~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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「・・・・・・本当に帰らなくていいの?」
「うん」
「・・・・・・家族の人、心配しない?」
「するような人たちじゃないし」
「でも・・・・・・」
「どうせ帰ったところであの人たちも居ないんだからどこにいたって変わりないよ」
「・・・・・・そう、かなぁ・・・・・・?」
「いい加減しつこいよ」
「だって・・・・・・」
日付が変わるまで、後一時間程に迫った頃。
何度繰り返したのかも分からないやりとりを再び始める。
大晦日は家族で過ごすものだと思っていたから、どうしてもヒバリ君の主張が受け止めきれない。
「ご両親、帰ってるかもしれないじゃない」
「帰ったところで、僕が居ないことに気がつくかどうか甚だ疑問だけどね」
「自分の子供が家にいなかったら気づくのは当たり前じゃない!」
「・・・・・・イーピンさんはよっぽど幸せな環境で育ったんだね」
自分で持ってきたミカンを机の上で転がした。
「ソレが当たり前じゃない家なんて、それこそ当たり前にいるんだよ」
「・・・・・・」
掛ける言葉が見つからなかった。
当たり前なことと、当たり前じゃないこと。
その基準はどこまでも自分の中のラインでしかないけれど。
でも、それでも。
カルチャーショックというのは、こういうことなのだろう。
私には親はいない。
顔も覚えていないほど小さな頃に死んでしまったらしい。
でも、私には親代わりの人がいた。
いつでも側にいてくれた。
私に家族というものを教えてくれた。
それが『本当の家族』かどうかは分からない。
私自身『本当』がどんなものなのか知らないのだから比較のしようもない。
ただ、私にとっては。
あの人が与えてくれたものが家族で。
私は、間違いなくソレを幸せだと感じていた。
なのに、この子にはいないのか。
両親がいるのに。
本当の血の繋がった家族がいるのに。
家族を教えてくれる人は誰もいない。
親のいない私が家族を知っていて。
親のいるヒバリ君が家族を知らないなんて。
世界はなんと皮肉にまみれているのだろう。
「なんて顔してるのさ?」
「だって・・・・・・」
「気にしてないよ。あの人たちがあぁなのは今に始まったことじゃないし」
・・・・・・でも、とヒバリ君は続ける。
当たり前を当たり前に持っていることを。
煩わしいとすら思えるくらいにありふれていることを。
「羨ましいとは、思うよ」
僅かばかり沈んだ声がそう告げた。
どうして、この子は持っていないのだろう。
ありふれたものを、羨ましいと言った。
ありふれているはずのものを、羨ましいと言った。
それは何と悲しいことなのだろうか。
この子は、まだ高々15歳の子供でしかない。
どれだけ生意気な口を利いたとしても。
どんなに尊大な物言いをしても。
人に飢えるばかりの子供なのだ。
私は小さい背中を抱く。
いつかにそうして貰ったように、そっと包み込む。
「・・・・・・何?」
「こうされると、なんか落ち着かない?」
「・・・・・・別に」
「私は、こうされるの好きだったけどな」
「ふぅん・・・・・・」
──ボーン、ボーン
「あ、除夜の鐘」
遠くの方で音がする。
人の煩悩を退散させる百八つの音。
鐘の音をこんなにも心苦しい気持ちで聞くのは初めてだ。
締め付けられるように痛い。
音を耳にした今、できることなら聞きたくなかったと思う。
払うべき欲とは何だろう?
欲無しに人は生きられるものなのだろうか。
何故欲は厭われる?
今ここで息づく行為こそ、欲の塊だというのに。
誰に願えばいいのかも分からない。
私には信じる神などいない。
神などでなくてもいい。
願いを叶えてくれるなら何だって構わない。
どうか。
どうか。
この子のささやかな望みを、奪わないで欲しい。
当たり前を望む欲を、払わないで欲しい。
私は、そっとヒバリ君の耳を塞いだ。
これっぽっちで鐘の音が聞こえなくなるわけもないのに、塞いだ。
「イーピン・・・・・・?」
「聞かなくて、いいから・・・・・・」
無駄な行為。
滑稽な行為。
分かってなお、私は足掻く。
足掻かずには、いられなかった。
世界の端っこで息を潜める
既に何度の鐘が鳴っただろう。
年が明けるまでもう少しだ。
あぁ、結局この子を家に帰すことが出来なかったな。
無理矢理追い出すことも出来たはずなのにそれすら出来なかった。
放っておくのが忍びなかった、というのはきっと言い訳。
多分。
きっと。
私も寂しかったんだ。
自分の弱さを思い出してしまった今、一人ではこの音を聞いていられない。
誰かを欲してしまう。
もの寂しい鐘の音は、私の弱さを浮き立たせる。
この子に。
子供のこの子にそれを求めるのは筋違いではあるのだろうけど。
今は、許して欲しい。
私の欲も。
この子の欲も。
全部まとめて、許して欲しい。
新年一発目が大晦日ネタという。
これがさかきクオリティー!
ヒバピン年齢逆転パロですよー。
もう一本の大晦日ネタの続きに当たります。
読まなくても問題ないけど、読んでもらえると嬉しいな!
一応この話も31日に書いたものの
どうにもしっくりこなくて何日か寝かしているうちに
「あっ!」と何かを悟って改変改変。
仕上がってみればもう三ヶ日を過ぎていたっていうアレ。
初っぱなからこれとか先が思いやられますね!
