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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「すみません。チェック・インお願いします」
「・・・・・・・・・・・・はい、かしこまりました・・・」

声を掛けると怪訝な表情をされた。
明らかに不自然な間の後、通常仕様の対応をされる。
フロントで直接対応するスタッフは勤めて平静を保っているが、バックに控えている人たちはあからさまに僕たちを見て噂をしている。

あちらは聞こえないと思っているのだろうが、残念ながらこちらは半バンパイア。
ひそひそ声でも僕の耳が音を捉えるには十分すぎた。
だが、あえて僕はその声を聞かないことにする。
何を言われているのかは検討がついているからだ。

ホテルスタッフの視線は、僕とその後ろで押し黙っているクレプスリーとを行き来する。
僕を見てはクレプスリーを見、クレプスリーを見ては僕を見る。
そうしてこう言っているのだ。

 『あの二人全然似てないわ。親子だなんて偽装じゃないの?もしかしたら誘拐事件とかかもしれないわ』

―――と。
多少のニュアンスの違いはあれど、おおむねそんなところだろう。
これまでもそんな目で見られることは良くあった。
なんだったら警察に通報されたことすらある。
その度に七面倒くさい嘘っぱちの事情を説明してはなんとか逃げてきた。

まぁ、人々が僕らを見て疑うのも仕方ない。
髪の色も、目の色も、体格もてんで違う。
似通った外見的特長なんてほとんど無いに等しい。
それに加えて一般人がどこをどう通ってきたらそこまで薄汚れるのか・・・・・というくらい僕らの服装はくたびれていて。
手やら顔やらに無数の傷をこさえているのだ。
普通ならば何かあると感じるだろう。
これだけの判断材料があるのだからむしろ疑うなという方が難しい。
昨今の少年少女を狙った犯罪事件を受けて過敏になっていれば、余計に疑わしく見えることだろう。

気にしたらいけない。
視線を真に受けてはいけない。
気にしだしてそちらに視線でも向けようものなら、彼らは『やっぱりそうなんだ!』と余計な勘繰りを入れるに決まっている。
言われ慣れています、といった態度で。
だからなんだ、といった様子で。
軽く受け流してやればいい。

さらさらと必要事項を書類に記載していき、最後に名前を署名してフロントに差し戻す。

「あの、向こうが目が悪くて光に弱いんです。出来ればあまり日当たりの無い部屋をお願いしたいんですけど・・・・・・」

肩越しにクイっと親指を向ける。
フロントスタッフがその指の指し示す方に視線をやり、つまり僕の背後を見る。
そこには室内だというのにきっちりとサングラスを掛けたクレプスリーがいる。
「あぁ、わかりました」と告げると、フロント内で何かを探し出し、別の紙にさらさらと何かを書いた。

「それでしたらこちらの部屋などはいかがでしょうか?」

差し出したのは館内の見取り図。
それと、一枚のメモ。

「西向きの部屋になりますので、早めにカーテンを引いていただければ日光はそう入らないかと」

などと至極普通の説明をする一方で、クレプスリーの視界に入らないよう上手い具合に隠しながらメモを見るように促してきた。

 『大丈夫。私たちは貴方の味方です。誘拐等の類であるならこの紙に触れてください。対処します』

おぉ、なんと言うプロ意識!
僕の安全を考慮してこのような方法を取るなんて、まったくもって表彰ものだ。
だがしかし、心使いは嬉しい限りだが別にクレプスリーは誘拐犯ではないのできちんと訂正をしなくてはならない。
また警察なんかを呼ばれたらたまったもんじゃないからね。

「お気遣いありがとうございます。でも心配いりません」

努めてにこやかに、告げる。
逆にフロントスタッフは首を傾げる。

「・・・・・・と、いいますと?」
「僕たち、見た目は全然似ていませんけど、これでも血は繋がっているんです」

きっちり伝えると、スタッフは一度驚いた顔をしてから「失礼いたしました」といって、そのまま何事も無く部屋へと案内してくれた。


□■□


「フロントで何を話したんだ?」

部屋に入るなりクレプスリーが問う。
疲れ切っていた僕はベッドに突っ伏しながら端的に要点のみに絞って答える。

「あんたが誘拐犯に間違われたんだよ」
「なんだと!?我輩が誘拐犯だと!?」
「ちゃんと訂正しといたから大丈夫。向こうもわかってくれたし」
「しかしなんと説明したんだ?」
「ん?僕たち『血は繋がっています』って言っただけだよ」

