~*リハビリ訓練道場*~ 小ネタ投下したり、サイトにUPするまでの一時保管所だったり。
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ごつごつした歩きにくい廊下を歩いている。
この廊下を歩くのは好きじゃない。
自分の身長を覆う長さの古びたローブは意図せずに石の割れ目に引っかかってしまい、いちいち外すのが面倒くさい。
ここも数ヶ月前まではこんな廊下ではなかったのだが・・・・・・
「いい加減、地図の置き位置を変えなければならないかもしれないな」
何十度目かの繰り返し作業をしながら言葉が漏れた。
この先には昔のカーダの部屋がある。
カーダが書き貯めた地図の山ももちろんそこに保存されている。
数年前に入り口が塞がった。
だがそれは入り口を掘るだけで何とかなった。
しかし今回はそうもいかない気がする。
横道全体の天井が崩れ、せっかく掘った入り口も半分くらいが埋まってしまった。
入り口に続く廊下も、もう元の平らな部分はこれっぽっちも見えなくなっている。
いい加減限界だ。
誰かに頼んだら地図の搬出作業を手伝ってくれるだろうか?
そもそもあの狭い入り口に入れる者という制限もある。
「結局、私が一人でやらなけらばならないんだろうな・・・・・・」
一人ごちる。
こんな地図好きに付き合ってくれる奇特な人はこのバンパイアマウンテンにはそうはいないのだ。
リトル・ピープルの言葉を体現した小さな体を狭い入り口にねじ込んだ。
意外とこの入り口さえ通ってしまえばさして被害を受けていないことが口惜しい。
「しかし、あの量の地図を今度はどこに保存したものか・・・・・・シーバーに相談したら融通してくれるだろうか?」
一抱えや二抱えでは済まない。
かつての自分がしたこととは言えうんざりした。
「・・・・・・ん?」
目的地の部屋から、明かりが漏れている。
この部屋にわざわざ足を運ぶ者は自分自身を含めても片手で事足りる。
「あいつら・・・・・・またあの部屋で遊んでいるのか・・・・・・?」
あの部屋にある地図がかつてカーダが趣味で書き貯めたバンパイアマウンテンの横穴の地図だとも知らずに、宝の地図と信じている奴らだ。
きっと今日もあの部屋の地図をひっくり返しているに違いない。
ということはそのひっくり返った中から私は目的の一枚を探し出さなくてはいけないとうことだ。
これではどちらが宝探しをしているのかわからない。
再びため息を漏らしながら部屋に入る。
「お前達、宝の地図は見つかったか?」
もっとも、訂正してやるつもりのない私がため息を吐く資格もないのだろうが。
「あーっ!ハーだぁ!」
「ホントだ!ハーだ!ハーも宝探しにきたのぉ?」
「まぁ・・・・・・そんなところだ」
いつも以上に紙が散乱した部屋。
どうやら、これは骨が折れそうだ。
双子がかき分けた地図の山を私が再びかき分けるという何とも不毛なやり取り。
「ハーはこの部屋にある宝の地図がどれだか知っているんだよね?」
「まぁな」
これは、私が書いたものだからな。
知っていて当然だ。
「ただし、私が知っているのはどれが誰にとっての宝の地図かということだけ」
「んー?」
「どぅいうこと?」
「今私が探している宝の地図は、お前達にとっては何の役にも立たないただの紙切れだと言うことだ」
足下をかき分けながら、答える。
「そうなの?」
「宝の地図は一枚じゃないの?」
「あぁ、この地図を必要とする人の数だけ宝の地図はある」
お、今日はついている。
運良く目的の地図が見つかったではないか。
悪い時にはどれだけ探しても見つからないと言うのに。