2012/01/04
「うん」
「・・・・・・家族の人、心配しない?」
「するような人たちじゃないし」
「でも・・・・・・」
「どうせ帰ったところであの人たちも居ないんだからどこにいたって変わりないよ」
「・・・・・・そう、かなぁ・・・・・・?」
「いい加減しつこいよ」
「だって・・・・・・」
日付が変わるまで、後一時間程に迫った頃。
何度繰り返したのかも分からないやりとりを再び始める。
大晦日は家族で過ごすものだと思っていたから、どうしてもヒバリ君の主張が受け止めきれない。
「ご両親、帰ってるかもしれないじゃない」
「帰ったところで、僕が居ないことに気がつくかどうか甚だ疑問だけどね」
「自分の子供が家にいなかったら気づくのは当たり前じゃない!」
「・・・・・・イーピンさんはよっぽど幸せな環境で育ったんだね」
自分で持ってきたミカンを机の上で転がした。
「ソレが当たり前じゃない家なんて、それこそ当たり前にいるんだよ」
「・・・・・・」
掛ける言葉が見つからなかった。
当たり前なことと、当たり前じゃないこと。
その基準はどこまでも自分の中のラインでしかないけれど。
でも、それでも。
カルチャーショックというのは、こういうことなのだろう。
私には親はいない。
顔も覚えていないほど小さな頃に死んでしまったらしい。
でも、私には親代わりの人がいた。
いつでも側にいてくれた。
私に家族というものを教えてくれた。
それが『本当の家族』かどうかは分からない。
私自身『本当』がどんなものなのか知らないのだから比較のしようもない。
ただ、私にとっては。
あの人が与えてくれたものが家族で。
私は、間違いなくソレを幸せだと感じていた。
なのに、この子にはいないのか。
両親がいるのに。
本当の血の繋がった家族がいるのに。
家族を教えてくれる人は誰もいない。
親のいない私が家族を知っていて。
親のいるヒバリ君が家族を知らないなんて。
世界はなんと皮肉にまみれているのだろう。
「なんて顔してるのさ?」
「だって・・・・・・」
「気にしてないよ。あの人たちがあぁなのは今に始まったことじゃないし」
・・・・・・でも、とヒバリ君は続ける。
当たり前を当たり前に持っていることを。
煩わしいとすら思えるくらいにありふれていることを。
「羨ましいとは、思うよ」
僅かばかり沈んだ声がそう告げた。
どうして、この子は持っていないのだろう。
ありふれたものを、羨ましいと言った。
ありふれているはずのものを、羨ましいと言った。
それは何と悲しいことなのだろうか。
この子は、まだ高々15歳の子供でしかない。
どれだけ生意気な口を利いたとしても。
どんなに尊大な物言いをしても。
人に飢えるばかりの子供なのだ。
私は小さい背中を抱く。
いつかにそうして貰ったように、そっと包み込む。
「・・・・・・何?」
「こうされると、なんか落ち着かない?」
「・・・・・・別に」
「私は、こうされるの好きだったけどな」
「ふぅん・・・・・・」
──ボーン、ボーン
「あ、除夜の鐘」
遠くの方で音がする。
人の煩悩を退散させる百八つの音。
鐘の音をこんなにも心苦しい気持ちで聞くのは初めてだ。
締め付けられるように痛い。
音を耳にした今、できることなら聞きたくなかったと思う。
払うべき欲とは何だろう?
欲無しに人は生きられるものなのだろうか。
何故欲は厭われる?
今ここで息づく行為こそ、欲の塊だというのに。
誰に願えばいいのかも分からない。
私には信じる神などいない。
神などでなくてもいい。
願いを叶えてくれるなら何だって構わない。
どうか。
どうか。
この子のささやかな望みを、奪わないで欲しい。
当たり前を望む欲を、払わないで欲しい。
私は、そっとヒバリ君の耳を塞いだ。
これっぽっちで鐘の音が聞こえなくなるわけもないのに、塞いだ。
「イーピン・・・・・・?」
「聞かなくて、いいから・・・・・・」
無駄な行為。
滑稽な行為。
分かってなお、私は足掻く。
足掻かずには、いられなかった。
世界の端っこで息を潜める
既に何度の鐘が鳴っただろう。
年が明けるまでもう少しだ。
あぁ、結局この子を家に帰すことが出来なかったな。
無理矢理追い出すことも出来たはずなのにそれすら出来なかった。
放っておくのが忍びなかった、というのはきっと言い訳。
多分。
きっと。
私も寂しかったんだ。
自分の弱さを思い出してしまった今、一人ではこの音を聞いていられない。
誰かを欲してしまう。
もの寂しい鐘の音は、私の弱さを浮き立たせる。
この子に。
子供のこの子にそれを求めるのは筋違いではあるのだろうけど。
今は、許して欲しい。
私の欲も。
この子の欲も。
全部まとめて、許して欲しい。
新年一発目が大晦日ネタという。
これがさかきクオリティー!
ヒバピン年齢逆転パロですよー。
もう一本の大晦日ネタの続きに当たります。
読まなくても問題ないけど、読んでもらえると嬉しいな!
一応この話も31日に書いたものの
どうにもしっくりこなくて何日か寝かしているうちに
「あっ!」と何かを悟って改変改変。
仕上がってみればもう三ヶ日を過ぎていたっていうアレ。
初っぱなからこれとか先が思いやられますね!
2012/01/04
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十二月三十一日。
世間で言う大晦日。
例年であればこの日は楽々軒のバイトで大忙しなのだが、今年ばかりは事情が違う。
大将たちは今、南国ハワイに旅行中なのだ。
娘さんが労をねぎらって大将夫婦に旅行をプレゼント。
はじめはお店を休む、それも大晦日のかきいれ時に休むことに難色を示してた大将だったけれど、実際にはやっぱり嬉しかったのだろう。
「年末年始は店を休業するかもしれんが・・・・・・」と話す大将の顔が緩んでいたのを私は知っている。
今頃は久しぶりの家族水入らずを楽しんでいるはず。
そんなわけで、店は臨時休業中。
別の短期バイトを探しても良かったのだけれど、何となくしなかった。
日本に帰って来て初めて、年末年始をゆっくりと過ごすことに決めた。
部屋の隅々まで掃除して、お店で買った正月飾りを供えてみたりもした。
やることもひとしきり終わり、夕飯は何を食べようかなんて考えながらまったりこたつに足を入れていたその時。
──ピンポーン
チャイムが鳴った。
さて、こんな年の瀬迫った時期に誰だろうか?
よもや大晦日に新聞の勧誘もあるまいし・・・・・・。
などと思いながら玄関を開けてみれば、そこにいたのはヒバリ君だった。
「ん」
突き出されたビニール袋の中を覗くと入っているのはミカンだ。
「あ、ありがと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「別に。お店行ったら臨時休業になってたから一人で寂しくしているんだろうなって思って」
「余計なお世話よ!」
ことごとく人を寂しい女扱いしてくれちゃって何なのこの子!?
