忍者ブログ
~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
[2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「「「我ら!名古屋おもてなし武将なりっ!」」」

抜けるように高く青い空の下、6人の男たちの声が高らかに、それでいて堂々と響いた。
一拍をおいて黄色い悲鳴がそこかしこから沸き上がる。

「・・・・・・・・・すっごいなぁ・・・・・・・・・」

それがそれぞれの決めポーズを取る武将に向けられたものなのか、それとも歓声の方を指しているのかは自分でも良く分からなかった。ただただ「すごい」の一言しか出てこない。

「・・・・・・そぉかぁ?」

隣から上がる場違いに冷めた声に振り返り、思った位置に目的の顔が見えないことに疑問を感じる。そのときになってようやく、自分が身を乗り出していることに気が付いた。
年甲斐も無くはしゃいでいたのかもしれない。
改めて体の位置を元に戻した。

「だって、すごいじゃないか実際」
「ミーハー女が騒いでるだけじゃねーか」
「なんでお前は・・・・・・そう穿ったモノの見方しかできないんだよ」
「そりゃ、本物の武将でも出てくりゃ俺だって血が騒ぐだろうけどよ。あんなもん、どう考えたって現代受けするように美化200%くらいしてるんだ。興味ねーな」

言葉通り、それでも周囲の人の気を害さない程度の心遣いはあったのだろう、舞台から視線だけ反らすようにして手にしていた缶に口を付けた。
完全に興味は失せているらしい。
元々ここに来たいと言ったのは俺の方だし、速水は最初っから興味を示すそぶりも見せなかった。
そのくせこうして付き合ってくれるのは速水なりの優しさなのだろうと気が付いたのは割と最近のことだ。
きゃぁぁっ!と再び割れんばかりの歓声が上がる。
視線を戻すと、いつの間にやら各武将の紹介に移っていた。
足軽の紹介を受け、武将が舞台の真ん中で決め台詞を言うというのが一連の流れらしい。
ある者は得意の大槍を自由自在に操って見せ、またある者は別称を体現するかのように舞台中をはね回り、また別の者は異名通りの存在感を見せつけた。

「格好いいなぁ」
「・・・・・・・・・」

意図せずに漏れ出た言葉に隣から冷ややかな視線を感じる。
たぶん何を言っても同意は得られそうにないことを彼の纏う空気から察し、あえて反応を返さない。

もしかしたら、俺は速水の言うとおりただのミーハーなのかもしれない。
天窓のお地蔵様なんて呼ばれた俺だけど、別に仙人のように世を達観視していたわけでもない。周りはどのような評価を下していたのかは分からないが、俺自身はごくごく普通の一般中年男性なのだ。
実のところ新製品とか季節限定とかの煽り文句にはすこぶる弱い人種という自覚もある。。今回この地に来たのだって何気なく眺めてた雑誌(ちなみに雑誌そのものは患者さんが置いていったものである)で特集を組まれていたからだ。

(ミーハーで何が悪い、なんて言ったらこいつは驚くかな?)

横目にちらり、速水の様子を確認。

(・・・・・・ん?)

何となく感じた、違和感。
興味がないと言っている割にはぶつぶつと自分にしか聞こえないくらいの大きさで愚痴っているようにも見える。
敵視してもどうしようも無い相手に喧嘩を売りそうなりつつもそれを自ら律しているような、そんなことをしている自分自身にふてくされているような。
そう。
一言で言ってしまえば、拗ねているような・・・・・・。

(・・・・・・なんだ・・・・・・)

可愛いところもあるじゃないか、と心の中で苦笑したのは俺だけの秘密にしておいてやろう。
舞台では一番の見所である演舞が始まっており、周囲はうるさい位の歓声に包まれていて少しくらい私語を挟んでも聞き咎められることもないだろう。
隣で拗ねる男の脇腹を肘でつついた。

「速水」
「・・・・・・何だよ」

「一番格好いいのは、血塗れ将軍だからな?」

「・・・っ!?」

吹き出しそうになったのをすんでのところで飲み込んでなんとか粗相だけは回避した。

「っ、お前なぁ・・・!!」
「ん?」

確信犯でわざと小首を傾げて見せると、速水は深々と、そりゃぁもう深々と溜息を吐く。
吐ききったら今度はクツクツ笑いがこみ上げてきたようだ。
先ほどのお返しなのだろうか。
軽く握った拳が脇腹を叩く。

