~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「・・・・・・本当に帰らなくていいの?」
「うん」
「・・・・・・家族の人、心配しない?」
「するような人たちじゃないし」
「でも・・・・・・」
「どうせ帰ったところであの人たちも居ないんだからどこにいたって変わりないよ」
「・・・・・・そう、かなぁ・・・・・・?」
「いい加減しつこいよ」
「だって・・・・・・」
日付が変わるまで、後一時間程に迫った頃。
何度繰り返したのかも分からないやりとりを再び始める。
大晦日は家族で過ごすものだと思っていたから、どうしてもヒバリ君の主張が受け止めきれない。
「ご両親、帰ってるかもしれないじゃない」
「帰ったところで、僕が居ないことに気がつくかどうか甚だ疑問だけどね」
「自分の子供が家にいなかったら気づくのは当たり前じゃない!」
「・・・・・・イーピンさんはよっぽど幸せな環境で育ったんだね」
自分で持ってきたミカンを机の上で転がした。
「ソレが当たり前じゃない家なんて、それこそ当たり前にいるんだよ」
「・・・・・・」
掛ける言葉が見つからなかった。
当たり前なことと、当たり前じゃないこと。
その基準はどこまでも自分の中のラインでしかないけれど。
でも、それでも。
カルチャーショックというのは、こういうことなのだろう。
私には親はいない。
顔も覚えていないほど小さな頃に死んでしまったらしい。
でも、私には親代わりの人がいた。
いつでも側にいてくれた。
私に家族というものを教えてくれた。
それが『本当の家族』かどうかは分からない。
私自身『本当』がどんなものなのか知らないのだから比較のしようもない。
ただ、私にとっては。
あの人が与えてくれたものが家族で。
私は、間違いなくソレを幸せだと感じていた。
なのに、この子にはいないのか。
両親がいるのに。
本当の血の繋がった家族がいるのに。
家族を教えてくれる人は誰もいない。
親のいない私が家族を知っていて。
親のいるヒバリ君が家族を知らないなんて。
世界はなんと皮肉にまみれているのだろう。
「なんて顔してるのさ?」
「だって・・・・・・」
「気にしてないよ。あの人たちがあぁなのは今に始まったことじゃないし」
・・・・・・でも、とヒバリ君は続ける。
当たり前を当たり前に持っていることを。
煩わしいとすら思えるくらいにありふれていることを。
「羨ましいとは、思うよ」
僅かばかり沈んだ声がそう告げた。
どうして、この子は持っていないのだろう。
ありふれたものを、羨ましいと言った。
ありふれているはずのものを、羨ましいと言った。
それは何と悲しいことなのだろうか。
この子は、まだ高々15歳の子供でしかない。
どれだけ生意気な口を利いたとしても。
どんなに尊大な物言いをしても。
人に飢えるばかりの子供なのだ。
私は小さい背中を抱く。
いつかにそうして貰ったように、そっと包み込む。
「・・・・・・何?」
「こうされると、なんか落ち着かない?」
「・・・・・・別に」
「私は、こうされるの好きだったけどな」
「ふぅん・・・・・・」
──ボーン、ボーン
「あ、除夜の鐘」
遠くの方で音がする。
人の煩悩を退散させる百八つの音。
鐘の音をこんなにも心苦しい気持ちで聞くのは初めてだ。
締め付けられるように痛い。
音を耳にした今、できることなら聞きたくなかったと思う。
払うべき欲とは何だろう?
欲無しに人は生きられるものなのだろうか。
何故欲は厭われる?