「というわけでお邪魔するよ」
「え、あ、ちょっ・・・・・・!?」
「ほら、寒いんだからさっさと中に入る。受験生に風邪引かせるつもり?」
急かされて押し込まれる。
勝手知ったる何とやら──とは言っても、ヒバリ君がこの部屋に来たことがあるのは私の誕生日のあの夜一度だけなのに、さっさと奥まで入って腰を下ろしてしまった。
それどころかクッションを引き寄せてゴロリ横になる始末だ。
これではどちらが家主かわからない。
「受験生がのうのうとこたつでゴロゴロしてていいわけ?」
いきなり寝転がった受験生の頭を見下ろしながらため息混じりに問いかける。
もっとやるべきことがあるんじゃないかしら?
勉強とか勉強とか勉強とか、主にそういうこと。
「受験生にも等しく正月は来るからね」
「それはそうだけど・・・・・・」
だったら家でゆっくり過ごせばいいんじゃないかしら、と思うのは私だけだろうか?
仕方なく私もこたつに足を入れる。
うーん。やっぱり暖かくて気持ちいい。
「バイト休みならさ、暫く暇なんでしょ?」
「・・・・・・人を暇人扱いするのやめてくれないかしら」
「実際暇なんでしょ?」
「ゆっくりしていただけです!」
この子はどれだけ私を暇人扱いすれば気が済むのだろう。
私はバイトしかする事がない訳じゃないのに!
「たまにはゆっくりしたっていいじゃない・・・・・・」
そんな気分の時だってある。
今の今まで、日本に帰って来てからと言うもの勉強と生活費に学費を稼ぐバイトで精一杯だった。
ゆっくり過ごすことなんて本当に数える程度しかなかったように思う。
次にこんな機会がいつ来るのかわからない。
たまの空白を堪能しても罰は当たらない・・・・・・と思う。
ぷぅ、と頬を膨らませたらヒバリ君が小さく笑った。
「じゃ、ゆっくりしようよ」
「ひゃっ!?」
こたつの角を挟んでヒバリ君が抱き付き、そのまま床に倒れ込む。
「ちょっと何するの!?」
「ゆっくりするんでしょ?ならいいじゃない」
いやいや。
この姿勢でゆっくりとかちょっと・・・・・・。
・・・・・・あ、でも。
(あったかいかも・・・・・・)
子供体温、といったら怒るだろうか。
ヒバリ君が触れているところがじんわりと温かい。
「・・・・・・ヒバリ君って体温高いのね・・・・・・なんか気持ちいい」
「・・・・・・それはどうも」
少しだけ。
ほんの少しだけ、むっとした声に聞こえた。
オブラートに包んだつもりだったけれど、言わんとすることは伝わってしまったのかもしれない。
「イーピンさんはあんまり温かくないデスね。もーちょっと肉付けた方がいいんじゃない。その辺とかも」
私の寂しい胸元辺りを目線が嘗める。
「余計なお世話っ!」
小さいことくらい知ってるもん!
「・・・・・・0時になったらさ、初詣行こうよ」
「何それ当てつけ?」
胸が大きくなるようにお願いしろとでも!?
そんなことで大きくなるんだったら苦労ないわよ!
「そういうんじゃなくてさ」
私の薄っぺらい胸に頭を押しつけて、言う。
「今年の終わりも、来年の始まりも一緒にいようって、そう言ってんの」
<とりあえずEND>
今年の締めくくりはヒバピン年齢逆転パロだぜ!
煮え切らんけどとりあえずここまで!
現在12月31日21時50分!
もう一本いける・・・・・・・・・か!?
世間で言う大晦日。
例年であればこの日は楽々軒のバイトで大忙しなのだが、今年ばかりは事情が違う。
大将たちは今、南国ハワイに旅行中なのだ。
娘さんが労をねぎらって大将夫婦に旅行をプレゼント。
はじめはお店を休む、それも大晦日のかきいれ時に休むことに難色を示してた大将だったけれど、実際にはやっぱり嬉しかったのだろう。
「年末年始は店を休業するかもしれんが・・・・・・」と話す大将の顔が緩んでいたのを私は知っている。
今頃は久しぶりの家族水入らずを楽しんでいるはず。
そんなわけで、店は臨時休業中。
別の短期バイトを探しても良かったのだけれど、何となくしなかった。
日本に帰って来て初めて、年末年始をゆっくりと過ごすことに決めた。
部屋の隅々まで掃除して、お店で買った正月飾りを供えてみたりもした。
やることもひとしきり終わり、夕飯は何を食べようかなんて考えながらまったりこたつに足を入れていたその時。
──ピンポーン
チャイムが鳴った。
さて、こんな年の瀬迫った時期に誰だろうか?
よもや大晦日に新聞の勧誘もあるまいし・・・・・・。
などと思いながら玄関を開けてみれば、そこにいたのはヒバリ君だった。
「ん」
突き出されたビニール袋の中を覗くと入っているのはミカンだ。
「あ、ありがと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「別に。お店行ったら臨時休業になってたから一人で寂しくしているんだろうなって思って」
「余計なお世話よ!」
ことごとく人を寂しい女扱いしてくれちゃって何なのこの子!?
「というわけでお邪魔するよ」
「え、あ、ちょっ・・・・・・!?」
「ほら、寒いんだからさっさと中に入る。受験生に風邪引かせるつもり?」
急かされて押し込まれる。
勝手知ったる何とやら──とは言っても、ヒバリ君がこの部屋に来たことがあるのは私の誕生日のあの夜一度だけなのに、さっさと奥まで入って腰を下ろしてしまった。
それどころかクッションを引き寄せてゴロリ横になる始末だ。
これではどちらが家主かわからない。
「受験生がのうのうとこたつでゴロゴロしてていいわけ?」
いきなり寝転がった受験生の頭を見下ろしながらため息混じりに問いかける。
もっとやるべきことがあるんじゃないかしら?
勉強とか勉強とか勉強とか、主にそういうこと。
「受験生にも等しく正月は来るからね」
「それはそうだけど・・・・・・」
だったら家でゆっくり過ごせばいいんじゃないかしら、と思うのは私だけだろうか?
仕方なく私もこたつに足を入れる。
うーん。やっぱり暖かくて気持ちいい。
「バイト休みならさ、暫く暇なんでしょ?」
「・・・・・・人を暇人扱いするのやめてくれないかしら」
「実際暇なんでしょ?」
「ゆっくりしていただけです!」
この子はどれだけ私を暇人扱いすれば気が済むのだろう。
私はバイトしかする事がない訳じゃないのに!