「僕たちの分もちゃんとある?」
「ティダたちの地図どれなの?」
「ねーハーは知ってるんでしょう?」
「ハー教えて?どれが宝の地図なの?」
「それを教えるのは出来ないな」
「なんでー?」
「なんでー?」
「これを書いた奴の意志だからだ。『求めるならば自らの力で捜し求めよ』と。そうやって手に入れるから意味があるのだと言っていた」
もちろん、今考えた嘘だ。
この地図などバカにされるばかりで必要とされたことの方が少ない。
いつかわかってくれる。
いつか必要としてくれる。
そう信じて描き続けた地図。
だというのにこうしていざ必要とされると意地悪したくなるのは人としての性なのだろうか。
(──私はとうに人では無いのだがな)
苦笑する。
時々わからなくなる。
私と『カーダ』の境界線が曖昧になる。
かつては同一のモノだったのだから境界が無くて当然なのかもしれないけれど、私たちは二つの別の生き物だ。
私たちの道はあの湖で完全に分かれた。
そう思っていた。
でも、カーダはまだ私の中にも残っているのかもしれない。
私が感じているこの感情は、私自身ではなくきっとカーダのモノだ。
人ではない私が感じるコレはきっとカーダが感じた心に違いない。
ほんの僅かでも、カーダは救われたのだろうか。
描いた世界を、垣間見れているのだろうか。
(そうだといい・・・・・・そうであって欲しい・・・・・・)
救われないモノが、多すぎた。
未来を夢見たモノが、死んでいった。
やっと始まった未来を、見ずに行ってしまった。
(だから私が見届けるんだ。今ここに残れなかったモノの分まで、私が)
「ぶぅー!!ハーのいじわるーっ!」
「いじわるーっっ!!」
「あぁそうだ。私は意地が悪いんだ」
そして、誰よりも諦めが悪かった。
その体現が、今のこの姿。
未来を見よう。
この子達と一緒に。
いけるところまで。
やれるところまで。
「頑張ればきっと見つかる。諦めずに探すんだな」
「はぁい」
「がんばるー」
渋々返事を返して二人は再び地図をひっくり返す作業に戻った。
少し、申し訳ない気持ちになる。
なぜならここには二人の為の宝の地図は本当は無いのだ。
いつか、この子達のために描いてやろう。
今は無い、この子達のための宝の地図を。
新しい未来の地図を、この子達と描いていこう。
心の中でこっそりと誓い、私は静かに部屋を後にした。
treasure map
三周年御礼リクで頂いた『双子とハーキャットのお話』でした。
ハーキャットの位置づけはガネン・バンチャに続く三人目の親的な感じです。
とにかく温かく見守っちゃう感じ。
あぁっ!もうほんとカーダの分まで幸せを見届けて欲しいよ!!
リクエストありがとうございました!!
2011/05/06
この廊下を歩くのは好きじゃない。
自分の身長を覆う長さの古びたローブは意図せずに石の割れ目に引っかかってしまい、いちいち外すのが面倒くさい。
ここも数ヶ月前まではこんな廊下ではなかったのだが・・・・・・
「いい加減、地図の置き位置を変えなければならないかもしれないな」
何十度目かの繰り返し作業をしながら言葉が漏れた。
この先には昔のカーダの部屋がある。
カーダが書き貯めた地図の山ももちろんそこに保存されている。
数年前に入り口が塞がった。
だがそれは入り口を掘るだけで何とかなった。
しかし今回はそうもいかない気がする。
横道全体の天井が崩れ、せっかく掘った入り口も半分くらいが埋まってしまった。
入り口に続く廊下も、もう元の平らな部分はこれっぽっちも見えなくなっている。
いい加減限界だ。
誰かに頼んだら地図の搬出作業を手伝ってくれるだろうか?