今ここで息づく行為こそ、欲の塊だというのに。
誰に願えばいいのかも分からない。
私には信じる神などいない。
神などでなくてもいい。
願いを叶えてくれるなら何だって構わない。
どうか。
どうか。
この子のささやかな望みを、奪わないで欲しい。
当たり前を望む欲を、払わないで欲しい。
私は、そっとヒバリ君の耳を塞いだ。
これっぽっちで鐘の音が聞こえなくなるわけもないのに、塞いだ。
「イーピン・・・・・・?」
「聞かなくて、いいから・・・・・・」
無駄な行為。
滑稽な行為。
分かってなお、私は足掻く。
足掻かずには、いられなかった。
世界の端っこで息を潜める
既に何度の鐘が鳴っただろう。
年が明けるまでもう少しだ。
あぁ、結局この子を家に帰すことが出来なかったな。
無理矢理追い出すことも出来たはずなのにそれすら出来なかった。
放っておくのが忍びなかった、というのはきっと言い訳。
多分。
きっと。
私も寂しかったんだ。
自分の弱さを思い出してしまった今、一人ではこの音を聞いていられない。
誰かを欲してしまう。
もの寂しい鐘の音は、私の弱さを浮き立たせる。
この子に。
子供のこの子にそれを求めるのは筋違いではあるのだろうけど。
今は、許して欲しい。
私の欲も。
この子の欲も。
全部まとめて、許して欲しい。
新年一発目が大晦日ネタという。
これがさかきクオリティー!
ヒバピン年齢逆転パロですよー。
もう一本の大晦日ネタの続きに当たります。
読まなくても問題ないけど、読んでもらえると嬉しいな!
一応この話も31日に書いたものの
どうにもしっくりこなくて何日か寝かしているうちに
「あっ!」と何かを悟って改変改変。
仕上がってみればもう三ヶ日を過ぎていたっていうアレ。
初っぱなからこれとか先が思いやられますね!
2012/01/04
「うん」
「・・・・・・家族の人、心配しない?」
「するような人たちじゃないし」
「でも・・・・・・」
「どうせ帰ったところであの人たちも居ないんだからどこにいたって変わりないよ」
「・・・・・・そう、かなぁ・・・・・・?」
「いい加減しつこいよ」
「だって・・・・・・」
日付が変わるまで、後一時間程に迫った頃。
何度繰り返したのかも分からないやりとりを再び始める。
大晦日は家族で過ごすものだと思っていたから、どうしてもヒバリ君の主張が受け止めきれない。
「ご両親、帰ってるかもしれないじゃない」
「帰ったところで、僕が居ないことに気がつくかどうか甚だ疑問だけどね」
「自分の子供が家にいなかったら気づくのは当たり前じゃない!」
「・・・・・・イーピンさんはよっぽど幸せな環境で育ったんだね」
自分で持ってきたミカンを机の上で転がした。
「ソレが当たり前じゃない家なんて、それこそ当たり前にいるんだよ」
「・・・・・・」
掛ける言葉が見つからなかった。
当たり前なことと、当たり前じゃないこと。
その基準はどこまでも自分の中のラインでしかないけれど。
でも、それでも。
カルチャーショックというのは、こういうことなのだろう。
私には親はいない。
顔も覚えていないほど小さな頃に死んでしまったらしい。
でも、私には親代わりの人がいた。
いつでも側にいてくれた。
私に家族というものを教えてくれた。
それが『本当の家族』かどうかは分からない。
私自身『本当』がどんなものなのか知らないのだから比較のしようもない。
ただ、私にとっては。
あの人が与えてくれたものが家族で。
私は、間違いなくソレを幸せだと感じていた。
なのに、この子にはいないのか。
両親がいるのに。
本当の血の繋がった家族がいるのに。
家族を教えてくれる人は誰もいない。
親のいない私が家族を知っていて。
親のいるヒバリ君が家族を知らないなんて。
世界はなんと皮肉にまみれているのだろう。
「なんて顔してるのさ?」
「だって・・・・・・」
「気にしてないよ。あの人たちがあぁなのは今に始まったことじゃないし」
・・・・・・でも、とヒバリ君は続ける。
当たり前を当たり前に持っていることを。
煩わしいとすら思えるくらいにありふれていることを。
「羨ましいとは、思うよ」
僅かばかり沈んだ声がそう告げた。
どうして、この子は持っていないのだろう。
ありふれたものを、羨ましいと言った。
ありふれているはずのものを、羨ましいと言った。
それは何と悲しいことなのだろうか。
この子は、まだ高々15歳の子供でしかない。
どれだけ生意気な口を利いたとしても。
どんなに尊大な物言いをしても。
人に飢えるばかりの子供なのだ。
私は小さい背中を抱く。
いつかにそうして貰ったように、そっと包み込む。
「・・・・・・何?」
「こうされると、なんか落ち着かない?」
「・・・・・・別に」
「私は、こうされるの好きだったけどな」
「ふぅん・・・・・・」
──ボーン、ボーン
「あ、除夜の鐘」
遠くの方で音がする。
人の煩悩を退散させる百八つの音。
鐘の音をこんなにも心苦しい気持ちで聞くのは初めてだ。
締め付けられるように痛い。
音を耳にした今、できることなら聞きたくなかったと思う。
払うべき欲とは何だろう?
