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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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久方ぶりに傘を持たずに家を出た。
学生鞄を持ち、片手が開いていることに少しだけもの寂しい何かを感じた。
玄関を開ける。
外は心内とは裏腹に綺麗に晴れ渡っていて、余計に気分を沈ませた。
待ち遠しく思っていた日の光が、今は疎ましい。
差し込む光に目を細めながら、少女はギシギシと悲鳴を上げる立て付けの悪い階段を降りていった。
いっそ何もかも壊れてくれればいいのに。
少女は物騒な思考を脳裏によぎらせた。
思い通りにならない現実も。
期待ばかりが先行する妄想も。
何もかも、跡形もなく壊れてしまえばいい。
少なくともこんな陰鬱な気持ちにならずに済む。
降り続く雨に湿気った制服に袖を通した時でさえ、こんなには気分は沈まなかった。
少女の心をこれほどまでに乱したのは、あの男だ。
名前すら知らぬ、黒衣の青年。
勝手に現れて、勝手にいなくなった、勝手な人。
そのくせ、痕跡だけははっきりと残していった卑怯な人。

「・・・・・・ばか・・・・・・」

水たまりに言葉を沈めた。
聞く人も、答える人も、誰もいない。
少女は一人だった。
ずっと、独りだった。
誰にも必要とされず、まして誰かを必要ともしない。
きっと自分は世界に対するイレギュラーなのだ。
いくらか前に少女はそんな答えを自分の中に見いだしていた。
人は、社会は、互いに何らかの相互性を持っている。
どんな些細なことであれ、そうやって関係というのは成り立っていく。
完璧な生物など居らず、不完全だからこそ、誰かを必要とする。
足りない部分の穴を埋めて、埋められて、ようやく本当の形というものが出来上がってくる。
だというのに、少女は誰かを必要としない。
埋めるべき穴など存在しない。
たった一人でも、立ててしまう。
たった独りでも、存在できてしまう。
そういう意味で、少女はイレギュラーだった。

しかし、少女も生まれながらに穴を埋めていたわけではない。
少女にも独りではない時があった。
他者を必要とした、そんな時があった。
だが、誰かを必要としたままで生きることをあの人は良し
としなかった。
欠損した穴を補完する訓練を徹底的にたたき込まれた。
おかげで少女は今独りでここに立っている。
そうなることを望んだのも、仕組んだのも、すべてあの人だ。
あの人を恨むつもりはない。
応えたのは、少女自身だったのだから。

少女は一通の手紙をポストに投げ込んだ。
何の変哲もない、ごくありふれた茶封筒だった。
思えば、これはあの人に対する小さな報復だったのかも知れない。
時間が経ちすぎて契機など当の昔に忘れてしまった。
今となってはどうでもいいことに代わりはなかった。

鬱々とした呼気を何度か漏らし、ようやっと踏ん切りをつけて少女は学校へと足を向けた。
回り道をしようかとも考えたが、ばからしいのでやめた。
学生靴の硬い靴底が何度も地面を蹴った。
そのたびに飛沫が日の光を受けてきらきらと光った。
こんなに綺麗なのに、少女は綺麗だと思えなかった。
心の奥底が淀んでいた。
目が光を宿していないだろうことが容易に想像できた。

ふいに、顔を上げた。
昨日あの男を見つけたあの路地の前だ。
期待など何もない。
ただ、胸騒ぎがした。
何かに引きつけられた感じがした。
『何か』に名前を付けるなら、臭いとか空気だろうか。
具体性など無い、ほとんど直感的なものだった。
おそるおそる、のぞき込む。
何もない。
もう少し、目を凝らす。
黒い影が、わずかに動いたように見えた。
たったそれだけで少女は学生鞄を投げ出して地面を蹴った。

「っ・・・・・・どうしたんですかっ!?」

ぐったりとして動かない黒衣を揺さぶった。
うっ・・・・・・と小さな声が漏れた。
生きてはいる。
生きてはいた。

「こんなところで・・・・・・なにしてるんです・・・・・・」

ほとんど涙声になっていたことに少女は驚いた。
こんな感情の欠落がまだ自分にあったなんて知らなかった。
私は、独りでも立てるはずなのに。
弱さなんて、亡くしたはずなのに。
まだこんなにも揺さぶられるだけの心があった。
言い換えれば、影響力がそれだけ大きいということだ。