そう、嘘はついていない。嘘は。
血は繋がっている。
それは否定しようの無い事実だ。

「それで似てない親子って勝手に勘違いしてくれたみたい」

僕は『親子』だなんて一言も言っていない。
ただ、クレプスリーの血が僕の中に流れているという事実を伝えただけだ。

もっとも、普通は『バンパイアと血の契約をしたから』なんて理由、思いつくはずも無いけどね。


ホーストン親子
(僕の中にはあんたの血が、あんたの中には僕の血が)



嘘は言っていないけど、正確に物事を伝えようともしていない。
勝手な思い込みで勝手に納得してしまう人間をバンパイアは影から笑って見ているのかもしれない。
2010/07/17
 

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クレドン・ラートの間に顔を覗かせるとなにやら部屋の片隅に数人が身を寄せていた。
女バンパイアはとても数が好きないから、必然的になんとも暑苦しいことこの上ない構図となる。
出来ることならお近づきになりたくないというのが善良なる心情だ。
臭い・暑い・むさいの三拍子そろった空間に好んで近づこうなどとするものの気が知れない。
彼らは寄ってたかってテーブルの上に広げた何かを見ているらしく、僕が入ってきたことには気がついていないようだ。
これ幸い、と当然のように僕はその空間から対角になる一番遠い席に陣取った。
パンやらスープやらが運ばれてくる前にテーブルに備え付けられた血の樽を傾け喉を潤す。

―――僕は未だにこの飲み方に慣れていない。

「・・・っ!げほっ!!・・・っけほ、けほ・・・」

思いっきりむせてしまった。
残念なことに、この時間のクレドン・ラートの間は人が少なかった。
つまり広間中に僕が咳き込んだ音が響くわけで。

必然的に彼らが僕の存在に気がつくわけで。

その中に数少ない顔の見知ったバンパイアがいれば向こうは声を掛けてくるわけで。

「ようダレン!なんでそんな離れたところに座ってるんだ?こっちに来いよ」

なんて言葉の割に、皆を引き連れてぞろぞろとこちらへやってくる。

「いやぁ・・・・・・なんか盛り上がっているみたいだっだから・・・・邪魔しちゃ悪いかなぁ、って思って」
「水臭いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?ん?」
「あぁ・・・・うん・・・・そうだね・・・・・」

ばしばしと加減の無い力で背中を叩かれた。
おいおい、僕は半バンパイアなんだぞ?そんな風に叩かれたら溜まったものじゃないって気づいてくれよ!
最低限の思いやりで胸中で訴えるに留める。
半分くらいは僕のなけなしのプライドのためだということは伏せて置く。
なんてことを考えているうちに逃げ出すタイミングを見失い、あっという間に僕の座っている席は取り囲まれた。

結局、今現在僕はむさくるしさの真っ只中にいる。


「で?何なの?」

むさくるしいことはこの際諦めて、僕は真っ先に声を掛けてきたバンパイア・ガブナーに尋ねた。
ニヤニヤしながら差し出したのは一冊の本。

「青少年たるもの多少の嗜みは必要だからな!」
「たしなみ?」
「そうだとも!であるからして我らは先輩としてこの本を君に進呈しようではないか!」

はて?何のことやらさっぱりわからない。
とりあえず差し出された本を受け取ってみる。
年季が入っているのか、それとも扱いが乱雑なせいかはわからないが、表紙は黒ずんでいて何が書いてあるのかさっぱりわからない。
ガブナーの方を見やっても、ニヤニヤするばかりでソレが何かを教えてくれる気配は無い。
その他僕を取り囲んでいる名前も知らないバンパイアも同様だった。
仕方が無いから僕はその本の表紙を一枚摘んでめくり上げた。
恐る恐る中身を確認しようと目を落とそうとしたその時。

「・・・・・・何をしておる」

遠巻きに聞きなれた声が上がった。
顔なんて見なくても誰だかわかる。
クレプスリーだ。
ガブナーを含めた数人のバンパイアたちはばつが悪そうに「あー・・・・」とか「うー・・・・」とか煮え切らない返事を返す。
たったそれだけのことで状況を悟ったのか、クレプスリーがずかずかと歩み寄り、僕の手元を一瞥。

「・・・・・たわけた物を・・・・」

吐き捨てるように言うとあっという間に僕の手からその本を取り上げ、少し迷った後、びりびりと破り捨ててしまった。

「ラーテン!何てことするんだっ!?折角・・・」
「折角?折角、なんだ?」
「あ・・・いや・・・・・」
「どういうつもりか知らんが、ダレンにはまだ早い!今後見せようとするなよ、ガブナー」