欲無しに人は生きられるものなのだろうか。
何故欲は厭われる?
今ここで息づく行為こそ、欲の塊だというのに。
誰に願えばいいのかも分からない。
私には信じる神などいない。
神などでなくてもいい。
願いを叶えてくれるなら何だって構わない。
どうか。
どうか。
この子のささやかな望みを、奪わないで欲しい。
当たり前を望む欲を、払わないで欲しい。
私は、そっとヒバリ君の耳を塞いだ。
これっぽっちで鐘の音が聞こえなくなるわけもないのに、塞いだ。
「イーピン・・・・・・?」
「聞かなくて、いいから・・・・・・」
無駄な行為。
滑稽な行為。
分かってなお、私は足掻く。
足掻かずには、いられなかった。
世界の端っこで息を潜める
既に何度の鐘が鳴っただろう。
年が明けるまでもう少しだ。
あぁ、結局この子を家に帰すことが出来なかったな。
無理矢理追い出すことも出来たはずなのにそれすら出来なかった。
放っておくのが忍びなかった、というのはきっと言い訳。
多分。
きっと。
私も寂しかったんだ。
自分の弱さを思い出してしまった今、一人ではこの音を聞いていられない。
誰かを欲してしまう。
もの寂しい鐘の音は、私の弱さを浮き立たせる。
この子に。
子供のこの子にそれを求めるのは筋違いではあるのだろうけど。
今は、許して欲しい。
私の欲も。
この子の欲も。
全部まとめて、許して欲しい。
新年一発目が大晦日ネタという。
これがさかきクオリティー!
ヒバピン年齢逆転パロですよー。
もう一本の大晦日ネタの続きに当たります。
読まなくても問題ないけど、読んでもらえると嬉しいな!
一応この話も31日に書いたものの
どうにもしっくりこなくて何日か寝かしているうちに
「あっ!」と何かを悟って改変改変。
仕上がってみればもう三ヶ日を過ぎていたっていうアレ。
初っぱなからこれとか先が思いやられますね!
2012/01/04
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十二月三十一日。
世間で言う大晦日。
例年であればこの日は楽々軒のバイトで大忙しなのだが、今年ばかりは事情が違う。
大将たちは今、南国ハワイに旅行中なのだ。
娘さんが労をねぎらって大将夫婦に旅行をプレゼント。
はじめはお店を休む、それも大晦日のかきいれ時に休むことに難色を示してた大将だったけれど、実際にはやっぱり嬉しかったのだろう。
「年末年始は店を休業するかもしれんが・・・・・・」と話す大将の顔が緩んでいたのを私は知っている。
今頃は久しぶりの家族水入らずを楽しんでいるはず。
そんなわけで、店は臨時休業中。
別の短期バイトを探しても良かったのだけれど、何となくしなかった。
日本に帰って来て初めて、年末年始をゆっくりと過ごすことに決めた。
部屋の隅々まで掃除して、お店で買った正月飾りを供えてみたりもした。
やることもひとしきり終わり、夕飯は何を食べようかなんて考えながらまったりこたつに足を入れていたその時。
──ピンポーン
チャイムが鳴った。
さて、こんな年の瀬迫った時期に誰だろうか?