「たまにはゆっくりしたっていいじゃない・・・・・・」
そんな気分の時だってある。
今の今まで、日本に帰って来てからと言うもの勉強と生活費に学費を稼ぐバイトで精一杯だった。
ゆっくり過ごすことなんて本当に数える程度しかなかったように思う。
次にこんな機会がいつ来るのかわからない。
たまの空白を堪能しても罰は当たらない・・・・・・と思う。
ぷぅ、と頬を膨らませたらヒバリ君が小さく笑った。
「じゃ、ゆっくりしようよ」
「ひゃっ!?」
こたつの角を挟んでヒバリ君が抱き付き、そのまま床に倒れ込む。
「ちょっと何するの!?」
「ゆっくりするんでしょ?ならいいじゃない」
いやいや。
この姿勢でゆっくりとかちょっと・・・・・・。
・・・・・・あ、でも。
(あったかいかも・・・・・・)
子供体温、といったら怒るだろうか。
ヒバリ君が触れているところがじんわりと温かい。
「・・・・・・ヒバリ君って体温高いのね・・・・・・なんか気持ちいい」
「・・・・・・それはどうも」
少しだけ。
ほんの少しだけ、むっとした声に聞こえた。
オブラートに包んだつもりだったけれど、言わんとすることは伝わってしまったのかもしれない。
「イーピンさんはあんまり温かくないデスね。もーちょっと肉付けた方がいいんじゃない。その辺とかも」
私の寂しい胸元辺りを目線が嘗める。
「余計なお世話っ!」
小さいことくらい知ってるもん!
「・・・・・・0時になったらさ、初詣行こうよ」
「何それ当てつけ?」
胸が大きくなるようにお願いしろとでも!?
そんなことで大きくなるんだったら苦労ないわよ!
「そういうんじゃなくてさ」
私の薄っぺらい胸に頭を押しつけて、言う。
「今年の終わりも、来年の始まりも一緒にいようって、そう言ってんの」
<とりあえずEND>
今年の締めくくりはヒバピン年齢逆転パロだぜ!
煮え切らんけどとりあえずここまで!
現在12月31日21時50分!
もう一本いける・・・・・・・・・か!?
ここはさかきがリハビリの為にただただ書き続けるための場所です。
ぶっちゃけHTML変換がめんどうくさ・・・・げふんげふん!
もとい、HTML変換による手間を回避するための作品(主にSS)の一時投下場です。
こちらにUPした作品は後日背景等の編集を加えてサイトの方にUPします。
正直、どっちの方が便利か自分で判断ついていないので突然このページは消える可能性があります。
当面は自作のヒバピンお題 と 赤師弟同盟からお借りした『赤師弟30のお題』の消化をしていきます。
あとは突然思いついた小ネタとか。
何かそんな感じの場所です。よろしくです。
作品は折りたたみをしていない不親切設計です。
他作品は見たくない、という場合はサイトにUPされるのを待っていただけると嬉しいです。
また、お気に召すものがありましたら拍手をポチと押してやってください。喜びます。
ぶっちゃけHTML変換がめんどうくさ・・・・げふんげふん!
もとい、HTML変換による手間を回避するための作品(主にSS)の一時投下場です。
こちらにUPした作品は後日背景等の編集を加えてサイトの方にUPします。
正直、どっちの方が便利か自分で判断ついていないので突然このページは消える可能性があります。
当面は自作のヒバピンお題 と 赤師弟同盟からお借りした『赤師弟30のお題』の消化をしていきます。
あとは突然思いついた小ネタとか。
何かそんな感じの場所です。よろしくです。
作品は折りたたみをしていない不親切設計です。
他作品は見たくない、という場合はサイトにUPされるのを待っていただけると嬉しいです。
また、お気に召すものがありましたら拍手をポチと押してやってください。喜びます。
ごつごつした歩きにくい廊下を歩いている。
この廊下を歩くのは好きじゃない。
自分の身長を覆う長さの古びたローブは意図せずに石の割れ目に引っかかってしまい、いちいち外すのが面倒くさい。
ここも数ヶ月前まではこんな廊下ではなかったのだが・・・・・・
「いい加減、地図の置き位置を変えなければならないかもしれないな」
何十度目かの繰り返し作業をしながら言葉が漏れた。
この先には昔のカーダの部屋がある。
カーダが書き貯めた地図の山ももちろんそこに保存されている。
数年前に入り口が塞がった。
だがそれは入り口を掘るだけで何とかなった。
しかし今回はそうもいかない気がする。
横道全体の天井が崩れ、せっかく掘った入り口も半分くらいが埋まってしまった。
入り口に続く廊下も、もう元の平らな部分はこれっぽっちも見えなくなっている。
いい加減限界だ。
誰かに頼んだら地図の搬出作業を手伝ってくれるだろうか?