「当たり前だろ。俺を誰だと思っていやがる」

そうだとも。
お前を好きな時点で、俺はミーハーと言われても仕方ない人間なのだ。


格好いい人
(お前以上なんて居やしない)

名古屋に旅行に行ったので、ついでに妄想して二人に行かせてみたよ。
速水は他人が格好いいと評されていると面白くない心の狭い人(笑)。
そんなときフォローできるのが行灯先生です。
ぶっちゃけこんな可愛いおっさんが横にいたら、私は演舞を見ているどころじゃない!
2010/09/27
 

拍手[2回]

PR
「・・・・・・・・・」

目の前の男の行動をただ黙って観察する。

「・・・・・・・・・」

不抜けているようにも見える。
瞼は開いているけれど実は寝ているのかもしれない。
半分開いているようで、半分閉じているような目でグラスからそびえるソフトクリームをつついているのだが、その動きはひどく緩慢で。
普段の彼から滲み出る覇気というものが一切感じられない。

彼が頼んだのは何だっただろうか。
たしかアイスココアとかそんなものだったように思う。
決して甘いものが嫌いなわけでは無いのだが、甘いココアとそれに輪をかけててんこ盛りにされたソフトクリームだ。
甘ったるさを想像して少しばかり胸焼けを起こしそうになる。
自分の分のブラックコーヒーを胃に流し込んで緩和を図った。
よくそのようなものが食べれるものだ、と感心したところで彼の普段の主食を思い出す。
そういえばこの男は暇さえあればチュッパを舐めていた。
言うなれば飴というものは砂糖の塊だ。
それを常日頃食べ続けている男なのだ。
本人は「効率的は糖分摂取法」と宣っていたが、実際のところただの甘党なのだと俺は踏んでいる。

「甘くないか?」
「・・・・・・・・・甘いぞ?」

会話ともいえないような言葉のやりとり。
一応起きているらしい。

「食べたいのか?」
「いらない」

差し出されたスプーンに盛られたクリームを軽く拒否すると、美味しいのに・・・・・・と小さくこぼして自身の口に納めた。
始めは溢れ出さんばかりの量だったソフトクリームも大分目減りして、ようやくストローをグラスに差し込めるくらいになった。
そもそもストローも挿せない位なみなみと注がれた飲み物というのもどうなのだろう?
傾けたコーヒーカップに口を付けながら俺はそんなことを考えていた。

(どうでもいいことだけどな)

胸中でこぼす。
そう、それはどうでも良いことなのだ。
目の前ではもたもたとストローの包装を開ける速水がいる。
ジェネラルの異名など微塵も感じさせない不器用さを最大限に発揮させて。
この男はこと救命救急医としてはピカイチだけれども、それ以外のことはてんでだめだめだと言うことはあまり知られていない。

「お前って・・・・・・本当に生活力無いよな」
「何だよ突然」
「いや。改めて痛感したから、つい」
「?」

ようやく取り出したストローをソフトクリームの上から突き立てようとしていた手を一瞬止める。
何のことを言われているのかさっぱり検討がついていないようだ。
小首を傾げるような仕草を見せてから、改めてストローを突き立てた。
そしてーーー

「・・・・・・あ・・・・・・」

数秒遅れて聞こえる単音。
グラスから溢れ出るクリーム。
見る見るグラスを伝ってテーブルに広がっていく。

何のことはない。
速水から見えない側、つまり向かいの席に座る俺の正面に面した部分のクリームが溶け落ちたのだ。

「速水のドジ」

クツクツと沸き上がる笑いを堪えて、それでも堪え切れ無い分を一言漏らす。

「・・・・・・お前・・・見えてたんなら教えろよ」
「普通気がつくだろ?」

あぁ。だめだ。
やっぱり笑いを堪えられそうにない。
腹を抱えたい衝動だけはどうにか抑えるけれど、肩が震えているのが自分でも分かった。
それを不服そうに見つめる速水は、