よもや大晦日に新聞の勧誘もあるまいし・・・・・・。
などと思いながら玄関を開けてみれば、そこにいたのはヒバリ君だった。
「ん」
突き出されたビニール袋の中を覗くと入っているのはミカンだ。
「あ、ありがと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「別に。お店行ったら臨時休業になってたから一人で寂しくしているんだろうなって思って」
「余計なお世話よ!」
ことごとく人を寂しい女扱いしてくれちゃって何なのこの子!?
「というわけでお邪魔するよ」
「え、あ、ちょっ・・・・・・!?」
「ほら、寒いんだからさっさと中に入る。受験生に風邪引かせるつもり?」
急かされて押し込まれる。
勝手知ったる何とやら──とは言っても、ヒバリ君がこの部屋に来たことがあるのは私の誕生日のあの夜一度だけなのに、さっさと奥まで入って腰を下ろしてしまった。
それどころかクッションを引き寄せてゴロリ横になる始末だ。
これではどちらが家主かわからない。
「受験生がのうのうとこたつでゴロゴロしてていいわけ?」
いきなり寝転がった受験生の頭を見下ろしながらため息混じりに問いかける。
もっとやるべきことがあるんじゃないかしら?
勉強とか勉強とか勉強とか、主にそういうこと。
「受験生にも等しく正月は来るからね」
「それはそうだけど・・・・・・」
だったら家でゆっくり過ごせばいいんじゃないかしら、と思うのは私だけだろうか?
仕方なく私もこたつに足を入れる。
うーん。やっぱり暖かくて気持ちいい。
「バイト休みならさ、暫く暇なんでしょ?」
「・・・・・・人を暇人扱いするのやめてくれないかしら」
「実際暇なんでしょ?」
「ゆっくりしていただけです!」
この子はどれだけ私を暇人扱いすれば気が済むのだろう。
私はバイトしかする事がない訳じゃないのに!
「たまにはゆっくりしたっていいじゃない・・・・・・」
そんな気分の時だってある。
今の今まで、日本に帰って来てからと言うもの勉強と生活費に学費を稼ぐバイトで精一杯だった。
ゆっくり過ごすことなんて本当に数える程度しかなかったように思う。
次にこんな機会がいつ来るのかわからない。
たまの空白を堪能しても罰は当たらない・・・・・・と思う。
ぷぅ、と頬を膨らませたらヒバリ君が小さく笑った。
「じゃ、ゆっくりしようよ」
「ひゃっ!?」
こたつの角を挟んでヒバリ君が抱き付き、そのまま床に倒れ込む。
「ちょっと何するの!?」
「ゆっくりするんでしょ?ならいいじゃない」
いやいや。
この姿勢でゆっくりとかちょっと・・・・・・。
・・・・・・あ、でも。
(あったかいかも・・・・・・)
子供体温、といったら怒るだろうか。
ヒバリ君が触れているところがじんわりと温かい。
「・・・・・・ヒバリ君って体温高いのね・・・・・・なんか気持ちいい」
「・・・・・・それはどうも」
少しだけ。
ほんの少しだけ、むっとした声に聞こえた。
オブラートに包んだつもりだったけれど、言わんとすることは伝わってしまったのかもしれない。
「イーピンさんはあんまり温かくないデスね。もーちょっと肉付けた方がいいんじゃない。その辺とかも」
私の寂しい胸元辺りを目線が嘗める。
「余計なお世話っ!」
小さいことくらい知ってるもん!
「・・・・・・0時になったらさ、初詣行こうよ」
「何それ当てつけ?」
胸が大きくなるようにお願いしろとでも!?
そんなことで大きくなるんだったら苦労ないわよ!