「なんで・・・・・・私を独りにしたんですか・・・・・・」

独りはイヤだ。
独りは寂しい。
私は独りでも立てるけど、それでも誰かに側にいてほしかった。
誰かが必要では無いけれど、誰かを必要としたかった。
そんな当たり前を生きたかった。

「側に・・・・・・いてください・・・・・・」

私を嫌いになってもいいから。
幻滅されても構わないから。
私を、独りにしないで欲しい。
ずっとだなんてわがまま言わないから。
せめて、せめて・・・・・・。

少女は地面に沈んだ黒衣に顔を埋めた。

「・・・・・・思ったよりも帰るのが遅くなった」
「言うことは・・・・・・それだけですか・・・・・・?」

埋めた頭に添えるように、人の温もりが触れた。

「悪かったね」
「心が篭もってないです」

埋めたまま、小さく少女はこぼす。
僅かに、男が纏う空気を柔らかくした気がした。

「謝り方なんて知らないんだよ。誤ったことも無いしね」
「生き方そのものが誤ってますよ」
「まぁ・・・・・・そういうことにしておいてあげるよ」
「何で貴方が譲歩したみたいな口ぶりなんですか」

気に入らないわ、この上から目線。

「事実だからだよ」
「非常に不愉快です」
「不愉快なら、いい加減退いてくれない?」
「やです」

気に入らないから、怪我していることを承知で頭を思い切り押しつけてやった。
小さい悲鳴が上がりかけたが、男はプライドだけでどうにか飲み込んだ。

「っ・・・・・・、怪我人の腹に頭を乗せ続けるなんて良い趣味しているね」
「私を変態みたいに言わないでください。これは罰です。約束を破った罰」
「・・・・・・この程度で君のご機嫌取りが出来るなら安いのかな?」
「破格の叩き売りです」

だから、甘んじて受ければいいのよ。
この人。
この・・・・・・。

「・・・・・・イーピン・・・・・・」
「ん?」
「私の名前です」
「そう」
「それだけですか」
「名前を誉めちぎる習慣はないんだ。そういうのがしてほしいなら他を当たってよ」
「いい加減怒りますよ?」
「もう怒ってるくせに」

貴方がわかっていてうすらとぼけた振りをするからじゃない。

「ヒバリ」
「・・・・・・」
「肩書きはいろいろあるけど・・・・・・まぁ、昨晩からのなんやかんやで剥がれ落ちてしまったみたいだから今はそれだけ」
「ヒバリ・・・・・・さん?」
「うん。悪いけど、また世話になるよ」

そうじゃなきゃ、君はまた泣いてしまいそうだからね。
年頃の少女を二度にも渡って無き止ませる方法なんて僕は知らない。
だから今はまだ、平素を逸脱したままの自分でいい。

「よろしく。イーピン」

薄暗い路地から空を見上げた。
仰向けに倒れているのだからそれしか視界に入らなかった。
薄暗さを割り入る青。
思わず目を細めたくなる、けれど目を背けようとは思わない眩しさがあった。

これだけ手ひどくやられてプライドすらもぼろぼろのはずなのに、どういうわけか男の心内は一層明るく晴れ渡っていた。




シリーズ第七話でした!
やっと二人がお互いの名前を聞いてくれたよ!!
これで声を大にして言える。
これは間違いなくヒバピンです!!!
一応ここまでで話全体の前半が終了です。
話の区切りがいいので一端終了します。
ここまでお付き合い下さった皆様ありがとうございます!!
2011/03/17

拍手[1回]

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東の空が明るみ始めた街を、男は一人歩いていた。
乾ききっていなかった自分の服は朝の冷気でより一層冷やされていく。
その冷たさが、今は心地よかった。
今朝方まで降り続いた雨により清浄化された空気。
鼻から吸えばツンと奥を刺激する。
こんな朝が、男は好きだった。
群れてうごめく連中が起き出す前の、清廉な街。
本来あるべき姿。
そんな街を見て回るのはもはや男の習慣だった。

