~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「・・・・・ソースケ?」
特に珍しくも無く、夕飯に誘った。
一人暮らし同士の身。
こうやって振舞ってやるのは最近では間々あることだった。
作る側としてもある程度量があった方が作りやすいし、食べてくれる人がいるというのは存外に嬉しいものなのだ。
彼の方も普段は野戦食ばかりで腹を満たしている生活だったから、自分の作る料理をまるで豪華なフルコースでも出されたかのように喜んでくれる。
そういった小さな積み重ねの末、少しずつ食事を共にする回数が増えていった。
当たり前のように学校帰りに二人でスーパーに寄り。
当たり前のように何が食べたいかの受け答えをし。
当たり前のように二人で家に帰り。
当たり前のように食事を共にした。
ただし、彼がこのように無防備に寝入ってしまうことは珍しい。
食事を終え、満腹感で睡魔に襲われたのだろうか?
確かにカモフラージュの学生業と本職の傭兵業をこなす彼の生活はハードの一言に尽きる。
過去の経験からなのか、職業柄なのか、彼は熟睡に陥ることがほとんどない。
2・3時間ごとに意識は覚醒するし、基本的に目を閉じない(らしい)。
敵からの襲撃に備え、眠るのはベッドの下。
そんな睡眠方法で疲れが癒されるわけも無く。
ここ最近はとりわけその疲労の色が顕著だった。
憔悴といっても差し支えない。
それくらい、彼・相良宗介からは疲労が見て取れた。
しかし本人に問いただしても
『問題無い』
『心配するな』
の一点張り。
それ以上は決して言葉を続けようとはしなかったし、どこと無く「聞かれたくない」という雰囲気が見て取れた。
だから私は聞かなかった。
本当は知りたかった。
話して欲しかった。
私を、信用して欲しかった。
でも、一方で本能だか何かが『聞いてはいけない』と警告を上げていた。
つまりそれはこの平和な日本ではありえないことで。
言葉を変えれば、“彼の世界”の話ということ。
多分、血なまぐさい話なのだろう。
だから彼は聞かせない。
一人で抱え込んで、どうにかしようとしている。
どうにかできると思っている。
果たして彼はそこまで強い人間なのだろうか?
これまでの生きてきた経緯こそ違っても、彼は私と変わらない17歳でしかない。
たかだか17歳が、どうしてそこまでのことを抱えられるだろう?
「なんであんたはそんな無茶ばかりするのかしらね?」
ソファに身を沈めて寝息を立てる宗介の顔を覗き込む。
こうしてみれば、この男だって年相応の・・・・・・
「・・・・って、ソースケ・・・・・?」
そこにあったのは、健やかな寝息とは程遠い、苦悶の表情。
びっしりと浮かぶ寝汗。
くっきりと刻まれた眉間の皺。
とてもいい夢を見ているとは思えない。
起こしたほうがいいのだろうか?
「ソースケ・・・・」
小さく呼びかける。
「う・・・」と小さく呻くばかりで覚醒には至らない。
もう一度呼びかけたが少しばかり身を捩る程度だった。
仕方なく恐る恐る手を伸ばす。
驚かせないよう、慎重に。
額に張り付いた前髪を指先で掬い取る。
「っ!!!」
「え?・・・っぁ!?」
指先が額に触れるか触れないかのわずかな瞬間。
宗介の目がガバッと大きく見開かれた。
声を上げるよりも早く、襟元をひねり上げられ場所を入れ替えるようにソファに組み伏せられる。
「っく・・・・はっ・・・・・!?」
瞬間的に息が詰まった。
どうなったのか状況がわからない。
頭が急速に事態を理解処理しようとするけれど追いつかない。
頭上の顔を見上げようとするけれど、天井照明のため逆光となり表情すら読むことが出来ないときた。
何かを勘違いしているに違いない。
睡眠時に近づいてきた私を敵か何かと間違っているのだ。
そうに決まっている。
声を掛けて、「何やってんのよこの戦争馬鹿」と叱ってやればすぐに脂汗だらだらで謝るに決まっている。
「そ・・・・・・っ!?!?!?」
口を開く。
いや、開こうとした。
その瞬間、素早い動きで彼は腰元に忍ばせた大振りのコンバットナイフを引き抜き、ほとんどモーションも無く、突き立てる。