そもそもあの狭い入り口に入れる者という制限もある。
「結局、私が一人でやらなけらばならないんだろうな・・・・・・」
一人ごちる。
こんな地図好きに付き合ってくれる奇特な人はこのバンパイアマウンテンにはそうはいないのだ。
リトル・ピープルの言葉を体現した小さな体を狭い入り口にねじ込んだ。
意外とこの入り口さえ通ってしまえばさして被害を受けていないことが口惜しい。
「しかし、あの量の地図を今度はどこに保存したものか・・・・・・シーバーに相談したら融通してくれるだろうか?」
一抱えや二抱えでは済まない。
かつての自分がしたこととは言えうんざりした。
「・・・・・・ん?」
目的地の部屋から、明かりが漏れている。
この部屋にわざわざ足を運ぶ者は自分自身を含めても片手で事足りる。
「あいつら・・・・・・またあの部屋で遊んでいるのか・・・・・・?」
あの部屋にある地図がかつてカーダが趣味で書き貯めたバンパイアマウンテンの横穴の地図だとも知らずに、宝の地図と信じている奴らだ。
きっと今日もあの部屋の地図をひっくり返しているに違いない。
ということはそのひっくり返った中から私は目的の一枚を探し出さなくてはいけないとうことだ。
これではどちらが宝探しをしているのかわからない。
再びため息を漏らしながら部屋に入る。
「お前達、宝の地図は見つかったか?」
もっとも、訂正してやるつもりのない私がため息を吐く資格もないのだろうが。
「あーっ!ハーだぁ!」
「ホントだ!ハーだ!ハーも宝探しにきたのぉ?」
「まぁ・・・・・・そんなところだ」
いつも以上に紙が散乱した部屋。
どうやら、これは骨が折れそうだ。
双子がかき分けた地図の山を私が再びかき分けるという何とも不毛なやり取り。
「ハーはこの部屋にある宝の地図がどれだか知っているんだよね?」
「まぁな」
これは、私が書いたものだからな。
知っていて当然だ。
「ただし、私が知っているのはどれが誰にとっての宝の地図かということだけ」
「んー?」
「どぅいうこと?」
「今私が探している宝の地図は、お前達にとっては何の役にも立たないただの紙切れだと言うことだ」
足下をかき分けながら、答える。
「そうなの?」
「宝の地図は一枚じゃないの?」
「あぁ、この地図を必要とする人の数だけ宝の地図はある」
お、今日はついている。
運良く目的の地図が見つかったではないか。
悪い時にはどれだけ探しても見つからないと言うのに。
「僕たちの分もちゃんとある?」
「ティダたちの地図どれなの?」
「ねーハーは知ってるんでしょう?」
「ハー教えて?どれが宝の地図なの?」
「それを教えるのは出来ないな」
「なんでー?」
「なんでー?」
「これを書いた奴の意志だからだ。『求めるならば自らの力で捜し求めよ』と。そうやって手に入れるから意味があるのだと言っていた」
もちろん、今考えた嘘だ。
この地図などバカにされるばかりで必要とされたことの方が少ない。
いつかわかってくれる。
いつか必要としてくれる。
そう信じて描き続けた地図。
だというのにこうしていざ必要とされると意地悪したくなるのは人としての性なのだろうか。
(──私はとうに人では無いのだがな)
苦笑する。
時々わからなくなる。
私と『カーダ』の境界線が曖昧になる。
かつては同一のモノだったのだから境界が無くて当然なのかもしれないけれど、私たちは二つの別の生き物だ。
私たちの道はあの湖で完全に分かれた。
そう思っていた。
でも、カーダはまだ私の中にも残っているのかもしれない。
私が感じているこの感情は、私自身ではなくきっとカーダのモノだ。
人ではない私が感じるコレはきっとカーダが感じた心に違いない。
ほんの僅かでも、カーダは救われたのだろうか。
描いた世界を、垣間見れているのだろうか。
(そうだといい・・・・・・そうであって欲しい・・・・・・)
救われないモノが、多すぎた。
未来を夢見たモノが、死んでいった。
やっと始まった未来を、見ずに行ってしまった。
(だから私が見届けるんだ。今ここに残れなかったモノの分まで、私が)
「ぶぅー!!ハーのいじわるーっ!」
「いじわるーっっ!!」
「あぁそうだ。私は意地が悪いんだ」
そして、誰よりも諦めが悪かった。
その体現が、今のこの姿。
未来を見よう。
この子達と一緒に。
いけるところまで。
やれるところまで。
「頑張ればきっと見つかる。諦めずに探すんだな」
「はぁい」
「がんばるー」
渋々返事を返して二人は再び地図をひっくり返す作業に戻った。
少し、申し訳ない気持ちになる。
なぜならここには二人の為の宝の地図は本当は無いのだ。
いつか、この子達のために描いてやろう。
今は無い、この子達のための宝の地図を。
新しい未来の地図を、この子達と描いていこう。
心の中でこっそりと誓い、私は静かに部屋を後にした。
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三周年御礼リクで頂いた『双子とハーキャットのお話』でした。
ハーキャットの位置づけはガネン・バンチャに続く三人目の親的な感じです。
とにかく温かく見守っちゃう感じ。
あぁっ!もうほんとカーダの分まで幸せを見届けて欲しいよ!!