「そういうんじゃなくてさ」
私の薄っぺらい胸に頭を押しつけて、言う。
「今年の終わりも、来年の始まりも一緒にいようって、そう言ってんの」
<とりあえずEND>
今年の締めくくりはヒバピン年齢逆転パロだぜ!
煮え切らんけどとりあえずここまで!
現在12月31日21時50分!
もう一本いける・・・・・・・・・か!?
世間で言う大晦日。
例年であればこの日は楽々軒のバイトで大忙しなのだが、今年ばかりは事情が違う。
大将たちは今、南国ハワイに旅行中なのだ。
娘さんが労をねぎらって大将夫婦に旅行をプレゼント。
はじめはお店を休む、それも大晦日のかきいれ時に休むことに難色を示してた大将だったけれど、実際にはやっぱり嬉しかったのだろう。
「年末年始は店を休業するかもしれんが・・・・・・」と話す大将の顔が緩んでいたのを私は知っている。
今頃は久しぶりの家族水入らずを楽しんでいるはず。
そんなわけで、店は臨時休業中。
別の短期バイトを探しても良かったのだけれど、何となくしなかった。
日本に帰って来て初めて、年末年始をゆっくりと過ごすことに決めた。
部屋の隅々まで掃除して、お店で買った正月飾りを供えてみたりもした。
やることもひとしきり終わり、夕飯は何を食べようかなんて考えながらまったりこたつに足を入れていたその時。
──ピンポーン
チャイムが鳴った。
さて、こんな年の瀬迫った時期に誰だろうか?
よもや大晦日に新聞の勧誘もあるまいし・・・・・・。
などと思いながら玄関を開けてみれば、そこにいたのはヒバリ君だった。
「ん」
突き出されたビニール袋の中を覗くと入っているのはミカンだ。
「あ、ありがと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「別に。お店行ったら臨時休業になってたから一人で寂しくしているんだろうなって思って」
「余計なお世話よ!」
ことごとく人を寂しい女扱いしてくれちゃって何なのこの子!?
「というわけでお邪魔するよ」
「え、あ、ちょっ・・・・・・!?」
「ほら、寒いんだからさっさと中に入る。受験生に風邪引かせるつもり?」
急かされて押し込まれる。
勝手知ったる何とやら──とは言っても、ヒバリ君がこの部屋に来たことがあるのは私の誕生日のあの夜一度だけなのに、さっさと奥まで入って腰を下ろしてしまった。
それどころかクッションを引き寄せてゴロリ横になる始末だ。
これではどちらが家主かわからない。
「受験生がのうのうとこたつでゴロゴロしてていいわけ?」
いきなり寝転がった受験生の頭を見下ろしながらため息混じりに問いかける。
もっとやるべきことがあるんじゃないかしら?
勉強とか勉強とか勉強とか、主にそういうこと。
「受験生にも等しく正月は来るからね」
「それはそうだけど・・・・・・」
だったら家でゆっくり過ごせばいいんじゃないかしら、と思うのは私だけだろうか?
仕方なく私もこたつに足を入れる。
うーん。やっぱり暖かくて気持ちいい。
「バイト休みならさ、暫く暇なんでしょ?」
「・・・・・・人を暇人扱いするのやめてくれないかしら」
「実際暇なんでしょ?」
「ゆっくりしていただけです!」
この子はどれだけ私を暇人扱いすれば気が済むのだろう。
私はバイトしかする事がない訳じゃないのに!