お決まりのコースをぐるりと回る。
今日はイレギュラー地点からの出発ではあったが、平素通りに道を辿った。
ひとしきり歩いても特に異常は見あたらなかった。
時折眠そうにあくびをする猫を見かけたくらい。
それ以外は何の変哲もない、ありふれた街並みだった。

「・・・・・・異常なし・・・・・・か」

ぽつりと漏らす。
どこにも異常はなかった。
おかしいくらいに、正常だった。
男が地に着けられたのに、それで正常を保っているなどそれこそ異常ではないか。
昨日の己の醜態を思い出し、反吐が出そうになった。

(この僕が手も足も出せずにいなされた・・・・・・)

ギリッ、と奥歯が鳴る。
あのような屈辱は初めてだ。
倒されるなら、いっそ殴られてしまっていた方がマシだったに違いない。
息の根を止めるほどの狂気で、殺されていた方がマシだった。
思わせるだけの圧倒的な強さを内に秘めていた。
なのにその片鱗も垣間見せることもなく、男は姿をくらましてしまった。

(くそっ・・・・・・)

男は通常の巡回コースから外れてある場所に足を向けた。
昨日男が屈辱的に地に着けられた、例の細い路地だ。

たどり着くまで、周囲に念入りに意識を向けた。
どんなに些細な変化すらも見逃さないつもりで、注意深くあたりを見回す。
だんだんと朝日が射し込んできたが、まだ人気はほとんど見られない。
男の足音だけがいやに響く。

(そう言えば・・・・・・)

男はふと思う。

(鍵も掛けずに出てきたのはまずかっただろうか・・・・・・?)

自分のではない家のことが脳裏によぎった。
人が活動するような時間ではないとはいえ、年端のいかぬ少女が居る家を鍵も掛けずに出てきたのは総計だったかもしれない。
おおよそ常人とは思えない少女のことだから、まぁ安否の心配はいらぬだろうがやはり少し気がかりだ。
せめて少女が目を覚ます前に戻ってやらないといけない。
時間を確認しようと、定位置のポケットに手を伸ばす。

「・・・・・・あれ?」

自分で取り出した記憶もないが、あるべきはずの携帯電話はそこにはなかった。
周辺を探ってみたが出てくる気配はない。
そう言えば、この服は昨晩少女が洗ってくれている。
その際に取り出したまま、どこかに放置されたのかもしれない。
別段見られて困るような情報も入っていないが、帰ったら回収しよう。
日の出の状況と体内時計を比べて、今が六時前後であると目測。
自身を中学生とのたまった彼女が起き出すまではどのくらいだろうか?
幸い、例の細い路地は彼女の家から十分も離れていない場所にある。
今から帰ればちょうど出掛け際にセットしてきたご飯も炊けていることだろう。

つらつら考えている内に、昨日の場所に戻ってきた。
通りから眺めるその場所は暗く。
目を細めても、奥までは見渡せない。
フラッシュバックする屈辱を奥歯ですりつぶして足を踏み入れた。
歩数にして僅か十歩ほどで路地は大きく右方向に折れる。
その、折れ曲がる直前。
ちょうど、昨日の自分が倒れ伏していた場所に立つ。
未だ乾かぬ日陰の場所ではあったが、血の跡はかけらも残っていなかった。
朝方まで降り続いた雨がその痕跡を綺麗に洗い流してしまったのだろう。

「・・・・・・っち・・・・・・」

足下の水たまりを蹴り、苛立ちを露わにした舌打ちを一つ漏らした。
せめて、何か足掛かりになるものでも残ってやいないかと期待した自分が愚かしい。
あれだけの手腕のものがそんな平凡なミスをやらかすはずが・・・・・・。

「私は『これ以上深入りするな』と忠告しませんでしたか?」
「っ!?」

背後に振り返る。
ちょうど、通りと路地の境目あたりに人が立っていた。
朝日が逆光となり顔はよく見えない。
しかし、その人物が纏う空気には覚えがあった。
足音はおろか、気配すら希薄な人物などそうそう居るものではない。

