・・・・・」
未だ指先が興奮を覚えている。
ふつふつと、胸の奥底から歓喜が沸き上がってくるのがわかる。
着実に強くなっている。
それが実感できることが素直に嬉しい。
「流石、俺の弟子だな」
バネズの大きな手が、僕の頭を遠慮無く撫でた。
表現としては『かき回した』という方が正確かもしれないけれど。
わしゃわしゃ、と。
その動きでバネズがどれだけ嬉しく思っているのかがこちらにまで伝わってくる。
自分のことのように喜ぶバネズに、僕はちょっとだけ気恥ずかしくなり、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。
不意に。
いつだったか、同じような気持ちになったことを思い出す。
いつのことだろう。
バネズに手放して誉められた記憶は余り無い。
もっと、ずっと昔だ。
僕が、半バンパイアになる前。
人間だった頃。
・・・・・・いや、半バンパニーズだった頃。
『流石、俺の息子だ』
心底嬉しそうに、僕の頭を撫でる大きな手。
僕が教えを学べば学んだだけ、誉めてくれた。
凄いぞ、偉いぞ、そう言って僕を喜ばせた。
僕が喜ぶことは、パパも喜ぶこと。
その感情を、疑おうなどとは一度たりとも思わなかった。
人間のために戦うパパは誇りだった。
息子であることが誇らしかった。
この人のためなら何でもできる。
そう思った。
パパだから、愛してくれるのだと。
パパだから、愛しているのだと。
そう、思っていた。
けれど、今、僕の記憶の中でパパは醜く笑ってる。
バカな息子を、あざ笑ってる。
使えない奴だと、罵っている。
僕をただの道具としてしか見ていない。
優しく笑ったふりをして、その目は温度を宿していない。
今になればよくわかる。
パパは、僕を騙そうとしている。
都合のいい言葉だけを巧みに選んで僕をどこかに誘導する。
最後の最後で劇的に突き落とすために、行き先は最後まで明かさない。
「とてもいいところだよ」なんて嘘を平気な顔して言ってのける。
その実、絶望に歪む顔が見たいと心の奥底で叫んでいる。
酷いパパ。
冷たいパパ。
同じ年頃の子供を、あっさりと殺した恐ろしいパパ。
きっとあのまま生きていたら、僕も同じように殺されたんだ。
僕は道具。
ダレンおじさんを苦しめるための、ただの道具。
役目が終われば、捨てられるだけの運命。
壊れた玩具をゴミ箱に投げ入れるような気軽さで、僕の命を簡単に奪うんだ。
「・・・・・・ダリウス・・・・・・?」
この人も?
この人もそうなの?
僕を、道具としか見ていないの?
その笑顔の下で、僕のことをバカにしているの?
いつか、僕を裏切るの?