リクエストありがとうございました!!
2011/05/06
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パタパタパタ、というのはある者の特有の足音だ。
おおよそ成人男性の体重ではない軽い音。
一つにしか聞こえない二人分の音。
振り返らずとも誰だか解る。
そして、数秒後に自分がどうなるかも。
「「はーきゃっとー!!」」
名前を呼ぶのと同時にタックルの食らわせるのもこの者達の特徴だ。
いくらやめろと言っても直る気配がない。
それどころか年々威力が増していくのだから恐ろしいことこの上ない。
背後からの突進にあっけなく地面に激突させられた私は、特にどうということもなく二人を背中に張り付けたまま起きあがった。
このリトルピープルの体というのは何かと都合がいい。
バンパイアのような特殊な力が使えるわけではないが、体躯に似合わぬ怪力があるし、日の光を浴びても死ぬことがない。
身長がないのと、指が太くて細かい作業に向かないのが難点だがそれを差し引けばなかなか快適に生きられる。
こうやって双子の行く末を見守ることができるのだから、それだけで文句などありはしないのだ。
「飛びつくのはいいがタックルはやめろ、と何度言ったらお前達は覚えてくれるんだ?」
懐いてくれていることが嬉しいのが半分、学習しないことに呆れるのが半分。
背中にひっつく二匹に投げかけたが、残念ながら私の言葉など微塵も届いていないようだった。
自分達の倍はある私の体を二人はよじ登ってくる。
「・・・・・・お前達は何をしているんだ?」
「えっとね、じじつかくにん!」
「げんばけんしょー!」
「・・・・・・」
どこで覚えたのだろうか、そんな言葉・・・・・・。
大体、何の事実確認で現場検証なのだろうか?
二人は私の肩口の左右をそれぞれ一匹ずつ陣取り、おもむろに被っていたフードを引きはがし、我々リトルピープルの命を守る特殊なフィルターが内蔵されたマスクをむしり取った。
「あれー?ねぇぶれだ、はーのあたまおみみがないよ?」
「てぃだ、はーのかおにはおひげもないよ?」
「へんなのー!」
「へんなのー!!」
「・・・・・・何をやっているんだお前達は・・・・・・」
嘆息混じりのため息をついて、二人の襟首を掴んで肩から降ろした。
まるで子猫のように宙ぶらりんになった二人はきゃっきゃきゃっきゃと騒ぎだす。
「てぃだのかっこ、おかーさんにはこばれてるこねこみたいー!」
「じゃあ、てぃだねこさん?」
「でもおみみはないねー」
「おひげもはえてないよー」
「しっぽもないや」
「でもつめはあるよ」
「にゃーってなける?」
「にゃーにゃー!おなかがすいたにゃー!」
勝手に開幕したお子さま劇場に終着点はない。
どこか適当なところで割り込まなければあっちこっちに話を転ばせていつまでも二人で楽しく遊んでいる。
「何がしたいんだお前達は」
にゃーにゃー鳴いていた二匹がハタ、と鳴くのをやめて顔を見合わせる。
くりくりとした目でお互いをのぞき込む。
「なんだっけ?」
「なんだっけ?」
鏡写しのようなタイミングで二人が首を傾げた。
おいおい、お前達がわからなくて誰がわかると言うんだ。
私は超能力者でも何でもないんだぞ?
