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~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「ね、手ぇ出して?」
「?」
「これ、あげる」

訝しみながらも差し出された手に僕の手を重ねた。
すぐさま離れていった僕の手と自分の手のひらを何度か視線を往復させて、

「何も無いぞ」
「そうだろうね」

当たり前だといわんばかりの僕の態度にあんたは目を細める。
手を握ったり開いたりをしているけど、そんなことをしたって変化があるわけも無い。

「意味がわからん」
「僕にもよくわからないんだ」

ただそうしたかったからそうした、としか説明できない。

「なんなんだろうね?」
「我輩にわかるわけが無いだろう」
「そりゃそうだけど・・・・・」

それでもあんたはしきりに手をグッパーグッパーを繰り返す。
まるでそこに本当に何かがあるみたいに。

「何してるの?」
「わからん。ただなんとなく何かがあるような気がしてな・・・・・」
「・・・・・なんにも無いよ?」
「わかっておるわ」

いい加減何にも無いことに納得したのか、その手を僕の頭にポンと置いた。
そのままわしゃわしゃと髪の毛をかき回す。

「いきなり何?」
「・・・・・・さぁな」
「なんだよ」
「そもそもお前がわけのわからんことをしたせいだ」
「わけわからなくなんてないもん」
「ほぉ?ではなんだったのだ?」
「・・・そ・・・・・それは・・・・・」

頭上でわさわさ動く手を止めようと伸ばした腕に力を込められないままわずかに顔を俯けた。
素直に言うべきだろうか?
言ったら笑われないだろうか?
でも言わなければこの手はきっと止まらないだろう。
うぅ・・・・・と小さく呻いてから、諦めて行動の真相を語る。
いや、語るというほど長いものでもないのだけれど。

「なにか、さ・・・・・なんでもいいから・・・・あんたにあげたかったの」

素直に告げたら、あんたは驚いた顔をしてあっさりと手を離した。
ついでにまた手をグッパーグッパーし始める。

「・・・・そうか・・・・・」
「なんだよ・・・・。また可笑しな事を言い出した、とか思ってるんだろ」
「いや・・・・・・やはり気のせいでは無かったのだな、と思っておった」
「?」

意味がわからなくって首を傾げる。
ハテナをいくつも浮かべた僕の頭に、さっきとは逆の手を置いた。

「確かに、受け取ったぞ。ダレン」

不器用な笑みを浮かべたあんたは、普段じゃ考えられないほどひどく上機嫌な声を上げた。



あなたに ○○ を
(あげられるのは物だけじゃない・・・・って事?)


本来なら ○○ の部分は自分で考えるはずなんですけど・・・・
なんかいいのが浮かばなかったので敢えてそのままでいってみました。
なんだかわからないけれど確かにそこにあるもの。
そんなイメージで捉えていただけるとありがたいです。
2010/08/29

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ダレン・シャンも
ラーテン・クレプスリーも
スティーブ・レナードも
サム・グレストも
ガブナー・パールも
デビー・ヘムロックも
カーダ・スモルトも
エラ・セイルズも

全部が全部、嘘っぱちの名前。
本当の名前なんて一つもない。
どうしてかって?
それは僕がそうしたから。
『僕』の残した日記に書かれた名前を記すわけにはいかなかった。
だから僕は捏造した。
僕の名前も。
皆の名前も。
全ての名前を。
作り上げ、あたかも初めからそうであったかのようにこの世にさらした。

本当を知っているのは、この僕だけ。
彼の本当の名前を知っているのは、この僕だけ。
僕だけが呼ぶことを許された、ただ一人。

正確な意味では、彼の名前を呼んでいる人は沢山居る。
この物語に登場した仮名の彼らは、彼の本当の名前を今この瞬間もこの世のどこかで呼んでいるはずだ。
でも、この本を読んで。
それでいて、それが自分のことだと理解して。
その上で彼の名前を呼べるのは。