「・・・・・・やめてよ・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・子供じゃないんだから、いちいち頭なんか撫でないでよ!」
「お、おぉ。悪いな」
頭の上の手が退けられた。
目頭が熱い。
堪えているものが、溢れだしてしまいそうだ。
「今日はもう訓練終わりでいいでしょ」
「あ~、そうだな。今日はこれくらいにしておくか」
「じゃ、僕疲れたから部屋に戻るね」
零れる前にバネズの前を離れたかった。
盲目の癖して察しがいいんだ。
呼び止められる前に、僕は駆けだした。
「お!おい!?ダリウスっ!?」
呼ぶ声は、もう遠い。
振り返らずに僕は走る。
イヤだ、いやだ、聞きたくない。
信じたくない。
期待したくない。
傷つくだけなのだから。
もっと多くの人を、傷つけるだけなのだから。
心を許しちゃいけないんだ。
優しさを、鵜呑みになんてしちゃいけないんだ。
わかってる。
わかってるつもり。
なのに。
『よくやったな。ダリウス』
頭の上の暖かな温度を、僕は確かに覚えていた。
reminder
複雑心境のダリウス。
スティーブの過去の所業がダリウスを苦しめているんだぜ。
バネズは完全にとばっちりですwww
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ→頭撫でられると嬉しいけどスティのこと思い出して
複雑な表情になっちゃうダリウス、でした)
2011/02/01
ビリビリとした痛みを覚えるほどの近距離。
物理的ではない衝撃に体が後退しそうになる。
「ひるむなっ!そのまま突っ込めっ!!」
「っ・・・!」
萎縮しかけた体に鞭打つ声。
勝手なこと言うなよ!と心の中で文句を垂れた。
声に出なかったのは、そんな余裕が微塵もなかったからだ。
余分な空気を吐き出す余力も、暇も無い。
目線一つ、目の前の相手から外すことができない。
そのような隙を見せれば、自分など殴られたことを認識する間もなく地面と熱い口づけを交わすことになる。
「っぁっ!!!」
気合いなのか、ただの呼気なのか、自分にもわからない。
中途半端な音を口から漏らし、無理矢理地面を蹴る。
同時に、自分の握る獲物を前に突き出した。
「!?」
元々間合いの一歩内まで迫っていた距離が一気にゼロ距離に縮まった。
その近距離からの突き。
踏み込みの加速も相まって、回避の暇などあるはずがない。
「っ・・・・・・ぐっ、は・・・・・・っ!?」
獲物が相手の鎖骨下を的確に撃つ。
自分よりも軽く一回りは大きい相手が、面白いように後方にすっ飛んでいった。
「・・・・・・っは!・・・・・・っは!」
突き出した姿勢のまま、僕の体は動かない。
荒い呼吸でわずかに上下する程度だ。
こんなに急速に息を吸い込んでいるのに、全然呼吸が整わない。
指先が酸欠した時のようにピリピリしている。
(・・・・・・違う・・・・・・)
体は限界だというのに、頭の中はひどく冷静だった。
違う。
違う。
これは酸欠なんかじゃない。
(やったんだ・・・・・・)
歓喜だ。
体中の細胞が、興奮しているんだ。
「・・・・・・やった・・・・・・」
吐息のようにぽろり、言葉が漏れ出る。
カラン、握っていた棍棒が手の中からこぼれ落ちた。
「・・・・・・っ、たたた・・・・・・。クソ・・・・・・手加減無くぶち込みやがって・・・・・・」
「あ、ごめん」
慌ててすっ飛んでいった相手に手を伸ばした。
幸い、というかなんというか、致命傷には至っていない。
それもそのはず。
彼はバンパイアだ。
僕とは違う完全なバンパイア。
棍棒の打撃一撃で死ぬような柔な作りはしていない。
「謝る必要があるか」
僕たちの後方から声がかかる。
「バネズ」
バンパイア・マウンテンのゲームズマスターにして僕の師匠でもあるバネズ・ブレーンだ。
随分昔に両目から光を失っているが、まるでちゃんと見えているかのように迷いない足取りでこちらに歩み寄ってくる。
「・・・・・・半バンパイア相手に一撃でやられるとは情けないな」
「そうはいっても、ダリウスの奴確実に強くなってるんですからハンデ有りはきついですよ」
「だからお前の修行にもなるんだろうが」
「ですが・・・・・・」
「文句を言うな。負けたからには訓練追加だ。打ち込み200セットやってこい」
「はいはい。わかりましたよ。ったく、教官は厳しくていけねぇ」
「口答えがあるならプラス100セットでもいいぞ?」
「っ!遠慮しますっ!!」