心の中の訴えに兄のブレダが「あ!」と声を上げた。
「はーがねこさんだってきいたんだ」
「そうだ、きいたの!」
「だからぼくたちたしかめにきたの」
「きたのー!」
「私が、猫?」
「うん!」
「うん!」
「・・・・・・誰がそんなデマを・・・・・・」
「でもねこさんじゃなかったねー」
「おひげもおみみもなかったもんねー」
「ふしぎだねー?」
「ふしぎだねー!」
話の始点も終点も見えなかったが、宙ぶらりんのまま運ぶのもどうかと思い二匹を床に降ろした。
二人が私の顔をじっと見つめてくる。
「はーはねこさんじゃない?」
「違うな、残念ながら」
「はーきゃっとってなまえははーがむかしねこさんだったからっていってたのにねー」
「誰だそんな適当な法螺を吹いたのは・・・・・・」
私の綴りは『HARKAT』。CATではない。
「ぱぱがうそついたのかな?」
「ぱぱはうそつきさんだ!」
「きつつきさん?こつこつこつこつきつつきさん?」
「ちがうよてぃだ、きつつきさんじゃなくてうそつきさん」
「きつつきさんとうそつきさんはちがうの?」
「・・・・・・違うだろうな」
「じゃぁきつつきさんはうそつかない?」
「・・・・・・それは・・・・・・どうだろうな」
きつつきだって嘘をつくことだってあるだろう。
とすれば一概に間違いだとは言い切れない。
わたしとて、前世で猫であった可能性が皆無とは言い切れない。
カーダ・スモルトの前は、どこかで猫として気高く生きていたかもしれない。
「きつつきさんはうそつきさんじゃないけど、うそつきさんはきつつきさんなの?」
「やーこしーねー」
「・・・・・・そう難しく考えることもないだろう」
「なんでー?」
「なんでー?」
「誰にだっていくらでも可能性というものは残されているんだ。何者にもなれるし、何者にもならない。後は自分が何を望むかだ」
たとえば、私が再びの生を望んだように・・・・・・。
『カーダ』が死んで『ハーキャット』が生まれたように。
望めばどうとでもできる。
どうにかして何とかできる。
その体現が、私自身だ。
私が二人の頭を撫でると、二人は複雑そうな顔をした。
流石に難しすぎただろうか?
とても子供とは思えないほど理解力のある子達だからついいつも通りに話してしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「はー、てぃだはね・・・・・・」
「てぃだ、だめだよ。それははーにもないしょ」
「でも・・・・・・」
「ぼくたちだけのひみつってえばんなにいわれたよ」
「・・・・・・むぅ・・・・・・」
ティーダがほっぺたを膨らませた。
私は眉をひそめた。
先ほどまでにゃーにゃー騒いでいたのとは雰囲気が違う。
何か、もっと重大な・・・・・・。
例えば、この子達の未来に関わるようなこと──そう直感した。
ティーダを窘めたブレダに問う。
「・・・・・・お前達は何の話をしているんだ・・・・・・?」
「えへへ~。ひみつ~」
「・・・・・・」
「でも、はーにはいつかはなしてあげてもいいのかな?」
「そう・・・・・・なのか・・・・・・?」
「だってはーきゃっとだもん」
「?」
「きっとぼくたちのはなしをきいてくれる」
「そうだねー。はーきゃっとだもんね」
「・・・・・・!お前達・・・・・・」
知っているんじゃないか。
『harcat』ではないと。
やはりこの子達は聡明だ。
聡明すぎると言ってもおかしくない。
それこそ我々には計り知れないモノをたった二人で抱えているのかも知れない。
「でもてぃだはねこさんのほうがよかったなー」
「ぼくもー」
二人はしょんぼり肩を落とす。
どちらが二人の本当の顔なのかわからないが、少しくらい付き合ってやっても良い気分だ。
なにせ猫というモノは移り気が激しい気分屋だからな。
たまにはこういう機会があってもいいだろう。
私は二人の方にちらりと意味ありげな視線を送る。
「?」と疑問符を顔に浮かべて双子がこちらに向き直った。
「意外と私は猫かもしれないぞ?」
「えー?おみみもないのに?」