僕だけだ。

そういえば『僕』は彼のことをいつもファミリーネームで呼んでいた。
日記の中ですら、『僕』は彼のことをファミリーネームで記している。
そこにこだわりがあったかどうかは『僕』でない僕にはわからない。
ただ、想像ならできる。
きっと彼にとってはそう呼ぶことこそが特別の証だったのだ。
僕が本当の名前で記さなかったように。
僕にとっての、『僕』にとっての、特別な名前だったから。

誰にも、呼ばれたくなかったんだ。
呼んでいいのは、僕と『僕』だけ。

でもわかった。
やっぱり、彼は僕の人じゃなくて、『僕』の人だから。
呼んでいいのは『僕』だけなんだ。

だからせめて最後に一度だけ。
彼の名前を呼ばせてよ。

「さようなら、××××××」

小さく小さく、囁くような声で、僕は彼の名前を呟いて『僕』の日記を閉じた。



ファーストネーム
(本当の貴方を呼ぶ、最初で最後)


つい忘れがちになるけれど、ダレンの登場人物は皆仮名なんですよね。
つまりクレプの名前もクレプではないんですよね。
本当はなんて名前なんだろ?
今回のお題は自分の中ではかなり変則的解釈です。
ファーストネームというよりファースト コール ネームって感じ。
2010/08/29
 

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キョロキョロと周囲を見渡す仕草を繰り返すクレプスリーが視界の端に映る。
なんだか何かを探しているような感じがして僕は声を掛けた。
普段だったら一々相手にしていられないところだったけれど、幸いにも今は休憩時間。
少しくらいなら話す時間もあるだろう。
なんせこの僕は今やバンパイア元帥として日夜執務に、・・・・・もとい、元帥見習いとして日々あれやこれやらを叩き込まれている最中なのだ。
普段はそれこそ寝る間もないくらいの勢いで戦闘の基礎やら戦術やらその他もろもろを勉強しなくてはならない。
実のところクレプスリーとゆっくり話すのも随分久しぶりな気がするくらいだ。

「何か探してるの?クレプスリー」
「ん・・・・・あぁ、ダレンか」

歩み寄る僕にも気がつかない位何かを真剣に探していたようだ。
返事は返ってきたけれど、視線はあちらこちらを追っている。

「なんか落とした?」
「いや・・・・・、実はな、マダムが籠に居らんのだ」
「・・・・・・は?」
「流石に無分別にバンパイアを襲うなどということは無いだろうが、それでも毒蜘蛛であることには変わりないからな」

むしろその言葉の端々からは、バンパイアの安否などよりもよっぽどマダム・オクタを心配しているのが見て取れた。
クレプスリーに真実を話していないことを思い出したのは、実はこの時が初めてだったりする。
だってあれから目まぐるしく事態が動いていって、僕自身着いてくだけで精一杯だったんだ。
仕方ない、の一言で片付けられないにしても、きっと僕だけの責任では無い。
それでも素直に謝罪の言葉が口を吐いたのは、勝手に行った行動に対する罪悪感が少しでもあったからだった。

「あの・・・ごめんクレプスリー・・・・・」
「お前を攻めるつもりなど毛頭無いわい。お前が寸暇を惜しんでバンパイアとしてのあり方を叩き込まれているのは知っている」

僕の言葉を『手下としての勤めも果たせていなくてゴメン』と勝手に解釈したクレプスリー。
そりゃぁ怒られるよりかはずっとマシだけど・・・・。
だけれども僕が言いたいのはそういうことじゃなくて。

「そうじゃなくて・・・・・、さ」
「わかっておる、だから代わりにハーキャットにでも頼んでいたのであろう?
 だがハーキャットも今ではシーバーの補佐で忙しく働いておるしな。
 むしろ今までマダムのことを忘れていた我輩が悪いのだ」
「だからね・・・・そのマダムのことで・・・・・」
「あ奴は知能が高いから、世話をしてくれるものがいないとわかって勝手に籠を開けたんだろうよ。それくらいの芸当は朝飯前だからな」