本気で殺気立ったクレプスリーに気圧されて、ガブナーは口を噤み、そして他のバンパイアを引き連れてのろのろとクレドン・ラートの間を出て行ってしまった。
何も言うことができないままその光景をただただ見送る。
しばらく時間が経ってから、内容がまったく判別できないレベルにまで千切られた本の残骸に目をくべて、ポツリ。

「・・・・・なんだったの・・・・?」
「お前はまだ知らなくていい」
「ガブナーは『青少年のたしなみ』とかって言ってたけど・・・・・」
「・・・・・・お前には、まだ必要の無いものだ」
「じゃぁいつになったら必要になるの?」
「それは・・・・・・・う・・・む・・・・・」

クレプスリーが閉口して考える。
あちらこちらに視線を泳がせ、「あー・・・・」とか「うー・・・・」とか言葉を捜す。

やがて、一言、答えを返す。

「・・・・・・・・・お前が、大人になったらだ」

その回答に、なんとなく、僕は本の中身を悟ってしまった。



不健全
(でも・・・・・こんななりでも僕、20歳なんだけどな)



ある意味映画ネタ?(になるのだろうか)
クレプスリーは「ネットで~」とか言ってたけど、
流石にマウンテンにネットは通じてないでしょうから(そもそも電気が通っていないだろう)
必然的に本に頼ることになるんじゃないかな?
きっと誰かが持ってきたやつを皆で使いまわしているんだよ。
まったくもって凄くどうでもいいネタでした。
2010/07/16

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考える。
父さんのこと。
母さんのこと。
妹のこと。
沢山の涙に包まれてしまった僕の家族のことを。
考える。
置いてきてしまった一人の親友のことを。

眠れない日が長く続いた。
それこそ、半バンパイアになりたての頃なんて本当に眠ることなんて出来なかった。
自業自得のこととはいえ、信じられるものなんて何もなかった。

化け物に成り下がったような気がして、夜が来るのが怖かった。
皆にさげすまれているようで、昼が来るのが怖かった。

一時だって、僕の心が休まる時なんてなかった。
心身ともに疲弊して行き、そのまま死んでしまえたらどれだけ楽だっただろう。
家族への背徳感も無く、
親友への裏切りも無く、
己の罪の明かしてこの命を差し出せたならどれだけ簡単なことだっただろう。
自分自身を許すことが出来ない、なんてことにはきっとならなかったはずだ。

今日も、僕は膝を抱えて小さくなる。
眠くは無い。
けれども寝た振りだけはしておかないとこの男はなんだかんだと五月蝿い。
眠れない目を無理やりとじる。
木陰にいるはずだけど、まぶたの裏側が赤い。
やっぱり、眠れやしない。

ぼんやりと、何を考えるでもなく薄目を開けた。
あの男の姿が視界に入った。
ぶつぶつと何かを唱えている。
なんと言ったのかまでは聞き取れない。
ちゃんと聞こうとしなかったからだ。
あの男が何を言ったって僕は耳を貸そうとはしなかった。
僕を化け物にした化け物の話なんか聞きたくも無い。
でもその時だけは僕の胸もちくりと痛んだ。
どうしてそんな顔をしているのかもわからないけれど、眉間に皺を寄せて少しだけ寂しそうに見えた。

しばらく逡巡した後、男は僕の隣に腰を下ろした。
どうしてわざわざ僕の隣に座るんだ。
もっと向こうで寝ればいいだろ。
思いはしたけれど、それを口にするだけの元気がその時の僕にはもう無かった。
なすがまま、されるがままに男の行動を見ていた。
触れ合うくらい近くに男は座った。
ちょっと身体を傾ければ触れるくらいの距離だ。
男は愛用のマントをばさりと広げると、僕の頭の上から被せた。

「・・・・・・眠るなら、もっと日の光が少ないところに行け。・・・・・死ぬぞ」

僕は半バンパイアだ。
日の光を浴びたってどうってことはない。
むしろ日の光が危険なのはあんたのはずだ。
それは僕も知っていた。わかっていた。
わかっていてなお、僕はこの場所で眠ることを選んだ。