そもそもあの狭い入り口に入れる者という制限もある。
「結局、私が一人でやらなけらばならないんだろうな・・・・・・」
一人ごちる。
こんな地図好きに付き合ってくれる奇特な人はこのバンパイアマウンテンにはそうはいないのだ。
リトル・ピープルの言葉を体現した小さな体を狭い入り口にねじ込んだ。
意外とこの入り口さえ通ってしまえばさして被害を受けていないことが口惜しい。
「しかし、あの量の地図を今度はどこに保存したものか・・・・・・シーバーに相談したら融通してくれるだろうか?」
一抱えや二抱えでは済まない。
かつての自分がしたこととは言えうんざりした。
「・・・・・・ん?」
目的地の部屋から、明かりが漏れている。
この部屋にわざわざ足を運ぶ者は自分自身を含めても片手で事足りる。
「あいつら・・・・・・またあの部屋で遊んでいるのか・・・・・・?」
あの部屋にある地図がかつてカーダが趣味で書き貯めたバンパイアマウンテンの横穴の地図だとも知らずに、宝の地図と信じている奴らだ。
きっと今日もあの部屋の地図をひっくり返しているに違いない。
ということはそのひっくり返った中から私は目的の一枚を探し出さなくてはいけないとうことだ。
これではどちらが宝探しをしているのかわからない。
再びため息を漏らしながら部屋に入る。
「お前達、宝の地図は見つかったか?」
もっとも、訂正してやるつもりのない私がため息を吐く資格もないのだろうが。
「あーっ!ハーだぁ!」
「ホントだ!ハーだ!ハーも宝探しにきたのぉ?」
「まぁ・・・・・・そんなところだ」
いつも以上に紙が散乱した部屋。
どうやら、これは骨が折れそうだ。
双子がかき分けた地図の山を私が再びかき分けるという何とも不毛なやり取り。
「ハーはこの部屋にある宝の地図がどれだか知っているんだよね?」
「まぁな」
これは、私が書いたものだからな。
知っていて当然だ。
「ただし、私が知っているのはどれが誰にとっての宝の地図かということだけ」
「んー?」
「どぅいうこと?」
「今私が探している宝の地図は、お前達にとっては何の役にも立たないただの紙切れだと言うことだ」
足下をかき分けながら、答える。
「そうなの?」
「宝の地図は一枚じゃないの?」
「あぁ、この地図を必要とする人の数だけ宝の地図はある」
お、今日はついている。
運良く目的の地図が見つかったではないか。
悪い時にはどれだけ探しても見つからないと言うのに。
「僕たちの分もちゃんとある?」
「ティダたちの地図どれなの?」
「ねーハーは知ってるんでしょう?」
「ハー教えて?どれが宝の地図なの?」
「それを教えるのは出来ないな」
「なんでー?」
「なんでー?」
「これを書いた奴の意志だからだ。『求めるならば自らの力で捜し求めよ』と。そうやって手に入れるから意味があるのだと言っていた」
もちろん、今考えた嘘だ。
この地図などバカにされるばかりで必要とされたことの方が少ない。
いつかわかってくれる。
いつか必要としてくれる。
そう信じて描き続けた地図。
だというのにこうしていざ必要とされると意地悪したくなるのは人としての性なのだろうか。
(──私はとうに人では無いのだがな)
苦笑する。
時々わからなくなる。
私と『カーダ』の境界線が曖昧になる。
かつては同一のモノだったのだから境界が無くて当然なのかもしれないけれど、私たちは二つの別の生き物だ。
私たちの道はあの湖で完全に分かれた。
そう思っていた。
でも、カーダはまだ私の中にも残っているのかもしれない。
私が感じているこの感情は、私自身ではなくきっとカーダのモノだ。
人ではない私が感じるコレはきっとカーダが感じた心に違いない。
ほんの僅かでも、カーダは救われたのだろうか。
描いた世界を、垣間見れているのだろうか。
(そうだといい・・・・・・そうであって欲しい・・・・・・)
救われないモノが、多すぎた。
未来を夢見たモノが、死んでいった。
やっと始まった未来を、見ずに行ってしまった。
(だから私が見届けるんだ。今ここに残れなかったモノの分まで、私が)
「ぶぅー!!ハーのいじわるーっ!」
「いじわるーっっ!!」
「あぁそうだ。私は意地が悪いんだ」
そして、誰よりも諦めが悪かった。
その体現が、今のこの姿。
未来を見よう。
この子達と一緒に。
いけるところまで。
やれるところまで。
「頑張ればきっと見つかる。諦めずに探すんだな」
「はぁい」
「がんばるー」
渋々返事を返して二人は再び地図をひっくり返す作業に戻った。
少し、申し訳ない気持ちになる。
なぜならここには二人の為の宝の地図は本当は無いのだ。
いつか、この子達のために描いてやろう。
今は無い、この子達のための宝の地図を。
新しい未来の地図を、この子達と描いていこう。
心の中でこっそりと誓い、私は静かに部屋を後にした。
treasure map
三周年御礼リクで頂いた『双子とハーキャットのお話』でした。
ハーキャットの位置づけはガネン・バンチャに続く三人目の親的な感じです。
とにかく温かく見守っちゃう感じ。
あぁっ!もうほんとカーダの分まで幸せを見届けて欲しいよ!!
リクエストありがとうございました!!
2011/05/06
この廊下を歩くのは好きじゃない。
自分の身長を覆う長さの古びたローブは意図せずに石の割れ目に引っかかってしまい、いちいち外すのが面倒くさい。
ここも数ヶ月前まではこんな廊下ではなかったのだが・・・・・・
「いい加減、地図の置き位置を変えなければならないかもしれないな」
何十度目かの繰り返し作業をしながら言葉が漏れた。
この先には昔のカーダの部屋がある。
カーダが書き貯めた地図の山ももちろんそこに保存されている。
数年前に入り口が塞がった。
だがそれは入り口を掘るだけで何とかなった。
しかし今回はそうもいかない気がする。
横道全体の天井が崩れ、せっかく掘った入り口も半分くらいが埋まってしまった。
入り口に続く廊下も、もう元の平らな部分はこれっぽっちも見えなくなっている。
いい加減限界だ。
誰かに頼んだら地図の搬出作業を手伝ってくれるだろうか?