「昨日の・・・・・・」

男のプライドを完膚無きまで傷つけた存在。
反射的に仕込んでいる隠し武器に手を伸ばす。

「君はもう少し賢い人間だと思っていたのですが、どうやら違ったようですね」
「うるさいよ」
「そういう無駄なことはやめませんか?『私には敵わない』と、君も解っているのでしょう?せめてその程度には利口であってくれると助かるのですが・・・・・・」
「うるさいって言ってるのが聞こえないの?」
「聞く耳持たず、ですか。いいでしょう。君の手を引かせるにはプライドを折る程度では足りなかったというわけですね」

背中に朝日を背負った人間は、腰を深く沈めて構えを取った。

「あの子の邪魔になるのなら、力ずくでもねじ伏せてあげましょう」


□■□


ほんの、数分後。
男は朝焼けに染まる空を見上げながら、宙に舞った。
地面に叩きつけられる直前、脳裏をかすめたのは少女の顔。

(そういえば、結局名前も聞かなかったな・・・・・・)

何の断りもなく居なくなったことを、少女は怒るだろうか?
だとしたら困った。
男は年頃の少女のご機嫌取りの方法なんて知らないのだ。
蹴り飛ばされてこんなことを考えるだなんてどうかしている。
頭のネジが数本まとめて吹っ飛んでしまったに違いない。

吹っ飛んだネジと一緒に、男は意識も手放した。



第6-β話、ヒバリside話でした。
今回も安心のローテンションです。いい加減参りますね。
謎の(笑)人物も出てきていよいよ物語も佳境に差し迫っているのでしょうか?
こればっかりは書いている本人にも解りません!
毎度のお約束も、もしかしたらこれで最後になるかもしれません!
ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです。
今しばらくゆるりとお付き合いくださいませ。
2011/02/21

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「・・・・・・バカみたい」

少女は自分自身にそう言った。

何を期待していたんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
こんな場所には誰も寄りつかない。
こんな私には、誰も近づかない。
わかりきったことなのに、今更何を期待したんだろう。

「ほんの・・・・・・気まぐれよ・・・・・・」

全部今更。
期待など当に捨てたと思っていた。
向こうから慌てて逃げていったと思っていた。
それでも、私は未練たらしく何かにすがろうとしていた。
そんな自分が許せない。
自分が傷つくだけの儚いモノに何を求める。
忘れるの。
あの人のことなんか。
そうじゃなければ耐えられない。
一人で抱えられるモノなんて、ほんの僅かしかないのだから。

何もなかった。
何も起こらなかった。
幸せな夢を見ていただけ。
幸せに餓えていただけ。
ただそれだけ。
ここには誰も訪れなかった。
私はいつも通りに、一人きりで夜を明かした。
それだけ。
それだけだ。

少女は布団の中から這いずり出た。
のろのろと緩慢な動作で、自らの温もりに後ろ髪引かれながら布団を片づけた。
何故か出してしまったもう一組の布団も片づける。
顔を洗いに風呂場に向かう。
洗濯篭には何故かバスタオルが二枚も入っていた。
昨日雨で濡れたから使ったのだったかしら?
記憶が曖昧だ。
気を引き締めるつもりで冷たい水で顔を洗った。
指先がジンっとするほど冷たい水。
冷えきったこの家にお似合いの水。
脳の中のもやもやとしたモノが洗い流されるまで、何度も何度も水を浴びせた。
十数度目で、ようやく思考がはっきりし出した気がした。
鏡をのぞき込む。
大丈夫、いつもの自分だ。

完全に冷えきった顔をタオルで拭う。
昨日までの雨に湿気ったタオルだったが、そちらの方がほんの少し温かかった。
窓の外を見た。
久方ぶりの朝日が射し込み始めていた。
汚れが洗い流された街が、きらきら光って眩しい。
今日は晴天になりそうだ。
洗濯物を片づけてしまおう。
今まで部屋干ししていたモノもまとめて外で干し直すんだ。
気持ちがいいに違いない。
少女は寝間着を脱ぎ捨て制服に着替えると、再び洗面所に戻った。
途中、──ピィィィ、甲高い電子音が響いた。
何の音であるか、理解するのに優に10秒は要した。
音源に目を向ける。
久しく使った記憶のない、炊飯器だ。
炊きあがりの音だったのだろう。
今は保温にランプが灯り、蒸気口からご飯の香りが漂ってくる。