「・・・・・・・・・・・あんたって何を考えているのかわかんない・・・・・・・」
「お前のほうが何を考えているのかわからんよ」

それでも、あんたは僕を一人にはしない。
命に関わるかもしれないというのに。

ぼんやりとした頭の中で、この男だけは、信じてもいいのかもしれないと思った。

少しだけ、僕は体重を傾ける。
信じた分だけ、傾けてみる。
あんたは驚いた声を上げたが、その体重をしっかりと受け止めてくれた。
叱りもせずに、黙って受け止めてくれた。
僕はもう一度しっかりとまぶたを閉じる。

次に目を開いた時、あんたがまだそこにいてくれたのなら。

その時はきちんとあんたのことを信じてみよう。



就寝
(当たり前のように、あんたは隣にいてくれた)


クレプスリーが信じられなかったダレン少年はあの手この手でもっていろいろと試してみるんだ。
クレプスリーも弟子に信用して欲しくて不器用ながらもいろいろと頑張ってみている。
不器用な二人の不器用な寄り添い方。
2010/07/16

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木々の隙間から零れ落ちる赤い光。
まぶしくなって目を覚ますと、空が赤らんでいた。

(あぁ・・・・・・もうそんな時間か)

のろのろと起き出す。
身体は重い。
きっと野宿をしたせいだ。
道中見つけた洞穴に潜んだのでそれほど外界を気にすることなく眠ることは出来たが、それでも熟睡というには程遠い。
ふぁぁぁ・・・・・、と大きなあくびをしてから身体を伸ばす。
肩やら首やらがぼきぼき音を立てた。
ホテルのベットのなんと恋しいことか。
どんな貧相なホテルの安物のベットだとしても、こんな風に野宿をして地べたに直接眠るよりかは数倍、いや数十倍はマシのはずだ。

(今日こそはクレプスリーを説得してホテルに泊まろう)

僕は勝手に今日の目標を打ち立てた。
さて、とにもかくにもまずは朝食の準備をしなくては。
眠い目を擦りながら荷物の中から折りたためる鍋を取り出し、近くの川へと向かう。
ついでにタオルも持って行く。
水浴びをするには少し肌寒いけれど、身体を拭うこと位はしておきたい。

川は歩いて5分くらいのところにあった。
森の水源にもなっているようで、川べりには水を飲みに来たらしい動物の姿もあった。
水が綺麗な証拠だ。
しかし残念ながら僕が草木を押しのけガサリと音を立てると、皆一様に耳をピクリとさせて森の奥へと逃げ去ってしまう。
そんなに慌てなくたって、別に取って食いやしないのに。
僕らバンパイアはどちらかといえば、人間よりも動物的だ。
なのにどうして仲良くやっていけないのだろう。
わずかに落胆の色をにじませながら、動物のいなくなった川べりに一人腰を落とす。

光の増減と共に、少しずつ、森は生命の躍動を大きくしていく。
森の奥に潜んでいたものが顔を出し始めたかのようだった。
日の光はキラキラと水面に反射する。
赤くゆらゆら染め上げる。
その水面を割り入るように、タオルを沈め水で濡らす。
固く絞ってから体中を拭いた。
入浴には及ばないが、身体がすっきりした気がする。
最後にばしゃばしゃ音を立てて顔を洗った頃にはうつらうつらしていた頭もしゃきっと覚醒した。

(さぁ!今日も一日の始まりだ!!)

自分の両頬をぺチンと叩き、気合を入れた。
今日のご飯は何を作ろう。
材料が乏しいからあんまりたいしたものは作れないな。
パンがあったはずだから、それと一緒に飲めるスープでも作ろうか。
鍋にたっぷりと水を汲んで、僕は来た道を戻る。

戻った頃には大分日も落ちており、辺りは薄闇へと姿を変えていた。
暗くなりきる前にその辺で拾ってきた木の枝や木の葉を使って火を起こし、明かりを確保。
続いてバックに入れておいた残りの野菜などを使って簡単なスープを作る。
ことこと音が立ち、野菜にも十分に火が通った頃、匂いに誘われるようにしてクレプスリーがのっそり起き上がる。
空を見上げると、最後の一光が西の空に消えていくところだった。

「おはよう、朝だよ!」

暗闇へと変貌した森の陰鬱さに飲まれないよう、僕は出来るだけさわやかな声を張り上げた。



夕暮れ
(それは僕らにとっての朝焼けも同じで)



バンパイアの時間はココから始まる。
一日の始まりを告げる大切な時間です。
2010/07/14

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そわそわと。
落ち着かない様子で何度も何度も部屋をうろうろ。
ばっ!と立ち上がったかと思ったら、また静かに椅子に座りなおし。
思い悩むようにテーブルに肘をついて頭を抱えて、なにやらぶつぶつと唱えだす。
しばらくして、やおら顔を上げ、そして深い深い溜め息をついてエンドレスリピート。