そもそもあの狭い入り口に入れる者という制限もある。
「結局、私が一人でやらなけらばならないんだろうな・・・・・・」
一人ごちる。
こんな地図好きに付き合ってくれる奇特な人はこのバンパイアマウンテンにはそうはいないのだ。
リトル・ピープルの言葉を体現した小さな体を狭い入り口にねじ込んだ。
意外とこの入り口さえ通ってしまえばさして被害を受けていないことが口惜しい。
「しかし、あの量の地図を今度はどこに保存したものか・・・・・・シーバーに相談したら融通してくれるだろうか?」
一抱えや二抱えでは済まない。
かつての自分がしたこととは言えうんざりした。
「・・・・・・ん?」
目的地の部屋から、明かりが漏れている。
この部屋にわざわざ足を運ぶ者は自分自身を含めても片手で事足りる。
「あいつら・・・・・・またあの部屋で遊んでいるのか・・・・・・?」
あの部屋にある地図がかつてカーダが趣味で書き貯めたバンパイアマウンテンの横穴の地図だとも知らずに、宝の地図と信じている奴らだ。
きっと今日もあの部屋の地図をひっくり返しているに違いない。
ということはそのひっくり返った中から私は目的の一枚を探し出さなくてはいけないとうことだ。
これではどちらが宝探しをしているのかわからない。
再びため息を漏らしながら部屋に入る。
「お前達、宝の地図は見つかったか?」
もっとも、訂正してやるつもりのない私がため息を吐く資格もないのだろうが。
「あーっ!ハーだぁ!」
「ホントだ!ハーだ!ハーも宝探しにきたのぉ?」
「まぁ・・・・・・そんなところだ」
いつも以上に紙が散乱した部屋。
どうやら、これは骨が折れそうだ。
双子がかき分けた地図の山を私が再びかき分けるという何とも不毛なやり取り。
「ハーはこの部屋にある宝の地図がどれだか知っているんだよね?」
「まぁな」
これは、私が書いたものだからな。
知っていて当然だ。
「ただし、私が知っているのはどれが誰にとっての宝の地図かということだけ」
「んー?」
「どぅいうこと?」
「今私が探している宝の地図は、お前達にとっては何の役にも立たないただの紙切れだと言うことだ」
足下をかき分けながら、答える。
「そうなの?」
「宝の地図は一枚じゃないの?」
「あぁ、この地図を必要とする人の数だけ宝の地図はある」
お、今日はついている。
運良く目的の地図が見つかったではないか。
悪い時にはどれだけ探しても見つからないと言うのに。
「僕たちの分もちゃんとある?」
「ティダたちの地図どれなの?」
「ねーハーは知ってるんでしょう?」
「ハー教えて?どれが宝の地図なの?」
「それを教えるのは出来ないな」
「なんでー?」
「なんでー?」
「これを書いた奴の意志だからだ。『求めるならば自らの力で捜し求めよ』と。そうやって手に入れるから意味があるのだと言っていた」
もちろん、今考えた嘘だ。
この地図などバカにされるばかりで必要とされたことの方が少ない。
いつかわかってくれる。
いつか必要としてくれる。
そう信じて描き続けた地図。
だというのにこうしていざ必要とされると意地悪したくなるのは人としての性なのだろうか。
(──私はとうに人では無いのだがな)
苦笑する。
時々わからなくなる。
私と『カーダ』の境界線が曖昧になる。
かつては同一のモノだったのだから境界が無くて当然なのかもしれないけれど、私たちは二つの別の生き物だ。
私たちの道はあの湖で完全に分かれた。
そう思っていた。
でも、カーダはまだ私の中にも残っているのかもしれない。
私が感じているこの感情は、私自身ではなくきっとカーダのモノだ。
人ではない私が感じるコレはきっとカーダが感じた心に違いない。
ほんの僅かでも、カーダは救われたのだろうか。
描いた世界を、垣間見れているのだろうか。
(そうだといい・・・・・・そうであって欲しい・・・・・・)
救われないモノが、多すぎた。
未来を夢見たモノが、死んでいった。
やっと始まった未来を、見ずに行ってしまった。
(だから私が見届けるんだ。今ここに残れなかったモノの分まで、私が)
「ぶぅー!!ハーのいじわるーっ!」
「いじわるーっっ!!」
「あぁそうだ。私は意地が悪いんだ」
そして、誰よりも諦めが悪かった。
その体現が、今のこの姿。
未来を見よう。
この子達と一緒に。
いけるところまで。
やれるところまで。
「頑張ればきっと見つかる。諦めずに探すんだな」
「はぁい」
「がんばるー」
渋々返事を返して二人は再び地図をひっくり返す作業に戻った。
少し、申し訳ない気持ちになる。
なぜならここには二人の為の宝の地図は本当は無いのだ。
いつか、この子達のために描いてやろう。
今は無い、この子達のための宝の地図を。
新しい未来の地図を、この子達と描いていこう。
心の中でこっそりと誓い、私は静かに部屋を後にした。
treasure map
三周年御礼リクで頂いた『双子とハーキャットのお話』でした。
ハーキャットの位置づけはガネン・バンチャに続く三人目の親的な感じです。
とにかく温かく見守っちゃう感じ。
あぁっ!もうほんとカーダの分まで幸せを見届けて欲しいよ!!
リクエストありがとうございました!!
2011/05/06
久方ぶりに傘を持たずに家を出た。
学生鞄を持ち、片手が開いていることに少しだけもの寂しい何かを感じた。
玄関を開ける。
外は心内とは裏腹に綺麗に晴れ渡っていて、余計に気分を沈ませた。
待ち遠しく思っていた日の光が、今は疎ましい。
差し込む光に目を細めながら、少女はギシギシと悲鳴を上げる立て付けの悪い階段を降りていった。
いっそ何もかも壊れてくれればいいのに。
少女は物騒な思考を脳裏によぎらせた。
思い通りにならない現実も。
期待ばかりが先行する妄想も。
何もかも、跡形もなく壊れてしまえばいい。
少なくともこんな陰鬱な気持ちにならずに済む。
降り続く雨に湿気った制服に袖を通した時でさえ、こんなには気分は沈まなかった。
少女の心をこれほどまでに乱したのは、あの男だ。
名前すら知らぬ、黒衣の青年。
勝手に現れて、勝手にいなくなった、勝手な人。
そのくせ、痕跡だけははっきりと残していった卑怯な人。
「・・・・・・ばか・・・・・・」
水たまりに言葉を沈めた。
聞く人も、答える人も、誰もいない。
少女は一人だった。