薄皮一枚を切り裂いて、首筋横に刃を立てられた。
「・・・っ・・・!!!」
もはや視線一つ動かせない。
つぅ・・・と血が伝うのが感覚的にわかった。
目ぼけているにしてもこれはひどい。
緊急時に手荒に扱われることはあってもあくまでもそれは私を守るためであって、私に害成す意図はいつだって無かったはずだ。
でも、今本能で感じているこれは、多分彼の言うところの『殺気』。
「そ・・・・・す、け・・・?」
「・・・・・・・ちど・・・・・り・・・・・・」
ほとんどかすれ声で、彼を呼ぶ。
虚ろな声で、彼が呼ぶ。
「・・・ちどり・・・・・ちどり・・・・・無事か・・・・?」
「そー・・・すけ・・・?」
「・・・・・よかった・・・・・・」
握りこまれたコンバットナイフから、するりと手が外れる。
締め上げられた襟元が、緩められる。
代わりに伸ばされた両の腕は身体をやさしくかき抱くように背中に回され、覆いかぶさるようにして肩口に顔を埋められた。
「良かった・・・・・君が無事で・・・・・・」
心の底からの、安堵の声。
いまだかつて彼のこんな声は聞いたことが無かった。
だからだろうか。
何が良かったのか説明しろっつーの、とか。
このあたしに対して随分な態度をとってくれんじゃねーの、とか。
いつまでこうしてるつもりだ変態、とか。
山ほどある言いたいことが何一つ口に出来なかった。
「大丈夫よ・・・・・・・・ソースケがいるんだもの・・・・・」
まるで飼い犬にそうするように、宗介の髪の毛をクシャリと撫であげた。
天井で煌々と光る照明が、嫌にまぶしい。
そう、彼は多分、光に当てられただけなのだ。
きっとここは、彼にとって明るすぎた。
それだけだ。
それだけだと、思いたい。
「大丈夫・・・・・・大丈夫よ・・・・・」
まるで自分自身に言い聞かせるように、私はその言葉を繰り返し呟いた。
彼の世界
雰囲気の何か。
もしかしたら続くかも。
2010/07/24
特に珍しくも無く、夕飯に誘った。
一人暮らし同士の身。
こうやって振舞ってやるのは最近では間々あることだった。
作る側としてもある程度量があった方が作りやすいし、食べてくれる人がいるというのは存外に嬉しいものなのだ。
彼の方も普段は野戦食ばかりで腹を満たしている生活だったから、自分の作る料理をまるで豪華なフルコースでも出されたかのように喜んでくれる。
そういった小さな積み重ねの末、少しずつ食事を共にする回数が増えていった。
当たり前のように学校帰りに二人でスーパーに寄り。
当たり前のように何が食べたいかの受け答えをし。
当たり前のように二人で家に帰り。
当たり前のように食事を共にした。
ただし、彼がこのように無防備に寝入ってしまうことは珍しい。
食事を終え、満腹感で睡魔に襲われたのだろうか?
確かにカモフラージュの学生業と本職の傭兵業をこなす彼の生活はハードの一言に尽きる。
過去の経験からなのか、職業柄なのか、彼は熟睡に陥ることがほとんどない。
2・3時間ごとに意識は覚醒するし、基本的に目を閉じない(らしい)。
敵からの襲撃に備え、眠るのはベッドの下。
そんな睡眠方法で疲れが癒されるわけも無く。
ここ最近はとりわけその疲労の色が顕著だった。
憔悴といっても差し支えない。
それくらい、彼・相良宗介からは疲労が見て取れた。
しかし本人に問いただしても
『問題無い』
『心配するな』
の一点張り。
それ以上は決して言葉を続けようとはしなかったし、どこと無く「聞かれたくない」という雰囲気が見て取れた。
だから私は聞かなかった。
本当は知りたかった。
話して欲しかった。
私を、信用して欲しかった。
でも、一方で本能だか何かが『聞いてはいけない』と警告を上げていた。
つまりそれはこの平和な日本ではありえないことで。
言葉を変えれば、“彼の世界”の話ということ。
多分、血なまぐさい話なのだろう。
だから彼は聞かせない。
一人で抱え込んで、どうにかしようとしている。
どうにかできると思っている。
果たして彼はそこまで強い人間なのだろうか?