「たまにはゆっくりしたっていいじゃない・・・・・・」
そんな気分の時だってある。
今の今まで、日本に帰って来てからと言うもの勉強と生活費に学費を稼ぐバイトで精一杯だった。
ゆっくり過ごすことなんて本当に数える程度しかなかったように思う。
次にこんな機会がいつ来るのかわからない。
たまの空白を堪能しても罰は当たらない・・・・・・と思う。
ぷぅ、と頬を膨らませたらヒバリ君が小さく笑った。
「じゃ、ゆっくりしようよ」
「ひゃっ!?」
こたつの角を挟んでヒバリ君が抱き付き、そのまま床に倒れ込む。
「ちょっと何するの!?」
「ゆっくりするんでしょ?ならいいじゃない」
いやいや。
この姿勢でゆっくりとかちょっと・・・・・・。
・・・・・・あ、でも。
(あったかいかも・・・・・・)
子供体温、といったら怒るだろうか。
ヒバリ君が触れているところがじんわりと温かい。
「・・・・・・ヒバリ君って体温高いのね・・・・・・なんか気持ちいい」
「・・・・・・それはどうも」
少しだけ。
ほんの少しだけ、むっとした声に聞こえた。
オブラートに包んだつもりだったけれど、言わんとすることは伝わってしまったのかもしれない。
「イーピンさんはあんまり温かくないデスね。もーちょっと肉付けた方がいいんじゃない。その辺とかも」
私の寂しい胸元辺りを目線が嘗める。
「余計なお世話っ!」
小さいことくらい知ってるもん!
「・・・・・・0時になったらさ、初詣行こうよ」
「何それ当てつけ?」
胸が大きくなるようにお願いしろとでも!?
そんなことで大きくなるんだったら苦労ないわよ!
「そういうんじゃなくてさ」
私の薄っぺらい胸に頭を押しつけて、言う。
「今年の終わりも、来年の始まりも一緒にいようって、そう言ってんの」
<とりあえずEND>
今年の締めくくりはヒバピン年齢逆転パロだぜ!
煮え切らんけどとりあえずここまで!
現在12月31日21時50分!
もう一本いける・・・・・・・・・か!?
「・・・・・・姫はどうして俺を選んだんだ?」
唐突に問いかけたのはγ。
けれどもユニは対して驚いた風もなく微笑んで返した。
先見の明のある彼女にとっては、この程度唐突でも何でもないと言うことなのだろう。
「どうしたんですか?突然」
「いや、改めて思えば俺と姫は親子ほども年が離れているだろう?普通の少女が恋心を抱くにはちと年がいっていたんじゃないかと思ってな」
「なんだ。そんなことですか」
ユニはいつも通りの笑顔で皆の食事を作る作業に戻った。
それを面白くないと思っても、γはとがめるたりはしない。
何十人ものご飯を作らなくてはいけないのだ。
休んでいる暇なんて無い。
「はぐらかすな」
「はぐらかしている訳じゃあありません。答えを聞いてしまえば呆れるくらい単純なことだからですよ」
いいながら「これを運んで?」とお皿を押しつけられた。
ボス命令だ。仕方がない。
「俺にはてんで見当のつかないことなんだがな」
「そう?」
「俺は姫みたいに他人の心は読めないんだ」
「読めなくたって簡単なことよ?」
「姫の『簡単』は俺にとっての『難解』なんだ」
「人を人外みたいに言わないでちょうだい」
横目に見たユニが、頬をぷぅっと膨らませた。
ちょっと拗ねてしまったらしい。
こういうところは年相応だというのに、その小さな身体に抱えているのは不相応なほどに大きい責任。
けれど抱えているものの半分もさらけ出さない。
いつもにこにこと微笑みを絶やさない。
日溜まりでまどろむような心地よさを与えてくれる。
こんなことがそんじょそこらの小娘に出来るとも思えない。
となれば、ある意味人外という表現は当たっているのかもしれない。
「例えば、だ」
「はい」
「俺以外の選択肢はなかったのか?野猿とかは年齢的にも近いだろ?」
「・・・・・・γは私に好きでいられると困るの?」
「そう言ってるんじゃない」
むしろ、そうじゃなかったら腸が煮えくり返りそうだ。
誰であろうと手を出させるもんか。
「ただ、純粋な好奇心だ」
好きな女のことならどんな些細なことだって気になるのが男ってもんだろ?