ずっと、独りだった。
誰にも必要とされず、まして誰かを必要ともしない。
きっと自分は世界に対するイレギュラーなのだ。
いくらか前に少女はそんな答えを自分の中に見いだしていた。
人は、社会は、互いに何らかの相互性を持っている。
どんな些細なことであれ、そうやって関係というのは成り立っていく。
完璧な生物など居らず、不完全だからこそ、誰かを必要とする。
足りない部分の穴を埋めて、埋められて、ようやく本当の形というものが出来上がってくる。
だというのに、少女は誰かを必要としない。
埋めるべき穴など存在しない。
たった一人でも、立ててしまう。
たった独りでも、存在できてしまう。
そういう意味で、少女はイレギュラーだった。
しかし、少女も生まれながらに穴を埋めていたわけではない。
少女にも独りではない時があった。
他者を必要とした、そんな時があった。
だが、誰かを必要としたままで生きることをあの人は良し
としなかった。
欠損した穴を補完する訓練を徹底的にたたき込まれた。
おかげで少女は今独りでここに立っている。
そうなることを望んだのも、仕組んだのも、すべてあの人だ。
あの人を恨むつもりはない。
応えたのは、少女自身だったのだから。
少女は一通の手紙をポストに投げ込んだ。
何の変哲もない、ごくありふれた茶封筒だった。
思えば、これはあの人に対する小さな報復だったのかも知れない。
時間が経ちすぎて契機など当の昔に忘れてしまった。
今となってはどうでもいいことに代わりはなかった。
鬱々とした呼気を何度か漏らし、ようやっと踏ん切りをつけて少女は学校へと足を向けた。
回り道をしようかとも考えたが、ばからしいのでやめた。
学生靴の硬い靴底が何度も地面を蹴った。
そのたびに飛沫が日の光を受けてきらきらと光った。
こんなに綺麗なのに、少女は綺麗だと思えなかった。
心の奥底が淀んでいた。
目が光を宿していないだろうことが容易に想像できた。
ふいに、顔を上げた。
昨日あの男を見つけたあの路地の前だ。
期待など何もない。
ただ、胸騒ぎがした。
何かに引きつけられた感じがした。
『何か』に名前を付けるなら、臭いとか空気だろうか。
具体性など無い、ほとんど直感的なものだった。
おそるおそる、のぞき込む。
何もない。
もう少し、目を凝らす。
黒い影が、わずかに動いたように見えた。
たったそれだけで少女は学生鞄を投げ出して地面を蹴った。
「っ・・・・・・どうしたんですかっ!?」
ぐったりとして動かない黒衣を揺さぶった。
うっ・・・・・・と小さな声が漏れた。
生きてはいる。
生きてはいた。
「こんなところで・・・・・・なにしてるんです・・・・・・」
ほとんど涙声になっていたことに少女は驚いた。
こんな感情の欠落がまだ自分にあったなんて知らなかった。
私は、独りでも立てるはずなのに。
弱さなんて、亡くしたはずなのに。
まだこんなにも揺さぶられるだけの心があった。
言い換えれば、影響力がそれだけ大きいということだ。
「なんで・・・・・・私を独りにしたんですか・・・・・・」
独りはイヤだ。
独りは寂しい。
私は独りでも立てるけど、それでも誰かに側にいてほしかった。
誰かが必要では無いけれど、誰かを必要としたかった。
そんな当たり前を生きたかった。
「側に・・・・・・いてください・・・・・・」
私を嫌いになってもいいから。
幻滅されても構わないから。
私を、独りにしないで欲しい。
ずっとだなんてわがまま言わないから。
せめて、せめて・・・・・・。
少女は地面に沈んだ黒衣に顔を埋めた。
「・・・・・・思ったよりも帰るのが遅くなった」
「言うことは・・・・・・それだけですか・・・・・・?」
埋めた頭に添えるように、人の温もりが触れた。
「悪かったね」
「心が篭もってないです」
埋めたまま、小さく少女はこぼす。
僅かに、男が纏う空気を柔らかくした気がした。
「謝り方なんて知らないんだよ。誤ったことも無いしね」
「生き方そのものが誤ってますよ」
「まぁ・・・・・・そういうことにしておいてあげるよ」
「何で貴方が譲歩したみたいな口ぶりなんですか」
気に入らないわ、この上から目線。
「事実だからだよ」
「非常に不愉快です」
「不愉快なら、いい加減退いてくれない?」
「やです」
気に入らないから、怪我していることを承知で頭を思い切り押しつけてやった。
小さい悲鳴が上がりかけたが、男はプライドだけでどうにか飲み込んだ。
「っ・・・・・・、怪我人の腹に頭を乗せ続けるなんて良い趣味しているね」
「私を変態みたいに言わないでください。これは罰です。約束を破った罰」
「・・・・・・この程度で君のご機嫌取りが出来るなら安いのかな?」
「破格の叩き売りです」
だから、甘んじて受ければいいのよ。
この人。
この・・・・・・。
「・・・・・・イーピン・・・・・・」
「ん?」
「私の名前です」
「そう」
「それだけですか」
「名前を誉めちぎる習慣はないんだ。そういうのがしてほしいなら他を当たってよ」
「いい加減怒りますよ?」
「もう怒ってるくせに」
貴方がわかっていてうすらとぼけた振りをするからじゃない。
「ヒバリ」
「・・・・・・」
「肩書きはいろいろあるけど・・・・・・まぁ、昨晩からのなんやかんやで剥がれ落ちてしまったみたいだから今はそれだけ」
「ヒバリ・・・・・・さん?」
「うん。悪いけど、また世話になるよ」
そうじゃなきゃ、君はまた泣いてしまいそうだからね。
年頃の少女を二度にも渡って無き止ませる方法なんて僕は知らない。
だから今はまだ、平素を逸脱したままの自分でいい。
「よろしく。イーピン」
薄暗い路地から空を見上げた。
仰向けに倒れているのだからそれしか視界に入らなかった。
薄暗さを割り入る青。
思わず目を細めたくなる、けれど目を背けようとは思わない眩しさがあった。
これだけ手ひどくやられてプライドすらもぼろぼろのはずなのに、どういうわけか男の心内は一層明るく晴れ渡っていた。
シリーズ第七話でした!
やっと二人がお互いの名前を聞いてくれたよ!!
これで声を大にして言える。
これは間違いなくヒバピンです!!!
一応ここまでで話全体の前半が終了です。
話の区切りがいいので一端終了します。
ここまでお付き合い下さった皆様ありがとうございます!!