「おひげもないのに?」
予想通りに食いつく二人。
マスクを外して私はギラリと光る歯を見せつけた。
「化け猫だからな。耳もしっぽもとうの昔に捨ててしまった」
「「おおおおおおっっ~~!!」」
とたん、二人の目の輝きが変わった。
「すごいすご~い!」
「はーはやっぱりねこさんなんだー!」
「ばけねこ~!」
「秘密だぞ?」
・・・・・・誰も信じないだろうが、な。
「約束してくれるか?」
「するー!」
「はーとてぃだとぶれだのさんにんのひみつ~!」
「あぁそうだ。誰にも話すなよ」
共有する秘密。
たったそれっぽっちで二人の抱えるものの一端を担えるとは思わない。
それでも、僅かでも軽くなるならばいつか話してくれるといい。
力にはなれなくとも、話を聞くことならいくらでもできる。
それが。
それが、死してなお蘇った私の役割なのだから。
Hark at you
hark at → ~を聞く、の意。
ハーキャットはみんなの相談相手になればいいと思うんだ。
2011/02/24
おおよそ成人男性の体重ではない軽い音。
一つにしか聞こえない二人分の音。
振り返らずとも誰だか解る。
そして、数秒後に自分がどうなるかも。
「「はーきゃっとー!!」」
名前を呼ぶのと同時にタックルの食らわせるのもこの者達の特徴だ。
いくらやめろと言っても直る気配がない。
それどころか年々威力が増していくのだから恐ろしいことこの上ない。
背後からの突進にあっけなく地面に激突させられた私は、特にどうということもなく二人を背中に張り付けたまま起きあがった。
このリトルピープルの体というのは何かと都合がいい。
バンパイアのような特殊な力が使えるわけではないが、体躯に似合わぬ怪力があるし、日の光を浴びても死ぬことがない。
身長がないのと、指が太くて細かい作業に向かないのが難点だがそれを差し引けばなかなか快適に生きられる。
こうやって双子の行く末を見守ることができるのだから、それだけで文句などありはしないのだ。
「飛びつくのはいいがタックルはやめろ、と何度言ったらお前達は覚えてくれるんだ?」
懐いてくれていることが嬉しいのが半分、学習しないことに呆れるのが半分。
背中にひっつく二匹に投げかけたが、残念ながら私の言葉など微塵も届いていないようだった。
自分達の倍はある私の体を二人はよじ登ってくる。
「・・・・・・お前達は何をしているんだ?」
「えっとね、じじつかくにん!」
「げんばけんしょー!」
「・・・・・・」
どこで覚えたのだろうか、そんな言葉・・・・・・。
大体、何の事実確認で現場検証なのだろうか?
二人は私の肩口の左右をそれぞれ一匹ずつ陣取り、おもむろに被っていたフードを引きはがし、我々リトルピープルの命を守る特殊なフィルターが内蔵されたマスクをむしり取った。
「あれー?ねぇぶれだ、はーのあたまおみみがないよ?」
「てぃだ、はーのかおにはおひげもないよ?」
「へんなのー!」
「へんなのー!!」
「・・・・・・何をやっているんだお前達は・・・・・・」
嘆息混じりのため息をついて、二人の襟首を掴んで肩から降ろした。
まるで子猫のように宙ぶらりんになった二人はきゃっきゃきゃっきゃと騒ぎだす。
「てぃだのかっこ、おかーさんにはこばれてるこねこみたいー!」
「じゃあ、てぃだねこさん?」
「でもおみみはないねー」
「おひげもはえてないよー」
「しっぽもないや」
「でもつめはあるよ」
「にゃーってなける?」
「にゃーにゃー!おなかがすいたにゃー!」
勝手に開幕したお子さま劇場に終着点はない。
どこか適当なところで割り込まなければあっちこっちに話を転ばせていつまでも二人で楽しく遊んでいる。
「何がしたいんだお前達は」
にゃーにゃー鳴いていた二匹がハタ、と鳴くのをやめて顔を見合わせる。
くりくりとした目でお互いをのぞき込む。
「なんだっけ?」
「なんだっけ?」
鏡写しのようなタイミングで二人が首を傾げた。
おいおい、お前達がわからなくて誰がわかると言うんだ。
私は超能力者でも何でもないんだぞ?