「・・・・・・気がついていないからこぼしたんだよ。バカ」

小さなプライドからだろうか?
手に付いたクリームをぺろり舐め取りながら、ごくごく小さな声を上げた。

そう。
こんなことはどうでもいい、取るに足らないことなのだ。
テーブルをクリームで汚してしまうことも。
お店の人に謝らないといけないことも。
これからお前の機嫌取りをしなければいけないことも。
すべてがすべて、どうでもいいことなんだ。

この男が。
将軍とも、神とも、悪魔とも恐れられるこの男が。
どうしようもない人間じみた失態をおかしてくれることに比べれば、本当に些細なことでしかない。

「俺は、知ってるよ」

お前はただの人間なんだ、って。
他の誰が忘れたって。
俺だけは、せめて俺だけは。
いつだってお前に思い出させてやるよ。
それが俺の役目だから。

「・・・・・・だから知ってたんなら教えろっての」

ねちねちと愚痴ろうとした速水は、俺の専門を思い出して閉口するしかなかったようだ。


空を舞えない人間様

グッチーは速水唯一の息抜き的存在。
グッチーもここぞとばかりに息抜きさせてるんだよきっと。
速水にはそういう存在が絶対に必要だし、グッチー以上の適役も存在しない。
そんな風に二人の関係は成り立っているのさ。
2010/09/21
 

拍手[3回]

直接言うのは・・・・恥ずかしい。
手紙をしたためるのは・・・・・改まりすぎてなんか嫌だ。
プレゼントを贈るのは・・・・・・何をあげればよいのか見当がつかない。

結論。
どうしたらいいのかわからない。

日ごろの感謝の念がないわけではないが、どうしてこう改まって向き合うと考えるとこうも気恥ずかしいのだろう。
柄じゃないから?
普段は照れ隠しに悪態ばっかりついているから?
だってしょうがないじゃん。
素直じゃないのは向こうも一緒なんだから。

「うぁぁぁぁっ!!悩むのやめっ!」

どうせ悩んだって結論なんかでないことはわかり切っているんだ。
そんなもの考えるだけ無駄じゃないか。
こういう時、僕ならどうする?

―――考える前に行動あるのみっ!!

思い立った勢いそのままに僕はテントを飛び出して一目散にクレプスリーがまだグースカ寝ているであろうトレーラに向かって駆け出した。
まるで討ち入りでもするかの剣幕に、途中すれ違ったシルク・ド・フリークの団員に引き止められそうになったけど思いっきり振り払ってやった。
僕は見た目はただの子供だけど、その正体は半バンパイア。
このシルク・ド・フリーク内で僕に力比べで勝てるのはそう何人もいやしない。
止めようったってそう簡単には止まらないさ。
猛ダッシュで駆け抜ければ、いかに広いフリークショウのキャンプ地とて数分もかからない。
あっという間に目的のトレーラーまでたどり着く。

扉に手を伸ばし。
一瞬。
ほんの一瞬だけ開けるのを躊躇し。

(怖気づくなっ!)

自らを叱咤して大きく扉を開け放った。
部屋に中に人影はない。
代わりに部屋の真ん中にでんっ、と据えられた大きな棺桶が嫌でも目に付く。
その中で何かが動く気配を感じた。
大方突然の来訪者に慌てて起き出したというところだろう。
数秒もしないうちにあの大きな蓋が横に滑り落ち、寝起きの不機嫌そうな顔の男がのっそりと緩慢な動きで出て来るに違いない。

そうわかっていた。
わかりきっていた。

だから僕はその棺桶が動き出すよりも早く、蓋の上にどしんと全体重を掛けて動かないように押さえつけてやった。

「・・・・ぬ・・・、こら!ダレン。どうせお前だろう。わかっているからそこをさっさと退かんか」

棺越しにくぐもった声が聞こえてくる。
寝起きのせいか少し苛立っているようだ。
しかしそんな程度で僕はこの場所を今すぐ退こうなどとは露ほども思わない。
内側からドンっ!と蓋を叩かれた振動が身体に伝わる。
そんなに急かされなくても用が済んだらすぐに居なくなってやるよ。
いいから黙って僕の言葉を聴きやがれ!

「・・・・・・一度しか言わないからね・・・・・・」
「・・・・・?なんだ・・・・?」

前置きをして、一度深呼吸をする。
あぁっ!くそっ!!
結局直接言っているのも同じじゃないかっ!?