弾かれたような勢いで、奥の訓練室に行ってしまった。
僕はと言えば、伸ばした手のやり場が無くて無意味に握ったり開いたりをしていた。
「・・・・・・何してるんだ?」
「あ、いや・・・・・・」
恥ずかしくなって手を引っ込める。
別にしたくてしていたわけじゃない。
「それはそうと、よくやったな。ダリウス」
「へ?」
「腑抜けた声を出すな。あいつから一本取れたの初めてだろう?もっと喜べ」
「・・・・・・うん・・・・・・」
未だ指先が興奮を覚えている。
ふつふつと、胸の奥底から歓喜が沸き上がってくるのがわかる。
着実に強くなっている。
それが実感できることが素直に嬉しい。
「流石、俺の弟子だな」
バネズの大きな手が、僕の頭を遠慮無く撫でた。
表現としては『かき回した』という方が正確かもしれないけれど。
わしゃわしゃ、と。
その動きでバネズがどれだけ嬉しく思っているのかがこちらにまで伝わってくる。
自分のことのように喜ぶバネズに、僕はちょっとだけ気恥ずかしくなり、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。
不意に。
いつだったか、同じような気持ちになったことを思い出す。
いつのことだろう。
バネズに手放して誉められた記憶は余り無い。
もっと、ずっと昔だ。
僕が、半バンパイアになる前。
人間だった頃。
・・・・・・いや、半バンパニーズだった頃。
『流石、俺の息子だ』
心底嬉しそうに、僕の頭を撫でる大きな手。
僕が教えを学べば学んだだけ、誉めてくれた。
凄いぞ、偉いぞ、そう言って僕を喜ばせた。
僕が喜ぶことは、パパも喜ぶこと。
その感情を、疑おうなどとは一度たりとも思わなかった。
人間のために戦うパパは誇りだった。
息子であることが誇らしかった。
この人のためなら何でもできる。
そう思った。
パパだから、愛してくれるのだと。
パパだから、愛しているのだと。
そう、思っていた。
けれど、今、僕の記憶の中でパパは醜く笑ってる。
バカな息子を、あざ笑ってる。
使えない奴だと、罵っている。
僕をただの道具としてしか見ていない。
優しく笑ったふりをして、その目は温度を宿していない。
今になればよくわかる。
パパは、僕を騙そうとしている。
都合のいい言葉だけを巧みに選んで僕をどこかに誘導する。
最後の最後で劇的に突き落とすために、行き先は最後まで明かさない。
「とてもいいところだよ」なんて嘘を平気な顔して言ってのける。
その実、絶望に歪む顔が見たいと心の奥底で叫んでいる。
酷いパパ。
冷たいパパ。
同じ年頃の子供を、あっさりと殺した恐ろしいパパ。
きっとあのまま生きていたら、僕も同じように殺されたんだ。
僕は道具。
ダレンおじさんを苦しめるための、ただの道具。
役目が終われば、捨てられるだけの運命。
壊れた玩具をゴミ箱に投げ入れるような気軽さで、僕の命を簡単に奪うんだ。
「・・・・・・ダリウス・・・・・・?」
この人も?
この人もそうなの?
僕を、道具としか見ていないの?
その笑顔の下で、僕のことをバカにしているの?
いつか、僕を裏切るの?
「・・・・・・やめてよ・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・子供じゃないんだから、いちいち頭なんか撫でないでよ!」
「お、おぉ。悪いな」
頭の上の手が退けられた。
目頭が熱い。
堪えているものが、溢れだしてしまいそうだ。
「今日はもう訓練終わりでいいでしょ」
「あ~、そうだな。今日はこれくらいにしておくか」
「じゃ、僕疲れたから部屋に戻るね」
零れる前にバネズの前を離れたかった。
盲目の癖して察しがいいんだ。
呼び止められる前に、僕は駆けだした。
「お!おい!?ダリウスっ!?」
呼ぶ声は、もう遠い。
振り返らずに僕は走る。
イヤだ、いやだ、聞きたくない。
信じたくない。
期待したくない。
傷つくだけなのだから。
もっと多くの人を、傷つけるだけなのだから。
心を許しちゃいけないんだ。
優しさを、鵜呑みになんてしちゃいけないんだ。
わかってる。
わかってるつもり。
なのに。
『よくやったな。ダリウス』
頭の上の暖かな温度を、僕は確かに覚えていた。
reminder
複雑心境のダリウス。
スティーブの過去の所業がダリウスを苦しめているんだぜ。
バネズは完全にとばっちりですwww
こちらはついったで提供していただいたネタを元にしています。
揚羽さんネタ提供ありがとうございます!