これまでの生きてきた経緯こそ違っても、彼は私と変わらない17歳でしかない。
たかだか17歳が、どうしてそこまでのことを抱えられるだろう?
「なんであんたはそんな無茶ばかりするのかしらね?」
ソファに身を沈めて寝息を立てる宗介の顔を覗き込む。
こうしてみれば、この男だって年相応の・・・・・・
「・・・・って、ソースケ・・・・・?」
そこにあったのは、健やかな寝息とは程遠い、苦悶の表情。
びっしりと浮かぶ寝汗。
くっきりと刻まれた眉間の皺。
とてもいい夢を見ているとは思えない。
起こしたほうがいいのだろうか?
「ソースケ・・・・」
小さく呼びかける。
「う・・・」と小さく呻くばかりで覚醒には至らない。
もう一度呼びかけたが少しばかり身を捩る程度だった。
仕方なく恐る恐る手を伸ばす。
驚かせないよう、慎重に。
額に張り付いた前髪を指先で掬い取る。
「っ!!!」
「え?・・・っぁ!?」
指先が額に触れるか触れないかのわずかな瞬間。
宗介の目がガバッと大きく見開かれた。
声を上げるよりも早く、襟元をひねり上げられ場所を入れ替えるようにソファに組み伏せられる。
「っく・・・・はっ・・・・・!?」
瞬間的に息が詰まった。
どうなったのか状況がわからない。
頭が急速に事態を理解処理しようとするけれど追いつかない。
頭上の顔を見上げようとするけれど、天井照明のため逆光となり表情すら読むことが出来ないときた。
何かを勘違いしているに違いない。
睡眠時に近づいてきた私を敵か何かと間違っているのだ。
そうに決まっている。
声を掛けて、「何やってんのよこの戦争馬鹿」と叱ってやればすぐに脂汗だらだらで謝るに決まっている。
「そ・・・・・・っ!?!?!?」
口を開く。
いや、開こうとした。
その瞬間、素早い動きで彼は腰元に忍ばせた大振りのコンバットナイフを引き抜き、ほとんどモーションも無く、突き立てる。
薄皮一枚を切り裂いて、首筋横に刃を立てられた。
「・・・っ・・・!!!」
もはや視線一つ動かせない。
つぅ・・・と血が伝うのが感覚的にわかった。
目ぼけているにしてもこれはひどい。
緊急時に手荒に扱われることはあってもあくまでもそれは私を守るためであって、私に害成す意図はいつだって無かったはずだ。
でも、今本能で感じているこれは、多分彼の言うところの『殺気』。
「そ・・・・・す、け・・・?」
「・・・・・・・ちど・・・・・り・・・・・・」
ほとんどかすれ声で、彼を呼ぶ。
虚ろな声で、彼が呼ぶ。
「・・・ちどり・・・・・ちどり・・・・・無事か・・・・?」
「そー・・・すけ・・・?」
「・・・・・よかった・・・・・・」
握りこまれたコンバットナイフから、するりと手が外れる。
締め上げられた襟元が、緩められる。
代わりに伸ばされた両の腕は身体をやさしくかき抱くように背中に回され、覆いかぶさるようにして肩口に顔を埋められた。
「良かった・・・・・君が無事で・・・・・・」
心の底からの、安堵の声。
いまだかつて彼のこんな声は聞いたことが無かった。
だからだろうか。
何が良かったのか説明しろっつーの、とか。
このあたしに対して随分な態度をとってくれんじゃねーの、とか。
いつまでこうしてるつもりだ変態、とか。
山ほどある言いたいことが何一つ口に出来なかった。
「大丈夫よ・・・・・・・・ソースケがいるんだもの・・・・・」
まるで飼い犬にそうするように、宗介の髪の毛をクシャリと撫であげた。
天井で煌々と光る照明が、嫌にまぶしい。
そう、彼は多分、光に当てられただけなのだ。
きっとここは、彼にとって明るすぎた。
それだけだ。
それだけだと、思いたい。
「大丈夫・・・・・・大丈夫よ・・・・・」
まるで自分自身に言い聞かせるように、私はその言葉を繰り返し呟いた。
彼の世界
雰囲気の何か。
もしかしたら続くかも。
2010/07/24
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