ビクン!とユニの身体が跳ねた。
のぞき込んだ顔は真っ赤になっている。
「姫?」
「・・・・・・γのバカ・・・・・・」
「バカとは失礼だな。俺は心なんて読めないから素直に聞いただけだ」
「・・・・・・あなたはそうやって母のことも口説いていたというわけですね?」
「っ!?」
図星を突かれて今度はγの身体が飛び跳ねた。
隠しておこうと思った真実も、彼女の前では筒抜けだ。
だらだら垂れる冷や汗。
リフレインする苦い思い出。
珍しく、ユニがイタズラした子供のように笑っている。
「けれど全く相手にされていなかった。そうでしょう?」
「俺の傷をえぐりたいだけならやめてくれ・・・・・・」
「それが答えです」
「うん?」
「・・・・・・私がγを好きになった理由。そして、γが私を好きになった理由、です」
同じ傷を有していたから、舐めあった。
同じ悲しみを抱いていたから、共感しあった。
私にとっての母、あなたにとっての『ボス』を客観的に埋め合わせてくれる人が必要だった。
だから私たちは、お互いが必要だった。
同じ傷が、必要だった。
「γが私の中に母を見たように、私もγの中に母の痕跡を求めた。母が確かに存在していたのだと、自分に言い聞かせたかった。だから、誰よりも母を想っていたあなたが必要だったんです」
幻滅しましたか?
ユニが申し訳なさそうに笑う。
「幻滅なんて、出来るわけないだろう」
幻滅などしたら、同じベクトルの感情を抱いていた自分を否定することと同義だ。
そんなこと、出来るわけがない。
むしろ、喜んでもいいくらいだ。
ただ、ユニの言葉には一カ所、大きな間違いがある。
それだけは訂正させて貰わないと。
「でもな、姫」
「はい?」
「それは、『きっかけ』にすぎない。理由とは違う」
「・・・・・・そうかもしれませんね」
少女の中にアリアの面影を求めたことは確かにあった。
でも、今は違う。
彼女の中に求めるのは、彼女自身。
傷を舐めあう時間はもう終わっている。
γ自身はそう思っている。
そう思っているなら、きっとユニも思っている。
アリアを介在する時間は終わっているのだと。
「・・・・・・俺がフラれ続けたのも無駄じゃなかったというわけか」
「ふられていなかったら『父様』になっていただけよ。きっと、感情のベクトルは変わらないわ」
「変わるさ。気分的にな」
娘と恋人じゃ、天と地ほども違う。
我らが姫様にはそのあたり、まだ理解できないらしい。
ならば実践で教えてやるのが年上の義務というもの。
「姫」
言葉を発する間も与えずに、口を、塞ぐ。
チュ、と小さく音が鳴る。
手にしていたボールがガランと音を立てて床に転がった。
「親子じゃこうはいかないだろ?」
顔を真っ赤にして固まってしまったユニの耳に届いたかどうかは別の話だ。
同じ傷を舐めあう
唐突に問いかけたのはγ。
けれどもユニは対して驚いた風もなく微笑んで返した。
先見の明のある彼女にとっては、この程度唐突でも何でもないと言うことなのだろう。
「どうしたんですか?突然」
「いや、改めて思えば俺と姫は親子ほども年が離れているだろう?普通の少女が恋心を抱くにはちと年がいっていたんじゃないかと思ってな」
「なんだ。そんなことですか」
ユニはいつも通りの笑顔で皆の食事を作る作業に戻った。
それを面白くないと思っても、γはとがめるたりはしない。
何十人ものご飯を作らなくてはいけないのだ。
休んでいる暇なんて無い。
「はぐらかすな」
「はぐらかしている訳じゃあありません。答えを聞いてしまえば呆れるくらい単純なことだからですよ」
いいながら「これを運んで?」とお皿を押しつけられた。
ボス命令だ。仕方がない。
「俺にはてんで見当のつかないことなんだがな」
「そう?」
「俺は姫みたいに他人の心は読めないんだ」
「読めなくたって簡単なことよ?」
「姫の『簡単』は俺にとっての『難解』なんだ」
「人を人外みたいに言わないでちょうだい」
横目に見たユニが、頬をぷぅっと膨らませた。
ちょっと拗ねてしまったらしい。
こういうところは年相応だというのに、その小さな身体に抱えているのは不相応なほどに大きい責任。
けれど抱えているものの半分もさらけ出さない。
いつもにこにこと微笑みを絶やさない。
日溜まりでまどろむような心地よさを与えてくれる。
こんなことがそんじょそこらの小娘に出来るとも思えない。
となれば、ある意味人外という表現は当たっているのかもしれない。
「例えば、だ」
「はい」
「俺以外の選択肢はなかったのか?野猿とかは年齢的にも近いだろ?」
「・・・・・・γは私に好きでいられると困るの?」
「そう言ってるんじゃない」
むしろ、そうじゃなかったら腸が煮えくり返りそうだ。
誰であろうと手を出させるもんか。
「ただ、純粋な好奇心だ」
好きな女のことならどんな些細なことだって気になるのが男ってもんだろ?