(ネタ→頭撫でられると嬉しいけどスティのこと思い出して
複雑な表情になっちゃうダリウス、でした)
2011/02/01
「そういえば、だが」
何の脈絡もなく、バンチャが話を切りだした。
それはいつものことで。
今更どうこう言うつもりもない。
瞳の潰れた顔を向けたところで何が変わるわけでもないが
、雰囲気のためにそちらに振り返った。
「なんでお前はダリウスに血を注いでやらないんだ?」
「ダリウスはもう半バンパイアですが?」
バンチャはその場に居合わせている。
知らないはずがない。
「そういう意味じゃない」
「・・・・・・といいますと?」
「決まりが悪いだろ」
「・・・・・・」
「別に、弟子は必ず師から血を流し込まれなければいけない、なんて掟はないがほとんど通例になっている。バネズはあいつの境遇を知っているだろう?ダリウスに不憫な思いをさせるな」
言われ無くとも。
できるなら、そうしてしまいたい。
自分の血を流し込んで、きちんと、はっきりと、あいつは俺の弟子なんだと公言したい。
だが、それはできない。
してはいけない。
約束したんだ。
あいつと。
「・・・・・・頼まれたんですよ。血を流し込まないでくれって・・・・・・」
「誰にだ?」
そんなことを言う奴は俺がとっちめてやる、とでも言いたげな顔をしていることだろう。
まったく、この人は何十年経っても変わらない。
感情を殺すなんて言葉を知らない。
見ていて気持ちがいいほど己の感情に正直な人だ。
残念なのは俺がその顔を、もう見れないということだ。
「ダリウス本人に、ですよ。バンチャ元帥」
あぁ、今度は鳩が豆鉄砲食らったように驚いた顔をしていることだろう。
きっと愉快な顔を晒しているに違いない。
それを見れないのは、残念だ。
□■□
ダリウスとその話をしたのは、本当に出逢ってすぐのことだ。
正式に、というのもおかしな話だが俺はダリウスの師としてこれから指導していくことが元帥閣下から言い渡された。
部屋に引っ込んでから、ダリウスが何か言いたそうにこちらを伺ってきた。
「・・・・・・ね、バネズ」
「ん?どうした?」
「僕、このままじゃだめかな」
「何がだ」
「・・・・・・みんながさ、大抵は師に血を流し込んでもらうもんだ、って・・・・・・」
「俺が師匠だなんてまだ認められないか?」
「そうじゃないよ。そういうことじゃなくて、さ・・・・・・」
もごもごと。
言いにくそうに、口ごもらせる。
「・・・・・・血を流したら、完全なバンパイアになるのが早くなるって聞いたから・・・・・・、だから・・・・・・」
「なんだ、人間に未練でもあるのか?」
確かに、完全なバンパイアになれば日の光に当たれなくなる。
圧倒的な能力を得る反面、他にもいろいろと制限を受ける事項が増える。
それを嫌がって自然純化を望むバンパイアも少なくはなかった。
だが、ダリウスははっきりと首を横に振った。
「違う。未練があるんじゃないよ。未練はない。バンパイアになれたことは誇りに思ってる」
「ならなんで半バンパイアのままがいいんだ?」
「・・・・・・体の成長が、遅くなるんでしょ・・・・・・?」
「うん?」
「半バンパイアでも5年に1歳分、バンパイアなら10年に1歳しか年を取らないって聞いたよ」
「まぁ、確かにその通りだが・・・・・・」
それが今更なんだ。
未練はないんじゃないのか?