いやいや、そうかもしれないけどさ。
まずは僕の話を聞いてよ?
しかし心の中で思った位では残念ながら意思というのは通じないのが世の常。

「幸いにもここには虫やらなにやらは捨てるほどいるから飢えているということも無いだろうが・・・・・やはり放っておくのは忍びない。
 早いうちに捕まえたいのだが、いかんせんマウンテンは広すぎてな。探しても探してもきりが無いのだ。
 おまけに人では通れんような横穴がいくつもあるから完全には調べ切れんし・・・・・・・
 まぁ、時間はあるからゆっくり探すつもりだ。
 もしお前が見かけるようなことがあればマダムを籠に戻しておいてくれ」

べらべらとしゃべりつくして満足したのか、クレプスリーは新たな場所を探しに踵を返した。

「お前も何かと大変だろうが、元帥たちがついているから大丈夫だ。今のうちにしっかりとあれやこれやを学んでおくんだぞ」

肩越しに片手を上げて歩み去る背中に、僕は勇気を振り絞って声を掛ける。

「クレプスリーっ!」
「・・・・・・なんだ・・・・?」

思いの外大きくなった声に自分自身驚いてしまったけれど、クレプスリーはもっと驚いた顔をして振り向いた。

「あの・・・・さ・・・・・。言うのが遅くなって悪かった、とは思っているんだよ・・・・?」

もじもじと、歯切れ悪く言葉を紡ぐ僕の姿にいぶかしげな視線が投げかけられる。

「実はさ・・・・・マダム・・・・・マウンテンに放しちゃったんだよね・・・・・」
「・・・・・なっ・・・・・!?」
「いや、相談も無く決めちゃって悪かったとは思ってるんだよ?でもあの時は相談できるような状況でも無かったし・・・・・」
「・・・・・いつの・・・話だ・・・・・?」
「カーダの裏切りがわかってすぐのバンパニーズ一掃作戦の直後・・・・・・。あの時の蜘蛛がマダムに惚れてたみたいだから・・・・・」
「・・・・だから・・・・放したというのか・・・・・・?」
「うん・・・・・。シーバーも籠で飼うよりも放してやったほうがいいだろうって・・・・・・」
「・・・・・・そうか・・・・・・・・そ・・・・・か」

サァッ、ともともと血色の悪い顔色が一段と青白くなったかと思うと、クレプスリーはそのまま泡を吹いてぶっ倒れてしまった。

「ちょっ!?!?クレプスリーっっ!?!?」


それから30分後。
意識を取り戻したクレプスリーから、マダムを手に入れるために費やしたお金の額を聞いて。
今度は僕が泡を吹いてぶっ倒れた。

そのことを知っていたら流石の僕だって安易にマウンテンに放したりしなかったさ。


今さらだけど
(いや、そういうことは先に言っておいて貰わないと)


クレプスリーは一体どこでマダムを手に入れたのか・・・・・?
どこかの裏取引とかだったら相当な高値がついていると思うんだ。
それをさらりと逃がしてしまったダレン。
きっと後でこっぴどくクレプスリーに叱られたことでしょう。
2010/08/24

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眼前の古い劇場をつと見上げて、なんとなく重苦しい気分になった。
きっとそれは劇場の雰囲気とかそういう類のものではなくて。
純粋に良い思い出が無いからだろう。

「ねぇ・・・・ここに泊まるの?」
「そうだ」
「別のとこにしようよ」
「もうすぐ日が昇る。近くに日光を避けられそうなところも他には無い。諦めろ」

袖を引く僕の手を軽く振り払ってクレプスリーは古びれた劇場のドアノブに手を掛けた。
どうやら人が入らなくなってから相当の年月が経っているらしい。
建付けがかなり悪く、軽く引いただけでは開きそうにも無かった。
かといって力いっぱいこめたら今度はドアの方が壊れてしまいそうになる。

「ほら、ここには入るなってことなんだよ」
「そんなわけがあるか。ただ単に古いだけだ。なんなら扉を壊してしまっても構わんだろう。奥まで入れば日は防げる」
「そこまでして中に入らなくてもいいじゃん」

他に日を避けられるところは無い、なんて言うけどそんなのは嘘だ。
少し戻ったところに大きな木の根の洞があるのを僕は見た。
確かに建物の中ほど日は避けられないだろうけど、死ぬほどじゃない。
無理に入らなくってもあそこで十分なのはクレプスリーだってわかっているはずだ。
なのに頑としてあんたはココで昼を明かすことを譲らない。
まるであんたはこの劇場に固執しているみたいだ。