2011/03/17
学生鞄を持ち、片手が開いていることに少しだけもの寂しい何かを感じた。
玄関を開ける。
外は心内とは裏腹に綺麗に晴れ渡っていて、余計に気分を沈ませた。
待ち遠しく思っていた日の光が、今は疎ましい。
差し込む光に目を細めながら、少女はギシギシと悲鳴を上げる立て付けの悪い階段を降りていった。
いっそ何もかも壊れてくれればいいのに。
少女は物騒な思考を脳裏によぎらせた。
思い通りにならない現実も。
期待ばかりが先行する妄想も。
何もかも、跡形もなく壊れてしまえばいい。
少なくともこんな陰鬱な気持ちにならずに済む。
降り続く雨に湿気った制服に袖を通した時でさえ、こんなには気分は沈まなかった。
少女の心をこれほどまでに乱したのは、あの男だ。
名前すら知らぬ、黒衣の青年。
勝手に現れて、勝手にいなくなった、勝手な人。
そのくせ、痕跡だけははっきりと残していった卑怯な人。
「・・・・・・ばか・・・・・・」
水たまりに言葉を沈めた。
聞く人も、答える人も、誰もいない。
少女は一人だった。
ずっと、独りだった。
誰にも必要とされず、まして誰かを必要ともしない。
きっと自分は世界に対するイレギュラーなのだ。
いくらか前に少女はそんな答えを自分の中に見いだしていた。
人は、社会は、互いに何らかの相互性を持っている。
どんな些細なことであれ、そうやって関係というのは成り立っていく。
完璧な生物など居らず、不完全だからこそ、誰かを必要とする。
足りない部分の穴を埋めて、埋められて、ようやく本当の形というものが出来上がってくる。
だというのに、少女は誰かを必要としない。
埋めるべき穴など存在しない。
たった一人でも、立ててしまう。
たった独りでも、存在できてしまう。
そういう意味で、少女はイレギュラーだった。
しかし、少女も生まれながらに穴を埋めていたわけではない。
少女にも独りではない時があった。
他者を必要とした、そんな時があった。
だが、誰かを必要としたままで生きることをあの人は良し
としなかった。
欠損した穴を補完する訓練を徹底的にたたき込まれた。
おかげで少女は今独りでここに立っている。
そうなることを望んだのも、仕組んだのも、すべてあの人だ。
あの人を恨むつもりはない。
応えたのは、少女自身だったのだから。
少女は一通の手紙をポストに投げ込んだ。
何の変哲もない、ごくありふれた茶封筒だった。
思えば、これはあの人に対する小さな報復だったのかも知れない。
時間が経ちすぎて契機など当の昔に忘れてしまった。
今となってはどうでもいいことに代わりはなかった。
鬱々とした呼気を何度か漏らし、ようやっと踏ん切りをつけて少女は学校へと足を向けた。
回り道をしようかとも考えたが、ばからしいのでやめた。
学生靴の硬い靴底が何度も地面を蹴った。
そのたびに飛沫が日の光を受けてきらきらと光った。
こんなに綺麗なのに、少女は綺麗だと思えなかった。
心の奥底が淀んでいた。
目が光を宿していないだろうことが容易に想像できた。
ふいに、顔を上げた。
昨日あの男を見つけたあの路地の前だ。
期待など何もない。
ただ、胸騒ぎがした。
何かに引きつけられた感じがした。
『何か』に名前を付けるなら、臭いとか空気だろうか。
具体性など無い、ほとんど直感的なものだった。
おそるおそる、のぞき込む。
何もない。
もう少し、目を凝らす。
黒い影が、わずかに動いたように見えた。
たったそれだけで少女は学生鞄を投げ出して地面を蹴った。
「っ・・・・・・どうしたんですかっ!?」
ぐったりとして動かない黒衣を揺さぶった。
うっ・・・・・・と小さな声が漏れた。
生きてはいる。
生きてはいた。
「こんなところで・・・・・・なにしてるんです・・・・・・」
ほとんど涙声になっていたことに少女は驚いた。
こんな感情の欠落がまだ自分にあったなんて知らなかった。
私は、独りでも立てるはずなのに。
弱さなんて、亡くしたはずなのに。
まだこんなにも揺さぶられるだけの心があった。
言い換えれば、影響力がそれだけ大きいということだ。
「なんで・・・・・・私を独りにしたんですか・・・・・・」
独りはイヤだ。
独りは寂しい。
私は独りでも立てるけど、それでも誰かに側にいてほしかった。
誰かが必要では無いけれど、誰かを必要としたかった。
そんな当たり前を生きたかった。
「側に・・・・・・いてください・・・・・・」
私を嫌いになってもいいから。
幻滅されても構わないから。
私を、独りにしないで欲しい。
ずっとだなんてわがまま言わないから。
せめて、せめて・・・・・・。
少女は地面に沈んだ黒衣に顔を埋めた。
「・・・・・・思ったよりも帰るのが遅くなった」
「言うことは・・・・・・それだけですか・・・・・・?」
埋めた頭に添えるように、人の温もりが触れた。
「悪かったね」
「心が篭もってないです」
埋めたまま、小さく少女はこぼす。
僅かに、男が纏う空気を柔らかくした気がした。
「謝り方なんて知らないんだよ。誤ったことも無いしね」
「生き方そのものが誤ってますよ」
「まぁ・・・・・・そういうことにしておいてあげるよ」
「何で貴方が譲歩したみたいな口ぶりなんですか」
気に入らないわ、この上から目線。
「事実だからだよ」
「非常に不愉快です」
「不愉快なら、いい加減退いてくれない?」
「やです」
気に入らないから、怪我していることを承知で頭を思い切り押しつけてやった。
小さい悲鳴が上がりかけたが、男はプライドだけでどうにか飲み込んだ。
「っ・・・・・・、怪我人の腹に頭を乗せ続けるなんて良い趣味しているね」
「私を変態みたいに言わないでください。これは罰です。約束を破った罰」
「・・・・・・この程度で君のご機嫌取りが出来るなら安いのかな?」
「破格の叩き売りです」
だから、甘んじて受ければいいのよ。
この人。
この・・・・・・。
「・・・・・・イーピン・・・・・・」
「ん?」
「私の名前です」
「そう」
「それだけですか」
「名前を誉めちぎる習慣はないんだ。そういうのがしてほしいなら他を当たってよ」
「いい加減怒りますよ?」
「もう怒ってるくせに」
貴方がわかっていてうすらとぼけた振りをするからじゃない。
「ヒバリ」
「・・・・・・」
「肩書きはいろいろあるけど・・・・・・まぁ、昨晩からのなんやかんやで剥がれ落ちてしまったみたいだから今はそれだけ」
「ヒバリ・・・・・・さん?」
「うん。悪いけど、また世話になるよ」
そうじゃなきゃ、君はまた泣いてしまいそうだからね。
年頃の少女を二度にも渡って無き止ませる方法なんて僕は知らない。
だから今はまだ、平素を逸脱したままの自分でいい。
「よろしく。イーピン」
薄暗い路地から空を見上げた。
仰向けに倒れているのだからそれしか視界に入らなかった。
薄暗さを割り入る青。
思わず目を細めたくなる、けれど目を背けようとは思わない眩しさがあった。
これだけ手ひどくやられてプライドすらもぼろぼろのはずなのに、どういうわけか男の心内は一層明るく晴れ渡っていた。
シリーズ第七話でした!
やっと二人がお互いの名前を聞いてくれたよ!!
これで声を大にして言える。
これは間違いなくヒバピンです!!!
一応ここまでで話全体の前半が終了です。
話の区切りがいいので一端終了します。
ここまでお付き合い下さった皆様ありがとうございます!!
2011/03/17
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