だが、ダリウスの回答は俺の予想を遙かにぶっちぎったものだった。
「そんなの、ママが可哀想だよ・・・・・・。ずっと一人で頑張ってきたママを、本当に一人にしちゃって・・・・・・。その上、僕だけこのままなんて・・・・・・」
肩を震わせている。
「いつかママに逢ったとき、このまま成長していない僕を見たらきっとがっかりする。僕が子供だなんてきっと認めてくれない」
・・・・・・わかった。
「僕だって、見せてあげたい。パパくらい身長が大きくなって、僕がママを守ってあげるんだって、言ってあげたい」
こいつは、心優しすぎる。
「だから・・・・・・、だから・・・・・・。少しでもいいから体を成長させたいんだ・・・・・・」
おおよそ、バンパイアにもバンパニーズにも似つかわしくないほどに。
「だから、今は血を流して欲しくない・・・・・・」
「わかった」
それだけの決意があるのを、どうして踏みにじるなんてことができるだろうか。
「血を流すのは通例だ。別に、絶対にしなくちゃいけない訳じゃない。お前の中には、もう立派にバンパイアの血が流れている。ダレンの血が、ちゃんと流れている。そうだろう?」
「・・・・・・うん」
ダリウスが自分の心臓のあたりをギュッと掴んだ。
その上に、俺は手を重ねる。
「それを大切に守ってやれ。お前の成長を、ダレンが生きていた証を『ママ』に見せてやれ」
「うん・・・・・・っ!」
血を流したくないのは俺のエゴでもある。
あいつらの存在を、かけらでもこの世に残してやりたかった。
何一つ残さずに逝ってしまったあいつらを思い出す、唯一だったから。
例え数年後、もしくは数十年後、血を流し込まなかったことを後悔する日があるかもしれない。
形ばかりの関係に、お互い心を痛める日が来るかもしれない。
けれど、その傷こそが俺とダリウスの師弟の証。
同じ痛みが、俺たちを結びつけている。
Painfully
傷師弟の『傷』は
何もバネズの物理的な傷だけを指しているのではなく
二人が共有する『捏造師弟』としての『傷・痛み』を
包括して傷師弟と命名しました。
まぁそんな自己満設定の説明小話。
2011/01/30
何の脈絡もなく、バンチャが話を切りだした。
それはいつものことで。
今更どうこう言うつもりもない。
瞳の潰れた顔を向けたところで何が変わるわけでもないが
、雰囲気のためにそちらに振り返った。
「なんでお前はダリウスに血を注いでやらないんだ?」
「ダリウスはもう半バンパイアですが?」
バンチャはその場に居合わせている。
知らないはずがない。
「そういう意味じゃない」
「・・・・・・といいますと?」
「決まりが悪いだろ」
「・・・・・・」
「別に、弟子は必ず師から血を流し込まれなければいけない、なんて掟はないがほとんど通例になっている。バネズはあいつの境遇を知っているだろう?ダリウスに不憫な思いをさせるな」
言われ無くとも。
できるなら、そうしてしまいたい。
自分の血を流し込んで、きちんと、はっきりと、あいつは俺の弟子なんだと公言したい。
だが、それはできない。
してはいけない。
約束したんだ。
あいつと。
「・・・・・・頼まれたんですよ。血を流し込まないでくれって・・・・・・」
「誰にだ?」
そんなことを言う奴は俺がとっちめてやる、とでも言いたげな顔をしていることだろう。
まったく、この人は何十年経っても変わらない。
感情を殺すなんて言葉を知らない。
見ていて気持ちがいいほど己の感情に正直な人だ。
残念なのは俺がその顔を、もう見れないということだ。
「ダリウス本人に、ですよ。バンチャ元帥」
あぁ、今度は鳩が豆鉄砲食らったように驚いた顔をしていることだろう。
きっと愉快な顔を晒しているに違いない。
それを見れないのは、残念だ。