自分自身にぶつけるしかない憤りを胸の中でぶちまけながら。
僕はありったけの声量でもって、叩きつける様に叫んだ。


ありがとう
(上手く伝わらないかもしれないけど・・・・・後は・・・・勝手に感じろっ!!)

最後の最後で素直になれないダレン。
きっと二人は言葉とかを超越した部分で分かり合っていると思う。
フィーリングで・・・なんかこう・・・・上手いこと繋がりあってるんですよきっと。
2010/08/31
 

拍手[3回]

夕暮れ時になってもぞもぞと起き出す。
まだ眠いまぶたを擦りながらも、身体に鞭打って誘惑の塊である寝具をさっさと片付ける。
代わりに鍋やら何やらを取り出して「朝ごはん」用にお湯を沸かす。
さてさて、今日は何を作ろうかと思案していると僕よりもわずかに寝坊したクレプスリーが向こうの大地に消えかかった夕日を眩しそうに見ながら身体を起こす。

「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「ご飯どうしようか?」
「それを考えるのも手下の仕事だ」

なんて実のない会話で終わってしまう。
返答にムカっとした僕は、今日の朝食は冷え切ったパンとわずかに残っていたコンソメで作る味の薄いスープに決定した。
ただし僕の分だけはこっそり火の傍で暖め、塩コショウで味を調えるくらいのことはしてやった。
まっずいご飯を食べるのはあんただけで十分。
むっつりとした顔で、それでいて内心はげらげら笑いながら、スープの入った皿を押し付け投げつけるようにパンを手渡す。
手渡された自分のものと、僕の横に置いてあるものを見比べて。
・・・・・はぁ・・・・っ・・・・・、と深々と、そりゃぁもう深々と溜め息をついてから。
拳骨が一発飛んできた。

「いったぁっっ!」
「やることが姑息なんだ、お前は」

殴られた頭を押さえている隙に、クレプスリーは自分の分と僕の分をそっくりそのまま取り替えてしまう。

「あーーっ!!」
「なんだね?取り替えたら何かまずいことでもあるのかね?」
「・・・・・・・・べつに・・・・・・・」

まさか素直に「あんたの分は不味く作った方!」なんて言えるわけもなく、しぶしぶ冷たいパンとほとんどお湯に等しい薄さのスープを胃に流し込んだ。
クレプスリーはそれを横目にニヤニヤと、まるで面白いものでも見るかのように眺めながら、これ見よがしに暖かいパンをほふほふ頬張っていた。

「我輩を出し抜くつもりならもう少し上手くやるんだな」
「・・・・・なんのこと・・・・・?」
「しらを切るつもりならそれでも構わんがな」

そりゃぁしらを切るしかないじゃないか。
わかってってこの男はやっているのだ。
何たる性悪だ!

ぶつくさ文句の一つも言ってやりたいけれどそれすらも許されない状況が腹立たしい。
美味しくない朝食を無理やりに詰め込んで、クレプスリーが食べ終わるのを待ちもしないでさっさと片付けだす。

くそ!
次こそはあんたにまっっずいご飯食べさせてやるんだから!!

クレプスリーを出し抜くには2手も3手も先を読んで仕掛けてやらなきゃダメなんだ。
あーでもない、こーでもない、と一人会議を開催。
ようやく頭の中で昼食時の作戦がまとまりかけた頃合に。

「では行くとするか」

パン屑を払いながらクレプスリーが立ち上がる。
それに習って僕も荷物をかばんにがさっと詰め込んでから立った。
最後に焚き火の跡に足で砂をかけてやる。

(お昼には目にもの見せてやるっ!)

心の中で静かに報復を誓うのだった。
・・・・・・残念ながらこの報復が果たされるのはお昼でもなく夜でもなく、次の日の朝でもなかったが・・・・・・。


いつものパターン
(そうやって僕らの日々は過ぎていく)


ダレンの報復はわかり易過ぎてクレプスリーにはいつもばればれです。
ちなみに報復は『結局不味いご飯を食べているのはいつも自分じゃないか!』と気がつくまで続きます。
ダレンは時々鋭いことを言うけど基本は間抜けなのがいい。
2010/08/31
 

拍手[0回]