「・・・・・・なんで?」

少女は小首を傾げた。
お米をセットした記憶なんてないのに、不思議なこともあるものだ。
疑問に思いながら台所を通り抜けた。
少女は洗濯篭に入った洗い物を色柄なんて気にせずに洗濯機に放り込む。
昨日の雨で濡れた制服やタオルを無造作に移し変えた。

「あれ・・・・・・?」

篭の底に、見慣れないモノがあった。
平べったい、長方形のモノ。
恐る恐る手に取った。

「携帯・・・・・・電話?」

恐ろしシンプルな作りで、本体は黒一色。
ストラップの類は一つも付いていない。
もちろん、少女のモノではない。
少女は携帯電話など持ってはいなかった。

「・・・・・・っ、なんで・・・・・・っ・・・・・・」

少女は、その場に崩れ落ちた。
少女のモノではない携帯電話を胸に抱えて、涙を零す。

「なんで・・・・・・居ないんですか・・・・・・っ」

何もなかったはずなのに、あの人の痕跡だけはこんなにも残っている。
夢を見ていただけなのに、あの人の気配だけはこんなにも残っている。
なのに、居ない。
どこにも居ない。
また、私を置いて行ってしまった。
堪えられなくて、少女は男の名前を呼んだ。
呼ぼうとした。

「っ・・・・・・!?」

そして、初めて気が付いた。
自分が、男を呼ぶ名前すら知らなかったことを。

思い立って、握りしめていた携帯電話を開いた。
携帯電話とはプライベート情報の塊。
男のことが何か解るかもしれない。
勝手に覗くことは悪いと知りながら、それでも少女は携帯電話に手をかけた。
開いた画面は、真っ暗。
ボタンをいじっても反応がない。
すぐさまパワーボタンを押した。
一度押す。
反応はない。
もう一度、もう一度。

「・・・・・・なんで、なのよ・・・・・・」

何度押しても、携帯電話は一向に反応を見せてはくれなかった。

外はあんなにも晴れ渡ったというのに、見つめた画面の先はブラックアウトしたままだった。




第6-α話、イーピンsideのお話でした。
ようやっと本格的に確信に迫れてきた気がするのは私だけですか?
つか、やっと気づいてくれました。
お互いの名前を知るのはいつになるんでしょうね?
そろそろ名前を出さないとヒバピン詐欺と思われそうなので、いい加減名前を聞いてください。お願いします。
もう、お約束のようになっていますね。
一応書かせてください。
ヒの字もイの字も出てきませんが、これはヒバピンです。
2011/02/17

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「そうですか」

少女はどうでも良さそうな感想を漏らした。
止めていた手を動かして、わしゃわしゃ髪を拭く作業に戻る。

「・・・・・・何も聞かないんだ?」

しがない大学生だなんて、信用ならない回答をされて黙って信じるほどの間抜けではないだろう。
言及されるつもりでいたのに、少女はあっさりと引き下がった。
今度は手も止めずに答える。

「答えるつもりが有るんですか?」
「いや?」

たぶん適当な嘘を並べ立てて回答を拒否するだろうことは自分にも、少女にもわかりきった答えだった。

「なら、相手するだけ無駄です」

聞かないからお前も聞くな。
暗にそう言っている。
そもそも、相手が何者かだなんて特に興味なんてない。
相手が誰か知らなくたって家に招けるし、風呂に入れるし、食事をすることだって出来る。
現に今自分はこうしてここにいる。
その現実だけで十分だろう。
何者か、なんて事柄は先入観を与えるだけのモノに過ぎない。