心の中の訴えに兄のブレダが「あ!」と声を上げた。
「はーがねこさんだってきいたんだ」
「そうだ、きいたの!」
「だからぼくたちたしかめにきたの」
「きたのー!」
「私が、猫?」
「うん!」
「うん!」
「・・・・・・誰がそんなデマを・・・・・・」
「でもねこさんじゃなかったねー」
「おひげもおみみもなかったもんねー」
「ふしぎだねー?」
「ふしぎだねー!」
話の始点も終点も見えなかったが、宙ぶらりんのまま運ぶのもどうかと思い二匹を床に降ろした。
二人が私の顔をじっと見つめてくる。
「はーはねこさんじゃない?」
「違うな、残念ながら」
「はーきゃっとってなまえははーがむかしねこさんだったからっていってたのにねー」
「誰だそんな適当な法螺を吹いたのは・・・・・・」
私の綴りは『HARKAT』。CATではない。
「ぱぱがうそついたのかな?」
「ぱぱはうそつきさんだ!」
「きつつきさん?こつこつこつこつきつつきさん?」
「ちがうよてぃだ、きつつきさんじゃなくてうそつきさん」
「きつつきさんとうそつきさんはちがうの?」
「・・・・・・違うだろうな」
「じゃぁきつつきさんはうそつかない?」
「・・・・・・それは・・・・・・どうだろうな」
きつつきだって嘘をつくことだってあるだろう。
とすれば一概に間違いだとは言い切れない。
わたしとて、前世で猫であった可能性が皆無とは言い切れない。
カーダ・スモルトの前は、どこかで猫として気高く生きていたかもしれない。
「きつつきさんはうそつきさんじゃないけど、うそつきさんはきつつきさんなの?」
「やーこしーねー」
「・・・・・・そう難しく考えることもないだろう」
「なんでー?」
「なんでー?」
「誰にだっていくらでも可能性というものは残されているんだ。何者にもなれるし、何者にもならない。後は自分が何を望むかだ」
たとえば、私が再びの生を望んだように・・・・・・。
『カーダ』が死んで『ハーキャット』が生まれたように。
望めばどうとでもできる。
どうにかして何とかできる。
その体現が、私自身だ。
私が二人の頭を撫でると、二人は複雑そうな顔をした。
流石に難しすぎただろうか?
とても子供とは思えないほど理解力のある子達だからついいつも通りに話してしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「はー、てぃだはね・・・・・・」
「てぃだ、だめだよ。それははーにもないしょ」
「でも・・・・・・」
「ぼくたちだけのひみつってえばんなにいわれたよ」
「・・・・・・むぅ・・・・・・」
ティーダがほっぺたを膨らませた。
私は眉をひそめた。
先ほどまでにゃーにゃー騒いでいたのとは雰囲気が違う。
何か、もっと重大な・・・・・・。
例えば、この子達の未来に関わるようなこと──そう直感した。
ティーダを窘めたブレダに問う。
「・・・・・・お前達は何の話をしているんだ・・・・・・?」
「えへへ~。ひみつ~」
「・・・・・・」
「でも、はーにはいつかはなしてあげてもいいのかな?」
「そう・・・・・・なのか・・・・・・?」
「だってはーきゃっとだもん」
「?」
「きっとぼくたちのはなしをきいてくれる」
「そうだねー。はーきゃっとだもんね」
「・・・・・・!お前達・・・・・・」
知っているんじゃないか。
『harcat』ではないと。
やはりこの子達は聡明だ。
聡明すぎると言ってもおかしくない。
それこそ我々には計り知れないモノをたった二人で抱えているのかも知れない。
「でもてぃだはねこさんのほうがよかったなー」
「ぼくもー」
二人はしょんぼり肩を落とす。
どちらが二人の本当の顔なのかわからないが、少しくらい付き合ってやっても良い気分だ。
なにせ猫というモノは移り気が激しい気分屋だからな。
たまにはこういう機会があってもいいだろう。
私は二人の方にちらりと意味ありげな視線を送る。
「?」と疑問符を顔に浮かべて双子がこちらに向き直った。
「意外と私は猫かもしれないぞ?」
「えー?おみみもないのに?」
「おひげもないのに?」
予想通りに食いつく二人。
マスクを外して私はギラリと光る歯を見せつけた。
「化け猫だからな。耳もしっぽもとうの昔に捨ててしまった」
「「おおおおおおっっ~~!!」」
とたん、二人の目の輝きが変わった。
「すごいすご~い!」
「はーはやっぱりねこさんなんだー!」
「ばけねこ~!」
「秘密だぞ?」
・・・・・・誰も信じないだろうが、な。
「約束してくれるか?」
「するー!」
「はーとてぃだとぶれだのさんにんのひみつ~!」
「あぁそうだ。誰にも話すなよ」
共有する秘密。
たったそれっぽっちで二人の抱えるものの一端を担えるとは思わない。
それでも、僅かでも軽くなるならばいつか話してくれるといい。
力にはなれなくとも、話を聞くことならいくらでもできる。
それが。
それが、死してなお蘇った私の役割なのだから。
Hark at you
hark at → ~を聞く、の意。
ハーキャットはみんなの相談相手になればいいと思うんだ。
2011/02/24