□■□
ダリウスとその話をしたのは、本当に出逢ってすぐのことだ。
正式に、というのもおかしな話だが俺はダリウスの師としてこれから指導していくことが元帥閣下から言い渡された。
部屋に引っ込んでから、ダリウスが何か言いたそうにこちらを伺ってきた。
「・・・・・・ね、バネズ」
「ん?どうした?」
「僕、このままじゃだめかな」
「何がだ」
「・・・・・・みんながさ、大抵は師に血を流し込んでもらうもんだ、って・・・・・・」
「俺が師匠だなんてまだ認められないか?」
「そうじゃないよ。そういうことじゃなくて、さ・・・・・・」
もごもごと。
言いにくそうに、口ごもらせる。
「・・・・・・血を流したら、完全なバンパイアになるのが早くなるって聞いたから・・・・・・、だから・・・・・・」
「なんだ、人間に未練でもあるのか?」
確かに、完全なバンパイアになれば日の光に当たれなくなる。
圧倒的な能力を得る反面、他にもいろいろと制限を受ける事項が増える。
それを嫌がって自然純化を望むバンパイアも少なくはなかった。
だが、ダリウスははっきりと首を横に振った。
「違う。未練があるんじゃないよ。未練はない。バンパイアになれたことは誇りに思ってる」
「ならなんで半バンパイアのままがいいんだ?」
「・・・・・・体の成長が、遅くなるんでしょ・・・・・・?」
「うん?」
「半バンパイアでも5年に1歳分、バンパイアなら10年に1歳しか年を取らないって聞いたよ」
「まぁ、確かにその通りだが・・・・・・」
それが今更なんだ。
未練はないんじゃないのか?
だが、ダリウスの回答は俺の予想を遙かにぶっちぎったものだった。
「そんなの、ママが可哀想だよ・・・・・・。ずっと一人で頑張ってきたママを、本当に一人にしちゃって・・・・・・。その上、僕だけこのままなんて・・・・・・」
肩を震わせている。
「いつかママに逢ったとき、このまま成長していない僕を見たらきっとがっかりする。僕が子供だなんてきっと認めてくれない」
・・・・・・わかった。
「僕だって、見せてあげたい。パパくらい身長が大きくなって、僕がママを守ってあげるんだって、言ってあげたい」
こいつは、心優しすぎる。
「だから・・・・・・、だから・・・・・・。少しでもいいから体を成長させたいんだ・・・・・・」
おおよそ、バンパイアにもバンパニーズにも似つかわしくないほどに。
「だから、今は血を流して欲しくない・・・・・・」
「わかった」
それだけの決意があるのを、どうして踏みにじるなんてことができるだろうか。
「血を流すのは通例だ。別に、絶対にしなくちゃいけない訳じゃない。お前の中には、もう立派にバンパイアの血が流れている。ダレンの血が、ちゃんと流れている。そうだろう?」
「・・・・・・うん」
ダリウスが自分の心臓のあたりをギュッと掴んだ。
その上に、俺は手を重ねる。
「それを大切に守ってやれ。お前の成長を、ダレンが生きていた証を『ママ』に見せてやれ」
「うん・・・・・・っ!」
血を流したくないのは俺のエゴでもある。
あいつらの存在を、かけらでもこの世に残してやりたかった。
何一つ残さずに逝ってしまったあいつらを思い出す、唯一だったから。
例え数年後、もしくは数十年後、血を流し込まなかったことを後悔する日があるかもしれない。
形ばかりの関係に、お互い心を痛める日が来るかもしれない。
けれど、その傷こそが俺とダリウスの師弟の証。
同じ痛みが、俺たちを結びつけている。
Painfully
傷師弟の『傷』は
何もバネズの物理的な傷だけを指しているのではなく
二人が共有する『捏造師弟』としての『傷・痛み』を
包括して傷師弟と命名しました。
まぁそんな自己満設定の説明小話。
2011/01/30