仮に何かの事態が起こるのならば、自己に責任を擦り付けすべてを咬み殺してやればいいだけの話。

ただ、それだけの話。

「君がそれでいいなら、構わないよ」
「その言い方、まるで私が強いたかのようで気に食わないです。自分の選択くらい自分でしてください」

聞かれたくないのは、お互い様でしょう?
私に転嫁しないでください。

「・・・・・・変なことにこだわるんだね」
「自己の判断を相手に委ねるのは責任逃れを望んでいるから。自身の行動に対する免罪符を掲げることで得る安堵感なんて馬鹿げていると思っているだけです。それとも、貴方もそういう類の人間ですか?」
「・・・・・・正論だよ。僕もそういう輩は見ていて反吐が出る」

男は言葉を訂正した。

「君と同様に、僕も素直に答えるつもりなんてさらさらないから聞かないよ」
「はい」

満足気に、少女は頷いた。
ただ、『君と同様に』と言った点を訂正しようとはしなかった。
少女もまた、ある程度嘘をついていることを事実として認めているのだろう。
まったくもって、少女の意図が読めない。

「じゃぁ仮に君がしがない中学生だとして、だ。君のいう『師匠』っていう人はいつ帰ってくるの?」
「さぁ?」
「・・・・・・さぁ?って・・・・・・」
「ふらりと居なくなるのはいつものことです。いつ帰ってくるのかなんて、私にはわかりません。きっと師匠にだってわかってないんでしょうね。気づいたら帰ってきているし、気づいたら居なくなっています」

淡々と、こともなげに言い放つ。
敢えて感情を込めないように意図しているようにも感じられた。
それだけのことをしてのける人間が、ただの中学生だなどとは片腹痛い。

「それよりも、貴方はこれからどうするんですか?」
「僕?」
「いつまでココに居ますか?」

さて、それが問題だ。
ココに居座る理由など男にはなかった。
男は帰るべき家が無い行き倒れとは違うのだ。
重傷で身動きとれない患者とは違うのだ。
ただ興味本位で少女に着いてきただけなのだ。
その興味の対象ですら、己を語るつもりはないと宣言されたばかりだった。
いよいよ理由がない。
理由がないなら、立ち去ればいい。
無理を押してまで居座るつもりも理由もない。

「そうだね。はっきり言って居座る理由はもう無い」

帰るか。
珍しく興味を引いた人間には心残りがあるけれど、きっと数日もせずに忘れてしまうだろう。
別段、これまでの常識を覆すほどの鮮烈なインパクトを受けたわけじゃぁない。
むしろ逆だ。
非常識が常識の皮を被って装って、無理矢理とけ込もうとしている。
隠しきれずに滲み出ている違和感。
隠そうとして隠し切れていないからこそ、気になっているだけなんだ。
男は自分にそう言い聞かせた。

「帰るよ。世話になったね」

男は立ち上がった。
後腐れなく、痕跡を残さず、消えよう。
まずは借りていた服を返そうか。
自分の服は乾いてはいないだろうけど、どうせ雨は止んでいない。
濡れて帰るのだから初めから濡れていたって大差はない。

「・・・・・・貴方は濡れた服を着る奇特な人なんですか?」

少女が男を呼び止める。

「どうせ濡れるんだ。関係ないよ」
「・・・・・・雨が上がるのを待てばいいじゃないですか」
「・・・・・・何?引き留めたいの?」
「別に。ただこの家には貴方が居座るくらいのスペースが空いていて、お布団も一組余っているだけです」
「引き留めているじゃない」
「帰りたければ帰ればいいです。ずぶ濡れの服を着ることに至高の喜びを感じる趣味があるなら、帰ればいいです」
「君は僕を変態だとでも思っているの?」
「ろくな人間ではないと思っています」

その回答は当たらずとも遠からずと言ったところだ。
あえて否定しようとは思わなかった。
だが、一つだけ言ってやりたいことがあった。

「君は、自己の判断を他人に委ねるべきじゃないと言ったよね?」
「はい」
「僕もその意見には同意する。ただ、それだけでは不十分だと僕は思う」
「と、いいますと?」
「自己の意志を他人の決断によって抑圧すべきじゃない」
「・・・・・・」
「言いなよ。君はどうして欲しいんだい?」