そんなことを何度繰り返しているのか、指折り数えるのが片手で足りなくなった段階でやめた。
しかしかれこれ2時間はこうしているのではないだろうか。
よくもまぁこんなにもうじうじと考えられるものだ、とあきれると同時に感心してしまう。
こんな風に悩む必要なんてないことだ。
ちょっと行って、ちょっと声を掛ければそれで終わるだけのことなのに、その『ちょっと』がどうにも出来ないようであった。

「いい加減腹括りなよ」

ハンモックの上から僕は言った。
ついでにもぞもぞ身体も起き上がらせる。

「何をそんな風に考えているわけ?」
「五月蝿い。お前は黙っておれ」
「はいはい。そういうことは自分の部屋に帰ってから言ってくれる?」

僕だってこんなうじうじ模様など見たくて見ていたわけではない。
クレプスリーが勝手に僕らの部屋に押し入ってきて、そうして勝手にそわそわうじうじしているのだ。
バンパイアマウンテンの部屋の作りはさして広くない。
その中でも割合手狭な、部屋を僕とハーキャットで使っている。
もう一人の家主・ハーキャットは総会が始まるに辺り、しばらく尋問出来なくなるのでその前に、と再び元帥に呼び出されて今はここにはいない。
だからここにいるのは僕とクレプスリーの二人きりだ。

もちろんクレプスリーにもバンパイアマウンテン滞在期間中の部屋があてがわれている。
僕たちとは違って一人部屋だ。
自分の部屋があるにもかかわらず、こうして人の部屋に押し入って、あまつさえうじうじうじうじとした姿を見せ付けておいてまったく何という物言いだろうか。

「そんな面倒くさく考えなくてもいいんじゃないの?」
「他人事だと思ってから・・・・・!」
「だって他人事だもん」
「ぬ・・・・・」

ずけずけと、まるで師匠に対する態度とは思えない尊大な物言いをしてしまったが、それは言い返せないくらい真実で。
流石のクレプスリーもこうして場所を提供してもらっている部分があるためそれをとがめることも出来ず、ただただ閉口した。

「大体さ、クレプスリーは考えすぎなんだよ」
「・・・・・・・・・・・」
「僕はもっと楽観的に動いていいと思うよ」
「・・・・・・・・・・・」
「人生はフレキシブルに楽しまないと」
「・・・・・・・・・・・」
「でしょ?」
「・・・・・・うむ・・・・」

黙りこくっていたクレプスリーが小さな声で同意を示す。
よしよし、と大仰に頷いて見せると少しだけ遊んでやりたい悪戯心が芽生えてきた。
訳知り顔ににたにたと笑いながら視線を投げかけ、

「だったら、さっさと誘ってきなよ。そうしないと『元奥さん』を誰かに取られちゃうよ?」

いい気になって茶化してみたら、流石に拳骨が飛んできた。

「痛い」
「お前が要らない口を利くからだ」
「あんたがうじうじしてるから焚き付けてやったんじゃないか」
「余計なお世話だ」
「はいはい。そんだけの口が利けるならさっさとデートのお誘いに行ってきなよ」
「っ・・・・なっ!バカもんっ!!そういうわけでは無いと言っておるだろうがっ!?」
「でも、結局そういうことでしょ?」
「ガキが生意気な口を・・・・・っ」
「なら、そのガキとやらを調子に乗らせないようにバシっと誘っておいで!!」

師匠に対する尊厳などどこへやら。
蹴っ飛ばすようにして部屋の外に追い出してやる。

「師匠の恥は弟子の恥になるんだから、しっかり頼むよ!」
「だからっ!違うと・・・・・おいっ!こらダレンっ!!」

追い出して閉め出して。
扉越しに贈る激励。

「あんたは一体誰の師匠だと思ってんのさ。この僕、ダレン・シャン様だよ?きっと上手くいくよ!」



・・・・・・・・・・まぁ、万が一振られたりしたら慰めてあげる位のオプションはつけてあげるから、さ。



胸を張れ
(大丈夫、あんたには僕がついているんだから)




エラとよりを戻すべく誘おうとするんだけど、改まってしまうとなんだか恥ずかしくなって誘えないクレプスリーと
それを横から応援?傍観?するダレンのお話。
なんだかんだでダレンは二人の仲が元鞘に収まることを望んでいたと思うんだ。
2010/07/13

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