僕が“死の手のポーズ”の意味を知ったのは力量の試練を受ける直前のことだった。
水の迷路の試練場に向かう道すがら、バネズが教えてくれた。

それは応援のポーズであると。
それは高潔なバンパイアたれという戒めのポーズなのだと。

「勇敢に誇りをもって死ねば、バンパイア一族全体が神々の恩恵を受けられると俺たちは信じているんだ」
「ふぅん・・・・わかったような・・・・わかんないような・・・・」
「今はわからなくってもいいさ。だが、高潔なバンパイアはたとえ死を前にしても、己よりも一族のためを思う。それを忘れるなってことだ」
「己よりも・・・・一族を・・・・・」

それを思うと、やっぱり今の僕って高潔なバンパイアとは言えないのかもしれないな。
だって僕が試練を受けているのはあくまでも僕自身に力があることを示したいってだけだもん。
正直一族がどう、とかは考えられない。
それに何より神々の恩恵とか言われてもいまいちピンとこないな。
人間だった頃に時々ママに連れられて日曜礼拝に行ったりもしたけれど神様なんて漠然とした存在としてしかわからない。
第一本当に神様なんてものがいるなら、僕はこんなところで試練なんて受けていないだろうし、半バンパイアにもなっていないはずだ。
・・・・もっとも、バンパイアの信じる神様と、人間の信じる神様が同じものである保証なんてどこにもないけれど。

□■□

辛くも第一・第二の試練をクリアした僕だったけれど、第三の試練『炎の試練』は今まで以上にクリアが難しいものであると練習の段階からわかっていた。
ついうっかり弱気の虫が顔を出しそうになる。
バネズやエラに叱咤されながら、僕は生きるためにこの試練をやり遂げなくてはならなかった。
とうとう本番の時間になった時、僕はすっかり火傷まみれになっていた。
それでもエラに言わせれば「こんなものは序の口」らしい。
そんなことを言われれば、何とか強がって見せていた僕でも不安の色を隠せない。
死ぬつもりなんてこれっぽっちもないけれど試練の間に入る直前、僕はあんたに失敗した時のことを口走ってしまった。
もちろんあんたはそれに怒った。

「そんな口をきくでない!望みを持て!」
「もちろん望みは捨てない」

でも・・・・・・
万が一。
億が一。
失敗しないとは言い切れないから。

「僕が死んだら、死体を僕の故郷の・・・・・うちの墓に埋めて欲しいんだ」

あんたは、わかったとも、約束しようとも言わなかった。
ただ黙って僕の言葉を噛み締めているようだった。
しばらくして、といっても数秒のことだったけれど、目を伏せて僕に手を差し出す。

「うむ・・・・バンパイアの神々の幸多からんことを」

死の手のポーズで送らなかったのは、クレプスリーなりのメッセージのように思えた。
決して死んではならぬ。
暗にそう訴えていたのかもしれない。

だから、僕はその手を取らなかった。

「クレプスリーの弟子になれたこと、誇りに思うよ・・・・・」

代わりに、あんたの腰にぎゅっと抱きついた。

バンパイアの神々なんて、いらないよ。
僕には、あんたがついていればそれでいい。
何十人が声を張り上げて応援する声よりも、あんたがただ一言「いってこい」と言ってくれる方が万倍心強い。
酒樽を掲げて僕を褒め称えてくれるより、あんたがただ一言「よくやった」といってくれる方が億倍嬉しい。
そう口外に訴え返すように。

あぁ、そうか。
神様って、きっとあんたのことなんだ。
それなら信じられる。
死ぬ最後の間際に、僕のことよりもあんたのことを思うことならきっとできるよ。
あんたという神様がいるから、僕は僕とあんたのために試練を受けているし、あんたの為に半バンパイアになったんだ。

皆が信じる神様とは違うかもしれないけれど、僕の神様は、ここにいる。

だからきっと僕は大丈夫。
僕だけの神様は、きっと僕の味方をしてくれるから。


ゴッズ オブ バンパイアズ!
(10人の神様よりもたった一人のあんたがいい)


5巻の試練中のお話。
腰に抱きついたシーンは赤師弟好きにはたまらんかった。
鼻血吹くかと思った。
萌死ぬ。
2010/08/30
 

拍手[0回]

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
さかきこう
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
忍者ブログ [PR]
design by AZZURR0