それが、男を家に招いた意図なのではないだろうか。
確信はないが、そう感じた。

「・・・・・・女子中学生一人は何かと危険なのでココにいてください」
「知らない男を家に連れ込む方がよっぽど危ない気はするけどね」

まぁいいだろう。
しばらく付き合ってみるのも、悪くはないかもしれない。

「雨が上がるまで、世話になるよ」

暗い路地裏から出てきたときと同じように、もう一度少女の頭を撫でた。
今度は濡れていない手で、だ。

少女は感じていた。
今頭の上にあるのは水の浸透などではなく、紛れもない温もりだと。
男から感じたのは、久しくこの家から消えていた、人の体温だった。


□■□


目覚まし時計が鳴るよりも早く、少女は体を起きあがらせた。
平素と変わらない。
いつも通りの光景。
隣に目をやった。
そこも、いつも通りの無人だった。
いつも通りではおかしいのに、いつも通りだった。

「・・・・・・」

私が目を覚ました時。
隣は、もぬけの殻。
冷たくなった布団があるだけだった。

窓の外を見た。

数日間降り続いていた雨は、上がっていた。





第5話でした。
なんかちょっと物語が動きした気がしないでもない。
しかしローテンションである。
安心のローテンション。
読む方には相当強いると思います。
すみません。
毎度のことですが、ヒの字もイの字も出てきませんがこれはヒバピンです。
今しばらくお付き合いくだされば幸いです。
2011/02/10

拍手[0回]

「いただきます」

男が座るのを待って、少女は手を合わせた。

「どうぞ」

ご飯と味噌汁と、それから冷凍芋で作った煮っ転がし。
簡素で粗末な感じしかしない食卓だ。
生鮮がないから色合いなんてこれっぽっちも考慮されていない。
ただ食べられればいいというだけの、その場しのぎ。
そういえば、少女は一体どうするつもりだったのだろうか?
台所の状態からいえば、どうにも自炊しているような雰囲気は見受けられなかった。

「・・・・・・美味しいです」
「そう」

ご飯を一口含み、味噌汁を一口啜ってから、少女は端的な感想を漏らした。
男も同じように口に運ぶ。
・・・・・・正直、そう美味しいものとは思えなかった。
既に古米であり、なおかつ口を開けてからしばらく時間が経過していたと思われる米を早炊きしたらこんなものだろうか。
味噌汁だって、なんとか味噌の汁という体裁があるからその名で呼べるといった程度のものだ。
けれど、少女の言葉は口先だけの社交辞令では無いように思えた。
思うに至る何かが有ったわけではないが、何となく、男にはそう感じられた。
その後も、男と少女は黙々とご飯を胃に流し込んだ。
会話もなく。
沈黙を保ったままの食卓。
別段息苦しさを感じなかったのは、多分男が無駄口を嫌う人種だったからだろう。

「ごちそうさまでした」
「お粗末様で」
「美味しかったです」
「・・・・・・そう」
「はい」
「あれを美味しいとか、普段の食生活が知れるね」
「・・・・・・また詮索ですか?」
「ごく一般的な疑問と哀れみだよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・僕には関係ないことだけどね」
「関係ないなら、聞かなければいいのに」

またしても機嫌を損ねた少女は、おもむろに立ち上がり男の分の食器もまとめて流しに運んだ。
端的には、この場から逃げたというのが正確か。
少女の背中を視線で追うが、少女は振り返ろうともしない。
「気まぐれだ」とのたまう少女の意図が、男には未だ見えない。
他人など無関心の対象でしか無かったというのに、どう言うわけか気にかかる。
明らかに男は平常ではない。
自覚できるレベルで常を逸している。
男を知る者がこの場に居たならば目を疑うくらいでは済まないだろう。
天変地異だと騒ぎ立て、あげく偽物だとのたまうかも知れない。

(そうだ、偽物だ)

男は静かに結論付けた。
今この場に居る自分は偽物だ。
他人の世話を焼く自分など偽物だ。
他人に興味を引かれる自分など偽物だ。
他人の世話になる自分など偽物だ。
他人に完敗したあげく路地裏に放り出された自分など、偽物だ。

(っ、・・・・・・くっ!)