「・・・・・なに?この劇場になんかあるの?」
「・・・・・何故そんなことを聞く」
「あんたが固執しているから」
「別にそうじゃない。ただより日を避けられるところがあるならそちらを取りたいだけだ」
「どうだか」

もとより明確な答えが返ってくることなど期待していなかった。
あまりにも一遍通りな返答に辟易しながら僕はぶすりと顔をむくれさせてそっぽを向く。

「お前こそ此処を拒否しておるようだが、何かあるのではないか?」
「別に」
「ならどうして頑なに拒否する」
「・・・・・ただココが嫌なだけだよ」
「その理由を聞いておる」

なおも開かない扉と格闘しながら、こちらを振り返りもしないでクレプスリーが聞いてくる。

「・・・・・・大方、思い出したくないんだろう・・・・?」
「・・・・・何を?」

クレプスリーの言わんとすることはわかったけれど、敢えてわからないフリをしてやった。
そんな態度を知ってか知らずか、はたまた気にも止めずにか、クレプスリーは続ける。

「特に此処は、あの劇場と造りが似ているからな。否が応でもあの日のことを思い出させる」
「・・・・・・・・・」
「親友と思っていた者の心内を知り、人生を大きく狂わせる過ちを犯し、そして―――お前が人間では無くなった場所だ。何も感じない方がおかしい」
「・・・忘れたよ・・・・そんな昔のこと・・・・」
「そんな簡単に忘れられるものか」

忘れられるわけが無いのだ・・・・・、とまるで自分自身に言い聞かせるようにクレプスリーが言う。

だから、嫌なんだ。

あんたがそんな風になるから、僕はこの場所が嫌だったんだ。
そんな風に嫌悪していた時期は、とっくの昔に終わっているのに。
あんただけは一人、自責の念から解放もされずに戒め続ける。
あんたを恨んだことは確かにあった。
でもそれは過ぎた話。
もう、終わったのだ。

あんたのことはもう憎んでいないよ、そう告げようとした時。
ミシミシと鈍い音を立てて扉が開かれた。
ぽっかりと開いた暗い室内。
陰湿な空気で満たされていた腹の内をさらけ出すようにどんより漏れ出。
代わりに朝の澄んだ空気がさぁっ、と吹き込んでいった。

この扉のように、あんたもいつか解放されればいいのに・・・・・・。
そんな日が来るのかどうかも定かではなかったが、僕は思わずにはいられなかった。


憎い人、憎い場所
(ずっと昔の話じゃないか)

時間軸が自分でもわからない。
とにもかくにも古い劇場は二人にとってタブーポイント。
主にクレプスリーが一人悶々とするよ。
そんなクレプスリーを見るのが嫌で、ダレンも嫌いなんだ。
でもクレプスリーは己の過ちを忘れないために、古い劇場を見るたびにそこで一泊するんだぜ。きっと。
まったく面倒臭いおっさんだぜ。だが愛してる。
2010/08/20
 