ビクン!とユニの身体が跳ねた。
のぞき込んだ顔は真っ赤になっている。
「姫?」
「・・・・・・γのバカ・・・・・・」
「バカとは失礼だな。俺は心なんて読めないから素直に聞いただけだ」
「・・・・・・あなたはそうやって母のことも口説いていたというわけですね?」
「っ!?」
図星を突かれて今度はγの身体が飛び跳ねた。
隠しておこうと思った真実も、彼女の前では筒抜けだ。
だらだら垂れる冷や汗。
リフレインする苦い思い出。
珍しく、ユニがイタズラした子供のように笑っている。
「けれど全く相手にされていなかった。そうでしょう?」
「俺の傷をえぐりたいだけならやめてくれ・・・・・・」
「それが答えです」
「うん?」
「・・・・・・私がγを好きになった理由。そして、γが私を好きになった理由、です」
同じ傷を有していたから、舐めあった。
同じ悲しみを抱いていたから、共感しあった。
私にとっての母、あなたにとっての『ボス』を客観的に埋め合わせてくれる人が必要だった。
だから私たちは、お互いが必要だった。
同じ傷が、必要だった。
「γが私の中に母を見たように、私もγの中に母の痕跡を求めた。母が確かに存在していたのだと、自分に言い聞かせたかった。だから、誰よりも母を想っていたあなたが必要だったんです」
幻滅しましたか?
ユニが申し訳なさそうに笑う。
「幻滅なんて、出来るわけないだろう」
幻滅などしたら、同じベクトルの感情を抱いていた自分を否定することと同義だ。
そんなこと、出来るわけがない。
むしろ、喜んでもいいくらいだ。
ただ、ユニの言葉には一カ所、大きな間違いがある。
それだけは訂正させて貰わないと。
「でもな、姫」
「はい?」
「それは、『きっかけ』にすぎない。理由とは違う」
「・・・・・・そうかもしれませんね」
少女の中にアリアの面影を求めたことは確かにあった。
でも、今は違う。
彼女の中に求めるのは、彼女自身。
傷を舐めあう時間はもう終わっている。
γ自身はそう思っている。
そう思っているなら、きっとユニも思っている。
アリアを介在する時間は終わっているのだと。
「・・・・・・俺がフラれ続けたのも無駄じゃなかったというわけか」
「ふられていなかったら『父様』になっていただけよ。きっと、感情のベクトルは変わらないわ」
「変わるさ。気分的にな」
娘と恋人じゃ、天と地ほども違う。
我らが姫様にはそのあたり、まだ理解できないらしい。
ならば実践で教えてやるのが年上の義務というもの。
「姫」
言葉を発する間も与えずに、口を、塞ぐ。
チュ、と小さく音が鳴る。
手にしていたボールがガランと音を立てて床に転がった。
「親子じゃこうはいかないだろ?」
顔を真っ赤にして固まってしまったユニの耳に届いたかどうかは別の話だ。
同じ傷を舐めあう