忘れていた憤り。
何故忘れていたかも忘れるほど、綺麗さっぱり忘れていた憤りが男の中を満たす。

「・・・・・・惨めな顔をしていますね」

いつの間にか、少女が戻ってきていた。
戸口に立って、男を見下ろしていた。

「・・・・・・」
「いい様です」
「・・・・・・」
「貴方みたいな人は地べたに這い蹲っているのがお似合いですよ」

冷ややかな声。
温度を徹底的に排除した、無機質な。
おおよそ一般人には出せないような。
そんな声。

「・・・・・・何のつもり?」

剥き出しの敵意。
ほとんど脊髄反射で握り込んだ拳。
女?
子供?
そんなモノは関係ない。
男に楯を突いた。
力を行使する上でそれだけの理由が有れば十分すぎる。
だが、少女は微塵もたじろいだりはしなかった。
表情一つ変えやしない。
冷たい目で男を見下ろすばかりだ。
もはや見下ろしているのかどうかも定かではない。
蔑んでいるのかも知れない。
見下しているのかも知れない。

「人のことを勝手に哀れんだ仕返しです」

ほんのわずか、声に体温が宿った。
未だ濡れたままの髪の毛をタオルで拭いながら、少女は当たり前のように男の横に座った。

「・・・・・・何のつもり?」

もう一度同じ言葉を繰り返す。
ただし、そこに込められた意味は大きく異なっていた。

「自分の家でどこに座るか、いちいち了承を得ろと?」
「いや」
「なら、問題有りません」
「・・・・・・」

問題は、ない。
多分。
だが、ひどく調子は崩される。
すべてのタイミングがずらされる。
何もかも思い通りにいきやしない。
伸ばした手が目測を誤っているかのような、気持ち悪さ。
自分が自分で居られなくなるような、不安感。
自身の根底をすべからく覆すような、恐怖。
脳が発する緊急危険信号。
これまでに出逢ったことのない、未知。

「君は何者?」
「しがない中学生です」

体に取り巻いていた不快感を一蹴するほど、小気味のいい嘘を少女はついた。
自身を『しがない』などと形容する一般人が居るものか。
全く持って信じるに値しない言葉だ。

「貴方こそ何者なんですか?」
「僕?」
「おおよそ一般人とはかけ離れた仕込み暗器。模型を持っている人もいると聞きますけど、アレは本物でした」
「・・・・・・僕の服、どうしたの?」

洗面所に放置してきた衣服を思い出す。
無造作に放置など、決してしないミスを繰り返している。
おかしい。
自分の中の何かが、音を立てて崩壊しようとしている。
偽物が、この体を乗っ取ろうとして息を潜めている。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
目眩に似た何かが視界を歪ませた。

「そもそも、どうやって取り出したの?アレは、特殊な仕込みをしているんだ。たまたまなんて言い訳聞きたくないよ」
「私が取り出し方を知っていたと言うだけの話です」
「・・・・・・」
「勝手ですけど、染み抜きしておきました。黒だけど、色味が変わる前の方がいいと思って。暗器は乾燥させてます」
「・・・・・・」
「何か、問題でも?」
「いや・・・・・・」

問題が有るとすれば、それは少女の存在そのもの。
一体何者なのか?

「君は、何者なの?」

さっきから同じ質問を何度と無く繰り返している。

「答えたはずです。しがない中学生だ、と」

全く悪びれもせず、少女は嘘を吐く。

「私も質問します。貴方は何者ですか?」
「僕は・・・・・・」

男は逡巡した。
脳裏によぎった言葉を口にするか、迷ったのだ。
はぐらかしてしまおうかとも考えた。
しかし、目の前のこの少女はそう簡単に諦めてくれそうに無いことも瞬時に悟った。
男は、答えた。

「しがない大学生だよ」

全く持って信用ならないと評した言葉を、そのまま少女に返してやった。


第四話でした。

話が・・・・・・・・・動き出したの?かな?わからーん!

毎度繰り返しになりますが、一応お断りを。

ヒの字もイの字も出てきませんが、これは間違いなくヒバピンです!

キリッ!!

2011/01/28

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