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「家族なんてさ、正直俺にはよくわからなかったよ」

「だって、アイツラは俺のことを商品としてしか見ていなかったし」

「俺にとっての家族って、結局のところそんなものだったんだ」

「だから昔お前が言ってたみたいな家族愛とか親の愛情ってなんなのか、本当はわからなかった」

「なんとなくわかったフリしてたけど、実際はすごくあやふやでお前が固執する理由なんてわからなかった」

「でもさ・・・・・・本当は俺は知ってたんだ。ずっとずっと気がつけなかったけど」

「・・・・・きっとトールがくれていたものって、ソレなんだと思うんだ」

「今なら、こいつが生まれた今ならなんとなくわかるよ」

「マーラと出逢って、シャンカスが生まれて、父親になって初めて気づいた」

「俺はトールに愛されていたんだって」

「別に疑っていたわけじゃない。ただ、愛されるってことがどういうことかがわからなかったんだ」

「マーラのことも愛しているけど、シャンカスに対するものってやっぱりどこか少し違う」

「どんなに手が掛かっても、頭にくることがあっても、でも本気で憎むことなんて出来ない」

「そこにいてくれるだけで胸の奥がこう・・・・あったかくなるっていうか・・・・・」

「なんていうか・・・・すごく嬉しいんだ。良かった、って思う。馬鹿みたいに毎日が楽しい」

「初めは自分の頭がおかしくなったのかと思ったよ」

「だからトールに相談したんだ。俺は気が触れてしまったんじゃないかって」

「そうしたらさ、トールの奴嬉しそうに笑ってこう言ったんだ。

 『私も、そうだったよ』

って」

「子供を愛するってことを知った。自分が愛されていたことを知った。自分がどれだけ果報者か思い知ったよ」

「・・・・・っと、話が反れたな。お前のことだった」

それまで楽しそうに口を開いていたことを詫びるように、申し訳なさ気に笑った。

「構わないよ。エブラのバカ親っぷりが聞けて楽しかったし」
「なんとでも言えよ。シャンカスは自慢の息子だからな」
「偉大なる『シャン』の名を継いでいるんだから当たり前だよ」

話を吹っかけた時、やたらと神妙な顔をしてしまったことを誤魔化すために敢えて軽口を叩く。
そうだ。
そんな深刻な話じゃないんだ。
ただ気になったから聞いてみただけなのに。
僕が聞いたことなんてこのまま忘れてしまってくれて構わないんだ。

「ま、・・・・冗談はさておき、だな」

急に真面目な顔に戻ったエブラ。
どうやらなかったことにはしてくれないらしい。

「ラーテンに直接聞くのが一番早いと思うよ。そういうことは」
「別に、クレプスリーのことだなんて一言も言ってないだろ?」
「でも、そうなんだろ?」
「・・・・・・・・・」
「きっとお前が思っている通りの答えを返してくれると思う」
「・・・・そうかな・・・・・?」
「保証はしないけど。でも・・・・・家族ってのがどういうものかは、お前のほうがよっぽどよくわかってるはずだろ?」
「・・・・・・・・・」
「考えすぎないことだよ。ダレン」
「そう・・・かもな・・・・」


そう返したものの、ぐるぐると勝手に思考が巡っていく。
深く考える必要なんてない。
さらりと本人に聞いてしまえ。
何度も自身に吹っかけてみるけれどどうにも踏ん切りがつかない。
なのに足は自然とクレプスリーのトレーラーに向かっていた。
叩きたくないのに戸をノックして。
返事を待って中に入る。

「どうかしたのか?」
「・・・・・あのさ・・・・・」
「ん?」

怪訝そうにクレプスリーがこちらを見やる。

「クレプスリーはさ・・・・・・」
「なんだ?」
「僕を手下にして・・・・・・」

たった一言が、出て来ない。
たった四文字が、出て来ない。
僕とは違う答えを返されることが怖いのだ。
尊敬に値する師と弟子。
それ以上を望むのは贅沢なのかもしれない。
僕たちの関係は親子のそれとは違うものだから。
だからきっと、それは僕の胸だけに留めておく方がいいんだ。
無用な思考はこの際どこかに捨ててしまおう。

「・・・・・・ううん・・・・・なんでもない」
「・・・一体なんだというのだ?」
「気にしないで」

無理して笑って見せた。
偽者の親子にはお似合いの笑みだった。


しあわせ?
(問えないのは、僕が臆病だから)


7巻でシルク・ド・フリークに合流した位の頃。
よくよく考えたら赤師弟って『尊敬してる』とか『誇りに思う』とかは言ってっても
『幸せだよ』って言ったこと無いんじゃないのか?
多分この台詞って二人にとって禁句だったんじゃないかなぁ・・・・・
クレプスリーからしたら自分は紛れも無くダレンの幸せを奪った張本人で
ダレンからしたらそれを認めることでプライドが傷つくってのと、
クレプスリーが気にしていることを知っているから問えない。
そういう不器用さがこの四文字を言えなくさせていた、という妄想文でした。
2010/08/19

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